【2024年度入試を振り返る】新課程前夜も安全志向は見られず難関大人気が高まった24年度入試

【2024年度入試を振り返る】新課程前夜も安全志向は見られず難関大人気が高まった24年度入試

文 井沢 秀(大学通信)

2024年度入試を振り返る

現在の大学入試は、学校推薦型や総合型といった年内入試の比率が高まっているが、これらの入試は、出願状況などブラックボックス化している部分があり、年内入試から大学入試全体の傾向を読み解くことは難しい。そこで本稿では、入試状況が分かりやすい一般選抜のデータから2024年度入試の状況を振り返ってみたい。

新課程入試を翌年に控えた年の大学入試は、浪人したくないという安全志向が強くなり、国公立大の志願者が減少し、私立大は安全志向から難関大の人気が下がるのが常だった。ところが2024年度入試は、課程の切り替えと共に、18歳人口の大幅減という要因がありながら、国公立大と私立大ともに一般選抜の志願者は前年並みを維持した。

大学入学共通テスト(以下、共通テスト)は経過措置があるので、浪人が不利にならないこと。私立大は、入試を大きく変えないことをアナウンスする大学が多かったため、受験生は安心して入試に臨んだようなのだ。

そんな24年度入試について、共通テストの状況から振り返っていこう。

ようやく落ち着いた共通テストの平均点

24年度の共通テストの志願者は49万1913人。23年度を2万668人(4.1%)下回り、大学入試センター試験(以下、センター試験)から数えて6年連続の減少となった。志願者が50万人を下回るのは、1982年度のセンター試験以来のことで、18歳人口の減少を強く印象付けた。

現浪別に見ると、現役生は1万7340人(4.0%)減の41万9533人で、浪人生は3422人(4.8%)減の6万8220人。共通テストの志願者に占める割合は、現役生85.3%に対し浪人生は13.9%となり、近年の入試が現役生中心に進んでいることを再確認する結果となった。

平均点について見ていこう。共通テストの平均点は、初回の21年度以来、乱高下を繰り返してきた。センター試験より思考力重視の出願となり難易度が上がると予想されていた導入初年度(2021年度)は、予想に反して5教科7科目の平均点が大幅アップとなった。22年度はその反動もあり、数学の大幅な難化などにより平均点は大幅にダウン。23年度は数学の対策が進んだこともあり、5教科7科目の平均点は、再び前年を上回った。

こうした紆余曲折を経て平均点はようやく落ち着き、24年度は共通テスト導入以来初めて、2年連続の上昇となった。思考力重視の出題に教員と生徒が対応できるようになってきた影響が大きいようだ。試験問題は長文で、複数の資料を組み合わせた思考力が問われる出題に変わりないが、「何が問われているのか」が分かりやすいように、問題文が工夫されていることも影響している。

25年度からは、学習指導要領の改訂に伴い共通テストに「情報Ⅰ」が加わり、現行の6教科から7教科に増える。一方、科目数は減少し、30科目から21科目にスリム化される。「情報Ⅰ」に関して、多くの高校は1年次に履修していることから、長期休暇時の講習や課題を与えて対策をする高校が多いようだ。情報をしっかりと教えられる教員は地方に少ないと言われ、地域格差が懸念されている。

共通テストの平均点アップで国公立大人気は堅調

表❶ 国公立大 一般選抜志願者数

順位 設置 大学 2024年 2023年 昨年比
1 大阪公立大 14,323 14,152 171
2 千葉大 10,803 10,507 296
3 神戸大 10,156 9,905 251
4 北海道大 9,482 9,808 −326
5 東京大 9,432 9,306 126
6 横浜国立大 8,597 9,471 −874
7 京都大 8,206 7,827 379
8 九州大 7,540 7,285 255
9 大阪大 7,196 7,398 −202
10 兵庫県立大 6,562 6,293 269
11 東京都立大 6,455 6,663 −208
12 静岡大 6,408 6,984 −576
13 信州大 6,294 6,559 −265
14 茨城大 6,250 5,342 908
15 広島大 6,218 6,609 −391
16 埼玉大 6,203 6,291 −88
17 筑波大 5,711 5,558 153
18 東北大 5,702 5,246 456
19 鹿児島大 5,574 5,682 −108
20 三重大 5,431 5,152 279
21 高崎経済大 5,377 5,961 −584
22 富山大 5,292 6,540 −1,248
23 山口大 5,184 6,821 −1,637
24 新潟大 4,991 5,224 −233
25 北九州市立大 4,781 3,812 969
26 琉球大 4,773 5,078 −305
27 鳥取大 4,649 3,256 1,393
28 長崎大 4,597 3,914 683
29 愛媛大 4,540 4,563 −23
30 徳島大 4,452 4,107 345

