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取材:井沢 秀(大学通信)
小田急江ノ島線の鵠沼海岸駅から9分ほど歩くと、閑静な住宅街の先に湘南学園中学校高等学校が見えてきます。穏やかな湘南エリアの空気感そのままに、リラックスした笑顔の生徒たちが印象的です。全人教育を理想に掲げて創立された経緯から、湘南学園中高はいまも教員・保護者・生徒間の話し合いによる自治が発達した、自由な校風が息づいています。変わりゆく湘南学園の現在について入試広報委員会の斉木先生にお話しを伺いました。
矛盾する制度をなくし、お互い学び合えるクラスに
――湘南学園中学校高等学校では、3年前に選抜クラス制を廃止しました。学力別のクラス編成は現在でも導入している学校が多いにもかかわらず、なぜ廃止に至ったのでしょうか?
斉木先生:本校が採用していた選抜制度では、1学年約200人のうち成績上位者40人ほどで選抜クラスを形成していました。「子どもの学習意欲を高めるために選抜クラス制があったほうがいい」という保護者からの要望や、学習塾関係者のアドバイスでいまから40年近く前に導入されました。
その制度が続いていた一方で、本校では10年前からユネスコスクールに加盟し、「湘南学園ESD」(Education for Sustainable Development)という総合的な探求活動を柱にした学びに取り組んでいます。これは持続可能な社会の創り手として子どもたちの教育活動を行うもので、それぞれが「誰ひとり取り残さない社会を作っていこう」という視点で課題を発見していくことがとても重要なんですね。このESDのコンセプトと「成績で子どもたちを順位付けしてクラス分けする」という選抜制度は、相容れないものでした。
また選抜クラスに入った生徒は「一般クラスに落ちたくない」というプレッシャーを抱えたり、入れなかった生徒は「自分は勉強に向いていないのかもしれない」と日々の学びをあまり頑張らなくなる。そうしていくうちに学力格差が徐々に広がってしまうんです。保護者の中には「選抜クラスに入れたらほしいものを買ってあげる」など、勉強の動機付けに利用することもあったようでした。
成績というたった1つのものさしで子どもを評価するのではなく、ひとりひとりが「自分自身の軸」を持って学ぶことを最優先にするべきではないか。そんな議論を何年も重ねた結果、選抜クラス制度の廃止を決定しました。それと同時に、定期試験での成績順位や平均点等の記載もなくなりました。
――廃止に反対したり、不安視する声はありましたか?
斉木先生:最初の1年は、保護者も子どもたちも「なぜ選抜クラスをなくすのか」「順位がないと自分の立ち位置がわからない」といった声もありました。成績順位については、「1学年200人という小集団で何番以内をめざすより、外部模試の結果をもとに自分は全国レベルでどのくらいの位置にいるのかといった視点で自分の学力を把握することが大事です」と伝えています。平均点についてもそれより上か下かを気にするより、生徒個人の目標や到達度に合わせて「次はこれくらいをめざそう」と目標設定をして、到達しなければ何が足りなかったのかを自己分析するほうが重要なんですよね。他者の順位や平均点との比較ではなく、自分なりの目標ができればモチベーションも上がりますし、ひとりひとりがもっと主体的に勉強に取り組めるようになると思います。
――3年が経過して、どのような変化があったのでしょうか?
斉木先生:学業面・情緒面のそれぞれに良い効果が表れています。学業面では選抜制度を廃止した最初の学年、つまり現在の中学3年生の学力推移を見たところ、廃止前の学年と比較して顕著に成績下位層が薄くなっていったのです。それでいてこれまで選抜クラスに入っていたような上位層には、大きな変化が見られませんでした。このことから、学年全体の学力が底上げされていることがわかります。もう少しデータを経年で取り分析していく必要はありますが、選抜制度がなくても上位層は学力をキープできているし、成績順位の記載や平均点の提示がなくても子どもたちの学力に大きな影響はないどころか、むしろ底上げできている。この結果は大きな意味を持つと思います。
それ以前は定期試験の成績順位が一定以下の子どもたちは、指名制で補習に参加してもらっていましたが、なかなか変化が見られなかったんです。現在は苦手科目を克服したい生徒や中間層の子が自主的に一つの教室に集まって、出される課題に取り組む「放課後学習会」という形式になっています。参加も指名制ではなく子どもたちが主体的に来られるよう担任が声がけして促すようになりました。放課後学習会になってから参加する子どもたちの学力層が広がったので、教科ごとにわかる子が苦手な子に教えてあげる空気が自然と生まれています。教え合い、学び合いですね。中間層の生徒は教えることでより一層知識が定着します。そのことも全体での学力の底上げに影響しているのではないかと考えています。
――情緒面ではどんな変化があったのでしょうか?
斉木先生:子どもたちの間にギスギスした空気がなくなりました。選抜制度がなくなったことで「あの子は選抜クラスだから」「私は一般クラスだから」といったレッテルの貼り合いがなくなり、「一緒に勉強しよう」という前向きな学び合いの空気が全体的に醸成されているんです。また成績順位や平均点を出して「これ以上の点数を取れるよう頑張ろう」という指導から、それぞれの目標設定や到達度に対して評価したり個別にコメントする指導に変わりました。不要なプレッシャーや劣等感のない学習集団が形成できていることから、ひとりひとりが気持ちに余裕をもって学校生活を送れているのではないでしょうか。
そしてこのことが結果的に、子どもたちの「自己肯定感の向上」につながっていると感じます。勉強が得意な子と苦手な子、スポーツが得意な子と苦手な子、社交的な子とおとなしい子、いろんなカラーの子がクラスにいることがむしろいいこと。上位40人だけを伸ばすのではなく、1学年200人のモチベーションをまんべんなく高めることでクラスの雰囲気も良くなってきているし、長期的には学校全体の雰囲気も変わってくると確信しています。学校という小さな世界の中だけでなく、やがて社会に出てからも、自分もみんなも幸せにしていくことができるーそういう豊かな人間に育ってほしいと願っています。
探究学習を発展させた新講座の設置で、より幅広い進路選択を
――先ほどお話されていた「湘南学園ESD」では、どのような教育活動を行っているのでしょうか?
