高校や大学の学びそのものが変わりゆく時代、より求められている「自分と志望校とのマッチング」とはいかなるものなのか。近年の大学受験事情にまつわるキーワードを元に、自分に合った大学の探し方について考察する。
情報過多の時代こそ、マッチングを重視する
いよいよ大学入試センター試験が終わり、平成最後の大学受験シーズンは佳境を迎えている。とはいえ高校側も大学側も、大きな変革が予想される来シーズン以降の受験に向けて、既に準備を余儀なくされていることだろう。
来たる “次世代受験” に向けて、高校生は自分の志向に合った大学をどう選択すればいいのだろう。
編集部には、近年の大学教育の方向性、受験生の進学志向、卒業後の進路データなどが集まる。来シーズンの受験生に向けて、数くの選択肢の中から自分に合った大学選びを実現する “マッチング” のコツを提言したい。
ランキングとデータを的確に読み解こう
近年の入試形態では、AO入試や推薦入試など人物を幅広く評価する総合型選抜が広がった結果、これまでのように偏差値と学力のバランスだけではなく本人の適性と大学の方向性やポリシーが重要な要素となってきた。その際に大学をさまざまな視点から眺め、個性を知る一助となるのがデータやランキングの存在だ。
卒業生の進路や資格の取得状況、文部科学省が発表する研究費など、大学に関するデータはさまざまな形で公表されている。そして大学側も「人材育成」「地域との連携」などを切り口としたデータを自分たちの特徴として打ち出し始めているのだ。
一般的なブランド力や知名度では大手の総合大学が保護者・受験生ともに人気を集めがちだが、こうしたランキングやデータでは、むしろ特定の学問分野で強みをもつ大学や、就職支援・資格取得に注力する小規模大学ならではの強みを浮き立たせてくれる。
いくつか例を挙げると金沢工業大学は企業説明会やセミナー参加で利用できる学生向けのバス運行で知られており、就職支援が手厚い大学としてランキング上位の常連校だ。
また岐阜聖徳学園大学は国内の大学でも有数の教員就職率を誇り、現場主義に基づく独自のカリキュラムは文部科学省から「教員養成GP」に選定されている。そのほかにも学生が無料で受講できるTOEIC対策講座や公務員試験対策講座が充実していたりなど、大学ならではのきめ細かな取り組みの実施状況にも目を向けておきたい。
他にも「グローバル」「資格取得」「女子」「成長力」など、自身の目指す方向性のデータから大学の強みや個性を的確に読み解くことが、自分に合った大学選びのきっかけになるだろう。
また大規模大学に関心がある場合については、教育内容や学部単位にデータを整理することもマッチングのポイントとなる。例えば日本大学の理工学部は伝統的に建築系やJR関係への就職に強いことが業界内で知られているが、日本大学という大きな単位ではそれが見えづらくなってしまう。
総合的なランキングを過信するのではなく、より細かい切り口のデータで学部や学科との関連性と紐づけて分析することが肝心だ。
地元志向VS未知の土地?「全国」の情報を集めよう
最近の受験生は地方でも首都圏でも受験生・保護者ともに地元志向が強いと言われている。子どもの数が減って「全入時代」に突入して以降、大学進学は高校の延長として当たり前となってしまい、その結果「行ける大学に行けばいい」「自宅から通える方が経済的」「食事など生活の心配が不要」という保守的な思考に陥ってしまうのだ。
しかし、大学進学は自分の人生観や世界観を広げる大切な機会だと考えると、こうした考え方はやはり惜しい。この経験が後の人生における大きな糧となるだけでなく、近年は地方自治体や地元企業からも「若い人材に地元に定着してほしいが、一度は地元以外の土地で視野を広げてきてほしい」という声が少なからず聞かれるからだ。
地方公務員にしても地域に根ざした企業にしても、これからの時代にイノベーションなしに成長は難しい。そこに新しい風を吹き込むために、新しい人材には地元以外で培った経験や見聞も期待されているということだ。
