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大学入試改革で注目される主体性評価。高校では日々の活動をポートフォリオに記入する取り組みが始まっています。大学入試では、志望理由書や学修計画書の提出が一般入試でも求められる可能性があります。そこで高校生に問われるのが「文章力」です。英語より前に高校生は、きちんとした提出書類を日本語で書けるでしょうか。大学生や社会人でも危うい「文章の書き方」について、エキスパートに話を聞きました。
文章を書く型を身につける。
書くことが好きになる。
最終回は東洋大学附属姫路中学校・高等学校(中高一貫コース)の国語科・曽我悟子教諭に話を伺った。曽我教諭は「文章の書き方」についての研究をもとに、オリジナルのワークシートを考案。生徒の文章力向上に成果を上げている。また、公立中学校と私立中高一貫校どちらの学校も経験している立場から、学校現場における文章指導の課題についても話を伺った。
―先生が文章指導に力を入れるようになったきっかけを教えて下さい。
平成19年に兵庫県が学力向上推進事業を立ち上げました。この事業の一環で、前任の公立中学が「書くこと」の研究協力校に指定されました。私は国語科の他の先生たちと一緒に、どうすれば生徒の書く力を伸ばすことができるかを1年かけて考え、公開授業や実践発表を行いました。これがきっかけです。
―そこで編み出されたのが、文章を書くための型、ワークシート(下図)です。これについて教えて下さい。
ワークシートを使うことで、文章を書く手順を身につけることが目的です。手順としては、まず初めに作文のテーマを設定します。次にそのテーマについて、一番伝えたいことをまとめます。さらに具体的にどのような事柄があったのか、材料メモとして項目を挙げ、大まかな内容をまとめます。その中から、文章化しやすい項目を選び、序論・本論・結論(または起承転結)のどこに位置づけるか段落構成を考えます。それから、項目ごとにカード(200字程度の原稿用紙)に文章を書いていくのです。それらをあわせて、一つの文章に仕上げ、下書き、清書をします。
―いきなり全文を書くのではなく、材料ごとにカードに書くんですね。
私たちは、何か文章を書こうと思った時に、頭の中で書きたい項目をピックアップして、文章を膨らませていきますよね。これと同じことを紙上でしていきます。なぜカード方式にするかと言うと、最初から「原稿用紙3枚」と言うと、生徒が引いてしまうからです。そこで、「まずは項目ごとに200字程度で書いてみよう」と。どんな生徒も200字くらいは簡単に書きますから。
―このワークシートは、オリジナルの考え方でしょうか。
ここまで細かく手順を考えたのはオリジナルです。でも実は、小学校の国語の教科書でも各学年で段階を追って、文章の書き方を学ぶために「テーマ設定」や「材料メモ」など、似た内容が出てきます。それが、なかなか浸透しないのだと思います。
―なぜ「書く」教育は浸透しないのでしょうか。
書く分野に関しては、教科書に載っていたとしても、手を掛ける時間的余裕がないからだと思います。例えば、書く力を伸ばすには、指導者が添削を行うのではなく、生徒自身にポイントを絞って推敲させることが重要です。本校では、「わかりやすい文章を書くための注意事項」をまとめたものを配り、推敲のよりどころとして活用させています。
さらに、文章は1回書いただけでは上達しません。何度も何度も書くことが大切です。こういう時間が取れないのが現状ではないでしょうか。幸い本校は中高一貫校です。国語の授業の他に「キャリア・フロンティア」というプログラムの中で文章を書く機会が多くあります。もちろん公立中学校でも、書く分野の指導は行っています。ただ、高校受験がありますので、作文に十分な時間を割くことはできません。どうしても語彙力や読解力をつけることが中心になってしまうのではないでしょうか。
―普段の国語の授業で気を付けていることを教えて下さい。
普段の国語の授業でも、文章を書かせることを常に心掛けています。
