自分の力で歩んでいける「踏み出す人」を育てる理由―聖園女学院中学校・高等学校

自分の力で歩んでいける「踏み出す人」を育てる理由―聖園女学院中学校・高等学校

取材・文:松平 信恭(大学通信)

神奈川県の聖園女学院中学校・高等学校では、生徒が社会に出た時にも“自分らしく幸せに”過ごしていけるよう、「踏み出す人」への成長を後押ししています。
異なる背景や価値観を持つ人と交わりながら生きていく上では、違いを認め、協力しあう力とともに、目の前の問題にしっかりと向き合う個の力も必要です。「自分は何を大切にするのか」を時間をかけて考えながら、生徒たちは一歩ずつ成長していきます。
「踏み出す人」に求められる力や聖園女学院の生徒への接し方について、教頭の小川知紀先生と、入試広報部長の鐵尾千恵先生にお話を伺いました。

教頭の小川先生(左)と入試広報部長の鐵尾先生(右)

「踏み出す人に」という言葉に込められる
自立した女性に育ってほしいという願い

聖園女学院中学校・高等学校(神奈川県・藤沢市)は、江ノ島を見渡す高台に位置する1学年100人前後の女子学校。十分に目の届く規模を生かして、一人ひとりに寄り添いながら生徒の成長を後押しする、きめ細やかな指導を行っています。

2016年に南山大学(愛知県・名古屋市)を有する学校法人南山学園の一員になったことをきっかけに、聖園女学院では新しい試みが始まっています。学校のスローガンとして新たに掲げられる「踏み出す人に」という言葉がその象徴です。聖園女学院で教頭を務める小川知紀先生は次のように話します。

「荒波ともいえる現代社会で、自分のことを自分で決めて進んでいける自立した人になってほしいという願いを込めました。幸せに生きていくために、問題の大小を問わず、目の前の問題を自ら解決できる人になってほしいのです」

小川知紀教頭

カトリックの女子校である同校は創立当初、良妻賢母を育てることが目標とされていました。聖園女学院が「優しい」「穏やか」といった言葉で語られることが多いのは、こうした歴史的な背景があるのかもしれません。

一方で、小川教頭は大人しい生徒たちばかりではないと言います。湧きあがるものを内に秘め、やりたいことに積極的に挑戦する一面を持つ生徒も少なくないそうです。

「時代の移り変わりとともに、学校が標榜する女性像が『良妻賢母』から『自立した、世界に出ていく女性』に変わっていったこともあると思います。私たち教員も、『大人しくて可愛らしい女の子』を育てようとしてきたわけではありません。生徒にどんな人に育ってほしいのかを改めて教職員の間で話し合う中で、『踏み出す人に』というスローガンが見えてきたのです」(小川教頭)

「踏み出す人に」という言葉には、自立した女性を育てるという同校の伝統が埋め込まれています。これまで言葉にされていなかったことを明確に打ち出すことで、目指すべき人間像を生徒と教員の間で共有する狙いもあるといいます。

目の前の問題に立ち向かうために
“他者と協力する力”とともに“個の力量”を磨く

それでは、踏み出す人になるためには何が必要なのでしょうか。聖園女学院では、「見つける力」「磨く力」「認め合う力」という3つを挙げています。

与えられた使命や今なすべき課題、目に見えないものの価値や本質を探し出す力を「見つける力」。現状に満足せずに高みを目指し、他者や社会に貢献できるよう自分を磨き続ける力を「磨く力。そして異なる考えや背景を持つ存在を受け入れ、人間の尊厳を尊重し、ありのままを認める力を「認め合う力」と名づけています。

これらの力を育む主体は教科学習ではなく、総合学習の取り組みや学級目標など日々の学校生活にあります。諸活動に取り組む中で、3つの力が自然な形で育まれることを目指しているのです。教員が中心となって、教育の形をまったく別のものに変えようとしているわけではありません。

「伝統的な行事や学習活動を再構成することで、段階的に力を蓄積していくコンセプトを取っています。これまでの教育の経験を生かしつつ、学びの質を上げていくために、新たな具体的目標も定めました。中学生は『調べる、まとめる、表す』力を育み、高校生はそれを踏まえた上で『対話、提案、質疑応答』の力を高めていくことを目指します。どんな活動をする時でも、こうした共通の目標を意識しながら取り組みます」(小川教頭)

これまで聖園女学院では、TPW(Team Project Work)と呼ばれる総合的な探求活動を通じて、チームで課題解決に取り組む力を育んできました。無作為に分けられたグループで正解のない問題に協力して挑むことで、相手との関係性の中で自分を俯瞰して見る力や、他者に伝わる表現の大切さを学びます。

