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未曾有のコロナ禍の影響を受け、高校も大学も揺れている。感染拡大防止に配慮しながら、どのように途切れることなく教育を行えばいいのか―。
どの大学にも先駆けてその答えを出し、いち早くオンライン授業に舵を切ったのが国際基督教大学だ。来春の入試に向けて、受験生はどのように大学を選べばいいのだろうか。アドミッションズ・センター長の久保謙哉教授にお話をうかがった。
否応無しに変化を迫られるアフターコロナ時代で、私たちが実践すべき思考法、情報の集め方、そして心の持ち方とは?
アドミッションズ・センター長
久保謙哉 (くぼ けんや)
1989年東京大学で理学博士取得。東京大学理学部助手を経て2002年ICU着任。2019年からアドミッションズ・センター長。日本中間子科学会副会長、物質構造科学研究所運営委員、J-PARCミニオン施設課題審査部会長、福岡県立城南高校SSH運営指導委員。専門は素粒子ミュオンを利用した考古資料・文化財の分析などの放射化学。
オンラインでも活発な“対話”を
―今回の新型コロナウイルスの感染予防に対して、国際基督教大学(以下ICU)はいち早くオンライン授業を導入して注目を集めました。どのように準備を進めてこられたのでしょうか。
ICUでは、3月の時点で春学期の全講義をオンラインで行うと決めていました。講義にはZoomというソフトウェアを使っていますが、4月に入ってすぐに教員向けの説明会や使い方の講習会をオンラインで開き、私たちも使い方を勉強したのです。学期は通常の日程で始まりましたが、最初の2週間は学生に教材を与えて自分たちで勉強してもらう期間を作り、2週間後から本格的なオンライン授業を始動しました。先生によってはもっと早くから始めた授業もあるようです。
―オンライン授業を初めて受ける学生側の反応はどうでしたか?
以前からICUでは、「Moodle」と呼ばれるオンライン教育システムを活用してきました。これを使って授業の資料を配布したり、文字ベースながらディスカッションをしたりと学内ではかなり浸透していたのです。そういう素地があって、さらにオンライン授業で映像と音声が加わったという感じで、比較的スムーズに受け入れられているように思います。これまでのところは順調ですが、いま学修・教育センターでアンケートをとりながら課題など調査しているところです。
また授業をオンライン化するにあたっては、自宅や実家に通信環境が整っていない学生にモバイルWi-FiルーターやノートPCを準備して無償貸与を行うなど、大学としてできる限りのサポートを行っています。
―ICUでは学びにおける“対話”を非常に大切にしてこられました。授業をオンラインに切り替えたいっぽうで、授業における“対話”はどのように行われているのでしょうか?
Zoomでは授業をカメラで撮って動画と音声を流すだけでなく、クラスを小さなグループに分けて、そのグループ内で話し合いができる「ブレイクアウトルーム」という機能がついています。その機能を使って学生間でダイレクトなやり取りをしてもらいながら、上手く授業を進めているようです。ですから教員と学生の双方向だけでなく、学生同士のディスカッションも現在は普通に行うことができています。
さらにZoomでは、学生側もホストとしてディスカッションの場を作れます。ランチタイムにクラスメートがZoomでつながって大学の雰囲気を味わったり、ICUの学生らしく授業時間以外でも議論の場を自主的に設けたりと、活発に使われているようです。
不安に支配されず、冷静な思考で判断する
―現在の高校3年生は入試改革で受験のあり方が大きく変わる渦中にありながら、新型コロナウイルスの影響で数ヶ月も自宅学習を余儀なくされるなど、受験への不安が広がっています。受験生が一様に守りに入る―すなわち安全志向、地元志向が必要以上に強まってしまうことが懸念されていますが、久保先生はこうした状況をどのようにお考えでしょうか?