もちろん地元志向の背景には、経済的な事情があるケースも多い。通学は自宅圏内、さらにそのなかでも国公立限定という進学条件がついた受験生もいるだろう。しかし、入試時の成績など一定の条件をクリアすれば国立大学より授業料が安く済んだり、充実した返済不要の奨学金制度を設けている私立大学も全国に多く存在している。こうした情報を早くから集めておけば、進路の可能性が全国規模で広がっていくことを教員側も熟知しておきたい。
そして、地方の大学の躍進も目覚ましい。大分の立命館アジア太平洋大学では首都圏出身者の割合が3割を超えたほか、秋田の国際教養大学も全国から学生が集まるため地元出身者の少なさが問題になるほど。東京農業大学の生物産業学部は北海道網走市にキャンパスがあるが、一度も定員割れしたことがなく、全国から学生が集まることで知られている。
地方にありながらこうした人気と実力を兼ね備えた大学は増えつつあり、近年では都市部の大学のブランド力に肉薄しつつある。これらの実情も踏まえた上で、あらためて全国に視野を広げて大学選びを捉えたい。
グローバルの“中身”をしっかり分析しよう
国際系学部はかねてより受験生に人気だが、経済・社会のグローバル化が進みその定義も多様化している。単に英語のコミュニケーション能力にとどまらず、世界の物差しで物事を考えて問題解決を図れる人材のニーズが高まり、大学教育のグローバル化もより“深度”が求められているのだ。
授業や課題などを基本的に英語で運用する法政大学のグローバル教養学部、日英バイリンガルでのリベラルアーツ教育を献学時より実践する国際基督教大学などは、海外志向の強い受験生や帰国子女を中心に人気が高い。
また、近年は短~中期の留学や海外研修が必須となっている大学が国際系学部を中心に増加中だ。早稲田大学の国際教養学部や国際教養大学などは1年の長期留学が卒業要件となっている。在学中に留学を考えている受験生は、留学中の取得単位の扱いや休学の必要性、在学期間中の授業料の扱いや学費の支援制度などについても事前に検討しておきたいところだ。
そして、グローバル人材へのニーズはもはや国際系学部にとどまらない。法律や医療関係、AIやITなど情報工学などでも国際的に活躍できる場が文理問わず広がっている。今後自分の進みたい学問分野で、その大学の教育研究は国際的にどんなレベルにあるのか。また、その学びを就職だけでなく将来の人生でどのように活かしていきたいか、そこまで視野を広げた大学選びが今後の受験生には求められている。
より深く自分を知り、そして大学を知ろう
大学とのマッチングを考えたとき、受験生は大学そのもののリサーチに奔走しがちだ。しかし高大接続入試改革により、大学入試は従来の「知識・技能」中心の学力評価に加えて、本人の「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」が問われるものへと変革していく流れにある。そしてAO入試も前述のとおり総合選抜型が拡大傾向にある。
ここで改めて受験生に求められているのは、むしろ自分が何に関心を持ち、どんな経験を積んできたかを分析する「自分自身のリサーチ」にほかならない。
部活、課外活動、ボランティアなど学業以外で取り組んできたことを振り返り、そこから得られたものを他者に伝える表現力を身につけるのは、ときに大学選び以上に時間を要する作業となるだろう。
また大学についても机上のリサーチだけでなく、オープンキャンパス等で実際に足を運び、学内や学生の雰囲気、授業内容、食堂や図書館などの設備状況についても理解を深めておきたい。データやランキングで知り尽くしたつもりの大学であっても、“現場”に赴いて教員や学生の生の声を聞くことで、また印象は変わってくるはずだ。
自分と大学をより深く知る。こうした作業を繰り返すことで、志望順位が入れ替わったり、また新しい大学との出会いを生むこともあるだろう。パソコンやスマートフォンで幅広い情報や選択肢を手軽に得られるようになったからこそ、よりマッチングは教員側にも受験生側にも、悩ましくも取り組みがいのある時代なのだ。