起業家精神の醸成により「質の高い就労」を実現する―関西学院大学

起業家精神の醸成により「質の高い就労」を実現する―関西学院大学

14学部14研究科を擁する、関西屈指の大規模総合大学である関西学院大学。就職率99.6%の高実績を誇り、「キャリアの関西学院大学」としても知られている。同学は現在、「IPOアントレプレナー100人創出プロジェクト」に取り組み、起業家精神を備えた人材の育成に注力している。同学のキャリア教育・キャリア支援に迫る本シリーズ。第4回となる今回は、アントレプレナー育成に向けた取り組みをレポートする。

聞き手 井沢 秀(大学通信)   
文 松本守永(ウィルベリーズ)

アントレプレナーシップは、「企業」「起業」の両方で活きる

1889年にアメリカ人宣教師によって創立された関西学院大学は、2039年に創立150周年を迎える。この大きな節目の年に向けて、将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」が策定され、様々な改革や新たな取り組みが進められている。同構想において「卒業段階での成果」として定められているのが、「質の高い就労」だ。アントレプレナー育成に関するプログラムを管轄する研究推進社会連携機構社会連携センターの永野誠課長は次のように語る。

「質の高い就労とは、有名企業や大企業に就職するという意味ではありません。学生1人ひとりが、自らの希望する最適な就職・進路に踏み出すことを意味しており、起業も含まれています。そこで、企業への就職と起業との双方に対する支援・教育に注力することになりました」

同学ではアントレプレナー育成プログラムを行うにあたって、「起業は選択肢の1つ」と位置づけている。プログラムで学んだからといって、必ず起業しなければいけないというわけではない。起業するかしないかは「希望する最適な就職・進路」という選択の結果にすぎない。むしろプログラムを通して身に付けてもらいたいのは、起業家精神だと永野課長は言う。

「起業家精神は、企業からも期待が集まる素養です。プログラムを通してアントレプレナーシップを身に付けることは、『起業』『企業』という2つの道への可能性を広げてくれます。その結果、希望する最適な就職・進路が可能になる。すなわち、質の高い就労が実現するのです。私たちは、このことを学生に伝えたいという思いのもと、プログラムを提供しています」

興味喚起から実践、個別支援まで充実のプログラム

ここからは具体的なプログラムを見ていこう。

プログラムは実に多様で、体系的だ。根幹となる部分は「入門フェーズ」と「実践フェーズ」からなる。それらを補完するように、前段階では学生が将来に対して挑戦できるプログラムが、プログラムの進行中や後段階では様々なフォロープログラムや環境整備が行われている。

学生団体によるアントレプレナー育成サポート

入門フェーズの前段階としては、学生団体「KG NEXT STAGE」が中心となってアントレプレナーシップを醸成するためのプログラムが行われている。実施されているのは、「自分らしく生きるために」などをテーマにしたトークセッションや、百貨店や航空会社と連携した課題解決型のワークショップなど。就職希望の学生も含めて、キャリアビジョンが明確ではない学生の悩みに目を向けたプログラムを開催している。ここで得た体験から、起業という道に興味を持ち、本格的な学びへ進む学生も多いと言う。

入門フェーズ

西宮上ケ原キャンパスで開講されている「ベンチャービジネス創成」では、関西学院大学出身の上場企業社長が、リレー形式で講義を担当する。神戸三田キャンパスでは、「ベンチャー起業家講座」を理学部が開講。こちらでは同学出身の上場企業社長に加えて、IPOに関する有識者やこれからIPOを目指すベンチャー起業家が講師を務めている。ベンチャービジネス創成授業では、講義のほかにビジネスアイデアづくりなどのワークショップも行われている。また、ともに正課科目となっている。

実践フェーズ

アントレプレナー育成プログラム全体のなかでも大きな特色となっているのが、このフェーズ。6カ月間にわたって、「Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY(以下、スタートアップアカデミー)」が開催されている。

スタートアップアカデミーでは、期間中に全員が実際に事業を立ち上げる。その回数は実に3回。初回は思うようにいかない学生も少なくないが、実践を重ねることで事業開発や起業のノウハウを身に付けていくことができる。また、アウトプットの場としてKG PITCHを開催。同学の卒業生である起業家を前にして事業プランを発表する機会も設けられており、入賞者は起業家と個別に面談ができる場が与えられる。研究推進社会連携機構社会連携センターの佐野芳枝氏は、「学生の満足度が非常に高いプログラムだ」と言う。

