過去と未来の架け橋となる文化遺産を残す

過去と未来の架け橋となる文化遺産を残す

文化遺産を次の世代に残すのは、今を生きる我々の責務。龍谷大学文学部の歴史学科文化遺産学専攻では、文化遺産を研究し、これらを守り伝えるための教育・研究を進める。文化遺産学専攻の学びの特徴と卒業後の展望について、文化財保存修復の権威である北野信彦教授に聞いた。


―龍谷大学文学部の歴史学科は、日本史学、東洋史学、仏教史学、文化遺産学の4専攻から歴史にアプローチが可能です。その一つ文化遺産学専攻では、どのような教育・研究が行われているのでしょうか。

歴史の勉強は古文書などの文章を検証することが基本ですが、物的証拠といえる文化遺産について学ぶことも重要なアプローチです。文章は都合の悪いことを書かないという、勝者の歴史になることもあります。勝者も敗者もない文化遺産を調べることにより、真実が分かることが多々あるのです。龍谷大学の文化遺産学専攻の学びの特徴は、考古資料や建造物、仏像、絵画、工芸品など、文化財自体を調査対象とし、そこから見えてくる、技術・思想・文化史的な視点から歴史像を描いていくことです。中でも、私は文化財の保存修復科学を専門としており、先人から受け継いだ貴重で大切な文化遺産を次の世代に渡していくための教育・研究を行っています。

―文化財の保存修復とは、どのような作業をするのですか。

文化財をこれから長きに渡って残していくための作業は、人間の医者と似ています。まず、臨床検査にあたる分析機器などを使った材質調査と現状把握があります。直接触ると傷むリスクがある文化財を適切に保存するために、温度や湿度、光などの周囲の環境を適正なものにして延命措置する保存科学は、内科的な作業といえます。さらに外科的な措置として、傷んだ所を素材に合わせた材料で手当てする修復技術があり、人間を診るのと同じ手順で文化財の保存にあたっているのです。

―どのようにオリジナルの状態に戻すのですか。

平等院鳳凰堂を例にとると、過去の塗料の痕跡を調べた上で、それを再現したものを使うという科学的な手法を用いました。赤と一言でいってもいろいろな赤があります。僅かな顔料の分析から、平安時代の当時の色を使って修理することにより、平安時代の雰囲気を再現することができるのです。これまで日光東照宮の陽明門や銀閣寺、嚴島神社、海外ではイースター島のモアイなどの修復にもかかわってきました。

文学部歴史学科文化遺産学専攻 北野信彦教授

文学部歴史学科文化遺産学専攻 北野信彦教授
フィールドワークを重視し学生が文化遺産の調査に参加

―修復の現場に、学生も参加できると聞きました。

フィールドワークの一環として、大坂城の一部が残る国宝の宝厳寺(琵琶湖 竹生島)唐門の塗装彩色修理のための調査や、比叡山延暦寺の根本中堂などの現地調査に学生がインターンとしてかかわっています。担当者とのやり取りを間近に見ることができる修復の現場に立ち会うことは、実地訓練になります。普通、入ることができない国宝級の文化財の修復現場でインターンができるのは、大きなメリットです。緊張感のある現場における議論の末、修復の方針が決まった瞬間を見ることで、修復以外に人間関係を学ぶことができるのは、社会に出てからあらゆる局面で役立つはずです。こうしたインターン以外にもフィールドワークが充実しており、今春竣工した東黌の文化財科学室には、実際の修復現場で使用する機器が数多く用意され、学生の実習に役立てられています。

―文化遺産学専攻で学んだ学生の卒業後の進路を教えてください。

実際の修復作業の道に進む他に、博物館の学芸員への道も視野に入ります。博物館では、考古学や美術史、歴史学、民俗学、自然科学などの知識の他に、保存・収蔵の知識が必要です。文化遺産学専攻では、そうした知識の取得が可能なのです。

―文化財修復を仕事にしない学生は。

修復現場でのインターンで多くの人がかかわる現場を見ている学生は、プロジェクト参加者のコーディネートの手法を身に着けています。こうした知識は、どの社会でも役に立ち、強みになります。学んだ知識を地域創生に役立てることもできます。地域が元気になるために、アイデンティティとしての文化遺産があれば誇りを持てます。それをどう描いて地域創生に資するかは、学生時代に培ったものがとても役立つと思います。

文化財修復は過去と未来をつなぐやりがいのある仕事

―文化財修復を学びたい高校生にメッセージをお願いします。

調べる対象の文化財が世の中になければ、研究も調査もできません。それは、長い年月の中で先輩達が大事に残してくれた遺産であり、今度は自分たちが次の代に残す番だということを意識してください。文化財が主役であり黒子的な目立たない仕事ですが、誇りを持って、100年後、200年後、さらにその先を目指して未来につながる仕事に取り組んでほしいと思います。手当ての仕方を間違えると長く残せるものもダメになってしまう文化財修復は重要な仕事です。
実際にいろいろなものに触れて作業をすることで、一般的な歴史の研究より専門家への近道になることがあるのも文化財修復の魅力です。実際、歴史的な新発見が保存修理の現場から見つかることは少なくありません。未来につなぐ仕事の中で、新しい発見があることが、文化財修復の楽しいところです。興味のある受験生はぜひ文化遺産学専攻の門を叩いてください。

文化遺産の教育・研究拠点となる東黌
東黌
今春、大宮キャンパス(京都市下京区)の東黌が新校舎として竣工しました。重要文化財である本館、北黌、南黌や西本願寺境内の建築群と景観的な調和が取れたデザインになっており、京都地域産材の「みやこ杣木」を全面に使用した教室は、講義から国際シンポジウムまで多様な形態に対応が可能です。東黌は、大宮キャンパス全体における教育環境の更なる充実を図るため、講義室や演習室に加え、自主学習および語学学習のための空間として学習支援・ラーニングコモンズも設置されています。

文化遺産学専攻の教育・研究拠点

東黌には、文化遺産学専攻の教学展開に対応する文化財科学室が設置されています。文化財科学室には、走査電子顕微鏡など、文化財の材質や状態を調べるための最先端の機器が数多く導入されています。様々なフィールドで使用する計測機器も充実しており博物館や文化財がある寺社、民家などのチェックや、被災文化財を現地で調査するための機器もあります。これらの機器を活用して、実践的な学内の実習や学外のフィールドワークが行われるのです。
本物の文化財を文化財科学室で検証するプランもあります。現在、龍谷大学では、共同研究などをしている、京都や鎌倉の発掘現場や日光東照宮などの修理現場から試料が運び込まれ、調査・研究するシステムができています。教員やプロの研究員などが機器を操作して調査・研究する姿を実際に見て作業を手伝うことにより、学生の深い学びが可能になるのです。

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