File_01 大学入試改革に向けて「文章力」を考える

File_01 大学入試改革に向けて「文章力」を考える

大学入試改革で注目される主体性評価。高校では日々の活動をポートフォリオに記入する取り組みが始まっています。大学入試では、志望理由書や学修計画書の提出が一般入試でも求められる可能性があります。そこで高校生に問われるのが「文章力」です。英語より前に高校生は、きちんとした提出書類を日本語で書けるでしょうか。大学生や社会人でも危うい「文章の書き方」について、エキスパートに話を聞きました。

「WHY」を使って文章力を磨く!

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1回目は、朝日新聞メディアプロダクションの前田安正さんに話をうかがいました。前田さんは校閲記者として、長年にわたり新聞記事を校閲してきた文章チェックのプロ中のプロです。その傍ら、文章についての本も多数上梓され、近著『マジ文章書けないんだけど~朝日新聞ベテラン校閲記者が教える一生モノの文章術~』は8万部のベストセラーになっています。今回は前田さんに、文章を書くときに必要な考え方について、話を聞かせていただきました。


 

―前田さんご自身はどのように文章力を身につけられたのでしょうか。

私は校閲記者ですから、文章が書けると思っていませんでした。ただ、仕事で新聞を毎日読んでいたので、文章のリズムは分かっていました。実は(朝日新聞の)校閲記者は5年くらいしたら、勉強のために地方総局に記者として送り出されるんです。そうすると、何も教わっていないのにすらすら書けるし、取材も出来る。それは何故かというと、毎日、新聞を読んでいるからです。リズムが分かっているから、きちんとした新聞記事が書けてしまうんです。

―読むことで、文章のリズム感が養われるということでしょうか。

そうですね。だから読書量と、文章力と言うのはある程度比例すると思います。全く文章を読んでない人が書けるかというと難しいですよね。一方、新聞編集の現場では、文章力を体系化して教えてこなかった。例えば、記者が書いた記事を上司が直します。この時も、どうしてここを直したのか言語化はしない。「こうやるもんだ」と言われて何となく身についていく感じです。これと同じで、日本では、文章の書き方を教わる機会が少なく、書ける人も、何となく文章力が身についたと感じている人が多いと思います。

―前田さんが著書の中で提唱されている「WHY(なぜ)」を使って文章を書くとは、どういうことでしょうか。

文章を書くときの基本に「いつ、どこで、だれが、何を、どうした」というのがあります。「昨日僕は動物園でライオンを見ました」というように、基本的な文はこれで書けてしまいます。ところが、その次が書けなくて「とても楽しかったです」で終わってしまう。実はこの文には「WHY(なぜ)」がないんですね。そこで「なぜ動物園に行ったの?」「なぜライオンを見たの?」と「WHY」を立てて聞いてあげると、どんどん文章が膨らんでいく。単純にそれだけです。

―それを発見したということですか?

カルチャーセンターで社会人向けに文章教室をやっていても、「WHY」を落として書いている人がものすごく多いんです。

子供は「なぜなぜ?」って聞いてくるでしょう。ところが、ある時からそこに蓋をして、分かった体を装う。それを掘りおこさなければいけないというのがありました。結局、「なぜなんだろうね」というのが一番知りたいところじゃないですか。「あんな絵を書いてる!なぜだろう?なぜあんな絵が書けるんだろう?」と言うのが一番知りたい。実は「WHY」が分かると、その人の取った行動が見えてくるんです。行動をとるということは、その後に変化が起こります。単に状況の報告だけでなく、「WHY」を使って、行動や変化を書いていくと人間そのものが書ける。企画書を書くにしても、そこに反映されるのはその人自身です。だから「WHY」が書けていなかったら、どんな企画書も通りません。

―「WHY」のない文章には人間性がないということですね。

朝日新聞メディアプロダクションの前田安正さん人間の情動とか、気持ちを書くには「WHY」を使って問い続けなければならないと思います。特に今、一番欠けているのが「自分って何だろう」「人間って何だろう」「なぜ我々は生きなければいけないのか」という、僕らの頃であれば、中学生・高校生でさんざん悩んで、本を読んで考えていた哲学的なことです。「自分って何だろう」が分かっていないから、いざポートフォリオや(就職活動で)エントリーシートを書こうとした時に、書けなくなってしまうんです。

―ポートフォリオを書くときも「WHY」を意識した方が良いということですか。

した方が良いと思いますね。ほとんどの場合、大学に行く目的なんて、そうはっきり決めていないと思うんですね。偏差値表を見て「ここしか自分にはないんだろうな」とか。「就職がよさそうな〇〇学部」とか。それはそれでいいんだけれど、「今まで自分が中学校・高校でやったことって何だろうな。何でなんだろうな」と、もう一回振り返ることで、何かが見つかる可能性だってあるじゃないですか。自分の振り返りを文章化して見直すことは、すごく大切なことだと思うんですね。ただその分、生徒には負荷がかかります。書くこともそうだし、考えなければいけませんから。

