19年入試も厳しかった私立大の出願状況

19年入試も厳しかった私立大の出願状況

定員管理の厳格化の余波が収まらず、受験生の安全志向が続いた2019年入試。詳しい入試状況について、学部の出願傾向とともに振り返ってみよう。

学部系統別志願状況

2019年入試における私立大の志願者数は、前年を5%程度上回り、13年連続の増加となった(主要100大学の集計、以下同じ)。その学部系統に注目すると、これまでの「文高理低」の出願傾向に変化が見られた。表Aの「学部系統別志願状況」を見ると、19年入試で最も志願者の増加率が高い学部系統は国際系で25.4%増。対照的に外国語系は2.5%減となっている。

国際と外国語で学ぶ内容に大差はないが、学部名に国際とつく方がグローバルな力が身につくと考えるようだ。既存の学部を国際系に作り替えることにより、設置数が増えていることも影響している。

国際系に次いで増加率が高いのは、17.7%増の情報・メディア系。AIに代表される高度情報化社会の到来を見越しての人気といえよう。情報・メディア系には理系の学部が多いこともあり、19年入試では、理系の出願者が増加している。理工系は定員規模が大きいため、増加率は7.3%にとどまるが、実人数では、4万5000人以上増えている。埼玉工業大や工学院大、芝浦工業大、東京電機大、東京理科大、金沢工業大、大阪工業大、福岡工業大など、工科系大学で志願者が増える大学が多かった。

3番目に増え幅が大きいのは近年人気が下がっていた歯学系。ただ、増えた実数は400人弱。理工系とは対照的に定員規模が小さいため増加率が高くなっている。全体的に医療系人気は戻っておらず、医療技術(2.6%減)、医(3.8%減)、薬(7.1%減)、看護(7.5%減)の各系統で志願者が減っている。この背景には、私立の医療系学部の学費が高いことがある。さらに、大学生の就職状況が良く、無理に大変な勉強をして資格を取る必要はないという受験生心理も影響しているようだ。

文系学部では、これまで人気が高かった経済系の志願者が1.3%減となった。文系人気を背景に志願者が増えてきた反動とみられる。社会科学系では経営系の志願者が8.4%増と伸びが大きい。実学を重視する受験生が多く、ビジネスのイメージを持ちやすいこの系統の志願者が増えているようだ。商学系は前年並みの1.4%増だった。

 

【表A】学部系統別志願状況

学部系統 増減率(%) 2019年志願者数(人) 前年比増減(人)
国際 25.4 120,519 24,402
情報・メディア 17.7 91,829 13,783
14.4 3,033 382
人間・人間科 11.8 56,758 5,983
心理 11.4 31,538 3,223
経営 8.4 243,437 18,964
水産・海洋 7.9 7,481 550
理・工 7.3 665,729 45,465
生命 6.5 31,192 1,910
教養 5.5 27,944 1,457
観光 4.7 16,485 743
4.3 259,900 10,703
社会 2.7 184,241 4,823
教育 2 48,713 961
1.4 123,529 1,656
社会福祉 0.9 19,903 185
文・人文 0.7 361,926 2,599
その他 0.2 107,827 187
芸術 ▲ 1.1 5,483 -59
経済 ▲ 1.3 334,763 -4,380
政治・政策 ▲ 1.3 49,553 -669
外国語 ▲ 2.5 43,388 -1,127
医療技術 ▲ 2.6 26,839 -726
▲ 3.8 31,633 -1,265
▲ 4.5 66,439 -3,166
▲ 7.1 34,899 -2,659
看護 ▲ 7.5 14,030 -1,134
体育・スポーツ ▲ 7.9 23,299 -1,985
家政・栄養 ▲ 8.2 16,335 -1,457
獣医 ▲ 12.2 5,024 -700


3月31日現在の確定分。私立大主要約100校が対象。志願者数は一般入試のみで、夜間主・2部などを含む。▲はマイナス(大学通信調べ)

