「日本の大学進学率は低い」そんな話を耳にしたことはないでしょうか。「アメリカなどと比べると低い気もする」や「日本でも最近はほとんどの人が大学に進学するからそんなことはないはず」などさまざまな意見がありそうです。
そこでこの記事では、大学の進学率をいろいろな角度から検証します。大学に進学すべきか悩んでいる受験生やその保護者の方も、ぜひひとつの参考にしてみてください。
日本の大学進学率は?
まず、ここでは日本の大学進学率がどれほどなのか、そしてどのような傾向にあるのかを紹介します。実際に、自分の周囲と比較しながらみていくと興味深い結果が得られるかもしれません。
半分以上が短大や大学に進学
大学進学状況を把握するのに、よく使われる指標が文部科学省による学校基本調査です。令和元年に行われたこの調査によると、大学等への進学率は58.1%にも及びます。
大学「等」とされるのは、大学以外に短期大学や高等学校の専攻科を含んでいるためです。ちなみに、大学等への現役進学率は54.8%なので、現役で進学する人が多いようです。
短大と4年制大学の割合
では、大学と短期大学の内訳はどのようになっているでしょうか。これは大学の方が比率が圧倒的に大きく、58.1%のうちの53.7%は大学進学、残り4.4%が短大進学となっています。
つまり、進学者のうちの9割以上は大学に進学しているということです。
進学率は上昇傾向で推移
このように、今や2人に1人以上が大学や短期大学に通う時代になりました。過去から振り返ってみても、1954年に統計が発表されて以来、その数字はなだらかに上昇し続け、2005年の時点で50%を超えています。1954年時点では、大学や短大への進学率がわずか1割であったことを踏まえると、人々にとっての大学の立ち位置が年々変わりつつあると言えるでしょう。
ここで注意しておきたいのが短期大学の進学率です。大学と短期大学で一括りにした場合は上昇傾向ですが、1994年の13.2%をピークに短期大学が減少傾向にあります。これは、2000年以降、短大から4年制大学に統合されるなどで短大の数が減少したことも原因のひとつです。
ただし、短期大学に魅力がなくなったわけではありません。短期間で卒業できるので学費が安い、就職率が高いなど短大ならではのメリットも多く存在します。短期大学への進学率のピークが過ぎたからと言って、安易に大学への進学を選ぶのではなく、それぞれのメリットやデメリットを比較して選ぶのが重要でしょう。
大学進学率が増えている背景
では、なぜ大学進学率は上昇傾向にあるのでしょうか。これには、明確な理由は出ていませんが、いくつか考えられることがあります。
経済状況や就職を考慮
まず考えられるのが、経済状況の変化です。昔は、大学は裕福な家庭でないと通わせられないとも言われていました。しかし、世界銀行のデータでは、1965年時点で約910億ドルだった日本の国内総生産が、2018年には約4.9兆ドルにまで伸びていることがわかります。つまり、日本がそれだけ裕福になっているのです。
近年、日本の成長率は伸び悩んでいますが、少子化が進んでいます。世帯あたりの子どもの数が減り、子どもひとりにかけることができる金額が増加しているため、通わせやすくなっているのではないでしょうか。
また、大学進学が当たり前になるにつれて、就職時に「大卒」要件を設定する企業も増えました。例えば、以前は高卒で銀行員になる事例も多かったですが、最近では多くの銀行で「大卒」要件を取り入れています。例えば、メガバンクとして知られる三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の2021年度募集要項を見ると、いずれも「四年制大学、大学院を卒業・修了(見込)の方」といった主旨の要件があります。これを踏まえ、就職に有利にさせるためにも子どもを大学に入れておきたいと考える親が増えているのではないでしょうか。
少子化にもかかわらず大学数は増加
現代日本では、少子化が深刻な問題です。文部科学省高等教育局の資料「2040年を見据えた高等教育の課題と方向性について」によると、18歳人口は1992年の205万人をピークに、下降し、2017年には120万人にまで落ち込みました。
それにも関わらず、大学の数は上昇を続けており、1990年に507だった大学の数は2017年時点で780にまで伸びています。つまり、昔より子どもの数と大学の数のギャップが広がっているので、大学に入りやすくなっているとも言えるでしょう。
このような状況を「大学全入時代」と呼び、望めば大学に誰でも入れるようになったと考える人も多いです。今までは学力面から大学進学を断念していた層が進学可能になったことも進学率上昇に寄与しているのかもしれません。