まず入試改革については日本の大きな流れであり、ICUだけでどうにかすることはできません。しかし今年の高校3年生が大きな不安を抱えていて、大変な立場にあるということはよくわかります。やはり人間というのは周囲から不安なことを言われているうちに「そうかな、そうかな」と思考が不安なほうに引っ張られてしまう。これはある意味仕方のないことです。
しかし、本当にそうでしょうか? この現状を冷静に考えてみると、今の高校3年生はみんな平等に不安な状況にあり、そこに大きな差はありません。いっぽうで受け入れる大学側の「こんな人に来てほしい」という学生像は変わらない。だからじつは、みんなが遠くへ行きたくないという流れになっている今こそそのひとにとっては大きなチャンスかもしれないのです。
―なるほど、不安にとらわれてしまうのではなく、まずは自分と周りの状況を冷静に分析する必要がありますね。
不安を煽るような情報ばかりではなく、普通の情報や明るい情報もバランスよく集めたうえでよく考えてから進路を決めていくのがよいかと思います。これは「クリティカルシンキング(Critical Thinking)」といって、本当にそんなに悪い状況なのか、はたしてどれほど酷いのか等を冷静に分析する思考です。まさに現在はこの「考える力」が問われている局面だと思います。
高校3年生くらいの年齢でこういうことを実践するのは、とても難しいし大変なことでしょう。でも、一生懸命考えながら情報を偏りなく集め、それらを元に自分で判断を下すという経験は非常に大きな強みになりますし、その後の人生にもプラスになるはずです。
―ICUではまさにそういう思考と判断ができる学生を求めているわけですね。
そうですね。もちろんICUでそれらを培っていきたい、という意欲のある学生も歓迎します。
―そのほかにも「ICUではこんな人にきてほしい」という学生像や求める資質があれば教えてください。
ICUでは文系理系を問わず、さまざまなことに関心・好奇心をもって学んでいける人を求めています。いま現在も新型コロナウイルスの影響で、世界が大きく変わりつつあるのをみなさんも実感していると思います。各国間で人の動きが制限され、既に感染が沈静化した国もあればこれからどんどん増えていく国もある。そんな未曾有の状況で、どうやって世界は協調して進んでいけばいいのでしょうか?
あるいは日本のマスク問題にしても、安く製造できるところに全部依存してきたことはよかったのでしょうか。コスト面ばかりではなく、今後は安全保障の観点からも判断していく必要性が見えてきました。今回はウイルスでしたが、天変地異など誰も予測不可能な問題はこれからも必ず起こります。「文系理系を問わず」と私たちはさかんに言いますが、世界が直面する問題にひとつの専門分野だけで解決できるようなことは何ひとつないんです。新しい問題を発見し、その解決策を考えていくにはリベラルアーツ、つまり広い視野を持って多面的に物事を捉えられる人が必要なのです。
―しかも今回のコロナウイルスは、人やモノのグローバルな動きがそのまま感染拡大につながりました。日本だけで解決できない問題ばかりです。
その通りです。それゆえに私たちは「リベラルアーツをバイリンガルで」教育することを重視しているのです。新しい方向を見出して進んでいくためには、国際的に他者と協調していくことが不可欠です。日本語でも英語でも対話できるだけでなく、学術的なディスカッションもこなせる。さらにICUでは「2+1(Two plus one=日英+1)としてこれを3つ目の言語でも可能にしようと勧めています。全世界が初めて経験する現在の事態、そしてこれからも起こるであろう新たな問題を、世界中の人と協調しながら解決していける人をICUは育てていきたいと考えているのです。
学生の多様性に応じた入試の選択肢
―先ほど話題に上った入試改革に関連してうかがいます。ICUでは今後の入試について内容を変更したり、やり方を変えていこうという展望はありますか?
