入試で英語を必須化した金沢工業大学の変化

入試で英語を必須化した金沢工業大学の変化

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2016年に就任した大澤敏学長が、「20年に全科目の約50%で理工学英語を取り入れた授業運営を行う」ことを目標として掲げた金沢工業大。それから4年が経過した20年4月現在、目標はほぼ達成されているという。英語を取り入れた授業を全学的に実施するにあたり、入試では英語が必須化された。どんな変化があったのだろうか。


あえて入試で英語を「必須化」した理由

一般的な傾向として、理系の生徒は英語を苦手としていることが多い。特に私立大専願の生徒にその傾向は顕著だ。幅広い科目が課される国公立大入試とは異なり、3教科ないしは2教科での選抜が主流の私立大入試では、英語を選択せずに受験できるケースも少なくない。得意科目だけで勝負できるので出願のハードルは下がり、大学としては志願者を集めやすくなる。

 一方で、理系の工科系大学である金沢工業大は、2016年から一般入試で英語を必須科目に指定している。多くの受験生に敬遠されるリスクがありながら英語を必須にしたのは、これからのグローバル社会では技術者といえども英語が必要になると見ているからだ。

 もちろん全員がネイティブ並みに流暢な英語を身につける必要はない。技術者にとって大切なのは、「掴む」「引っ張る」「何%から何%まで上昇する」といった学校で学ぶことがない理工系の技術用語。海外での開発や技術指導、工場の立ち上げといった場面では、こうした英語を使いこなせなければ仕事が円滑に進まない。

 金沢工業大では専門用語がまとまった「テクニカルターム集」を各学科で作成し、全学生にオンラインのe-シラバス上で配布している。授業や試験に専門的な理工学英語を徐々に取り入れる形で英語教育を進めており、学生が自然と英語を身につけられるようになっている。

 入試において英語が必須化されたのは、こうしたグローバル化に対応するための授業改革の存在が大きい。金沢工業大で4年間学ぶ上で、基礎的な英語力は不可欠な力になったということだ。

英語敬遠で志願者減も新たな層の受験が増加

 それでは、英語を課すようになって入試はどう変わったのか。金沢工業大の一般入試志願者推移を表した図1を見てほしい。募集人数が最も多い「一般試験前期」と「センター試験利用前期」で英語を必須化した16年に、志願者数が大きく落ち込んでいることが分かる。入試制度の変更によって金沢工業大を敬遠する受験生が増えたことは明白だ。

 ところが、その後は志願者数が回復。20年には直近の最高値であった14年の1万106人を超え、1万611人という過去最高の志願者数を記録している。

金沢工業大で企画部次長を務める志鷹英男さんは、ここ数年の入試を振り返って次のように話す。

「本学が英語を必須化することは高校の先生にとって衝撃だったようです。『金沢工業大に落ちて、富山大工学部に受かる生徒が出てくるかもしれない』と話す先生もいました。はじめは志願者が大きく減ったものの、その後は過去最高を記録するまでになっており、高校現場にも歓迎される改革だったと考えています」

 入試改革によって英語が苦手な層は離れたものの、その後は英語への抵抗感が薄い層が新たに流入し、全体の志願者を増やしてきた構図が見て取れる。グローバル教育への取り組みが広く知られるようになり、「金沢工業大は英語力を伸ばせる大学だ」と認識されるようになったことも一因だろう。

合格者の属性が変化して国公立大との併願が増加

 英語が必須になったことで、合格者の属性が変わり始めていることを示唆するデータもある。図2は20年の金沢工業大の合格者数ベスト20をランキングしたもの。20年のランキングを、入試で英語が必須化する前年の15年と比べたところ、5つの高校が入れ替わっていた。新たにベスト20に入ってきたのは、羽咋、七尾、金沢泉丘、魚津、武生の5校だ。

 金沢工業大の合格者数(図2)の右側には、難関9大学(※)と、石川県の国立大である金沢大の合格者数をそれぞれ示している。入れ替わった5校について、これらの大学の合格者数の合計を比べると、難関9大学は5人から152人に、金沢大は36人から191人に増えている。

 これは石川県のトップ校である金沢泉丘(難関9大学・106人、金沢大・108人)が新たにランク入りした影響が大きい。ただ、その他4校の合格者数も多く、難関9大学、金沢大ともに、金沢泉丘を除く4校だけで5年前の5校の合計を上回った。国立大志望者が併願校として金沢工業大を受験するケースが増えたことが伺える。

 前出の志鷹さんは「国公立大に向けて頑張って勉強したことが生かせる入試になったからでは」と言う。併願校の試験にも英語が必要となれば、受験生は必然的に英語に力を入れざるを得ない。「高校の先生にとっても生徒を指導しやすくなった面があるのではないでしょうか」(志鷹さん)

 グローバル化に伴い、多くの仕事で英語が必要とされる場面は増えている。今後は、「理工系=英語が苦手」というイメージからの脱却が進むのは間違いなく、いまはちょうどその過渡期にある。グローバルに活躍する力を育むなかで入試での英語必須化を進めた金沢工業大の改革が広く受け入れられつつあることが、その事実をよく表している。

※難関9大学は、東京大、京都大、北海道大、東北大、名古屋大、大阪大、九州大、東京工業大、一橋大

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