ただし、ここで注意が必要なのは、大学入試の全国倍率が低下していても、難関大学は依然として高倍率です。人気のある大学とそうでない大学の二極化が進んでいます。望めば誰でも「大学」に入学しやすくなっても、「希望大学」に入学するにはやはり本人の頑張りが不可欠です。
大学に進学するメリット
入学金や授業料は決して安くないですし、人生のうち4年間もの時間を費やすのですから、「進学率が高い」という理由だけで大学進学を決めることはできないでしょう。しかし、大学進学にはいくつものメリットがあります。
大学に進学するメリットとしては、「4年間で自分を高めることができる」「卒業すれば、大卒資格が手に入る」「学問を追求できる」といったものがあります。ここからそれぞれの詳細を解説しますので、進路を決める際の参考にしましょう。
自分を高める4年間になる
高校まではみんな同じようなスケジュールで授業を受けるのが基本です。しかし、大学に入るといつどの授業を取るかを自分で決めていかなくてはなりません。
さらに、一人暮らしが始まったり、環境が変わったりするため自律性を高めることができるでしょう。ここで、今まで気づかなかった自分の長所や短所を見つめ直すいい機会にもなるはずです。また、授業以外の時間をどう過ごすかも自分次第です。この時間をサークルや部活動にあてる人もいれば、学費や生活費を稼ぐためにバイトに勤しむ人もいます。
もちろん、大学に入ったからには本業の勉強に集中するのも良いですし、自己研鑽やボランティアで貴重な体験をすることもできます。働き方が変わりつつあるといえ、社会に出るとこのような時間を作るのは難しいはずです。
このように、大学の4年間は自由と自立があるため、さまざまなことにチャレンジし、自分の魅力を高める良い期間になるでしょう。
「大卒」が就職にも影響する
最近では、日本の学歴至上主義が見直されるようになりました。たしかに、大卒だからといって高卒の人より「仕事ができる」ということにはなりません。ただその一方で、大学進学率上昇の理由でも述べたように、就職時に「大卒」資格を要する企業が多いことも事実です。どれだけ優秀であっても、「大卒」の肩書きがないことで希望の企業や職種に就けないこともありえます。
つまり、大卒であることで将来の選択肢が増えることにもつながるのです。また、国内に限らず海外での生活にも関係することも見落とせません。海外で働く際には、就労ビザが必要になりますが、これを取得するにあたり、大卒資格を要件としている国も多いのです。
自分が勉強したい分野をとことん学べる
先生から教えを受ける「受け身」の授業が多いですが、大学ではプレゼンやディスカッションなど能動的な動きを求められます。日本は受け身の授業に慣れているので、最初は戸惑うかもしれませんが、アウトプットできるようになることは大きな財産です。
教養課程を終えてからは、より専門的な分野に特化するようになるので、自分が学びたいことを学べます。そこで、幅広く受け身で学ぶ高校時代に学問の魅力に気づかなかった人も、学問を突き詰めることの楽しみに気づけるはずです。
大学院進学や研究者への道も拓く
学問の魅力に気づいた人は、研究者を目指したくなるかもしれません。ノーベル賞受賞のニュースを見てもわかるように、研究者の仕事はときとして世界を変える重要なものです。
そして、研究者になる人の多くは大学院で修士課程、博士課程を経ています。大学院に進むには、基本的に大卒である必要があるため、研究者になるための第一歩を踏み出すことができるのが大学進学と捉えることもできるでしょう。
世界での進学率比較
ここまで、日本の大学進学率を中心に解説しました。では、2人に1人以上が大学に進学するという日本は、他国と比べて進学率が高いのでしょうか。
国別ランキングはどうか
世界全体で見ると、発展途上国ではまだまだ1桁台の進学率の国々があります。そこで、日本と似た経済状況にある国と比較するため、OECD加盟国の数値を見てみましょう。OECDデータを参考に文部科学省が作った2010年の資料によると、1位はオーストラリアで96%とほぼ100%に近い数字を出しています。
出典:産業競争力会議下村大臣(当時)発表資料「人材力強化のための教育戦略」
日本の大学進学率は実は低い
このデータで、OECD平均は62%です。調査当時の日本の大学進学率が51%であることを考慮すると、増加傾向にある日本の進学率もまだ他国と比較すると低いといえるでしょう。
ちなみに、同じアジア圏の韓国は71%で、日本を大きく上回る結果となっています。また、日本人に馴染みのある国としては、イタリアやドイツが日本より下位に位置しています。
留学生受け入れや生涯進学率が影響
留学生受け入れを積極的に行っている国もあります。特に、進学率が1位だったオーストラリアは英語圏である点、治安が比較的良い点、アルバイト賃金が高い点などから留学生の人気を集めています。