斉木先生:軸となるのが「総合学習」という探究型の学びのプログラムです。中高6ヵ年の発達段階にあわせて、多様な人の考え方や文化を体験的に学びながら、新たな社会の創り手として考える力や判断する力を養っていきます。
たとえば中学1年生であれば自他を理解しながら小集団のなかでお互いを理解し合い、尊重し合う関係性の構築を学んでいきます。中学2年では地元・湘南地域で活躍する人から生きる知恵や文化を学びながら、フィールドワークを通じて社会とつながる体験を重ね、中学3年では都内まで足を運んで体験の幅と各自の視野をより大きく広げていきます。高校1年では実際にSDGsに取り組んでいる企業や自治体、ときには大学の研究室にうかがって話をうかがい、そこでの取り組みから現代社会の課題に目を向けていく。高校2年・3年ではさらに世界に目を向けて、自分の未来を見つめていく。そんな社会とのつながりを通した学びのなかで、子どもたちは自分がやりたいことが明確になりますし、それに対して議論したり協働することで多角的な視野が養われていくのです。
――近年は多くの大学で総合型選抜が増えていますが、まさにそこで求められているような思考力・判断力が培われるということですね。
斉木先生:そうですね。本校での総合型選抜の出願数も年々増えていて、3年前は1学年20件ほどだったのが、2年前は60件、昨年は80件以上になりました。さらに学校推薦型の指定校・公募制を含めると私立大学ではすでに一般選抜の募集定員を超えているんですね。
今後もさらにたくさんの大学が総合型選抜の枠を増やしていくことが見込まれるなか、本校はこれまで培ってきた学びをさらに深く、豊かなものに広げていくためにカリキュラム変更や新たな学びの枠組みづくりに取り組んでいます。
――具体的にどんな変化があるのでしょうか?
斉木先生:1つめは、文系・理系の枠を撤廃することです。子どもたちの進路が多様化するなかで、文系・理系の枠組みで授業の選択肢を制限することは、今は弊害でしかありません。今後はその枠を取り去って、ひとりひとりに合った授業が取れるよう新しいカリキュラム編成に移行します。
2つめは、総合学習を通じて学んだことをさらに深く学びたいというニーズに向けて、新たに3つの講座を設置します。①サステナブルキャリアでは、総合学習での体験を元に社会の課題をより深く探求しながら、自己分析や自分のキャリアデザインにつなげていくものになります。②ソーシャルリサーチ&デザインでは、フィールドワークで得られた調査結果を分析し、データサイエンスの視点から課題解決に取り組みます。③グローバル地域研究では、SDGsにかかわるグローバルな諸課題の中から自分たちで研究テーマを選び、文献や海外ニュースなどを読み解きながらゼミ形式でディスカッションしたり、フィールドワークを通じて課題解決を模索していきます。
希望者は自分たちが総合学習で学んできたことを通して、3つの中から自分に合った方向性の講座を選択してもらいます。
――総合型選抜に適応した内容ですが、必須ではなく選択制なんですね。
斉木先生:そもそも総合型選抜に対応するためではなくて、一般選抜をめざす生徒にとっても、大学に入った「先につながる学び」となることをめざしています。総合型選抜をめざす生徒にはこれらの講座でしっかり後押ししますし、一般選抜をめざして基礎学力を固めている生徒にも、これらの講座は各自の視野や教養を広げることにつながります。学校としてはしっかり両輪の学びで支えていきたいと考えています。全員必修ではなく選択制にしているのは、各自の学びたいことや将来めざすキャリアに合わせて、必要な科目を選択できるような主体性と判断力を身につけて欲しいと願っているからです。
――この講座を選択することで受験形態が限定されるわけではないんですね。
斉木先生:その通りです。むしろそれぞれの個性を伸ばしながら、進路の幅を広げてもらうためのカリキュラム変更です。それに大学入学共通テストや二次試験、一般選抜においても学力だけでなく思考力・判断力・表現力が問われるようになっています。それらの要素を伸ばしていくうえでもこれらの講座は有効だと思いますね。
――強靭な「自分軸」を持つ生徒の育成に向けて、選抜制度を廃止したり新しいカリキュラムを設置するなど、湘南学園中高がどんどん進化してきたことがわかりました。受験する子どもたちへの期待など、何かメッセージがあればお聞かせください。
斉木先生:私たちが取り組んでいるESDを軸にした学びや、社会に対して何か関心があったりそれを突き詰めてみたいという子にはもちろん来てほしいですね。ただその一方で、いまはまだ課題意識がもてないとか、よくわからないという子も、まだまだ小学生には多いですよね。むしろそういう子たちこそ、本校の総合学習を通じて自分がやりたいことを見つけられるんじゃないかと思います。既に自分の軸を持ちかけている子はもちろん、自分の未来に不安を抱えていたり自分を探していきたいという子には、どんどん豊かな学びが広がっていける学校だよ、と伝えたいですね。
大人が「これが正しいからこれを勉強しなさい」ではなく、子どもたちが「これがワクワクして楽しい」と思える学びが湘南学園にはたくさんあります。ぜひ自分らしく中高生活を送りたいという子に入学してもらえると嬉しい限りです。