【東葉高等学校】カリキュラムで 学校は変わるのか?

【東葉高等学校】カリキュラムで 学校は変わるのか?

学校を訪問する中で、広報や進路指導戦略について話を伺う機会はたくさんあった。一方で学校の根幹であるカリキュラムについて、私自身見過ごしていたのが正直なところだ。そもそも、カリキュラムとは何か、カリキュラムによって学校は変わるのか。この疑問に答えを見出すべく、千葉県船橋市にある東葉高等学校の西村桂校長を訪ねた。西村校長は、前任の市川中学校・高等学校(千葉県・市川市)で広報部長や学年主任を歴任。現在は姉妹校である東葉高等学校で校長として、学校改革を推し進めている。そこではじめに着手したのがカリキュラム改革だった。今回は、西村先生の経歴をたどりながら、学校改革の要である、カリキュラムを中心に話を聞いた。


西村 桂(にしむら かつら)
市川中学校・高等学校に33年間勤務。同校で広報部長、学年主任などを歴任。
2016年4月、東葉高等学校に副校長として着任。翌年、校長に就任。
2018年3月、千葉大学教職大学院スクールマネジメント科修了

—前任の市川中学校・高等学校(市川学園)時代について教えてください。

 市川学園には33年間勤務していました。2003年に新校舎が完成し、共学化を行いました。私は広報部長を務め、まず取り組んだのが教職員全員参加の学校説明会の実施です。1回2000名の説明会を1日3回、すべての力をその日に集約して、これが当たりました。広報は結果が数字ではっきり出ます。結果が良ければみんなが評価してくれますし、周りもより協力してくれます。物事を動かすには、結果と分かりやすい目標が大切であることを学びました。

—先生はその後、市川学園で学年主任も務められました。

 偏差値が上がると東大合格実績を周りから期待されるようになりました。そのような中、学年主任を任されました。そこで大切にしたキーワードは「生徒の自立」です。

—「生徒の自立」のために具体的に行った施策は。

 受け持った学年の生徒は、力が有り余るくらい元気でした。そこで毎学期、学年運動会をやったんです。毎学期ですよ。練習も企画も全部生徒主導で行いました。会場だけ私が取る。学年の先生は基本的に、応援に行くだけです。生徒が好きな種目を決めてやっているので、面白くないわけがありません。さらに、運動会の終了後、生徒から「今日は〇〇君が企画してくれたおかげでこんな素晴らしい大会ができました」という声が上がるんです。言われた生徒もうれしい。簡単に言うと自己肯定感が育まれるわけです。

—運動会とは意外でした……。

 学年運動会を高校2年生の2学期にやろうとしたら、「もうやらなくていい、勉強させてください」と生徒たちから言われました(笑)。そこで高2の冬休みから長期休暇期間中の勉強合宿が始まりました。こちらが何も言わなくても「そろそろ勉強させて」と向こうから言ってきたんです。

—最終的に、東大には前年の6人を大きく上回る13人の合格者が出ました。

 教員も生徒も気持ちよく最大限の力を発揮しない限り結果は出ません。教員については適材適所が大切です。よく「あいつは使えない」なんてことをいう人がいます。それは全く逆です。必要のない人はいません。みんな貢献したいと思っているものです。勉強合宿も進路系の先生がやるのではなくて、他の先生にお願いする。次にやるときはまた別の先生にお願いする。すると場所探しなど、どんな先生も一生懸命やってくれるわけです。先生も生徒もどこかでみんなが関わりをもつことが大切なんです。

—先生は2016年から姉妹校の東葉高校に移られます。2017年には校長に就任されました。現在の状況を教えてください。

 まず受験生が毎年増え続けています。クラスも6クラス編成が8〜9クラス編成になりました。2018年に特進クラスを設置し、偏差値も10上がりました。特進クラスの生徒数も倍々で増えています。この要因は色々ありますが、カリキュラムの変更が支持されたことが大きいと思います。

—東葉高校のカリキュラムはどのように変わったのでしょうか。

 勉強が苦手でも、大学に合格できる可能性を広げるカリキュラムに変えました。これを「超攻撃型カリキュラム」と呼んでいます。

 具体的に説明します。東葉高校には英数国が苦手な生徒が多い。これを克服するには相当のモチベーションが必要です。そこで高校から習う文系でいうと地歴公民(日本史・世界史・地理・政経)に力を注ぐのです。地歴公民の1教科に特化して、3年間で13時間をやるカリキュラムを設計しました。1教科を得意にすることで生徒に自信を持たせるという作戦です。カリキュラム変更後、政経・地理あたりは模試の偏差値で60〜70を取る生徒が何人も出てきています。とにかく、今うちの学校に必要なのは生徒に自信をつけさせることです。自信がつけば、他の教科へも勉強の幅が広がります。

 今年はすでにICUに受かった生徒がいます。これは特進クラスがない時の生徒です。全体的にもこの秋の段階で、昨年の進学実績をクリアしています。今後はさらに良くなっていくこと確実です。

—先生にとってカリキュラムを一言でいうと、どういうことでしょうか。

 カリキュラムとは、学校またはその学校の生徒を育てる「栄養素」です。栄養素は炭水化物やたんぱく質など、その人ごとにバランスよく摂取することが重要です。これは学校も同じです。学校の教育力や生徒の現在の力や環境によって、生徒が一番育つ方法が、それぞれ違います。このバランスを考えたものがカリキュラムです。カリキュラムに含まれるのは普段の授業だけではありません。クラブや行事ともつながって、よく生徒が育つのが良いカリキュラムです。