このような国では、留学生の数字にデータが左右されることも多く、実際にその国の高校生がどれだけ大学に行くのかを厳密に示した数字ではないことに注意が必要です。なお、この統計では、日本が留学生も含めている一方で、一部の国で留学生の数が除かれた数字が示されています。
また、生涯進学率も他国における大学進学率に大きく寄与しているでしょう。生涯進学率とは、住民票を持つ年齢人口に入学者を割って算出するものなので、留学生や社会人出身学生なども含まれます。日本では、まだまだ大学は20代の人が通うというイメージが強いですが、海外では一度社会に出た後に大学や大学院で学び直すというケースも珍しくありません。
つまり、進学率だからといって純粋に高校生が大学生に進学する率がどれほどかを比較しているものではないのです。
文部科学省のデータでこんなこともわかる
そのほかにも、文部科学省が発表している進学率に関するデータからさまざまなことがわかります。より自分に近い状況のデータと比較してみましょう。
進学率地域別の比較
2人に1人が大学に進学すると言われていますが、実は地域差が大きいです。2016年のデータでは、東京都の大学進学率が72.7%と高い水準にある一方、鹿児島県は35.8%で30%以上の開きがあることがわかります。
自分のまわりで大学進学する人がいないからといって、進学を止めるのではなく、幅広い視野で考えるのが良いでしょう。
大学の数は東京に一極集中
では、東京都では4人に3人近くもの若者が大学に進学するのでしょうか。大学進学が当たり前になったとはいえ、進学には費用が伴うことから経済的ゆとりが必要になります。そういう意味では、平均年収が都道府県で最も高い東京都が進学率も高くなっているのかもしれません。しかし、それ以外にも考えられる理由があります。
それが大学の数です。令和元年の東京都の大学数は100を超え、2位の大阪府の2倍以上の値を記録しており、東京23区だけで全国の大学生の2割が集中しています。東京都は家賃も高く、一人暮らしをするとなると親の仕送りも欠かせません。そういった意味でも、実家から通いやすい東京都民の進学率が高いのではないでしょうか。
大学や短大に進学する男女比
女性の進学が当たり前になりましたが、日本ではまだ2019年の男子の大学進学率が56.6%、女子が50.7%とまだ少し差があります。一方、短期大学への進学率は男子が1.0%、女子が7.9%です。
なお、世界各国をみてみると、北欧諸国を中心に女子の大学進学率が男子を上回っている事例もあります。日本でも、高校進学率では若干女子の方が男子を上回っているので、今後日本の大学進学率においても、男女比の構造に変化が生じるかもしれません。
ただし、これはあくまでひとつの指標です。性別による進路を意識しすぎるのではなく、あくまで自分が何を学びたいか、そしてどういう職業につきたいかを考慮して進学を決めるようにしましょう。
大学進学率は今後どうなるか
上昇傾向にある日本の大学進学率ですが、今後はどうなるのでしょうか。このトピックを検討する上で、高校進学率が参考になるでしょう。
高校進学のように大学進学の流れが定着?
1950年時点で42.5%と半数にも満たなかった高校進学率ですが、2019年には通信制も含めると98.8%にまで達しています。高校は義務教育でないことを考えると、いかにこの数字が大きいか実感できるでしょう。
では、なぜ義務教育ではないにもかかわらず、保護者は子どもを高校へ通わすのでしょうか。多くの方は、「まわりが行っているから」「就職に影響するから」と回答するかもしれません。そういう意味では、大学も今や周囲が通い、就職に必要なものという認識が広まりつつあるのではないでしょうか。
また、今まで金銭面の事情から、行きたくても泣く泣く大学進学を断念した方も多かったはずです。しかし、2019年5月に「大学等における修学の支援に関する法律(大学無償化法)」が成立しました。これにより、低所得層の学生が学費減免や返済不要の奨学金を受給できるようになります。今までなら進学を断念してしまった学生にも、進学という道が開かれるはずです。
これらの事情を考慮すると、半数を超えたとはいえ、今後大学進学率はさらなる上昇が見込まれるでしょう。
進路に合わせた大学選びも重要
以上、日本の大学進学率に関わる気になる数字を紹介しました。すでに進学率はすでに5割を超えていますが、世界の国々と比較するとまだ低い数字です。大学進学にはさまざまなメリットがあることから、今後も進学という進路を選ぶ人が増えていくでしょう。
ただし、気をつける必要があるのが大学選びです。せっかく自分を高め、就職の可能性も広げる4年間ですから、有効に活用するために自分の進路に合った大学選びが重要でしょう。学べる内容、所在地、試験の難易度など総合的に考慮し、後悔しない大学選びを心がけてください。