―そもそも文章は人に教えることが出来るのでしょうか。

例えば、社会人向けの文章教室で「イチョウ」という題を出すと、「ここのイチョウはこうだった、あそこのイチョウは…」と、いくつかイチョウを並べて、それで終わってしまう人が多いです。自分の日記であればそれでいいのですが、人には伝わらない。でも5、6回書き直すと、文章がガラッと変わることを経験しています。

―その時に、「WHY」を使うんですか。

「なぜここのイチョウを見に行ったんですか?」とやっていきます。するとその人はもう一度そのイチョウを見に行ったり、観察をしに行ったりします。そこで見たものが、なぜ面白いと思ったかを引き出していく時に、さらに「WHY」を使います。とにかく「なぜですか?なぜですか?」と聞いてあげるんです。最後に「それをまとめてみましょう」とやると、だんだんと文章が書けるようになります。

朝日新聞メディアプロダクションの前田安正さん

―文章力も大事ですが、その前段階として「いかに問いかけるか」が重要ですね。

「なぜなの?どうしてなの?」と問いかけてあげると、自分の中で内省がはじまる。「自分って何なんだろう?」「何でこの勉強が好きなんだろう?」「何がやりたいんだろう?」と、どんどん自分で考えられるようになります。そうなればしめたもので、後は自分で考えたことを素直に書けるようになる。文章術というのは2次的なもので、その前にある、「なぜなんだろう」と言う問いかけと、問いかけによる発見。いかに発見できるかですよね。勉強も「これが面白い!」と思えばやるわけです。面白いと思った事をやれるのが大学ならば、文章を使ってそこを見極めていくべきです。

実はこういうことはビジネス界ではそんなに不思議な話ではなくて、コーチングという技法があります。コーチングはただ聞くだけですよ。答えを引き出してあげるだけです。「何故でしょうね?この時はどうしたらいいでしょうか?」と本人に考えさせる。それと一緒なんですね。

―「問いかけて、自分や他者と対話をして、発見する」。それは高校生でも同じだということですね。

こういうことをやるならば、授業の形式も変えないとダメだと思います。一方向の授業も必要ですが、みんなで「これについてどう思うだろうか」と話をしないと、新たな発見は生まれない気がしますね。それに、色々な人から色々な意見を言われるから、逆に焦点が絞れるということもあると思います。こういう実体験がないままに書いたって、説得力のあるポートフォリオにはならないと思います。

―文章作成をサポートするのは手間が掛かる作業ですね。

私たち校閲記者は、文章に触れて、直す作業をひたすらやっています。先生方はそういう機会が少ないかもしれません。加えて生徒一人ひとりと相対するとなれば、とてつもない負担だと思います。それでも、やらないよりはやったほうがいい。一般企業や公務員に向けた研修でも、1時間や2時間で文章ががらっと変わります。母語を話せる人がはじめから文章を書けるかというと、そうではないんですね。そのことに早く気づいて欲しいと思います。

―最後に、前田さんにとって文章とは?

「プレゼンテーション」ですね。別にアピールするということだけじゃなくて、「自分がどういう人間であるか」と言うことをきちっと、客観的に知るためのツールだと思います。「今までどんな勉強をしてきたか」「このスタンスをどうとらえていたのか」。そこを言語化していくというのはまさにその人のプレゼンテーションだと思うんですよね。これからはそこが大切になると思っています。

朝日新聞メディアプロダクションの前田安正さん

前田安正(まえだやすまさ)

朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長/ことばデザインワークス「マジ文ラボ」主宰
1982年早稲田大学卒業、2018年事業構想大学院大学修了
朝日新聞社入社、名古屋本社編集センター長補佐、大阪本社校閲センターマネジャー、用語幹事、東京本社校閲センター長、編集担当補佐兼経営企画担当補佐などを歴任。日本語、漢字についての特集、コラムを担当。2018年4月から朝日新聞でコラム「ことばのたまゆら」を連載。

前田さんの著書紹介

しっかり!まとまった!文章を書くしっかり!まとまった!文章を書く
すばる舎
今回ご紹介した「Why」を使った文章術が、豊富な例文を使って詳解されています。松本が今回前田さんに話を伺いたいと思ったのも、この本がきっかけでした。


きっちり!恥ずかしくない!文章が書けるきっちり!恥ずかしくない!文章が書ける
すばる舎
主語と述語の関係や、「てにをは」の使い方など、読み手に伝わる、正確な文章を書くにはどうすればよいかが体系的に学べます。


マジ文章書けないんだけどマジ文章書けないんだけど
大和書房
間違いやすい文法からWHYを使った文章の膨らませ方まで、前田さんが考える文章作成のエッセンスが一冊で学べるお得な内容です。

松本陽一【聞き手】
松本陽一(まつもとよういち)
1982年滋賀県彦根市生まれ。2005年大学通信入社。情報企画部所属。
入社以来、首都圏を中心に多くの私立の中学校・高等学校を訪問。学校の成長に関心を寄せる。

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