アンケートで分かった進路指導担当教諭の本音

アンケートで分かった進路指導担当教諭の本音

本誌ユニヴプレスの読者である進路指導担当教諭を中心に、コロナ禍という特殊な事情が影を落とした2021年度入試(21年4月入学)における進路指導に関するアンケートを実施しました(2021年1月実施、回答212校)。アンケートからどのような状況が読み取れるのか。回答を集計して見えてきた、進路指導担当教諭の“本音”をお届けしましょう。

コロナ禍で何もかもが手探りの中で進んだ21年度入試。緊急事態宣言下での対面授業の中止、大学の説明会やオープンキャンパスのオンライン化など、生徒の進路指導にあたって多大な苦労があったことは想像に難くありません。そこで、21年度入試に向けた進路指導現場でどのような取り組みが行われていたのか、ユニヴプレスの読者である、進路指導導教諭にアンケートを実施しました。質問項目は、①『受験情報の収集』、②『大学の高校訪問』、③『コロナ禍における対応』の3項目です。これらの集計結果から、進路指導現場の現状を見ていきましょう。

①受験情報の収集

受験情報の収集は模試とインターネットが主流も意外に強い受験書籍

受験情報の収集について、まず、「どのように受験情報を収集していますか」と聞いてみました。すると、もっとも多い回答は、「模擬試験実施会社からの連絡または担当者」で84%の先生が挙げました。生徒の偏差値を把握するために模擬試験は無くてはならないツールです。緊急事態宣言が発出される中、春先は模試を行うことができず、合否判定の精度を疑問視する声がありました。しかし、夏頃を境に高校実施に加え公開会場における模試が始まり、浪人生の動向を把握でき信頼性が上がったことから、これまで通り生徒個人の合格の可能性を探るためのツールとして機能しました。

2番目に多かったのは、「インターネット」で73%の先生が挙げています。利用サイトとしては、大手出版社や予備校などが挙げられました。対面によるオープンキャンパスや進学相談会など、コロナ禍で大学からの情報発信のチャンネルが制限される中、ホームページやWEBオープンキャンパスを活用する高校が増えた影響と見られます。

大学も情報発信に力を入れています。法政大は、入試情報サイトで「一般入試英語解説動画」を公開。また、東洋大は「動画で見るWEB体験授業」で数多くの授業を公開しています。学部・学科や入試制度の情報に加え、このように自大学の入試対策講座や授業をWEBで公開するなど、大学が積極的に情報発信していることもインターネット活用の比重が増す背景にあると思われます。後述する「WEBオープンキャンパスについての意見」において、WEBオープンキャンパスに肯定的な意見が一定数あったことからも、大学の取り組みの充実度が分かります。

3番目は「受験書籍」で65%の先生が挙げました。紙媒体離れが言われる中、インターネットと大差なく受験情報の収集に役立っているようです。受験書籍の中でも圧倒的に多いのが旺文社でした。1932年(昭和7年)に「受験旬報」として創刊し、41年(昭和16年)に「蛍雪時代」と改題された、日本最古の受験情報誌の存在感は今も健在で、46校とおよそ2割の先生が活用していることが分かりました。

53%の先生が挙げた「訪問する大学」については、②『大学の高校訪問について』で詳しく報じることにします。最も低かったのは、「ガイダンス実施会社」でした。対面による学校説明会が激減したこともあり、受験情報の収集に活用する高校は30%に留まりました。

進路指導で最も重要な情報は学部学科の学修内容

次に、さまざまな受験情報の中で、「進路指導に最も重要な情報は何でしょうか」と聞いてみました。最も多かったのは、「資格取得など学部学科の学修内容」で72%の先生が挙げました。以下、「入試要項」(70%)、「難易度」(55%)、「就職率など大学卒業後の情報」(43%)、「入学した卒業生からの情報」(28%)と続きました。

コロナ禍における家計の急変などにより、「奨学金や学費」について重要視する傾向が強いのではないかと見込んでいましたが、25%と意外と多くありませんでした。「奨学金や学費」とともに重視されていなかったのは、「立地条件、環境や校風」(22%)、「個人相談や補習など入学後の学生への対応」(13%)という結果になりました。「その他」の項目では、「進学した生徒の状況」「3ポリシーの内容」「中退率」「教育・研究内容」について、複数の回答がありました。

