有名企業はいつでも狭き門。特にコロナ禍での就活を余儀なくされた2021年卒の学生にとって、より厳しさを増すことになったようだ。そうした環境の中で有名企業に多くの学生が就職した大学はどこなのか、探ってみた。
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■有名企業400社 有名企業への就職実績2022
■有名企業に強い大学2022 有名企業に入社するならこの大学
コロナ禍の就活で大企業の就職者が減少
大学生の就活における大企業の人気は高い。リクルートワークス研究所の調べによると、21年卒の学生が従業員規模5000人以上の企業を希望する割合は、民間企業就職希望者全体の16.2%に上る。
しかし、多くの就活生が目指す大企業の門戸は狭い。21年卒の全体の求人倍率が1.53倍なのに対し、従業員規模5000人以上に限ると0.6倍(リクルートワークス研究所調べ)と大きく下がる。
21年卒の学生に関しては、ただでさえ狭き門がコロナ禍と相まってさらに狭まった。日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に大学通信が選定した有名企業400社の就職者数が減少しているのだ。回答があった570大学の就職者総数は、5万3310人で、20年を7481人下回っている。
航空の採用ストップも他業種に切り替えて対応
業種別で最も減ったのは採用がストップした航空。21年度の就職者は254人で前年の10%程度まで落ち込んでいる。コロナ禍の影響であり、デパートも3割減となった。これらの業種を目指していた学生はどのような就活を行ったのだろうか。大学生の就職活動に詳しい就活アナリストに聞いてみた。
「何を重視して志望業種を選択したのかをもう一度捉え直し、それが叶う別な就職先を選び直す学生が多かったようです。将来的に、志望業種に再チャレンジするための能力開発ができる企業を選ぶという選択もあったでしょう」
突然のコロナ禍で、就活のオンライン化や採用数を絞る企業が出るなど就活環境が激変する中でも、大学全体の平均実就職率は85.4%で、前年から2.3%の落ち込みでとどまった。この背景には、学生の意識の切り替えと、大学の支援の成果があるのだろう。
それでも、キャビンアテンダントを中心とした航空やデパートの採用減は、女子の就職を直撃。女子大や女子学生の比率が高い大学で有名企業400社の実就職率が大きく下がる傾向にある。
航空やデパートほどではないが、大半の業種の就職者数が前年を下回っており、特に出版、造船、ガス、鉄鋼・金属などの減少幅が大きくなっている。就職者数が増えているのは、外食、電力、医薬品などわずかだ。
安定して有名企業に強い一橋大と東京工業大
有名企業に強い大学ランキング
表の見方
◆就職者数調査に回答のあった575大学のうち、有名企業400社の実就職率が高い30大学を掲載。東京大は未回答のため対象外。
◆慶應義塾大の2020年・2019年は3人以上の就職者のみ公表のため算出していない。
◆東京農工大の2020年は未回答。
◆※印は国立、◎印は私立、無印は公立。
◆実就職率(%)は、就職者数÷〔卒業(修了)者数-大学院進学者数〕×100で算出。有名企業400社は、日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定。
大企業の就職者数が減少する中、各大学の就職状況はどうなっているのか。「有名企業に強い大学ランキング」を見ると、ベスト10は1位が一橋大となり、以下、2位東京工業大、3位慶應義塾大、4位豊田工業大、5位東京理科大、6位国際教養大、7位名古屋工業大、8位電気通信大、9位大阪大、10位早稲田大と、例年通り、難関大の強さが際立つ結果となっている。難関大の学生が有名企業の就職に強い要因について、前出の就活アナリストが説明する。
「難関大合格という高い目標に向かい、継続的にトライ&エラーのプロセスを経た学生は、その経験が力となり、大学でも次の活動に活かすという、好循環が生まれます。努力して途中のプロセスで失敗しても修正して乗り越えてきた経験は企業からの評価が高いものです」
自ら考えて動くことができる学生が多い難関大の中でも、学生の様々なチャレンジを後押しする大学は強い。例えば、関西学院大(32位)には、留学や他学部での体系的な学び、社会での実践学習からなる「ダブルチャレンジ制度」がある。「自主マスコミ講座」を開講する法政大(43位)は、マスコミの就職に強いことで知られる。21年卒の放送への就職者数は18人で、慶應義塾大(71人)や早稲田大(67人)、東大(25人)、上智大(19人)に次ぐ多さだ。