「3度にわたる事業の立ち上げからもわかるように、とにかく行動することが求められるプログラムです。しかし、やみくもに行動するのではなく、理論に裏打ちされた行動が行えるプログラムになっています。また期間中は、起業家である本学の卒業生がメンターとしてサポートを行っています。ロールモデルとも言える先輩が間近でアドバイスしてくれることが、学生にとって大きな刺激になっています」

フォロープログラム

入門フェーズや実践フェーズのプログラムと並行して、フォロープログラムが実施されている。知識・理論の補強や実践的な演習という面では、同学出身で大手監査法人でスタートアップを支援している松本修平氏が担当の「戦略的学生起業論」「松本起業ゼミ」を開講。さらに、事業課題の解決に向けた相談などを行える場として、オンラインで個別メンタリングが行われている。2021年度は、162回の個別メンタリングが実施された。

環境整備

起業した卒業生同士の交流や起業を志す学生の支援を目的として、「関西学院ベンチャー新月会」が活動している。同会は、ビジネス界で多数の卒業生が活躍しており、なおかつ母校や後輩へ貢献したいという思いを受け継ぐ同学ならではの組織と言える。起業を志望する学生の中には、いったんは企業に就職するケースも少なくない。同会は、会社員を経て起業を考える際の相談や支援の窓口としての役割も果たしている。

スタートアップの分野では、ビジネスプランなどを競う「ピッチコンテスト」が活発に開催されている。その1つである「KANSAI STUDENTS PITCH Grand Prix」では、同学が事務局を担当。他大学からの人や情報が集まる場となることは、同学の学生が最新の情報に触れたり、人的ネットワークを拡大することに貢献している。

これらの他にも、金融機関との連携やインキュベーション施設の整備など、多彩な環境整備が行われている(下記参照)。

起業をサポートする環境整備

金融機関との連携協定

みなと銀行(神戸市)と、「産学連携協力の推進に係る協定」を締結。起業家の育成や、将来性のある研究と企業ニーズのマッチングなどを目指して相互に協力し、地域産業の活性化を図っている。

インキュベーション施設と学生寮を合わせた複合施設を整備

神戸三田キャンパスの近くに、2025年春を目指してインキュベーション施設と学生寮を合わせた複合施設の建設が進められている。インキュベーション施設には、関西学院大学の学生・卒業生にとどまらず、広く一般から起業を志す人が集う。ここに学生寮が併設されることにより、学生は在学中から起業家と交流することが可能になり、自身の学びや研究とビジネスの関連性を考えたり、起業家精神を育む場となることが期待されている。

2039年までに上場起業家を100人輩出することが目標

KG NEXT STAGEが運営するプログラムから関西学院ベンチャー新月会を通じた卒業後の支援をはじめとした環境整備まで、一連のアントレプレナー育成プログラムは「IPOアントレプレナー100人創出プロジェクト」と位置づけられている。このプロジェクトは、2039年までに株式上場を果たす起業家を100人輩出しようというもの。非常に意欲的な目標設定について佐野氏は、「IPOを果たすとは、単に会社を作っただけではなく、多くの人から価値を認められた会社を作り上げたという意味。私たちはそのような組織を生み出せる起業家を育てたいのです」と、その狙いを語る。

2016年度から始まった同プロジェクト。現時点ではまだ上場起業家は多くないが、「種まきは着実に進んでいる」と語る永野氏。「プロジェクトの卒業生が増えることで、卒業生同士のネットワークも拡大。起業しやすい土壌が広がってきた」と、好感触を得ている。また、プロジェクト卒業生が講師やメンターとして後輩の指導に携わり、その指導を受けた学生が卒業後に講師やメンターを務めるという循環も生まれ始めている。起業家が育つ土壌がさらに豊かになっていくことにより、近い将来、IPO起業家が誕生するペースが加速していくことが期待されている。

企業への就職を志望する学生にも対象を広げ、参加を促していく

IPOアントレプレナー100人創出プロジェクトには、2021年度にはのべ538名の学生が参加した。佐野氏は、「参加者の増加が当面の大きな目標」と言う。そこには、プロジェクト卒業者による人的ネットワークの拡大が、プロジェクトの内容を充実させる要因となるという背景がある。それに加えて佐野氏は、プロジェクトを通じて学生が得る経験の重要性を強調する。

「企業とのコラボなどを通して、学生は社会との接点を持つことができます。また、理論を学ぶだけでなく、実践・行動するという体験を重ねることこそが、学生にとって、将来必ず役に立つ財産になると考えています」