②大学の高校訪問

大学の高校訪問は事前に連絡の上、進路指導の有用な情報を持って

受験情報の収集先として半数以上の先生が挙げた、「訪問する大学」について見ていきましょう。アンケートでは、「大学の高校訪問についての主な意見」を聞いています。

受験情報の収集先として期待しているが、先生の不満も多いのが大学の高校訪問のようです。回答内容で最も多かったのは、「要事前連絡、飛び込み訪問は控えて」(46%)というものでした。具体的な意見としては、「事前連絡なしには会わない」(千葉・公立)、「元県内高校管理職担当者が事前連絡なしの場合が多い」(千葉・私立校)、「こちらもきちんと対応したいので事前連絡を」(大分・公立校)、「今近くにいるは困る」(東京・私立校)、「電話説明と資料送付で十分」などが寄せられました。

飛び込み訪問でなくても、「資料のなぞり読みではなく責任と使命感を持って説明を」(岩手・公立校)、「話が長すぎる」(愛知・公立校)、「約束の時間に来校しない」(北海道・公立校)、「昼食時は避けて」(愛知・公立校)、「同一資料持参で複数回訪問があった。情報はコンパクトにまとめて」(愛知・公立校)、「名刺だけ欲しいという人、資料を読めばわかる話しかしない人は困る」(長野・私立校)など、ネガティブな意見が数多く寄せられました。

訪問する大学に対する注文もありました。「幅広いレベルの大学来訪希望。募集状況とその理由を知りたい」(東京・私立校)、「多様な大学訪問を受け付けている」(千葉・公立校)という先生がいる一方で、「自校の中間層よりやや上位の大学」の訪問を希望すると4%の先生が回答し、「志願者の多い大学の話が聞きたい」という、大学のレベルを気にする回答も6%の先生からありました。

もちろん、大学の高校訪問に期待する先生も多くいます。高校訪問に関するポジティブな意見としては、「どの大学でもありがたい」(東京・公立校)、「進学先となる大学は全て来てほしい」(北海道・公立校)、「幅広いレベルの大学来訪希望。募集状況とその理由を知りたい」(東京・私立校)、「多くの大学から話を聞くことができるのは有効」(群馬・公立校)、「熱心な大学が多く、受験情報が直接わかってよい」(三重・私立校)などが挙げられています。

具体的に大学からの情報としてほしいのは、卒業生に関するものが多く、「卒業生の情報が欲しい」と6%の先生が回答しています。その他の情報としては、「大学の学びに関する情報」(奈良・公立校)、「他大学との違い」(宮城・私立校)といった大学全体に関するものに加え、入試に直接関わるものとしては、「上位大学の推薦情報」(愛知・私立校)、「新しい入試方式」(東京・私立校)、「複雑な入試方式をわかりやすく説明してほしい」(鹿児島・私立校)、「入試の傾向を伝えてほしい」(東京・私立校)など、前年の入試状況や入試の傾向・変更点を知りたいという意見が多く寄せられました。

ただでさえ忙しいのに、コロナ禍という緊急事態にあって大学の急な訪問への対応は難しい。さらに、忙しい校務の中で時間を捻出するのだから、有益な情報を期待しているという、先生方の思いがダイレクトに伝わる内容となっています。

③コロナ禍における対応

進路指導の現場を大きく困惑させたコロナ禍における大学の入試変更

「コロナ禍で困惑したことについての主な意見」を聞いたところ、最も多かったのは「入試制度の変更」で27%の先生が挙げています。横浜国立大など「国公立大学の個別入試中止」(栃木・公立校)に戸惑う声。さらに、総合型選抜や学校推薦型選抜におけるオンライン面接に対する意見も多くあり、面接のための指導とともに、「高校の施設利用の入試に疑問」(静岡・公立校)など、高校で実施することへの不満を複数の先生が挙げています。

「休校などで時間不足」については16%の先生が指摘しており、「行事の中止」(北海道・公立校)、「集団指導に制約」(京都・公立校)、「指導が後手に回り、後半がきつかった」(東京・私立校)などの意見が寄せられました。それでも、最終的に授業が遅れたと回答した高校は少なく、突然の事態に戸惑いながらも、オンライン授業等で対応できていたようです。

