【大学緊急アンケート!】大学側から見た高大接続改革の行方

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高校教育と大学入試、大学教育を三位一体で変革する「高大接続改革」。この改革を大学はど
のように見ているのだろうか。
アンケート調査をしてみると、全面的に賛成という大学は少数派で、戸惑う大学の姿が浮き彫
りになった。


急速に進むグローバル化やAI(人口知能)に代表される情報技術。国内に目を転じれば超高齢化社会の到来。そうした環境の変化に、これからの時代を生きる子どもたちは、答えが無い、もしくは複数ある課題に向き合わなければならないと言われている。現行の教育制度で、激動の時代を生き抜く能力が身につくのか。

こうした課題に対して、中央教育審議会が出した答申は、「知識、技能」をベースとして、答えが一つではない課題に対して自らの答えを導き出す「思考力・判断力・表現力」を身につけ、これらの基になる「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」という学力の3要素の重要性を強調した。

この中教審の答申を基に、具体的な改革の方向性が高大接続システム改革会議において検討され、2015年9月の中間まとめを経て、3月末に最終報告が出され、8月末には高大接続改革の進捗状況について中間発表があった。
高大接続改革の内容は、20年までに高校教育と大学教育、その両方を接続する大学入試の三位一体改革を進めるもの。

大学に対しては、「ディプロマポリシー」で大学において養成する人材像を描き、その養成に向けた「カリキュラム・ポリシー」を用意し、さらに、そうした大学教育にふさわしい学生を獲得するための受入方針である「アドミッションポリシー」を明確にした選抜を求めている。

高校に対しては、アクティブラーニングなどを通して、詰め込み型ではなく、学力の3要素を身につけた人材養成に向けた改革が求められている。

そして、大学と高校をつなぐ大学入試は、知識偏重型から学力の3要素を多面的・総合的に評価するものとなる。入試を変えることにより、高校が従来の詰め込み型の授業から脱却する後押しをすることも入試改革の狙いの一つなのだ。

大学入試改革について、詳しく見ておこう。その大きな特徴は、従来の大学入試センター試験に替わり、新たに「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(学力評価テスト)と「高等学校基礎学力テスト(仮称)」が実施されること。前者は名前の通り、大学進学を希望する生徒の学力を測るもの。後者は、高校卒業にふさわしい学力を有するのかを問う試験で、生徒の学習意欲の向上や、教育施策の見直しなどに生かされる。将来的には、推薦やAO入試、就活の際の学力証明に活用される可能性がある。

【入試改革が「求める方向に向かう」は少数派】

こうした高大接続改革の方向性について、当事者の一人である大学はどう見ているのか。毎日新聞社と駿台予備学校、大学通信が共同で全大学を対象に行ったアンケートから見ていこう。
アンケートは2016年3月の最終報告後の5月に実施し、425校から回答があった、回答の多さは、大学の関心の高さの表れといえよう。

まずは「大学入試改革」「大学教育改革」「高校教育改革」といった改革の3本柱の全体像に関する集計結果を見てみよう。

大学入試改革について、昨年の中間まとめ後に今回の3者が行ったアンケートでは、80%の大学が「必要」と回答した。その大学入試改革について、最終報告後にどう評価するのかを聞いたのが、Q1のグラフだ。

これによると、「大学の求める方向に向かう」と考える割合は27%と低い。日本進路指導推進
協議会会長の山口和士さんは言う。
「大学入試改革は、『大学の求める方向に向かう』という割合が低い上、『どちらとも言えない』と『その他・未回答』の合計は64%に上ります。大学にとって、今回の最終報告が明確性に欠け、曖昧だったことが数値として現れています」

グラフはないが、大学教育改革について、「評価できる内容」と回答した大学は50%のみ。高校教育改革について「改革が前進する」という回答はさらに低い44%で、「あまり進まない」と考える大学も9%あった。

「大学教育改革が『評価できる内容』であるが50%に留まっているのは、最終報告に対する不信感の現れです。一方、高校教育改革が『前進する』が低いのは、高大接続に対する様々な指導が始まっている、高校の現状を把握していないことを物語っています。大学と高校の情報交換の重要性を痛感します」(前出の山口さん)