近畿大が6年連続で志願者数日本一に

次に、表Bの「一般入試志願者数トップ20大学」で個別大学の出願状況を見ると、1位は6年連続の近畿大だった。ここ数年志願者が増えてきた反動で志願者減となったが、15万人台をキープしている。合格と同時に給付型奨学金の受給が約束される「入学前予約採用型給付奨学金制度」の導入や理工の学部内併願制度の導入など、改革の手を緩めないことが要因として挙げられる。

2位の東洋大の志願者数は、同大史上最高となる12万2010人。私大入試の難化により、前半の入試で不合格になった受験生が多く出願したとみられ、中期と後期で志願者が大幅増となっていることが特徴だ。

3位の法政大、4位の明治大、5位の早稲田大、6位の日本大まで、志願者が前年を下回りながらも、10万人を超えている。

 

【表B】2019年一般入試 志願者数トップ20大学

順位 大学 募集 志願者数 昨年最終 昨年差 昨年比 倍率
1 近畿大学 4,961 154,672 156,225 -1,553 99.00% 31.2
2 東洋大学 5,647 122,010 115,441 6,569 105.70% 21.6
3 法政大学 4,243 115,447 122,499 -7,052 94.20% 27.2
4 明治大学 5,387 111,755 120,279 -8,524 92.90% 20.7
5 早稲田大学 5,415 111,338 117,209 -5,871 95.00% 20.6
6 日本大学 7,805 100,853 115,180 -14,327 87.60% 12.9
7 立命館大学 4,755 94,198 98,262 -4,064 95.90% 19.8
8 関西大学 3,744 93,452 92,216 1,236 101.30% 25
9 中央大学 4,397 92,686 88,182 4,504 105.10% 21.1
10 千葉工業大学 1,379 90,876 78,905 11,971 115.20% 65.9
11 立教大学 3,108 68,796 71,793 -2,997 95.80% 22.1
12 東京理科大学 2,737 60,593 56,566 4,027 107.10% 22.1
13 青山学院大学 3,045 60,404 62,905 -2,501 96.00% 19.8
14 東海大学 3,976 60,360 52,022 8,338 116.00% 15.2
15 専修大学 2,597 56,201 45,761 10,440 122.80% 21.6
16 龍谷大学 2,533 55,444 51,802 3,642 107.00% 21.9
17 京都産業大学 1,937 55,350 50,562 4,788 109.50% 28.6
18 同志社大学 3,792 53,751 58,596 -4,845 91.70% 14.2
19 福岡大学 3,102 50,281 48,979 1,302 102.70% 16.2
20 駒澤大学 2,489 48,715 44,815 3,900 108.70% 19.6


主要大学約100校を調査。一般入試のみ、2部・夜間主コース含む。3月31日現在。倍率=志願者数÷募集で算出。(大学通信調べ)

志願者が増えてきた難関大が減少に転じる

私立大全体の志願者数が増えているにも関わらず、難関大で志願者の減少が目立ったのが19年入試の特徴。18年入試で志願者が減った難関大は、慶應義塾大と関西学院大くらいだったが、19 年入試では、早慶上智(早稲田大、慶應義塾大、上智大)はすべて、MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)は国際経営と国際情報の2学部を新設した中央大以外で志願者が減少した。関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)も関西大以外は志願者が前年を下回った。

志願者が増えたのは、これららの大学に次ぐクラスで、日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)では日本大以外、産近甲龍(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)では、近畿大以外で志願者が増えている。

難関大で志願者が減少した背景にあるのは、収容定員8000人以上の大学を対象として16年から定員管理の厳格化が進んでいること。入学者の定員超過率を段階的に引き下げるもので、15年の入学者は定員の1.2から1.3倍まで認められていたが、18年入試で1.1倍となり、19年以降も同じ倍率となっている。

