高大接続改革により重要度を増す主体性評価

高大接続改革により重要度を増す主体性評価

文部科学省 大学入学者選抜改革推進委託事業担当
関西学院大学 尾木義久氏に聞く

高大接続改革が進み、2021年度入試から大学入学共通テストの導入が決まり、個別大学の入試では、「知識・技能」「思考力・表現力・判断力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」といった学力の3要素を重視した入試が始まる。学力の3要素の内、評価がもっとも難しいのは「主体性」だが、JAPAN e-Portfolioの完成により、その道筋が見えてきた。JAPAN e-Portfolioの開発を中心となって進める関西学院大の高大接続センター次長でアドミッションオフィサーを務める尾木義久氏に、「主体性評価」を中心とした、高大接続改革の課題と今後の展開について聞いた。


 

――2021年度に向けて高大接続改革が進んでいます。そもそも、なぜ今高大接続改革が必要なのでしょうか。

グローバル化や少子高齢化、産業構造の変化、AIの進展により、先を見通すことが難しい時代にあって、「生涯を通じ不断に主体的に学び考える力」「予想外の事態を自らの力で乗り越えることのできる力」「グローバル化に対応し活力ある社会づくりに貢献することの出来る力」などの育成が重要です。こうした生涯を通じて学び続ける人、つまりアクティブラーナーを養成するためには、高校教育改革と大学教育改革を行う必要があり、特に高校と大学をつなぐ大学入試改革を行い、三位一体の改革を行う必要があるのです。

――大学入試はどのように変わるのでしょうか。

国立大学協会がAO・推薦入学比率を3割にするとし、東大の推薦入試や京大の特色入試など、旧七帝大も特別入試を実施するようになりました。いくつかの大学でその成果を聞いたところ、成功しているとの声が多く聞かれました。今後、大学がディプロマ・ポリシーを達成するためのカリキュラム・ポリシーに基づく学びを提供することにより、優秀な学生を育て社会から評価を得ることが重要になります。少子化とあいまって、各大学が「ふるい落とす入試」から「マッチングの入試」に転換していくことは間違いありません。

――関西学院大は、全国に先駆けて、「アドミッションオフィサー」を配置しました。その背景について教えてください。

個別大学の入試改革では、これまでの知識に偏った学力一辺倒の一点刻みの選抜から、多面的・総合的評価による選抜への転換が求められています。アドミッションオフィサーはこのような入試を支える専門人材であり、文部科学省もアドミッションオフィスの整備・強化、アドミッションオフィサーの配置による入試改革を促進しています。関西学院大のアドミッションオフィサーもこの趣旨にそって配置される人材であり、従来から入試に関わり、入試制度構築においても主要な取り組みをしていた幹部職2人が「専任職員」としてこの任にあたる、全国でも先駆けといえる取り組みです。

――アドミッションオフィサーの具体的な仕事は?

「入試における審査」「志願者への助言」「入試及び学生募集にかかる企画立案」があります。特に入試における審査や、入試制度の企画立案は、これまでは教員の業務であり、職員が携わらない領域でした。今後はSGH公募推薦入学試験やSSH公募推薦入学試験を手始めに、総合型選抜入試、一般選抜入学試験の対面審査や書類審査に携わることが検討されています。アドミッションオフィスが様々な情報を集めて、受験生をスカウティングすることも考えられます。

高大接続改革では、学力の3要素を適切に評価することが求められています。特に高校での新たな学びである「主体的対話的かつ深い学び」(アクティブラーニング)や「探究」によって培われた学力を評価する必要があります。そのためには「一人一人を見つめる入試」に転換していく必要があります。オックスフォード大では1万6000人の受験生全員を3日間にわたって選抜を行っています。そこまではできなくとも、一人でも多くの生徒に会って、主体性を見極めるための取り組みをしていきたいと考えています。

――21年度からの大学入試改革により、学力の3要素が重視されます。まず、知識・技能や思考力・判断力・表現力を見るためのペーパーテストはどのように変わりますか。

これまでの入試では、受験生の成績に差をつけて正規分布するように、重箱の隅をつつくような難問を入れていました。今後はそうした難問に代わって、思考力・判断力・表現力を問う問題になるでしょう。知識・技能をクリアした上で、思考力・判断力・表現力で差がつく問題により、入試の成績が正規分布することになると考えます。

――記述式問題を導入する大学は増えますか。

全大学が導入するかは不明ですが、記述式問題を導入する大学は増えると思います。関西学院大も21年入試からの導入を検討しています。ただ、複数の題材を使いながら、思考力・判断力・表現力を見る入試に移行するには、作問や採点体制の整備が大変です。特に採点は教員が総出であたる必要がでてきます。

――次に学力の3要素の内の主体性評価について教えてください。関西学院大は文科省委託事業の「大学入学者選抜改革推進事業」のうち「主体性等分野の評価手法の調査研究」の代表大学です。「主体性等」の評価尺度・基準の開発はどのように行っていますか。