「対面式オープンキャンパスの中止」は10%の先生が指摘していますが、この点につきましては、この後の「WEBオープンキャンパス」の項で触れます。次に多かったのは「情報不足」(8%)で、「模試がないこと、WEB情報では実感がわかない」(愛知・私立校)、「すべてオンラインとなり情報収集量が減少」(東京・公立校)、「ネット情報だけで進路を決めたためのミスマッチが怖い」(北海道・公立校)、「他校と情報交換ができない」(奈良・私立校)などの意見が寄せられました

授業のみならず保護者会や三者面談もオンラインで実施

「コロナ禍で進路指導方法に変化はありましたか」との質問には、大半の先生がオンラインの活用と対面指導の中止を挙げています。

オンラインの活用については、「授業のオンライン化」に加え、「ガイダンス、三者面談、保護者会動画、各種講演の配信」「オンライン面接・小論文指導」などが実施されました。

その他の変化として、「夏休みに休校分の挽回」(奈良・公立校)、「推薦選考の規定変更」(千葉・私立校)、「模試の自宅受験」(東京・私立校)などが挙げられています。

オンラインの活用が増える中、「コロナ禍で進学状況に変化はありましたか」と聞いてみました。すると、変化なしが41%と最多となりました。対面授業の中断や進路指導のための情報不足というマイナス面がありながらも、従来通りの進学状況を維持した高校が多かったようです。

先輩たちが大学に行けず自宅でリモート授業を受けている。感染状況に対する警戒感などから、都市部の大学を敬遠する動きが予想された中、「地元志向が増えた」とした先生が28%となりました。「保護者は地元志向が強くなった」(鹿児島・私立校)に代表される、保護者の意向が強くなったという意見が数多く寄せられています。首都圏や近畿圏以外の先生からの、「首都圏を避ける傾向がみられた」(青森・公立校)、「移動を避ける傾向が少し見られた」(静岡・公立校)、「関東・関西への受験者減少」(佐賀・公立校)と大都市圏の大学を避ける意見とともに、首都圏からも、「東京の受験を避けるようになった」(茨城・私立校)という意見が聞こえてきました。

一般選抜の時期に感染状況が悪化し、受験できないことなどへの危惧から、年内に合格を決めてしまいたいと考える傾向が強まると見られていました。実際に「短大指定校が激増」(群馬・公立校)、「早めに受験終了する傾向」(愛知・公立校)などの意見が寄せられ、「推薦志向が増えた」と考える先生は23%に上りました。

コロナ禍で予想された「安全志向が増えた」という意見は意外に少なく10%。それでも、「抑えの私立大学受験者増加」(岩手・公立校)、「専門学校へ流れた」(東京・私立校)などの意見が寄せられています。

その他の意見としては、「保護者が過干渉、無関心の二極化」(愛知・公立校)、「進学希望者が増えた」(岩手・公立校)などがありました。

オープンキャンパスは対面を望むもWEB開催も一定の評価

最後に、「WEBオープンキャンパスについての意見」を聞いたところ、「対面式のオープンキャンパスを望む」が70%と圧倒的多数を占めました。先生方からは、「オンラインではモチベーションが上がらない」(北海道・公立校)、「WEBでは集中力が持続しない」(東京・私立校)、「オンラインはミスマッチが心配」(神奈川・公立校)、「WEBは受験校であるか意識の高い生徒でないと使わない」(福島・公立校)、「気軽に参加できる点はいいが、建物の規模がわからない」(鹿児島・私立校)、「生徒の志望動機になりうるか不安」(富山・公立校)、「プロモーションビデオではなく、学びの内容がわかるものを」(山口・公立校)、「悪い面が見えない点が困る」(千葉・公立校)などの意見が寄せられています。

「WEBオープンキャンパスに肯定的」(30%)な意見としては、「きっかけ作りには十分」(東京・私立校)、「遠方の大学情報が得られる」(北海道・公立校)、「オンラインは、地方大学の情報収集に便利」(東京・私立校)、「WEBが最初のきっかけになる」(東京・私立校)などが挙げられました。

コロナ禍で生徒の進路指導に尽力された先生方の生の意見を紹介してきました。22年度入試に向けた進路指導も困難な状況が続くことが予想されますが、21年度入試の経験を糧として、生徒の希望に沿う進路実現に向けた参考になれば幸いです。

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