世界的に見ても、起業家はまだまだ女性より男性の方が多い。関西学院大学でも、プロジェクト参加者は男子学生が中心だと言う。

「女子学生にもっと参加してもらいたいですね。KG NEXT STAGEが運営するワークショップでは、化粧品など女子学生が興味を持ちやすいトピックも扱っています。そういった側面からもプロジェクトをブラッシュアップすることで、より多くの女子学生の参加を促したいです」(佐野氏)

IPOアントレプレナー100人創出プロジェクトという名前が表している通り、プロジェクトは起業家を輩出することを目指している。しかしその本質は、「企業か、起業か」という二者択一を越えた、学生1人ひとりにより良い人生を送ってもらうための学びと実践の場と言えるのかもしれない。永野氏が「就職も起業も、どちらも手厚くサポートします」と語り、佐野氏が「新しいことに挑戦するための環境や仕組み、サポート体制を豊富に整えています」と言う関西学院大学のキャリアに関する強み。それは、起業に興味がある人だけでなく、「自分らしく充実した人生を送りたい」と願うすべての人にとって、背中を押してくれるものと言えそうだ。

やるか、やらないか。雲泥の差を生み出す第一歩目を安心して踏み出せる環境がある

半井翔汰さん

株式会社アレスグッド Business Manager
2020年度経済学部卒業

大学入学当初から、社会に貢献できる仕事をしたいという思いを持っていました。大学時代にはタイにビジネス留学をし、現地の日本企業とタイ人従業員がより良い関係を築くためのセミナー運営を行うNGOで活動しました。その頃から、「将来は起業したい」という思いを抱いていました。そんな私にとっての転機となったのが、就職活動で参加したインターンシップです。そこには、ビジネス経験豊富な同世代の学生が何人も参加していました。彼らと間近に接したことで、「自分は口ばかりで何も行動していない」という厳然たる事実を痛感。何とかしなければいけないと思っていたところで出会ったのが、スタートアップアカデミーでした。

スタートアップアカデミーは、「Doing」がすべてです。とにかく行動が求められる。活動しないことには語ることがなくなるというぐらい、シビアなプログラムでした。

プログラム期間中に3回行う事業開発のうち、1回目は、受験生を応援するオリジナル日めくりカレンダーの開発でした。受験生の子・孫を持つ親・祖父母をターゲットに、受験応援のためのギフトとして販売しました。しかし結果は、大量の在庫を抱えることに。悔しい思いを抱えつつ、メンターとの面談を重ね、「なぜ売れないのか」「どうすれば問題は解決するのか」を考え続けました。

その経験を活かしたのが、淡路島で開催した「グローカルインターンシップ」です。このプログラムは、淡路島の企業や自治体が抱える課題に対して就活生がワークやディスカッションを重ね、解決策をプレゼンするというもの。私自身が就職活動を通じて感じていた「首都圏と地方とでは就活に関する情報格差があるのでは?」という問題意識と、地方が抱える産業の衰退や人口減少などの課題を組み合わせることで、双方の課題解決を図ることができるという考えから立ち上げたプログラムです。

プログラムの実施にあたっては、協力してくださる自治体や企業の確保はもちろんのこと、就活生に対する告知や募集も自ら行いました。その結果、自治体や企業、そして就活生双方に満足いただける機会となりました。自分たちでつくり出したもので喜んでもらうというのは、忘れられない体験となりました。そして何より、「やるか、やらないかはほんの一歩の違いだが、実際には雲泥の差がある」という学びを得た体験でした。

卒業後は企業に就職しました。仕事にやりがいはありましたが、社会人生活に慣れていくにつれて、「このままでいいのだろうか?」という思いも高まりました。そんな中、若手社会人向けに定期開催していたライフデザインプログラムでの気づきや、大学時代のご縁をきっかけに、社会課題を軸に企業と学生の出会いを生み出す「エシカル就活」に興味を持つように。私自身も「自分で社会を動かすビジネスをつくりたい」という思いが高まり、スタートアップ企業である現在の会社へ参画しました。会社員時代は、企業経営者に採用や事業面の支援をしたり、事業の分析や戦略を立てる仕事をしていました。しかし今の会社に移って経営陣の一員になると、「知っている」と「やっている」とはまったくの別物だと改めて痛感しています。それは、スタートアップアカデミーに参加する前に感じた気持ちと同じです。やはり、行動することは何にも増して大切なのです。もちろん、「何をしていいかわからない」という不安もあるでしょう。そこに寄り添ってくれるのが、関西学院大学のスタートアップアカデミーであり、キャリア支援や留学支援など各種のサポートプログラムです。すべては、「一歩を踏み出す」ことから始まります。関西学院大学では、安心して第一歩を踏み出すことができます。ぜひこの恵まれた環境で、みなさん自身の一歩目を踏み出してください。

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