例えば「Aさんはなぜ涙を流したのだろう」という問いを投げかけると、話し合ったり何人かが発表したりします。しかし、全員が自分の言葉で書かないことには、生徒が考えたことにはなりません。生徒が自分で答えにたどり着くことが大事なので、そこに気をつけています。だからなるべく授業中に1回か2回は自分の考えを書かせます。
それに、生徒は「間違った」と思ったら、書いたものを消そうとするんです。そんなときは「消してどうするの、自分の考えは大事にしなくては。自分が書いたものは宝物だよ」と言って、消さずに、隣に直したものを書かせます。
さらに、文章を書くことを理解するにも、自分で考えることが大切です。1年生の夏休みの補習授業では、少し難しい説明文を学習します。形式段落ごとに要約をするのですが、実は、この要約した文章は、前述の「材料メモ」の内容にあたるわけです。筆者も、もともとは要約程度の骨子を広げていって長い文章を書いている。「自分達が作文を書くときと同じプロセスではないか」と生徒に説明します。説明文の全文を段落ごとに要約し、全体の要旨を捉え、筆者の言いたいことを読み取るという、書くときとは逆のプロセスをたどることで、文章を書くことへの理解を深めることが目的です。こういう地道な作業を通して、生徒たちは、材料メモが不足していたら、すばらしい文章にはならないことに気づくのです。
―まずは材料をたくさん集めるということですね。一方で、集まった材料を取捨選択する作業も必要です。
そうですね。生徒には材料メモをたくさん書かせます。しかし、最後には取捨選択が必要です。自分にとって、AとBはどちらが大切か。どちらを読み手に伝えたいのか。そこを自分で考えないといけません。ただし、「捨てたところも、消さないでおこう」とは言っています。自分で書いたものは全て財産になるからです。
さらに本校では、様々な活動で書く感想やレポートをファイルに差し込み書き溜めています。この辺りの考えは大学入試改革のポートフォリオにも通じるかもしれませんね。
―ポートフォリオも、今までの経験を書いて蓄積する。蓄積したものを取捨選択して、大学のエントリー時に文章化するという意味で通じるところがありますね。
大学入試制度が変わることで、何が求められているかと言うことは、小・中学校の教育現場にも十分に伝えていく必要があると思います。そうすれば、教科書の使い方も変わってくると思いますし、文章指導も今よりもっと重視されると思います。
―最後に、先生にとって文章とはなんでしょうか。
「文章を書く」ということは、一言で言うと「自分を確認する」ということだと考えています。子どもであれ大人であれ、書く作業を進めるうちに自分という人間の輪郭が徐々にはっきりとしていきます。文章はコミュニケーションツールとして捉えられがちです。それはそういう風に使えればとても良いことだけれども、その前に自分を理解、自分を確認するための作業、手段が文章であると思うんですね。
多くの生徒は特に文章を書くことに苦手意識が強く、自信がないから書くことを避けようとします。そこで、文章を書くことはそんなに難しいことではない、ということを教えてあげることが何より大切です。そして、自分が思いのほか長い文章を書けるということを目の当たりにすると、書くことが楽しくさえなってくるのだと思います。
曽我悟子(そがのりこ)
神戸大学卒業後、2013年まで国語科教師として兵庫県姫路市の公立中学校に35年間勤務。2007年度「ひょうご学力向上推進プログラム事業(指導方法工夫改善事業)」の「研究協力校」に指定された前任校で、国語科として「書くこと」の実践研究に取り組み、公開授業や実践発表を行った。(研究主題:書くことの意欲を育み、書くことの抵抗感をなくし、場面や目的に応じて、わかりやすく論理的に書く力をつけるための指導方法の工夫)
2014年度開校の東洋大学附属姫路中学校(中高一貫コース)に、開校前年度から勤務。現在、学年主任を務める。
【聞き手】
松本陽一(まつもとよういち)
1982年滋賀県彦根市生まれ。2005年大学通信入社。情報企画部所属。入社以来、首都圏を中心に多くの私立の中学校・高等学校を訪問。学校の成長に関心を寄せる。