今回の高大接続改革においては、新学習指導要領におけるアクティブラーニングを中心とした高校教育の改革を入試で評価することが重要となっています。アクティブラーニングは探究との関わりが密接であり、これらを先導的に実施しているSGH校やSSH校、IB校の取り組みから評価基準尺度の開発を臨床的に行っています。また、教科・科目以外の高校での学びや活動についての評価も求められています。こうした生徒の学びや取り組みについて後述するJAPANe-Portfolioに蓄積された情報から何をどう評価できるかについて検証を行い、評価基準・尺度を示すことについて取り組んでいます。

主体性評価を可能にするJAPAN e-Portfolio

 

――「主体性等分野の評価手法の調査研究」の成果として、「ICT活用による入試モデルの構築」があります。これを実現するための高大接続ポータルサイトJAPANe-Portfolioとは、どのようなものですか。

JAPAN e-Portfolioは、委託事業で構築した高大接続ポータルサイトです。生徒が主体性等に関わる諸活動を記録し、入試において「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を適切に評価し多面的総合的評価の実現に貢献するものです。

「知識・技能」、「思考力・表現力・判断力」はペーパーテストやレポートで見られますが、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の評価はペーパーテストではできないので、ポートフォリオが必要なのです。深い学習は日々の振り返りから始まると言われています。生徒がポートフォリオにおいて振り返りをすることで、メタ認知により自分自身を知ることになり、主体的に学びへ向かう力が育成されることが期待されます。

JAPAN e-Portfolioは、1年次から活動歴を入力することが特徴です、大学は1年次から蓄積された生徒の学びのデータを参照し、学びの成果だけではなく、生徒の成長のプロセスにスポットを当てて評価することが可能になります。

――合格発表までの期間が短い、一般入試で活用できますか。

ポートフォリオの活用法として、①出願資格として利用する、②得点化する、③合否判定の参考とするという3パターンが考えられます。一般入試は受験者数が多く合否判定までの時間がありませんので、一般入試の出願前、例えば11月にJAPANe-Portfolioの情報をプレエントリーしてもらい評価することも考えられます。さらにペーパーテストの成績である程度人数を絞った上で活動歴を見るなら、一般入試でも丁寧な選抜ができると思います。JAPAN e-Portfolioができたことにより、主体性評価のプラットフォームが構築できました。各大学が自大学にあった活用をすることで、主体性を評価する選抜ができると思います。課題は、各大学が主体性をどう捉えるかです。新たな高等学校の学びにより身につける「主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力」を評価しなければ、高校教育改革が進まなくなります。

――現時点で、JAPAN e-Portfolioの活用を考えている高校や大学はどのくらいあるのですか。

実証実験への参加の意向を示している大学は95大学で、来春入試で実際に活用するのは10大学程度です。21年入試では大幅に増えると思います。現在のJAPAN e-Portfolio を利用している高校生は約3万人ですが、今夏に民間のポートフォリオと連携することで、120万人くらいの活用が見込まれます。

学力の3要素をバランスよく見る中での主体性評価

――高校現場からは、主体性の点数化をしないでほしいという意見もあります。

主体性に関する評価について、主体性に関する部分だけで合否を決めるという誤解があるようですが、総合的・多面的な評価を行うことになりますから、JAPAN e-Portfolioの情報だけで選抜が行われる訳ではありません。また、入試の中で主体性をどの程度重視するのか、学力の3要素の中での重み付けを各大学が入試ごとにすることになります。AOや推薦入試では主体性の比重を大きく、一般入試では学力検査の比重を大きくということになると思います。

――AO入試や推薦入試でどのような活用が想定されますか。

AO入試などでは、生徒がアピールした高校時代の活動を、面接で深掘りされますが、ポートフォリオに活動歴が蓄積されていますから、ポートフォリオを活用したプロセスを評価する一次選考が可能になります。AO入試で論文を評価する際、複数の生徒の共著になっており、評価に悩むことが多いのですが、ポートフォリオを見れば、その生徒が「どの部分を書いたのか」「どんな文献を参考にしたのか」「主体的に参加していたのか」などのプロセスが分かるので、共著でも個人の評価が可能です。

――先生はポートフォリオ上で生徒の活動に対する承認をしなければいけません。すべての生徒の記録を読むのは大変な労力ではないですか。

当初は、そのような危惧が聞かれましたが、21年度入試以降、調査書の記載内容を充実することが決まってから状況が変わりました。現時点では紙ベースで生徒に活動歴を提出させ指導要録を作成されていると思いますが、生徒の活動が十分に把握できていないのが現実です。その点、ポートフォリオに生徒の活動が蓄積されていれば、その情報をもとに指導要録を作り、調査書を書くことができます。生徒により蓄積された情報が指導要録や調査書作りにつながっていくことが、高校の教員の働き方改革につながります。承認作業に関しては、高等学校からの意見を十分に採り入れ、事実に関する情報に限定しており、記載内容の事実に間違いがなければボタンをクリックするだけにしています。教員が実際に出願書類に記載しなくていい分、手間は省けると思います。