※は国立、無印は公立を表す。

共通テストの志願者が減少したにもかかわらず、平均点アップにともない国公立大の志願者はほぼ前年並み。24年度を80人上回る42万3260人だった。国立大と公立大で分けて見ると、国立大が1410人増の29万9715人に対し、公立大は1330人減の12万3545人。公立大の志願者が減少したのは、共通テストで思うように得点できた受験生が多かったため、強気に国立大に出願する受験生が増えた影響が考えられる。

難易度帯別の傾向を見ていこう。まず、難関国立10大学(北海道大、東北大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大、東京工業大、一橋大、神戸大)は、グループ全体として前年の志願者を上回った。大学別に見ると、東北大や東京大、一橋大、名古屋大、京都大、神戸大、九州大と、10大学中7大学で志願者が増えている。難関大人気の背景には、「不透明な社会状況の中で生き抜く力を身に付けるために難関大を目指す」と考える受験生の存在がある。

難関国立10大学に続く難易度の準難関大も志願者が増加傾向で、筑波大や千葉大、大阪公立大、岡山大、熊本大などで前年の志願者を上回っている。

難関国立10大学や準難関大の志願者が増えているのは、コロナ禍が過去のものになりつつあり、地域間の移動が活発になったことも影響していると見られ、このことは、地域別の出願状況を見るとよくわかる。

前期日程の志願者数を見ると、増加傾向の地域は、中国(106%)、北関東(104%)、南関東(102%)、東海(102%)、近畿(100%)といった大都市圏で、志願者が減っているのは、四国(78%)、北陸(94%)、東北(95%)、九州(96%)、北海道(97%)などの地方。受験生の動きが活発になり、地方の受験生が大都市圏の大学に流入している傾向が見られる。

国公立大それぞれの一般選抜の志願者数について見ていこう。

国公立大全体の志願者が減少していないことから、個別に見ても増加傾向の大学が多く、上位20大学中、11大学が前年を上回っている。1位は3年連続の大阪公立大だった。22年度に大阪市立大と大阪府立大の統合によって誕生した大学であり、統合の結果、大阪大と東京大に次ぐ定員規模の大学になったことが、多くの志願者が集まる要因になっている。

2位は大阪公立大が誕生する前に1位が定位置だった千葉大。前年に志願者が減少した反動もあり、24年度は増加に転じた。3位の神戸大も志願者減の反動で増加する一方、北海道大は反対に志願者増の反動で減少した。

4位までの大学が後期日程を残しているのに対し、前期日程のみの志願者で5位に入っている東京大は、最難関の威厳を保っていると言えよう。西の最難関大の京都大(7位)も、3年連続で志願者増と人気が高い。

6位の横浜国立大は、東京から路線が延伸した効果から前年に2000人以上志願者が増えたが、その反動は小さく800人程度の減少で収まっている。志願者456人増で18位に入った東北大は、「10兆円大学ファンド」の唯一の助成対象候補に選ばれた影響もあったようだ。

難関私立大の志願者が増加傾向に

私立大の一般選抜の志願者は4年連続で減少が続いてきたが、24年度入試は前年並みで収まりそうだ。大学通信が集計した主要100私立大の志願者数を見ると、僅かながら前年を上回っているのだ。それでも、私立大が難化したわけではない。私立大の志願者は21年度入試で、史上最大といわれる14%の減少となって以降も減少が続いてきた。そのため、24年度入試で前年並みの志願者数を維持しても、多くの大学で倍率は低いままなのだ。今後も18歳人口の減少が続いていくことから、一般選抜の倍率が回復することはないと見られている。

24年度の私立大の一般選抜は、国公立大と同様に難関大の人気が高かった。東の早慶上理(早稲田大、慶應義塾大、上智大、東京理科大)、MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)。西の関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)といった、東西の難関大グループ全体の志願者数は、いずれも前年を上回っている。これらのグループの個別大学の出願状況を見ると、志願者が減ったのは、早慶上理では早稲田大、MARCHでは立教大と中央大、関関同立では関西大と僅かだった。

準難関大の状況を見ると、日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)と産近甲龍(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)は、両グループともに全体の志願者が減少。日東駒専では日本大、産近甲龍では、京都産業大、近畿大、龍谷大の志願者が減少している。その他の首都圏の準難関大グループでは、成成明学獨國武(成蹊大、成城大、明治学院大、獨協大、國學院大、武蔵大)で志願者が減少した大学は少なく、明治学院大と國學院大の2大学のみ。

準難関大より難易度が下がる一般的な大学では、総合型選抜や学校推薦型選抜を活用する傾向が強く、一般選抜に出願する受験生が減少傾向にあることから、志願者が減少する大学が多くなっている。

私立大の一般選抜の志願者数を見ていこう。

1位は近畿大。24年度は学部新設など大きな改革がなかったこともあり、志願者は前年から5000人以上減少したが、11年連続でトップをキープしている。2位も昨年と同じ千葉工業大。コロナ禍で導入した共通テスト利用方式の受験料無料化を継続した効果もあったようだ。

