公立千歳科学技術大学は1998年、千歳市が出資し民間が運営する公設民営の私立大学として誕生し、2019年に公立大学として生まれ変わりました。設立当初の光科学部は、時代の変化に対応できる人材養成を目指し、2015年に理工学部に改組されています。教育の特徴は、入学時から1年半の共通基盤教育を経て2年次後期に専門を決めること。また、時代の先を見据え、1年生全員が「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」を受講することも特徴です。地域連携に力を入れている公立千歳科学技術大学には、さまざまな研究活動などを通して成長する機会も数多くあり、優れた研究・教育環境は就職率として結実するのです。
最先端の研究・教育機関として進化を続ける

公立千歳科学技術大学は1998年、千歳市が出資し民間が運営する公設民営の私立大学として開学しました。当時としては最先端の光科学技術を学ぶ「光科学部」が設置され、日本屈指の研究拠点として最先端の研究・教育が行われていました。こうした中、一歩先を見据えた人材育成を進めるため、2008年に光科学部を総合光科学部とし、その後、2015年に理工学部に改組しました。宮永喜一学長は、理工学部にした背景について、こう語ります。
「社会が複雑化する中で、光科学だけでは解決できない事象が多くなりました。例えば、光技術は、医療機器や建築物の構造調査などに応用されます。こうした変化の時代にあって、通信や土木、生物、生命などの学問分野が融合した技術を生み出せる人材養成を目指して、理工学部に改組したのです」
社会の進化に伴った新しい技術の研究を進める
「近年の理工学の領域はグローバル競争が日常化していて、関連する産業分野では、社会の進化に伴った新しい技術の研究が必須となっています」と、宮永学長は話します。そうした環境の中で公立千歳科学技術大学は、多様な「研究力」の強化と「グローバル化」を進めています。
理工学部は応用化学生物学科、電子光工学科、情報システム工学科の3学科からなります。所属学科は入学後から1年半をかけた共通基盤教育を経て2年次後期に選択します。共通基盤教育では、人文科学や社会科学、自然科学基礎といったリベラルアーツの学問に加え、全ての学生が、文部科学省から認定されている、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」を受講。基礎レベルを終えると、3年次からは「応用基礎レベル」のプログラムに進みます。
情報技術の必要性について、宮永学長は、「現代社会では、理工学と情報技術の融合が求められています。例えば、骨粗しょう症の診断をX線ではなく人体に優しい光センサーで検査する研究があります。その際、光から得られるデータはそのままでは精度が低いので、AIを使って解析する技術を用います。理工学部のさまざまな領域を融合する際、情報技術は不可欠なのです」と言います。
2年次後期以降の専門教育では、それぞれの学科の各分野の基礎を知り、卒業論文をまとめることにより、研究・開発とは何かを学びます。
「学部においては、一つの専門領域に固執することなく、広い視野を持ってさまざまな領域の本質の理解を進めてほしいと思います。理工学部としたのはそのためであり、複数の領域を横断的に学べる環境を提供しています」(宮永学長)
一方で、本格的な研究者・技術者の育成に向けて、大学院の拡充を積極的に進めています。その一つが教員の充実であり、大学院所属の教員を新たに配置し、入試・カリキュラムやキャリア教育・支援について、さらなる改善と拡充を行っているのです。

国外の教員を積極的に招聘しグローバル化を推進
公立千歳科学技術大学の教育の特徴として、少人数教育があります。教員がクラスアドバイザーとなり、学生生活における個別の悩み事や相談事に対応するなど、教員と学生がお互いの顔が見える距離感で支援をしているのです。
国内外の教授陣による少人数教育は、グローバル化の推進にも重要な意味を持ちます。近年、国外から招聘する客員教員が増えており、今後も増員が予定されています。現時点では国際会議の共同開催などを行っていますが、今後はオンラインや対面授業なども実施される予定です。
