日本の閉塞感打破に向け異なる学問分野の融合によりイノベーションを創出する

日本の閉塞感打破に向け異なる学問分野の融合によりイノベーションを創出する

複雑化する現代社会において、ひとつの専門知識で解決できる課題は皆無といっていい。
現代の複雑な課題解決、イノベーションを起こせる人材養成を目指し、複数の学問分野を融合して学ぶ学部の設置が進む。

文 井沢 秀(大学通信)

社会状況の不透明さが増して先行きが見えにくくなる中、社会人に求められる資質が変わってきている。かつては、指示通り正確に短時間で仕事をこなす人材が優秀とされていた。しかし、現状の日本経済の閉塞感を見ると、そうした人材だけでは、グローバル化、情報化、少子高齢化が進む社会を活性化できないことは明らか。イノベーションを起こせる人材が求められているのだ。

米国でGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が生まれ、米国や中国などの国々でユニコーン企業が育つ中、日本は新たな産業を創出できる人材が少ないと言われる。ゼロからものを生み出す力。つまり、複数の答えがある、もしくは答えが無い課題に対し自ら問いを設定して解決手法を見つけることができる、柔軟な思考力を持った人材が不足しているということだ。社会に人材を輩出する大学でそうした人材を十分に養成できていなかったことが、現在の日本経済の閉塞感をもたらした一因とされる。

日本の閉塞感を打破するための大学入試改革

停滞する日本経済を活性化できる人材養成のために、文部科学省は2021年に大学入試改革を行った。大学入試改革の目的は、グローバル化、少子高齢化、情報化の進展による先が見えない不透明な未来を切り開くことができる人材養成。そのために、これまでの知識偏重の入試を、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」といった、学力の3要素を問う方向に舵がきられた。

大学入試改革が目指すのは、単一の知識だけでは解決できない事象について、様々な知識を融合して解を導き出せる人材養成。大学入試を変えることで高校において知識の詰め込みだけではない、学力の3要素を重視した教育を行うことが期待された。

様々な学問分野を横断して学ぶ学部が増えている

ゼロから新たなものを創造するためには、複数の学問領域の融合が求められる。そうした学部の設置は、大学入試改革以前から進んでいた。その一つが成城大・社会イノベーション。政策イノベーション学科と心理社会学科の2学科において、政策・戦略・心理・社会の4つの分野を横断的に学ぶ学部だ。複数の分野の学びを組み合わせることにより、新しい価値を創造し普及させられる、つまりイノベーションを起こせる人材養成を目指している。

関西学院大・総合政策は、複雑で一つの学問知識では解決することが難しい、現代社会の問題について、総合政策、メディア情報、都市政策、国際政策の4学科が連携しながら、課題解決や学問的アプローチを行う。多面的、学問横断的に学ぶことに加え、国際社会で活躍するために不可欠な英語力や国際感覚、データサイエンスに関する学びに力を入れることも特徴だ。

リベラルアーツ系学部も、多様な学問分野を学ぶことから、課題解決に向けた柔軟な思考法を身に付けられる。日本の代表的なリベラルアーツカレッジである国際基督教大・教養は、文系と理系の31のメジャー(専修分野)から1つのメジャーを深く学ぶ以外に、2つのメジャーを同時に履修する「ダブルメジャー」と、比率を変えて履修する「メジャー、マイナー」の3つの履修スタイルがある。

九州大・共創のコンセプトは、複雑化・多様化するグローバル社会において、多様な人と協働し、異なる観点や学問的知見の融合を図り、ともに構想し連携して新しいものを創造すること。同学部は、100年以上の歴史を持つ総合大学である九州大が総力を結集して設置した学部だという。共創に対する力の入れ具合とともに、この分野の学びの重要性がうかがえる。

グローバル社会における課題解決に力を入れる大学・学部は、2004年度に開設した国際教養大と早稲田大・国際教養を嚆矢として、千葉大・国際教養、中央大・国際情報、福井大・国際地域、神戸大・国際人間科、福岡女子大・国際文理など、数多く設置されている。

文系と理系分野の融合を前面に出す大学も

金沢大・融合学域は、不透明な未来に活躍できる人材を養成する学部であり、Society5.0に対応した文理融合教育の拠点として開設した。同学域は、従来の殻を破り社会を変革し、新たな未来を切り開く人材養成を目指す先導学類と、従来の観光学とは異なる新たな価値デザイン社会を創造する人材養成を目指す観光デザイン学類からなる。

青山学院大の社会情報は、Society5.0の社会で様々な業界の連携が進むことを見越し、文系の「社会科学」と「人間科学」、理系の「情報科学」を融合させた学びを進める。異なる領域の知見を応用し、これまでにない価値を生み出すことができる人材養成が目標だ。

文理融合系学部を設置する大学は国公立大に多く、群馬大・情報、横浜国立大・都市科学、新潟大・創生、岐阜大・地域科学、名古屋大・情報、京都大・総合人間、大阪公立大・現代システム科学域、神戸大・国際人間科学、広島大・総合科学、愛媛大・社会共創、長崎大・環境科学、宮崎大・地域資源創成などがある。

23年度は金沢大が融合学域にスマート創成科学類を新設するほか、静岡大・グローバル共創科、東北学院大・地域総合などの新設が予定されている。

日本の経済発展には、ビックデータと情報技術を活用し、業務内容や組織・企業文化を改善し企業の発展を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)、さらに、再生可能エネルギーを活用した脱炭素社会に転換し、経済や社会システム、産業構造の変革により社会の発展を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)を推進できる人材が求められている。DX、GX人材ともに、文理の枠を超えた幅広い知見が求められている。融合系学部は、こうした人材養成に期待がかかる学部系統でもある。

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横断的な学びで知識を蓄え 論理的な思考プロセスが定着 革新的な課題解決策を創造するー成城大学 社会イノベーション学部
https://univpressnews.com/2022/11/10/post-10800/

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