3位の明治大は、前年の志願者増の反動なく3年連続の増加。4位の東洋大と5位の法政大は前年の志願者減の反動から増加に転じている。8位の日本大は東洋大と志望者層が重なることもあり、東洋大が増えた分、志願者が大幅減となったようだ。

6位は近畿圏の難関大でトップの立命館大。関関同立では関西大が9位、関西学院大が13位、同志社大が16位に入っている。関関同立で注目されるのは関西学院大。21年度に理工学部を再編して、理、工、建築、生命環境といった理系4学部を設置。さらに同年から入試改革を進めていることから4年連続で志願者が増えている。

7位の早稲田大は、21年度に共通テストと大学独自の記述式問題を組み合わせた国立大型の入試を導入して以降、志願者の減少が続いている。21年度に1972年以来続いてきた10万人台の志願者を割り込み、24年度は9万人を下回った。この状況は早稲田大が大学の理念に沿った学生募集を行っている結果であり、難関国立大志望の優秀な学生を獲得できていることから、大学としては志願者減をそれほど気にしていないという。早稲田大と並ぶ難関の慶應義塾大は志願者が微増で20位に入った。

表❷ 私立大 一般選抜志願者数

順位 大学 2024年 2023年 昨年比
1 近畿大 147,143 152,457 −5,314
2 千葉工業大 142,645 145,128 −2,483
3 明治大 109,159 108,042 1,117
4 東洋大 102,895 87,096 15,799
5 法政大 102,169 99,051 3,118
6 立命館大 95,779 91,382 4,397
7 早稲田大 89,420 90,879 −1,459
8 日本大 75,839 98,506 −22,667
9 関西大 72,664 77,754 −5,090
10 中央大 65,993 67,786 −1,793
11 龍谷大 59,994 61,083 −1,089
12 立教大 56,495 58,208 −1,713
13 関西学院大 52,624 43,737 8,887
14 東京理科大 52,261 50,698 1,563
15 専修大 51,289 44,918 6,371
16 同志社大 50,974 49,972 1,002
17 青山学院大 47,109 43,948 3,161
18 名城大 42,649 38,719 3,930
19 福岡大 41,941 41,785 156
20 慶應義塾大 37,600 37,411 189
21 東海大 36,171 39,361 −3,190
22 芝浦工業大 35,384 36,687 −1,303
23 東京電機大 35,293 33,124 2,169
24 武蔵野大 33,535 30,314 3,221
25 駒澤大 30,893 30,684 209
26 京都産業大 30,470 38,275 −7,805
27 上智大 29,569 26,552 3,017
28 東京都市大 26,340 24,644 1,696
29 中京大 24,857 26,479 −1,622
30 明治学院大 23,055 23,203 −148

主要な私立大学約100校を調査。
共通テスト利用入試、2部・夜間主コース等含む。
3月31日現在。

情報・メディア系人気継続、グローバル系の志願者が戻る

主要私立100大学の出願状況から、24年度入試の学部系統別の出願状況を見ていこう。

定員規模が小さい宗教系を除くと、前年と比較して志願者の増加率が最も大きかったのは「情報・メディア」で、前年を100とした時の指数は117だった。世界から後れを取っている日本の情報技術の発展を目指して、デジタルやグリーンといった成長分野の人材育成に向けた「大学・高専機能強化支援事業」が進んでいる。その取り組みの一つが、人材養成のための学部・学科の充実。もともと情報・メディア系の人気が高いところに、学部・学科の改組・新設が進んでいることが、志願者増の背景にある。機能強化支援のもう一つの柱である、グリーンに関しても、受験生の関心が高く、「農」の指数は3番目に高い107。不安定な経済状況が続く中、資格が取得できる学部も根強い人気で、指数は「教育」106、「医」107、「医療技術」105、「獣医」104などとなっている。

2024年度の系統別出願状況の大きな変化は、指数114の「外国語」や103の「国際」といったグローバル系の志願者が増えていること。コロナ禍で海外との往来が途絶えたこともあり、ここ数年志願者の減少が続いてきた系統だが、海外との往来が通常に戻る中、志願者が増加している。それでも、コロナ禍以前と比較すると、志願者は半減していると言われ、狙い目の学部であることに変わりはなかったようだ。

文系学部を見ると、「文・人文」が104。社会科学系では、「法」が101で前年の志願者減の反動から増加。経済・経営・商の指数は、「商」99、「経済」と「経営」がともに98と、やや志願者が減少。「社会」は91と減少幅が大きかった。

前出の「農」を除く理系学部は、「水産・海洋」100、「理・工」98と前年並み。減少している系統は、96の「心理」や91の「芸術」、90の「歯」など。特に減少幅が大きいのは「家政・栄養」で83。女子の学部志望動向が社会科学系や、理・工などの理系学部にシフトしている影響が大きいようだ。女子大に設置が多い家政・栄養の減少は、近年の女子大の学生募集状況の厳しさを象徴する傾向と言えよう。

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