—カリキュラムを変えるタイミングはいつですか。

 一番簡単なのは学習指導要領が変わる瞬間です。けれども、毎年ちょっとずつ変えるというのが自論です。例えば、学校の学力層が上がると、国立の志望者が増えてきます。国立を受けるためにはセンター試験で文系であっても数学が必要です。そこで本校でも、次年度から「数学B」を選択科目に追加します。さらに2022年にはカリキュラムを大幅に変える予定です。そのための準備は2年前からやります。特進クラスが増えればそれに対応できるカリキュラムを作らなければならないからです。しかしそれは、勉強だけできる学校に作り替えることを意味していません。「他の学校とは同じにしたくない」のが私の考えです。

—カリキュラムの変更に当たって、学校内のコンセンサスをどのように得るのでしょうか。

 市川学園から移ったばかりの2016年(当時副校長)は、学校や先生の事が分かりませんでした。そこで現カリキュラムの作成は、教科主任会議で教務部長と各教科主任に最終決定権を与えました。カリキュラム案の採択方法は、時間を無駄にしないよう、多数決原理にしました。まずは、全員で授業の総時間数を決めて、各教科主任に全教科の時間数の配分を考えてもらいました。つまり、英語の先生でも数学の時間割を考えるということです。これをもとに、いくつかのアイデアをベースとして、最終案が2パターンにまで集約されました。2パターンのうち没になった方は、1年生の時に音楽の授業を入れて、合唱祭を中心に学年をまとめていくというカリキュラムです。市川学園で行事を中心に学年をまとめた私の経験がアイデアに生かされました。そして、最後まで残ったのが、今の「超攻撃型カリキュラム」です。

 コンセンサスを得る方法はケースバイケースです。校長に就任して3年たった今であれば、トップの裁量やボトムアップなど、様々な方法でコンセンサスを得ることも可能だと思います。

—先生や生徒と信頼関係を構築する秘訣はありますか。

 お菓子をたくさん配っています(笑)。コミュニケーションのためにお菓子は大切なツールです。何かで頑張った先生にも生徒にもあげています。

—コミュニケーションの極意は何でしょうか。

 注意するときは何回か考えてから言います。逆に褒めるときはみんなの前ですぐに言います。

—カリキュラム以外で大切にしていることはありますか。

 スマートフォンの扱い、生徒の服装、教員の言葉づかいから、働き方改革まで、変えたいことを1年で100個くらいリストアップしています。1個の大きなテーマではなく、100個くらい見直さなければならないのが学校改革です。学校は変化に慣れることが重要です。改革には校長が直接変えるもの、各先生が変えるものがあります。変えるといっても押さえつける言い方はしません。あえていい加減な言い方をしています。面白いところだと、図書館に漫画を入れました。先生と一緒に本を買いに行くと、みんな生徒に読ませたい本を喜んで買っています。

 加えて、授業づくりはとても大切です。授業は閉鎖的になってはだめで、オープンにすべきです。生徒には授業評価を取っています。評価の上がった先生には、他の先生の前で事例発表をしてもらうのですが、「以前授業見学をさせてもらった、○○先生のやりかたを真似して良くなりました」など、良いことを言ってくれます。

 さらに生徒に授業以外についてもアンケートを取って、変えられるところは全部変えました。やってみて、問題が起きればまた変える。例えばスマホの扱い方について。次年度は生徒会に考えてもらおうと思っています。

—今後のビジョンを教えてください。

 私は昨年まで二足の草鞋を履き、千葉大学教職大学院でカリキュラムマネジメントについて研究をしていました。テーマは「東葉高校の学校改革」です。副題は「駅から遠くても行列のできるラーメン店」。この副題には教授から怒られました(笑)。でもやっぱりラーメンも学校も味じゃないですか。学校の魅力を作らなければだめなんです。さらに、学校の魅力は1個じゃないんです。建学の精神、独自のカリキュラム、クラブ活動、進学実績、魅力ある学校生活。その全てにおいて、他の学校にはないワクワクする取り組みをどんどんやっていきたいと思っています。

—ありがとうございました。

【あとがき】 西村校長は、他の学校がやっていないワクワクするような取り組みを打ち出し続けている。今回の取材でも一見奇抜な回答が沢山あった。ところが、どの回答も、「モチベーション」という切り口で、きれいに整理できることに気付いた。今回のテーマであるカリキュラムについてもそうだ。大切なのは、カリキュラムを通して、いかに生徒のやる気を引き出すか。このことに尽きる。そのためには、細かく人を観察し、コミュニケーションを図り、今何が学校に必要かを、先生だけでなく生徒も交えて、学校全体で考え続ける必要があると思った。西村校長が言及した通り、学校の味付けは千差万別。学校ごとに置かれている状況が違う。そのことを踏まえたうえで、いかに各学校が目の前にいる生徒の成長に合わせて工夫を凝らすか。その工夫が形として最も現れるのがカリキュラムなのだということが分かった。そして、カリキュラムは時代や生徒の成長に伴って変化する。これという完成形はないのだとも思った。

 

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