【多面的・総合的な入試が不安な国公立大】

新しい入試では、学力の3要素を多面的・総合的に評価する丁寧な入試が求められている。具体的には、大学独自の試験において、「面接や集団討論、プレゼンテーション」「模擬講義と試験・面接の組み合わせ」「小論文、テーマ論文」などの実施がある。こうした入試を導入することについて聞いたのが、Q2のグラフ。

多面的・総合的評価が可能であると考えるのは、国公立大、私立大ともに20%台と少ない。この低い数値の中でも、私立大と国公立大で比較すると、後者の割合がさらに下がる。この背景について、駿台予備学校情報センター長の石原賢一さんが説明する。

「私立大はこれまでも多様な入試制度を行っており、多面的・総合的な入試が行える素地があります。一方、これまでオーソドックスな一般入試を行ってきた国公立大は、多面的・総合的評価ができると考える学校が少ないのだと思います」

多面的・総合的評価をするには、1点刻みの点数至上主義はなじまない。そのため、学力評価テストは段階評価になると言われている。そうなった際に大学入試がどうなるのかを聞いたのがグラフQ3

これによると、「大学の募集人員の管理が難しくなる」「あまり変わらない」「大学の序列化が進行する」の順に多かった。この中で注目したいのは、「大学の序列化が進行する」で、国公立大が18%なのに対し、私立大は30%と危機感が高いことだ。

「学力評価テストにおいて、どの段階の学力を受験生に求めるのかを公開することによって、これまでは、ブラックボックスだった大学の序列が明らかになります。そうした点を懸念する私立大が多いということでしょう」(予備校関係者)

 Q4のグラフでは、3ポリシーを策定し、それに則った選抜方法の将来性について聞いた。

すると、国公立大が46%、私立大は41%が「大学の求める方向に進む」と回答、半数に達することはなかった。

「3ポリシーの策定により、大学入学後の育成方針が把握できるのは高校側にとって歓迎材料ですが、入試において『あまり変わらない』の割合が比較的高いのは、大きな懸念材料といえます」(前出の山口さん)

【学力評価テストが選抜に使えない私立大も】

最後に、公開されている、学力評価テストの問題イメージについて聞いたQ5のグラフを見ると、もっとも多かったのは「長年にわたって出題レベルの維持が難しい」だった。

これは、中間発表後に行ったアンケートでも指摘されていたこと。次に多かった「大学が求める『思考力・判断力・表現力』が評価できる」を私立大と国公立大で分けて見ると前者が46%なのに対し後者は31%と低い。「大学が求める『知識・技能』が評価できる」も同様の傾向で、国公立大の評価が低いのだ。さらに、「難しすぎる」は私立大が11%に対し、国公立大は5%という結果もあり、当然「大学が求める学力を評価できない」では、私立大の12%に対し、国公立大が15%と厳しい。駿台の石原さんは言う。

「学力評価テストは選抜制が高い国立大の使用を想定しているので、難しいと感じる私立大があるのでしょう。一部の公立大や中・下位の私立大では、点数の差がつかずに同じ段階に受験生が集中してしまい、選抜に使えないケースもあると思います」

大学へのアンケート結果から見えてくるのは、最終報告が出ても高大接続改革は不安要素が多いということ。しかし、新テストの実施まで4年を切っており、受験生が不利益になる状況は避けたい。

「高大接続改革を具体化する過程で無理をしないでほしいですね。拙速に進めると犠牲になるのは受験生であり、反発を買うと本来やらなければならないことまで全否定されかねません。高校や大学の意見を取り入れながら、一歩づつ進んでほしいものです」(駿台の石原さん)

今回の調査から入試の実施主体である大学でさえ、高大接続改革の実態を掴みきれないことが分かった。しかし、センター試験に変わる学力評価テストが導入され、入試が大きく変わることは間違いない。新入試と対峙する生徒を育てる先生方は、情報収集を怠らないでほしい。