ランキングに戻ろう。一橋大は前年の東京工業大と入れ替わって1位になった。両大学は有名企業の実就職率を50%以上と高いレベルで維持しながら、順位の入れ替わりはあるものの、常に2位以内をキープしている。
ランキング中、大半の大学の実就職率が下がる中、一橋大は京都工芸繊維大(18位)とともに、前年を上回る数少ない大学。就職先は、楽天グループ(37人)が最多で、関西ペイント、みずほFG、三井住友銀行(各15人)など。東京工業大学の就職者が多い企業は、ソニーグループ(43人)、日立製作所(29人)、富士通(28人)などで、製造業に強い。
ランキングの多くを占める理工系大学
ランキングは、東京工業大以外にも、豊田工業大や東京理科大、名古屋工業大、電気通信大、九州工業大(11位)、豊橋技術科学大(16位)など、理工系大学が3分の1を占めている。
「理工系大学は、AIやロボットなどの発達で事務職の採用が減少する中、その影響を受けにくい。製造業など理系的な業種以外にも、金融や商社、コンサルティングなど、文系色が強い企業でも、理系の知識を生かした職種が数多くあることも、有名企業に強い要因となっている」(前出のアナリスト)
理工系学部の学生数が多い、大阪大(9位)、名古屋大(12位)、横浜国立大(13位)、東北大(17位)などの国立総合大学の実就職率も高くなっている。
私立の総合大学では、最難関の慶應義塾大がランクイン。卒業生7938人の大規模総合大学ながら、その4割が有名企業に就職している。ちなみに、19年卒と20年卒は、就職者2人以下の企業を公表していなかったため実就職率は未掲載。就職者が多い企業は、東京海上日動火災保険(82人)、三菱UFJ銀行(76人)、みずほFG、三井住友銀行、アクセンチュア(各70人)など。
慶應義塾大を上回る、卒業生が1万2281人の早稲田大は10位に入った。実就職率は慶應義塾大に及ばないが、有名企業の就職者総数は3402人で全国トップだ。就職者が多い主な企業は、富士通(85人)、NTTデータ(81人)、楽天グループ(78人)と、金融が多い慶應義塾大に対し、情報通信関係の企業が上位に来ていることが特徴だ。
早慶以外の私立総合大学の状況を見ると、上智大(15位)や同志社大(21位)、明治大(25位)、青山学院大(29位)といった難関私大がランクインしている。
大学の環境も有名企業に就職する条件となる
このように難関大の学生が有名企業に強いのは、前述の通り様々なことにチャレンジする資質に加え、地頭の強さと大学の環境も影響しているようだ。採用コンサルタントは言う。
「面接に進む学生の人数を選抜するためのエントリーシートや適性テストの評価は、大学の難易度に比例する傾向にあり、結果として難関大の学生が多くなりやすい。さらに、準備が早い学生が成功する傾向が強い就活において、難関大合格に向けて計画的に受験勉強をしてきた学生は、早く就活を始める傾向が強い。就職に対する意識が高く、就活を早く始める学生が多く集まるという環境も大きいでしょう」
有名企業に強い条件がそろっている大学はほぼ固定されているが、今後、ランキングに変化はないのだろうか。受験生や保護者の関心が就職率から就職の質に移る中、大学が生き残る上で重要な要素となるが、その可能性は、04年開設と歴史が浅い国際教養大が6位に入っていることが示している。有名企業に強い大学ランキングに、風穴をあける大学の出現に期待したい。
有名77大学人気284社就職実績
表の見方
◆原則として各大学の発表による2021年の企業別就職者数(一部、企業の集計データを掲載)。
◆東京大は『東京大学新聞』第2966号、京都大は『京都大学新聞』第2665号をもとに集計(いずれも判明分のみ。京都大は一部に大学公表データを使用)。
◆グループ企業の人数を含む場合もある。一部大学は大学院修了者を含む。
※JFEグループは、JFEスチール、JFEエンジニアリング、JFE商事の合計。
※ソニーグループは、ソニーグループとソニーの合計。
※パナソニックの京都大は一部のカンパニーを含む。
※日立製作所の京都大は一部の研究所を含む。
※みずほフィナンシャルグループ(FG)は、みずほFG、みずほ銀行、みずほ信託銀行の合計。
※りそなグループは、りそなホールディングス、りそな銀行、埼玉りそな銀行、りそなアセットマネジメントの合計。
※大和証券グループは、大和証券、大和アセットマネジメント、大和総研、大和証券ビジネスセンターの合計。
※オリックスグループは、国内主要7社の合計。
※読売新聞社は3本社の合計。
※リクルートは、国内9社の合計。