「農学」と聞くと何を連想するだろうか。一般的には「農学=農業」と思われがちだが、農学には、それだけでない、地球規模の課題の解決に貢献できる様々な研究分野が存在する。本稿では、農学系の秘める可能性や魅力について詳しくみていきたい。
減少が続いていた志願者数が、2022年度入試より増加に転じて以来、農学系学部の人気が続いている。背景にあるのは、地球温暖化や食糧危機など、世界が直面する課題の解決に貢献するため、農学系学部に注目する受験生が増えたこと。さらに、文部科学省が「大学・高専機能強化支援事業」を展開し、デジタル・グリーンといった成長分野の人材育成を後押ししていることにより、多くの大学が農学系の学部・学科の新設や改編を進めており、選択肢の広がりも志願者増加の一因となっている。
近年、未来の地球について考える壮大なテーマであるSDGs(持続可能な開発目標)が注目されている。農学は、食料生産、環境保全、地域社会の活性化など、SDGsの多くの目標に深く関わる学問分野だ。分かりやすい目標だけでも、②「飢餓をゼロに」⑫「つくる責任つかう責任」⑭「海の豊かさを守ろう」⑮「陸の豊かさも守ろう」などがある。さらに、①「貧困をなくそう」③「すべての人に健康と福祉を」⑥「安全な水とトイレを世界中に」⑦「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」なども農学の分野で解決可能な目標である。これだけをみても、持続可能な社会の構築を目指す様々な場面で、農学の学びが求められていることが分かっていただけるだろう。
農学の学びにおいて、特徴的なのは研究分野の多様性である。植物の生産や畜産、水産といった主流といえる分野に加え、森林科学や環境学、醸造学、バイオサイエンス、遺伝子工学、食品安全健康学、地域資源開発学、食料環境政策学、農業経済学、食農ビジネス学など、その研究分野は多岐にわたる。
大学でも、SDGsの課題解決に向けて、さまざまな研究が行われている。個別に見ていくと、北海道大では、「北の森林(もり)プロジェクト」を立ち上げ、森林の再生・保全およびそれらに関わる、森林のもつ、生物多様性・生態系保全の働きなどの教育・研究を行っている。また東京農業大には、「“生きる”に関わる地球上のあらゆる課題の解決に挑む。」をテーマに、「フードロスを生産の段階から防ぐ農薬の利用法を考案する」「生産者と消費者をつなぎ、地域が抱える課題を解決」など、SDGsが掲げる目標に貢献できる研究活動が多数ある。他にも、多くの大学でSDGsの課題解決のための研究が行われているので、興味のある受験生には注目してほしい。
研究分野の広さは就職先の多様性にも結び付いており、農水産業以外に食品、化学、機械、化粧品メーカーなど。さらに、農業の基礎知識を生かして、公務員や金融機関なども就職対象となり、農学系学部の卒業生が活躍できるフィールドは確実に増えている。
多様な就職先が視野に入ることから実就職率も高い。就職に有利な資格が取得できる医療系などを除くと、農学系は理工系と並んで、平均実就職率が高い学部系統だ。左の「農学系学部実就職率ランキング」を見ると、香川大・農、高崎健康福祉大・農の実就職率は100%だ。その他も、大半の大学で90%を超えている。
少子高齢化による担い手の不足、異常気象による自然災害など、農業を取り巻く環境は厳しい。しかし、これらの課題を解決し、持続可能な社会を実現するために、今、農学の力が求められている。「自らの研究を通じて地球の未来を変えたい!」農学系学部は、そんな受験生にお勧めしたい学部系統だ。
農学系学部実就職率ランキング
順位 | 設置 | 大学名・学部名 | 所在地 | 実就職率(%) | 卒業生数 | 就職者数 |
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1 | ※ | 香川大・農 | 香川 | 100.0 | 135 | 77 |
◎ | 高崎健康福祉大・農 | 群馬 | 100.0 | 88 | 79 | |
3 | ◎ | 名城大・農 | 愛知 | 97.9 | 298 | 236 |
4 | 秋田県立大・生物資源科 | 秋田 | 97.6 | 160 | 120 | |
◎ | 中部大・応用生物 | 愛知 | 97.6 | 318 | 280 | |
6 | ◎ | 龍谷大・農 | 京都 | 97.5 | 440 | 388 |
7 | ※ | 山口大・農 | 山口 | 96.6 | 106 | 57 |
8 | ※ | 神戸大・農 | 兵庫 | 95.2 | 159 | 40 |
9 | ※ | 三重大・生物資源 | 三重 | 94.8 | 259 | 147 |
10 | ※ | 福島大・農学群 | 福島 | 94.8 | 91 | 55 |
11 | ◎ | 東京工科大・応用生物 | 東京 | 94.7 | 253 | 197 |
12 | ※ | 岡山大・農 | 岡山 | 94.4 | 123 | 51 |
13 | ◎ | 東京農業大・応用生物科 | 東京 | 94.4 | 566 | 441 |
14 | 石川県立大・生物資源環境 | 石川 | 93.9 | 121 | 93 | |
15 | ※ | 鳥取大・農 | 鳥取 | 93.9 | 247 | 154 |
16 | ◎ | 摂南大・農 | 大阪 | 93.9 | 294 | 245 |
17 | ※ | 信州大・農 | 長野 | 93.8 | 159 | 75 |
18 | 県立広島大・生物資源科 | 広島 | 93.6 | 119 | 88 | |
19 | ◎ | 近畿大・農 | 大阪 | 93.5 | 645 | 471 |
20 | ※ | 宇都宮大・農 | 栃木 | 93.4 | 199 | 113 |
21 | ※ | 徳島大・生物資源産業 | 徳島 | 92.6 | 95 | 50 |
22 | ※ | 弘前大・農学生命科 | 青森 | 92.5 | 217 | 149 |
23 | ※ | 高知大・農林海洋科 | 高知 | 91.9 | 181 | 113 |
24 | ◎ | 明治大・農 | 東京 | 91.6 | 515 | 362 |
25 | ※ | 茨城大・農 | 茨城 | 91.5 | 148 | 86 |
26 | ◎ | 新潟食料農業大・食料産業 | 新潟 | 91.2 | 118 | 103 |
27 | ※ | 佐賀大・農 | 佐賀 | 90.2 | 148 | 83 |
28 | ※ | 静岡大・農 | 静岡 | 90.1 | 184 | 91 |
29 | ※ | 岩手大・農 | 岩手 | 89.7 | 224 | 139 |
30 | ※ | 広島大・生物生産 | 広島 | 89.7 | 103 | 26 |
表の見方
◆データは、各大学発表による2024年の就職状況(10月25日現在)。
◆実就職率(%)は、就職者数÷(卒業生数-大学院進学者数)×100で算出。同率で順位が異なるのは、小数点2桁以下の差による。卒業生数が80人未満の小規模な学部、通信教育学部、二部・夜間主コースのデータは掲載していない。
◆設置の※印は国立、◎印は私立、無印は公立を表す。所在地は大学本部の所在地で学部の所在地と異なることがある。
◆各系統は、主に学部名称により分類したため、学科構成や教育の内容が似ていても掲載していないものがある。