こうした“チームで協働する力”が大切なのはもちろんですが、人生の中で実際に直面することになるさまざまな問題は、周囲の人とうまく協力できさえすれば解決できるものばかりではありません。一人ひとりの力量に問題解決の成否がかかってくる場面は必ず出てきます。「調べる、まとめる、表す」「対話、提案、質疑応答」といった“個の力”を高める中で、「見つける力」「磨く力」「認め合う力」が自然と身につき、踏み出す人になることを後押しするのです。

目の前の問題に自ら立ち向かっていき、時には周囲と協力しながら解決を図る。このような学びを続けるなかで、人と比較することなく自分自身の問題に向き合える人に成長していきます。

宗教や語学学習を通して
自分の価値観や人間の尊厳を見つめる

聖園女学院が属する南山学園は、「人間の尊厳のために」を教育のモットーとしています。踏み出す人に求められる「認め合う力」には、人間の尊厳を尊重する力も含まれています。

尊厳という言葉には宗教的な雰囲気がありますが、学園に加わって以降の聖園女学院は、カトリックの教えになじみが薄い方にも伝わりやすいアプローチを試みるようになりました。最新の学校紹介にはマリア様やイエス様といった表現も見られません。

「生徒は日々の生活から言葉を超えたものを学びます。気づいた時には大切なことを学べているのが、教育の理想的な在り方ではないでしょうか。踏み出す人になる取り組みを続けていけば、自然と尊厳の問題に通じていくからこそ、あえて言う必要はないというミカエル・カルマノ校長の考えを感じます」(小川教頭)

入試広報部長を務める鐵尾千恵先生は、カルマノ校長の宗教に対する考え方を次のように説明します。

「校長は説明会などで『学校は布教の場ではない』と話します。そして宗教のことを、『自分を見つめる鏡である』と表現します。自分が大切にしていきたいことや、自分の軸を考えるきっかけとして宗教を活用してほしいと考えているようです」

カルマノ校長は他の言語や文化を学ぶことも、宗教と同様に自分を見つめるきっかけになると言います。外国語を学ぶことで日本語を母語とする自分自身を相対化し、俯瞰してみることは、新たな発見や気づきにつながります。聖園女学院が伝統的に英語教育に力を入れるのは、語学教育に宗教を学ぶことに似た側面があるからなのかもしれません。

聖園女学院の英語教育

聖園女学院では、英語力の高い生徒への取り出し授業や、豊富な海外留学プログラムなど、さまざまな取り組みを通して英語教育を推進しています。専任の英語ネイティブ教員3人が生徒と1日中一緒に過ごすほか、国際交流部が運営する校内留学の部屋「MEA(Misono English Academy)」もあり、英語を使う機会が学校生活の中に数多く用意されています。
昨年からは、日本の大学を併願しつつ、海外大学から推薦を得られる制度がスタートしました。アメリカ、カナダ、オセアニア地域の合計50大学が対象で、学内の評定平均と英語資格試験のスコアで推薦可否が判断されます。生徒の進路選択の幅が大きく広がりました。
新型コロナウイルスの影響で海外留学プログラムはストップしているものの、ニュージーランドの姉妹校との間でオンラインを活用した交流を始めるなどグローバルな学びは続いています。

人間の尊厳という面において、教員と生徒の間に差異や区別はないと小川教頭は言います。

「年齢差、性差、知識量の差などさまざまな違いがありますが、同じ“一人の人間”であることに関して差はありません。彼も人なり、我も人なり、という意識を徹底して接することができれば、教員と生徒の関係性は一段上がるのではないかと思っています」

生徒の尊厳を認め、一人ひとりに真剣に向き合っていく。その方法には人それぞれの形があるものです。小川教頭は生徒、教員を問わず、誰に対しても丁寧な言葉遣いを心がけているそうです。

「聖人のように接することはできなくても、 適切な言葉を選び使うことは、他者を尊重する姿勢を示すことにつながると考えています。それが私なりの尊厳の表現なのです」

生徒に寄り添いながら
時間をかけて成長を見守っていく

きめ細やかな面倒見の良い教育は、聖園女学院が伝統的に強みとしているところです。生徒の尊厳を認め、真摯に向き合う姿勢が、こうした教育を可能にしてきたともいえるでしょう。小川教頭の「安心して学べる学校づくりを心がけている」という言葉からも、生徒の成長を見守っていく強い意思が感じられます。

「安心して学び、悩める、受け皿としての学校をつくりたいと思っています。卒業後でもいいので、『真剣に関わってくれる先生がいたんだな』と感じてもらえる学校でありたいですね」(小川教頭)