――ポートフォリオの書き方の指導は必要ありませんか。

JAPANe-Portfolioの入力項目は「探究活動」や「生徒会・委員会」など8項目あります。そのすべての項目について「振り返り」と「気づき」に関する入力領域があります。例えば、「気づき」の項目は生徒自身の責任で入力しますが、「こうすれば大学に合格する」という観点での指導はなく、平素の学習指導の中で「気づき」の書き込みをもとに、生徒と対話をすることが重要です。最終的には生徒自身がしっかりとした振り返りができるようになる。それこそが主体性ではないでしょうか。大学はそつのない記載が見たいのではなく、1年次からの変化、成長を見たいと考えると思いますので、拙い内容や失敗があっても差し支えないのです。ですから、ポートフォリオの指導は生徒との対話に重きをおいてほしいのです。

――保護者は、自分の子どもが優位になるような活動をさせてほしいと言わないですか。

ある大学が生徒会活動を評価すると発表すると、うちの子を役員にしろと言われるのではないかと危惧する高校もあります。ただ、そこで立ち戻ってほしいのは、ポートフォリオの情報だけで選抜されることはないということです。学力の3要素を多面的総合的に評価します。「知識・技能」など大学で学ぶための基礎学力がなければ主体性評価だけで合格にはなりません。

――習熟度別クラスをやめ、フィールドワークに力を入れるようになって、東大合格者が増えた首都圏の一貫校がありました。この流れは、高校教育全体としてはいいことですが、みんなが同じことをやったら合格実績は変わらないのではないでしょうか。

探究活動やフィールドワークのテーマは高校ごとに違います。「社会に開かれた教育課程」として大学、企業、行政との連携など様々な活動が考えられます。主体性評価は大学や企業がない農村部や島しょ部は不利という声もありますが、市町村や農協、漁協などと連携することで都会にはできない特色のある取り組みも可能です。高等学校それぞれが、多様な取り組みを行うことになるため、合格実績もこれまでとは異なったものになる可能性もあります。

――探究活動を取り入れる高校が増えると、関西学院大の合格校の顔ぶれは変わりますか。

変わると思います。現在でも、全国の大学合格実績がそれほど高くなくても、推薦入試でコンスタントに合格する高等学校があります。この学校の出身者はGPAがとても高いことが特徴です。この学校では知識・技能一辺倒の受験指導ではなく、学びへの興味・関心を高める教育に力を入れているのです。ですから探究活動など高校時代に学びの興味関心や意欲を高める教育を受けている生徒は、一定の「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」を有していれば関西学院大に合格できるようになると思います。難関大進学実績を上げるために特進クラスを作ってきた流れから、知識・技能と併せて探究活動に力を入れる方向に変わっているのが現状です。

――高校での活動歴を見るとなると、通信教育の生徒などは不利になりませんか。

高校の教育改革の内容を入試に活かすという観点からは、ポートフォリオを活用した入試は間違っていないと考えていますが、高卒認定の資格取得者や通信教育、高校を長く病欠してしまった生徒などが蚊帳の外に置かれることがあってはなりません。再チャレンジのシステムとしての一般入試は残すべきで、学力3要素の重み付けをどうしていくかです。また、アメリカのように多様性の確保という観点での選抜も、考えなければならない課題の一つです。

――21年度の大学入試改革が差し迫る中、各高校はどのようなことを心がけるべきですか。

大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告にある通り、調査書や推薦書、提出書類の充実が求められています。こうした状況に対応するためには、生徒の活動を十分に把握することが必要です。調査書は、表裏一枚の制限がなくなり、これまで以上に丁寧な記載が求められます。これに対応するには、生徒のポートフォリオを活用する以外に方法はないと考えています。

また21年度入試においては、学力の3要素を適切に把握する多面的、総合的評価による入学試験の拡大が予想されます。特に短期間に多くの志願者を対象に選抜を行う一般入試での主体性等の評価においてポートフォリオの活用が期待されています。その点からも現1年生については、JAPANe-Portfolioの活用をお願いしたいと思います。

――教育の充実にも活用できそうですね。

新学習指導要領で求められる、アクティブラーニングの視点からの学習過程改善、3つの資質・能力の育成と学習評価の充実が課題であり、各高等学校ではカリキュラムマネジメントが求められます。そのためには生徒の資質・能力の評価が重要になります。特にペーパーテストで測れない「学びに向かう力、人間性」を評価するために、生徒の振り返りなどが記載されたポートフォリオ活用により「学びの成果を可視化」する取り組みが必要です。「何を教えるか」から、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」。「ティーチング」から「ラーニング」への転換、つまり学習者の視点からの指導要領の改革の対応にはポートフォリオは必須のツールです。ただ、こうした取り組みは指導要領導入の年度を境に、急に実施できるわけではありません。あらかじめ高等学校として周到な準備を進めていく必要があると考えています。

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