コロナ禍の影響を受ける前から、eラーニングが進んでいることも特徴です。「大学eラーニング協議会」により、大学の共有基盤教育科目のeラーニング化が進んでいます。公立千歳科学技術大学は、全国に12校ある「協議幹事校」の一つとして、50校以上の加盟大学にコンテンツを提供しているのです。eラーニングにAIを導入し、個別学習者に適したコンテンツを提供するなど、ICT化(教育DX)による新たな取り組みも進んでいます。
キャンパス環境の整備も進み、情報棟と名付けられた新棟が2022年から稼働しています。コンピュータ教室やIoT教室、研究室が設置され、学生がいつでも使える、プレゼン設備のあるラーニングコモンズも併設されています。情報棟ができたことにより、ゆとりを持った研究・教育環境が生まれました。
このように優れた研究・教育環境で学ぶことができる公立千歳科学技術大学の就職率はとても高いことで知られ、2022年度の就職率は学部が98.2%で、大学院は100%でした(❶)。
地域連携により持続可能な社会の実現を目指す
研究・教育成果を地域に普及・還元し、公立千歳科学技術大学の活動の認知を広げるため、2019年の公立化と同時期に「地域連携センター」ができました。「地域の知の拠点としての事業」「産業振興事業」「教育機関との連携」「地域での学生の活動」が主な活動です。これらの代表的な取り組みとして「スマートネイチャーシティちとせ(SNC)(❷)」があります。
SNC以外の地域連携活動として、公立千歳科学技術大学の学術研究活動支援等を主な目的とした「ホトニクスワールドコンソーシアム(PWC)(❸)」があります。地域連携センターやPWCは活動そのものが持続可能な社会の実現に向けた取り組みとなっています。
その他の持続可能な社会の実現に向けた代表的な研究として、ロボットに視覚機能を搭載し、生活の支援を行う「AI搭載・人間支援型ロボットの製作」や、生物にとって安全な光を利用し、骨や内臓の解析を行う、「光科学技術を用いた人体解析」などがあります。こうした地域貢献事業やさまざまな技術開発に参加することにより、学生は大きく成長することができるのです。
このように優れた研究・教育環境をもつ公立千歳科学技術大学は、どのような学生を求めているのでしょうか。宮永学長に聞いてみました。
「大学入学が目標になっている受験生が多いですが、大学入学は大きなマイルストーンで、人生の目的ではありません。大学では何ができるかではなく、自分が何をしたいのかを考えて、そこに向けた最大限の努力をしてください。公立千歳科学技術大学はその時代の最先端であり一番大事なニーズを捉えて研究・教育をする大学です。こうした学風のもとで学ぶことを望む学生を待っています」
❶キャリア支援
キャリアセンターが入学時からキャリア形成のための科目提供や学生の就職相談などを行う。キャリアセンターを支える事務組織としてキャリア支援課があり、教員と職員が協働で学生のキャリア支援を行う。キャリア教育に関する学内の協力体制として、企業と大学の情報交換会、夏のインターンシップおよびその報告会、父母懇談会でのキャリア相談、OB OG対話、学内業界研究セミナーなどがある。
❷スマートネイチャーシティちとせ
千歳市の豊かな自然がもたらす生態系サービス(水・緑・温泉)を生かした「持続可能なまちづくり」に向けてさまざまなステークホルダーと連携し、ものづくり、観光、資源・エネルギー開発、環境保全、福祉・医療、インフラ整備、教育、コミュニティなど千歳市が抱える課題を抽出。公立千歳科学技術大学が持つ分析やICTなどの科学技術の活用による解決を図ることで、自然環境との共生を可能にする持続可能な循環型地域を目指し、地域創生を実現する。千歳市内にある支笏湖産のヒメマス「支笏湖チップ」の新たな商品化に向けて、産学官連携によりヒメマスのブランド化を進め、観光誘致につなげる事業にも協力している。
❸ホトニクスワールドコンソーシアム(PWC)
先端科学技術をプラットフォームとした研究開発拠点形成を推進する組織。公立千歳科学技術大学を中心とする産学官の密接な連携を図りつつ、光、ICT、材料など、幅広い理工学分野の研究開発・実用化の支援。さらに、人材育成から共同研究、技術コーディネート、交流ネットワークなどの事業に取り組み、科学技術の振興と高度技術産業の集積を目指す。