聖園女学院の卒業生でもある鐵尾先生は、聖園女学院のことを「種まきの学校」と表現します。芽が出るまでに多くの時間がかかることもあるそうですが、6年間の中高一貫教育で生まれる時間的余裕を最大限に活用して、生徒の抱える矛盾や葛藤に寄り添いながら成長を後押ししています。種まきで大切になるのは、日々の声かけだと鐵尾先生はいいます。

「たとえば修学旅行で新幹線に乗る時に、普通なら『新幹線の中では静かにしましょう』という指導になると思います。でも聖園の先輩教員は、『新幹線にはいろんな人が乗り合わせているね。危篤の知らせを聞いて胸が張り裂けそうになっている人や、徹夜明けでとても疲れているビジネスパーソンが乗っているかもしれないね』とだけ言ったのです。なぜその振る舞いが必要なのか、一度だけでなく次も自分で考えられるように声をかける。聖園は生徒に対してそんな関わり方をする学校なのです」

昨今の学校現場では、生徒も教員も目に見える結果をすぐに求められがちです。一方で小川教頭は、「そんなに簡単に結果が出ることはない」と断言します。聖園女学院の生徒には「評価を急がずに、いま目の前のことを大切にする時間を過ごしながら成長してほしい」と考えているそうです。

このように“気長に時を待つ”ことができる環境だからこそ、周囲を気にして一歩を踏み出すのを躊躇してしまうタイプの生徒が大きく伸びていきます。聖園女学院は「自分もやってみたい」と挙がりかかった生徒の手を見つけるのを得意とする先生たちのもと、想像以上の自分になることができる学校なのです。

コロナ禍で生じた困難を
自分たちの力で乗り越えていく

新型コロナウイルス感染症の流行により、聖園女学院では在宅学習が6月上旬まで続きました。

在宅学習の期間は生活や学習リズムを崩して不安を抱える生徒が少なくなかったそうです。家が第1の居場所なら、生徒にとって学校は第2の居場所。居場所の一つがなくなれば、不安定になってしまうのは当然でしょう。

だからこそ聖園女学院の教員は、生徒の生活リズムを整え、少しでも安心感を持って過ごしてもらうことに力を入れてきました。Zoom(オンライン会議システム)による朝礼や終礼を取り入れたのも、双方向のやり取りを通して生徒たちを支える狙いがありました。

学校は再開しましたが、ソーシャルディスタンスの確保が求められ、普段通りの生活に戻るには時間がかかります。それでも学校が再開したことは大きく、他者との距離感の測り方を生活の中で学ぶ場が戻ってきました。

「オンラインでは生徒同士がまとまっているように見えがちですが、実は大切なステップが飛ばされているのではないかと感じてきました。人はそれぞれ違うことを理解し、打開策や折り合いを見つけて相手を尊重することを学ぶのは、大人になる上で大切なことであり、それは人との関係の中で失敗しながら学んでいくものだと思うのです」(鐵尾先生)

中3が京都・奈良、高2が長崎・平戸に足を運ぶ修学旅行も中止になりました。現地で学ぶ機会は失われましたが、生徒たちのモチベーションは落ちていません。修学旅行先で理解を深めるはずだったテーマについて個々に学習を進め、一つの成果としてまとめようとしています。修学旅行の本当の目標は「そこで何を学ぶか」にあることを再確認し、困難な状況を自分たちで乗り越えていくために一歩を踏み出しはじめているのです。

どんな困難にぶつかったとしても、聖園女学院にいる間は教員が励まし、背中を押してくれます。一方で、卒業後は自分で困難を克服していかなければなりません。目の前の問題に向き合い、乗り越える力を聖園女学院で身につけて、幸せな人生を歩んでほしい。踏み出す人になることはそのための原動力であり、聖園女学院の教員から生徒たちへのプレゼントなのです。

ICTを活用した新しい授業スタイルを模索中

聖園女学院では全生徒にiPadを貸与しており、学校生活のさまざまな場面でICTを取り入れた教育を進めています。在宅学習の期間中は、課題の配信やZoom(オンライン会議システム)を活用した授業、朝礼、終礼にiPadを活用してきました。
登校再開後も、実技を教える際に教員の手元をZoomで配信する、大学進学説明会を個人のiPadへ配信して自分の席から参加するなど、ソーシャルディスタンスを保ちながらの学校運営をICTの活用により進めています。
新型コロナウイルスの影響で、志望校の情報収集に苦労する保護者が増えることが懸念されます。入試広報部長の鐵尾先生は、「『学校に迷惑がかかるから』と遠慮することなく、気軽に問い合わせてほしい」と話しています。

◎学校DATA

聖園女学院中学校・高等学校
〒251-0873 神奈川県藤沢市みその台1-4
TEL0466-81-3333
FAX0466-81-4025
月曜日~金曜日 9:00~17:00
※夏季、冬季休業期間中など応答できない期間もございます。

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