自由な学風と真摯な探究心が研究力と教育力を高める―関西学院大学

自由な学風と真摯な探究心が研究力と教育力を高める―関西学院大学

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関西学院大学は国際教育やキャリア教育・支援の充実がよく知られている。それらに加えて近年、理系学部を中心とした研究力の高さが注目を集めている。2021年には神戸三田キャンパス(KSC)に拠点を置く理工学部を再編し、理学部、工学部、生命環境学部が誕生。さらに建築学部を新設して理系4学部体制になっている。2025年4月にはキャンパス近接地に300名規模の学生寮とインキュベーション施設を備えた複合施設「C-ビレッジ」を開設する。加速を続ける研究力向上に関する取り組みについて、研究推進社会連携機構長を務める土井健司副学長に話を伺った。

取材 井沢 秀(大学通信)                
 文 松本守永(ウィルベリーズ)

―研究推進社会連携機構の役割について教えてください。

土井 本学全体の研究活動を創発・推進・支援する組織です。研究支援センター、知財産学連携センター、社会連携・インキュベーション推進センター、研究創発センターという4つのセンターを設置しており、3つの研究所、2つのインスティテュート、22の特定プロジェクト研究センターを有しています。研究支援センターは、研究を高度化するための環境整備や、教員の研究に必要な外部資金の獲得支援を行っています。つい最近では、生命環境学部の松田祐介教授が世界三大科学誌『Cell(セル)』に論文を掲載されたのですが、このときも同センターがサポート役を務めました。

機構には知財や産学連携など、それぞれの分野に精通した約70人のスタッフが在籍しています。学内では最大規模の組織です。

―関西学院大学の理系研究における特色や優位性を教えてください。

土井 理系学部が拠点を置くKSCは、キャンパス全体として「持続可能なエネルギー」を重点研究テーマにしています。このテーマのもと、理学部の多孔性材料を利用したグリーン水素の製造、工学部のパワーエレクトロニクス、生命環境学部の人工光合成、建築学部のスマートシティといった研究を推進していることが特色の1つです。

生命系にユニークな研究テーマが多いことも特色です。前述の松田教授は、脱炭素に大きな役割を果たすものとして期待が集まる海洋珪藻について研究しています。宗景ゆり教授は、高温環境や乾燥に強く生産性が高いという、地球温暖化にも対応できる性質をもった「C4型」と呼ばれる光合成を行う植物の育種を研究しています。北條賢教授の研究テーマは、アリ社会のフェロモンコミュニケーション。藤原伸介教授は、海底火山の熱水など高温で活発に生育する高度好熱菌を研究しています。

松田祐介教授

もう1つの特徴的な研究分野は宇宙です。本学では、宇宙物理学の主要3分野である電波天文学、赤外線天文学、X線天文学のすべてを学ぶことができます。KSCには口径40センチの反射望遠鏡を設置した天体観測ドームが設けられており、学生が天体観測や研究に利用しています。理学部の松浦周二教授は、ロケットで観測装置を打ち上げて宇宙から天体を観測する国際プロジェクトに参加し、見事に実験を成功させました。JAXAとの連携により、大学院生がそのプログラムにメンバーとして加わって活動を行ったりもしています。

松浦周二教授と学生

若い世代の教員も独創的かつ質の高い研究を行っていることも特色です。本学の理系学部には、国公立大学や大手企業から移籍し、教員として教育・研究活動を行っている教員がたくさんいます。そういった教員にとって本学は、若いうちから自分の研究室を持ち、自分の興味を自由に探究できることが魅力になっています。教員が自由に研究を行えるということは、学生も同じく自由に自身の興味を深堀りできるという意味でもあります。また、教員と学生との距離も近く、何でも相談したり率直に意見交換しながら研究を行えるというメリットもあります。本学ならではの自由さが、高い研究力・教育力の背景の1つになっているのです。

設備面では前述の天体望遠鏡に加えて、兵庫県内にある世界三大放射光施設「SPring-8」の専用利用枠を自由に活用することができます。ここでは、学部生や大学院生が指導教員とともに研究活動を行うだけでなく、学部1年次から先端放射光分析を体験できる授業が開講されています。

後述しますが、このほかに兵庫医科大学との「医工連携」の取り組みも特色として挙げられます。

―今後の研究創発への取り組みとしてどのような構想をお持ちでしょうか。

土井 今構想している柱の1つは、兵庫医科大学との連携です。本学は14学部14研究科を有する総合大学であり、分野を横断した研究を数多く行っています。ここに兵庫医科大学との連携によって医学・薬学・看護学・リハビリテーション学の分野が加わることで、さらに学際的・革新的な取り組みが可能になります。

同学との連携において重要テーマと位置付けているのが人口減少や超高齢化によって直面する、いわゆる「多死社会」が続くという社会課題に対し、不安・孤立・孤独・寂しさ・悲しさ・ストレスを緩和する研究です。現代社会は「よりよく生きる」ことはもちろん大切ですが、誰にでも必ず訪れる「死」に対しても、研究として向き合うことが重要です。そこには、医学と工学の技術的な連携に加えて、心理科学や人間福祉学、さらには神学といった本学ならではの知見も貢献できると考えています。実は兵庫県は、全国でも特に高齢化率が急速に進行している地域の一つです。こうした背景から、兵庫県は社会課題解決のフィールドとしても、非常に重要な地域だと言えるでしょう。