定員超過は私学助成金の不交付の対象となるため、多くの大学で合格者を減らした。その結果難関大のハードルが上がったことから志願者が減ったのだ。

合格者減による大幅な倍率アップ

では、合格者はどのくらい減ったのだろうか。表Cの「主要私立大学の合格者数の変化」を見てほしい。早慶上智の合格者数を定員厳格化前の15年と19年で比較すると、慶應義塾大は748人(7.8%)減とさほどではないが、早稲田大は3715人(20.3%)減で上智大が2363人(37.5%)減と大幅減。

合格者の減少により、倍率(志願者数÷合格者数)は早稲田大が5.7倍から7.6倍、上智大が5.0倍から7.1倍に跳ね上がった。早慶上智全体では5.2倍から6.6倍に上がっている。

MARCHの15年と19年の志願倍率は、それぞれ4.7倍と6.1倍。青山学院大(5.9倍↓8.2倍)や法政大(4.8倍↓6.5倍)の上がり幅が大きかった。関西では関関同立の志願倍率が15年の3.2倍から19年は4.1倍になった。早慶上智やMARCHと比較すると倍率アップは緩やかだが、受験生が厳しい状況に置かれているのは関東と同じ。

合格者の減少を受け、多くの進学校から嘆き声が聞こえてくる。早慶上智合計の合格者数ランキングで、15年にトップ3に入っていた学校の19年の合格状況を見ると、1位の開成(東京)が454人↓437人、2位の渋谷教育学園幕張(千葉)が381人↓342人、3位の女子学院(東京)が350人↓269人といずれも減少。

同様にMARCHの合格者数ランキングを見ると、1位の桐光学園(神奈川)が549人↓349人、2位の桐蔭学園(神奈川)が538人↓305人、3位の開智(埼玉)が509人↓446人となっている。15年の関関同立合計の合格者数ランキングトップ3の学校の19年の合格者数を見ても、1位の茨木が735人↓665人、2位の奈良が647人↓506人、3位の大手前が625人↓433人と大きく減らしている。

 

【表C】主要私立大学の合格者数の変化

大学 所在地 2015
合格
2015
倍率
2017
合格
2017
倍率
2019
合格
2019
倍率
15年比
合格
15年比
増減率
青山学院大学 東京 10,085 5.9 8,064 7.6 7,400 8.2 ▲2,685 ▲26.6
早稲田大学 東京 18,281 5.7 15,927 7.2 14,566 7.6 ▲3,715 ▲20.3
立教大学 東京 13,198 5 11,260 5.6 11,215 6.1 ▲1,983 ▲15.0
上智大学 東京 6,309 5 6,056 4.8 3,946 7.1 ▲2,363 ▲37.5
法政大学 東京 19,549 4.8 21,181 5.6 17,896 6.5 ▲1,653 ▲8.5
慶應義塾大学 東京 9,545 4.5 8,978 5 8,797 4.8 ▲748 ▲7.8
明治大学 東京 24,909 4.2 22,854 5 22,040 5.1 ▲2,869 ▲11.5
中央大学 東京 16,633 4.2 15,857 4.7 17,059 5.4 426 2.6
國學院大学 東京 5,039 4.1 4,293 5.8 2,174 13.6 ▲2,865 ▲56.9
東洋大学 東京 23,044 3.5 23,344 4.2 22,533 5.1 ▲511 ▲2.2
帝京大学 東京 9,716 3.4 7,786 3.8 7,329 5.2 ▲2,387 ▲24.6
日本大学 東京 28,094 3.4 29,083 3.9 28,558 3.5 464 1.7
東海大学 東京 13,365 3.3 12,679 3.9 12,667 4.8 ▲698 ▲5.2
東京理科大学 東京 15,569 3.2 16,044 3.3 14,662 4 ▲907 ▲5.8
駒澤大学 東京 10,034 3.1 9,569 4.4 6,383 7.6 ▲3,651 ▲36.4
専修大学 東京 10,475 2.9 9,749 4.5 8,185 6.7 ▲2,290 ▲21.9
亜細亜大学 東京 3,438 2.6 2,683 4.4 2,216 6.1 ▲1,222 ▲35.5
大東文化大学 東京 6,183 2.5 5,601 3.9 5,699 4.4 ▲484 ▲7.8
龍谷大学 京都 11,245 4 9,845 5 10,007 5.5 ▲1,238 ▲11.0
京都産業大学 京都 7,856 4 8,185 5.3 8,664 6.4 808 10.3
立命館大学 京都 30,848 2.8 28,142 3.4 27,387 3.4 ▲3,461 ▲11.2
同志社大学 京都 17,397 2.8 16,988 3.3 14,896 3.6 ▲2,501 ▲14.4
近畿大学 大阪 22,965 5 27,089 5.4 26,983 5.7 4,018 17.5
関西大学 大阪 19,160 4.3 18,006 4.7 16,583 5.6 ▲2,577 ▲13.4
摂南大学 大阪 5,417 3.7 6,126 4.3 4,561 8.4 ▲856 ▲15.8
追手門学院大学 大阪 2,400 3 1,713 5.3 1,508 10.5 ▲892 ▲37.2
桃山学院大学 大阪 2,103 3 2,278 3.4 2,670 5.8 567 27
関西学院大学 兵庫 13,126 3.2 12,342 3.5 8,857 4.4 ▲4,269 ▲32.5
甲南大学 兵庫 5,905 3.2 4,885 3.8 4,329 5.3 ▲1,576 ▲26.7
神戸学院大学 兵庫 4,687 2.7 5,057 3.2 4,754 5.5 67 1.4