私たちが求める学生像には変わりはないので、入試のコンセプトを変えることは考えていません。変更という意味では一般選抜(旧・一般入学試験)・総合型選抜(旧・ICU特別入学試験/AO入試)ともに使用できる英語外部試験の種類を変更しました。総合型選抜では、TOEICをやめてGTEC(4技能版)を採用し、また一般選抜では新たにケンブリッジ英検(Cambridge English Qualifications)とGTEC CBTを採用しています。それぞれの入試は少しずつ特徴が異なりますし、国の方針を受けて受験生もいろんな外部試験を受ける機会が増えてくると思います。みなさんが受けやすい日程で、自分に合った試験を受けていただければと思います。
―総合型選抜ではIB認定校(以下IB校)対象方式が新たに設けられました。
そうですね、IB校は日本でも少しずつ増えてきていて、いままでにもICUへの受験実績がありました。しかし従来の入試は普通の日本の高校課程で勉強してきた生徒の能力を見るものであって、必ずしもIB校で教育を受けた生徒の能力や特質を最大限引き出せる形態ではなかったかもしれません。従来の総合型選抜には「英語外部試験利用」と「理数探究型」の2方式がありましたが、IB校は少し教育システムが異なるのでどちらかに合わせるのは困難な部分がみられました。そのために整合性のある入試方式を作ったということです。ICUでは国内外のあらゆる学校から、さまざまな背景をもつ学生が学んでいます。こうした入試形態も、多様なバックボーンをもつ人にICUをめざしてほしいというメッセージだと捉えていただければと思います。
―大学と直接触れ合えるオープンキャンパスの開催が今年は危ぶまれていて、受験生は大学の情報収集に苦慮しているようです。情報の集め方やそれらへの接し方など、何かアドバイスがあればお願いします。
私たちもこれまでは地方に行って「ぜひ広大で自然豊かなキャンパスを東京まで見に来てください」とお伝えしてきました。しかし、いまはそれができる状況ではありません。ICUに限らずどこの大学でもウェブサイトやメールマガジンで情報を発信しようと一生懸命ですし、こうした情報は高校生のみなさんも平等にアクセスできると思います。他大学でもやっていると思いますが、ICUでは質問を送っていただければ直接回答できるシステムを作っています。オンラインでのオープンキャンパスも実施しており、個別相談にも対応しています。質問は大歓迎ですから、わからないことがあればぜひ聞いてほしいと思います。むしろいまはいろんな大学のウェブサイトを渡り歩いて、しっかり比較検討してみるのもいいかもしれません。ただ掲載されている情報をそのまま受け取めるのではなく、その内容にどんな意図があるのかをクリティカルに考えてみてください。そうやって受け身ではなくアクティブに情報を収集し、臆せず大学に質問してみることで「あっ、そういうことか」とわかってくることがたくさん出てくると思います。ぜひ挑戦してみてください。
―最後になりますがこの大変な事態のなか、進路選択を控えた高校生だけでなく、そこに寄り添う保護者の方々や高校の先生方に向けて、励ましのメッセージをお願いします。
これは私自身の経験になりますが、私は放射性物質の研究に携わっていて、9年前に発生した福島第一原発の事故後の対応にも関わってきました。あの時も本当に困ったのが、やはり人々の「不安」でした。「東京も危ないから逃げろ」という人も出てきて、本当に関西に移住したり、家族が分断されてしまった人も多くいました。私たち科学者は、放射線がどれほど怖いものかよくわかっています。そのうえで放射線量を計測して“東京には生命が危険にさらされるような甚大な影響はない”という見解を出しました。しかしこの見解までもが「政府の意見じゃないか」と疑われてしまったことがありました。「ほんの少しでも放射線があると危ない」などと煽る人もいて、人の心は科学的な意見、そして様々な情報を自分の頭で考えることよりも大きな不安に埋め尽くされてしまったのです。これはカタチを変えていま現在もそしてこれからも起こり得ることではないでしょうか。
もちろんみんながいまは不安だと思います。でも、「危険か、危険でないか」は「0か1」のどちらかではないのです。そこを冷静に評価して判断することがとても大事です。みんながしばらく不自由な思いをしましたが、結果現状は改善し、緊急事態宣言も解除されました。不安を膨らませるのではなく、みんなで良い方向に行くために行動と分析を重ね、他者と対話ができる。そういう社会であってほしいし、こうした問題解決に力を尽くしたいという方は、ICUに来ていただきたいと願っています。一緒に光の射すほうを向いて行きましょう。