もう1つの柱は、神戸市が掲げている「水素スマートシティ神戸構想」との協創です。すでにお話しした通り、KSCでは「持続可能なエネルギー」をテーマに据えた研究を推進しています。その中の「液化水素を用いた超伝導発電」を核に、地域の資源をいかし、地域のビジョンにも強くコミットしながら、研究開発や人材育成に取り組みます。

これら2本の柱を最終的には共鳴させ、人類にとって「やさしく生きやすい」社会に結びつける構想を、私たちは「ひょうご神戸の臨海大都市圏を中心としたBorderless Innovation創出拠点構想」と呼んでいます。それぞれに関連する研究や取り組みは以前から行われていたものですが、それらを整理・再編成することで、本学単体では難しい研究分野への取り組みや研究のスピードアップを期待できるようになります。

―2025年4月には学生寮やインキュベーション施設などを備えたC-ビレッジが誕生します。関西学院大学の研究にどのような相乗効果をもたらすとお考えでしょうか。

土井 KSCの隣接地で建設が進むC-ビレッジ(Co-Creation Village)は、インキュベーション施設「S-ベース(Spark Base)」と300人収容の学生寮「G-ドーム(Genesis Dorm)」、地域の方も利用できるフィットネスジムという3つの施設から構成されています。核となるのはS-ベースで、起業家育成、研究成果の社会実装、地域課題の解決を3本柱として運用していきます。

2025年4月に誕生するC-ビレッジ。核となるS-ベースでは「研究成果の社会実装」が運用の柱のひとつとなる(写真はS-ベース)

S-ベースの大きな特徴は学生寮を併設している点です。これだけの規模の学生寮を併設したインキュベーション施設というのは、全国でも非常に珍しいです。この特徴は、起業家育成という柱に密接に結びついています。なぜなら、学生はインキュベーション施設に入居する起業家たちの活動に、日常的に触れることができるからです。社会課題の解決や研究の社会実装に取り組む起業家たちの姿を間近に見て、交流を重ねることは、寮生にとって大きな刺激やモチベーションになるでしょう。また、寮生はS-ベースで行われる入居企業向けのイベントにも参加することができます。S-ベースが「教育と起業をつなぐ場」となり、学生のアントレプレナーシップ(起業家精神)を育むことを期待しています。

研究成果の社会実装とは、本学の教員が自身の研究内容をもとにして起業に繋げることを想定しています。この目標のために知財産学連携センターがバックアップし、学内のどの研究が社会実装への可能性を持っているかという調査・検討などを行います。「社会の中での研究」という視点を持ち、研究と社会をつなぐ取り組みを進めてまいります。

地域課題の解決に向けては、起業に興味がある学生向けの教育プログラムをS-ベースでも開講します。ここでは、本学卒業生の起業家が講師を務めます。先輩たちから起業と社会課題の解決に関するリアルな話を聞けることは、ビジネス分野で活躍する卒業生が多い本学ならではの特色だと言えます。

S-ベースは出会う、つながる、はみ出るという3つの効果をもたらしてくれると考えています。S-ベースには自身の関心事や研究分野を通じて何かにチャレンジしたいと思っている仲間や先輩である大学院生が集まり、課題解決やビジネスアイデアの具現化に取り組みます。さらに、教員や地域住民、企業に勤める人、教師、公務員、起業家と、職業や社会的立場の垣根なく志を持った人が集まります。そういった人と接点を持つことは学生にとって、自身の研究へのモチベーションを引き上げるきっかけになるでしょう。これが「出会う」という効果です。

S-ベースではアントレプレナーシップ醸成プログラムをはじめ、研究室を超えた異分野共創イベント、教員や起業家なども参加するネットワークイベントが定期的に開催されます。これらの機会を通じて多様な人々とつながることで、学生は新たな知識・技術を修得でき、研究の幅や将来の選択肢を広げることができます。これが2つ目の効果である「つながる」です。

S-ベースにおいて学生に体験してもらいたいと強く望んでいるのは、さまざまな出会いやつながりを持ちながら、それぞれの異なる価値観を認め、知や技術を越境することです。既成概念や常識にとらわれることなく、自分自身が持つ枠や発想を大いにはみ出し、社会に新しい価値を創造する気概に満ちあふれた環境を通じてBorderless Innovator(境界を越える革新者)に成長してもらいたいのです。これが3つ目の効果である「はみ出る」です。

私たちは、S-ベースを「イノベーションの結節点」と位置づけています。S-ベースを舞台にして地域や社会と学生や教員がつながり、革新的なアイデアやテクノロジーが次々に生まれる「新たな価値創造拠点」となることを目指します。学生に対しては、チャレンジしたいことや目標が明確ではなくても、何か行動してみる第一歩目としてS-ベースに足を運んでもらいたいです。新しい人やアイデアに出会うことができ、二歩目、三歩目が生まれていくはずです。また、仲間づくりなどの場としても活用してもらいたいです。