一般入試のみ、2部・夜間主コース除く(フレックスコースは含む)。2019年の結果は4月末現在判明分で追加合格者を含んでいないことがある。倍率=志願者数÷合格者数で算出。

定員管理厳格化の目的は達せられたのか

定員管理の厳格化の目的は、大規模大学の定員を抑制して、その分、地方の大学に受験生が回るようにするものだが、その効果はあったのだろうか。

厳格化前の15年と18年の地域別の大学志願者数を比較すると、1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)が34万人増、2府4県(京都、大阪、滋賀、兵庫、奈良、和歌山)が18万人増と、都市部の大学の志願者が大幅に増えている。大規模大学の合格者減による倍率アップで高まった受験生の安全志向の行先は、地方大学ではなく大都市圏にある、合格の可能性が高い大学だったということだ。

その結果、前述のとおり、日東駒専や産近甲龍の志願者が増えた。さらに首都圏では、大東亜帝国(大東文化大学、東海大学、亜細亜大学、帝京大学、国士舘大学)。近畿では、摂神追桃(摂南大学、神戸学院大学、追手門学院大学、桃山学院大学)といった、さらに次のクラスの大学で大幅な志願者増となった。

20年度入試は積極的なチャレンジが奏功する

安全志向が強まった背景には、大学入試改革もある。21年にセンター試験が大学入学共通テストに代わる。これにより、数学と国語に記述式の問題が加わり、英語の4技能を見るための英語の民間検定試験の成績が求められる。20年入試は最後のセンター試験となり、浪人すると大学入学共通テストを受けることになる。

さらに、一般入試でも「思考力・判断力・表現力」や主体性を評価する方向に舵を切る大学があり、入試が大きく変わる。その前年にあたる20年入試は安全志向が強まるとみられているが、その前倒しの動きが19年入試に出ているようだ。

ただ、19年入試において、極端な安全志向にとらわれる必要があったのかは疑問だ。というのも、前年までに定員超過率の問題をクリアした難関大の中には、合格者を増やした大学もあった。一方で、志願者は減少したので、安全志向に流されず、正面突破を図った受験生が勝者になるケースが多かったようだ。

大学入試改革前夜の20年入試はさらに安全志向が強まることが予想されるが、定員管理の厳格化は落ち着いており、その状況で志願者が減るなら、難関大入試は強気の出願が奏功する可能性が高い。

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