大学のことや学部のことを調べていくと、ゆかりのない地域にあったり聞いたことのない大学名が候補に挙がって戸惑ったことはないだろうか。または近隣エリアにちょうどいい大学があったとしても「他県だから」「都落ち感がある」といって候補から外してしまった経験はないだろうか。そんなときは大学だけではなく、その土地のことも含めて研究することで、新たな生活の楽しみもあわせて考えてほしい。
自分にとって〝ちょうどいい〟地方
編集部では大学選びのアドバイスとして、「俯瞰して広いエリアで探す」ことをお勧めしている。もちろん家庭によっては進学に際して「自宅から通える距離にある大学」という条件がついていることもあれば、学生自身の地元志向が強い場合もあるだろう。それでもあらゆる学生に広いエリアの大学に目を向けてほしいのは、生まれ育った土地と離れて生活することで自立心や自主性が養えるだけでなく、見知らぬ土地の人や文化との触れ合いを通じて価値観や見識を大きく広げることができるからだ。そう考えると、大学進学は単に学問の場を選ぶだけにとどまらない、大きな可能性を秘めた選択になってくる。
ところが「広いエリアで探すこと」=「大都市圏への進学」あるいは「地方の難関大学への進学」と同義に捉えられがちだ。自分は本当に大都会での暮らしを望んだり、難易度が高い大学への進学だけを目的として高校生活を送っているのだろうか?それをよく自問自答してみてほしいのだ。むしろ自分の興味や性格、学力、親との距離感など、さまざまな事情で「地方→別の地方」「大都市→地方」という選択が理にかなっている人も多い。それに大都市圏にないからこそ、学生を集めるために独自の施策に取り組む魅力ある大学も増えてきている。歴史、気候、風土、アクセス、産業……受験生にはさまざまな観点から「行きたい大学がある場所はどんな土地なんだろう?」と自分なりに掘り下げて調べてみることをおすすめしたい。
日本のほぼ中央で交通至便
今回着目したのは世界遺産・富士山のお膝元として知られる、東海地方第2位の人口規模を誇る静岡県。約7780㎢に及ぶ面積は東西に長く、県内には熱海・三島・新富士・静岡・掛川・浜松と6つの新幹線停車駅を抱えている。そのため交通の便がよく、関東エリアと関西エリアのほぼ中間に位置していることから、東京まで新幹線で約1時間、新大阪も約2時間弱で移動が可能だ。もちろん隣県の愛知県・名古屋エリアが近いことは言うまでもない。この複数エリアへのアクセスの良さは特筆すべき点で、受験だけでなく実家への帰省、在学中の旅行、そして後の就職活動に伴う移動を考慮すると非常に恵まれていると言えるだろう。さらに県内を東名・新東名という2つの日本の大動脈が貫いているため、自動車移動の便も良い。高速バスのネットワークも充実しており、関東(東京・神奈川・千葉)、関西(大阪・京都・神戸)および名古屋にも直通バスが運行されているので、学生のうちは新幹線より安価な移動手段としてこれらを活用することもできるだろう。
アウトドアやスポーツが身近なライフスタイル
のどかで豊かな自然に恵まれているところも静岡県の特徴だ。沿岸部は伊豆半島を挟んで相模灘と駿河湾、そして遠州灘とさまざまな海域に面しているため、ウインドサーフィンやダイビング、釣りなど地域によってさまざまなマリンアクティビティが年間を通じて楽しめる。そして山間部は言わずと知れた富士山のほかにもユネスコエコパークに指定された南アルプス(赤石山脈)を擁していることから、毎年多くの山岳愛好家や外国人観光客が静岡を訪れているのだ。比較的気候が温暖であり、これらの風光明媚な海や山に県内都市部からも短時間でアクセスできるため、アウトドアが身近な存在で、週末ともなるとキャンプやサイクリングなど屋外で趣味に興じている人も多い。
また高校関係者にとっては、静岡と言えばサッカーのイメージが強いという人もいるだろう。つい先日も高校サッカーの全国選手権で男子・女子ともに静岡県が優勝したのは記憶に新しい。県内には清水エスパルス、ジュビロ磐田といったJリーグ加盟チームがあるため地元サポーターによる観戦も盛んだったり、地域のフットサルサークルがあったりと、スポーツ文化が市民に浸透しているのは実に静岡らしい風土ではないだろうか。
地元にも就職先が充実
地元産業の充実ぶりにも注目だ。静岡県には静岡市・浜松市と2つの政令指定都市があり、そのエリアに本社拠点を置く企業も多い。たとえばスズキやヤマハ発動機といった世界規模の大手モビリティメーカーや、ヤマハ・カワイ・ローランドなど、世界的なシェアを誇る楽器メーカーも本社や関連工場を浜松市および近隣の磐田市に構えている。
静岡では茶葉・みかんなどの農産物が有名だが、清水市・焼津市などは水産業でも国内屈指の規模を誇っており、はごろもフーズ、いなば食品、焼津水産化学工業など食品事業会社も多い。そのまま静岡での就職を視野に入れた場合も、さまざまな分野におけるグローバル規模の産業が県内にあり、多くの雇用を創出している点は非常に心強い。
そんな魅力あふれる静岡県だが、近年は若者の地元離れに悩まされており、その原因の一つとなっているのが7割とも言われる県外大学への進学だ。静岡産業大学と常葉大学は、そんな中にあって静岡県内で多くの学生を集めている注目の大学だ。地元企業からの信頼が厚く、高い就職率を誇ることで知られている。
都会過ぎることもなく、不便を感じるような田舎でもない。そんな自分にとってちょうどよい 〝地方〟 を探すことで、そこにあるまだ出会っていない大学に目を向けてみるのも大学選びの新しいアプローチとなるのではないだろうか。