―大学は研究機関であると同時に教育機関としての役割も持っています。研究力と教育力のいずれも引き上げていくためには、どのようなことが必要でしょうか。

土井 優れた研究者が必ずしも優れた教育者というわけではありません。なぜなら、教育は1人ひとりの人間と向き合うことが不可欠だからです。しかしながら、高等教育機関である大学は研究内容が教育内容に直結しているため、研究の質の高さは教育の質の高さであると言えます。「教育は研究の一環である」と語る教員もいます。おもしろい研究が行われ、それが学生にしっかりと伝わることが、学生の学びの意欲を高めます。

これは私見ですが、研究を通して教員は学生に対して「物事をまっすぐにとらえ、まっすぐに考えること」を教えなければならないと考えています。忖度や利害関係など、社会に出ると曲げたりねじったりせざるを得ない場面にも出会います。そういったことを積み重ねていると、いつの間にか「何がまっすぐなのかわからない」となりかねません。だから学生時代は、何にもとらわれずにまっすぐ考える経験をしてもらいたいのです。

そもそも、研究とはまっすぐであることが求められるものです。期待していた実験結果が出なかったからといって、数値をねじ曲げることは許されません。望んでいなかった結果とも真摯に向き合い、原因や対策を筋道立てて考えるという力を研究は養ってくれます。本学で研究に取り組む教員は、「まっすぐさ」を備えていると私は信じています。そういった教員が学生を指導してくれていることが、本学の教育力を支えていると考えています。

―読者である高校の教員やその先にいる高校生に向けてメッセージをお願いします。

土井 本学の大きな特色は自由さです。研究も教員や学生の自由な発想のもとで行われています。「社会に役立つ」「利益につながる」といった視点ももちろん大切ですが、それだけでなく、人間が本来持っている純粋な好奇心や喜びを大切にしているのが本学の研究と言えます。

もう1つの特色は「ボーダーレス」です。教職員や学生といった立場の垣根を越えて議論したり協力したりというのは、本学の設立当初からの伝統です。現代では性別や国籍、人種、民族、身体的・精神的特徴、セクシュアリティなど、ボーダーレスの幅はさらに広がっています。学生と教員が近い距離感でともに活動しているのは、本学のボーダーレスさを示している一例とも言えます。

研究の充実はもちろんのこと、学生1人ひとりとじっくり向き合うことができるのは私立大学ならではです。特に本学の理系学部ではより一層の全人教育を進めるべく、担任制度を導入しました。

そして何よりも「日本一美しい」と称されるキャンパスを誇りに思っています。ソフトとハードの両面においてすばらしい環境を持つ本学で、「こんなことをやってみたい」「新しいことにどんどんチャレンジしてみたい」といった積極的な気持ちを備えた人と、ともに学べることを楽しみにしています。

世界に広がる関西学院大学の研究力

CASE1 珪藻研究の新発見、世界的学術誌『Cell』に掲載

生命環境学部生物科学科の松田祐介教授が率いる研究グループはこのほど、海洋性珪藻類が光合成を効率的に行うために必要な新しいタンパク質を発見した。また、最新のゲノム編集とクライオ電子顕微鏡技術を用いて、二酸化炭素を効率的に固定する分子メカニズムを解明した。この成果は、将来の海洋環境予測や地球全体の環境予測に重要な役割を果たすと期待されている。また、微細藻類はバイオエネルギーの有望な資源とされており、松田教授らの発見は次世代の葉緑体エンジニアリングにも新たな方向性を示し得ると考えられている。研究成果をまとめた論文「Diatom pyrenoids are encased in a protein shell that enables efficient CO2 fixation(珪藻のピレノイドは高効率CO2固定を可能にするタンパク質の殻に覆われている)」は2024年10月2日、世界三大科学誌の一つである『Cell』に掲載されるなど、世界的に高い評価を受けている。

CASE2 NASAのロケット実験CIBER-2が成功

理学部物理・宇宙学科の松浦周二教授が率いる研究チームが参加したNASAのロケット実験 CIBER-2の打ち上げが、2024年5月6日に成功した。この実験は、地上の望遠鏡では捉えられない遠くの星について、「宇宙赤外線背景放射」を観測することで宇宙初期に生まれた星や原始ブラックホールなどの天体を調査する国際プロジェクトである。打ち上げられたロケットには、松浦研究室が開発した観測装置が搭載され、予定通りの観測とデータ収集を行った後、翌日には無事に回収された。松浦教授は2015年に関西学院大学に着任。3年をかけて観測装置を完成させた。しかし最初の打ち上げは新型コロナウイルスの影響でアメリカチームに任せるしかなかったうえ、2度目の打ち上げでも飛行中止措置が取られ、観測装置は破損するという苦い経験を味わった。そして今回、3度目の挑戦でついに実験は成功。鮮明な赤外線画像を含むデータを観測装置に格納し、地上へと持ち帰った。今後は、観測データを用いた宇宙背景放射の解明を目指す。

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