【2017年度大学就職力データ①】有名400社実就職率ランキングから見る大学の就職事情

【2017年度大学就職力データ①】有名400社実就職率ランキングから見る大学の就職事情

文部科学省の発表によると、2017年3月に卒業した大学(学部)生の就職率は97.6%(4月1日現在)で、同省の調査開始以来、最高の数値となった。調査対象校が24校と少なく、就職希望者を分母として算出した数値なので、実態はここまで高くないと思われるが、大学生の就活環境が良好なことは間違いない。こうした環境に置かれると、大学生は欲が出てくるもの。就職コンサルタントは、こう話す。

「大学生の売り手市場化と連動して大手企業志向が強まっています。厳正採用が続いていますが、人手不足感が強い準大手や中堅・中小企業は、やや選考のハードルを下げる傾向にあります。 一方、優秀な学生が集中する人気の高い大手企業は、売り手市場であっても採用基準を緩めることはないので、厳しい採用状況が続いています」

採用のハードルを下げない大手企業は、そもそも間口が狭い。リクルートワークス研究所の調査によると、 17年卒の学生に対する従業員数5000人以上の大企業の求人倍率は0.59 倍で、 学生1人あたり1社に満たない。好調な大学生の就活戦線にあって、大企業に限ると、スポット的な就職難といえるのだ。

さらに企業によっては、就職者が多い大学が限定的だ。「有名企業400社実就職率ランキング」の上位大学の卒業生が個別企業に占める割合を見ると、商社や大手不動産は、三菱地所
97%、住友商事95.5%、伊藤忠商事93.3%。製造業では、パナソニック87.7%、キヤノン78.6%。損保では三井住友海上火災保険75.6%、証券は大和証券グループ70.2%、メガバンクでは三菱東京UFJ銀行が75.4% と高い占有率となっている。

こうした有名企業に強い大学の大半は難関大。その中で3年連続、1位をキープしているのは一橋大。同大の就職者数トップ3は、三菱東京UFJ銀行、みずほFG、三井住友銀行といった3大メガバンク。その他、東京海上 日動火災保険、トヨタ自動車、伊藤忠商事など、幅広い業種に就職している。 東京工業大は、 14年に1位になって以来、2位が続く。今春、最も多く就職したのは三菱電機で、以下、トヨタ自動車、日立製作所など。両校の大手企業に対する就職力は、圧倒的に高い。

私立大最難関の早慶上智は、慶應義 塾大が3位、上智大が4位、早稲田大が7位となった。早慶の就職者が最も多い企業がみずほFGなのに対し、上智大はANA。女子学生の比率が高い同大らしく、キャビンアテンダントが多いことが特徴だ。銀行にも強く、ANAに次いで就職者が多いのは3大メガバンクだった。

有名企業400社の実就職率の上位大学は、毎年ほぼ固定されている。では、ランキングの中の大学はなぜ大企業に強いのか?企業400社に就職する立教大キャリアセンター部長の佐々木宏教授は、高い就職力の背景について、こう話す。

「1年次からのキャリア教育を大切にしています。就職は人生の長いキャリアにおける通過点という位置づけで、 就職だけを意識するのではなく、ゼミ や留学、クラブ活動など、目標をもって本業をやりきることの重要性を伝えています。大学生活の成果をアピールできることと、身近な先輩の卒業後の活躍を知って、有名企業に就職する学生が多いのです」

長い歴史の中で、卒業生が大企業で活躍しているのは、ランキング上位大学の大半の共通項。大企業で働く先輩 と気軽に接する機会が得られることは、 就活において大きなアドバンテージになるのだ。

17年卒の学生は、採用広報の開始は 3月で変わらず、選考開始が前年の8 月から6月になる圧縮スケジュールになった。選考開始が4月から8月に変更になった16 年卒ほどの混乱はなかっ たものの、企業や業界研究が不十分な学生が多く見られた。そうした状況でも、立教大の就職は好調だった。

「3年次はキャリアガイダンスに始まり、業界研究や卒業生訪問、インターンシップなどステップを踏んで自分の将来の選択をしていきますので、圧縮スケジュールでも戸惑うことなく就職できています」(前出の佐々木教授)

就活が圧縮スケジュールになったことにより、企業は採用活動の変更を余儀なくされた。その結果、大手企業に 強い難関大に追い風が吹いたようだ。 就職コンサルタントは言う。

「就活スケジュールが短期化したことにより、3月以前のプレ広報が本格化しました。近年はプレ広報の参加者から有望な学生を選抜して母集団を形成し、その中から3月以降にエントリーした学生を対象に面接対策などの支援イベントや社員との交流会などを開き、6月に内定を出すという〝選抜ルート〞ができています。対象者は難関大の学生が中心になっています」

採用活動の変化はもう一つあり、最初から特定の個人に絞って採用活動をする傾向が強まっている。

「社員の知人や友人などの人脈を活用した〝リファラル採用〞が増えています。自社で活躍している社員の知り合いは活躍する可能性が高いと考える企業が多いのでしょう。最近の採用活動は一人ひとりを丁寧にみる、個別のコミュ ニケーションが主流ですが、リファラル採用なら事前に基礎的な情報を知った上でコミュニケーションを積み上げられるので、採用活動がスムーズに進むのです」(就活コンサルタント)

選抜ルートはもちろん、リファラル採用においても、難関大出身の社員が多数を占める大手企業で大学の人脈が活用されるなら、大企業の就職実績が 高い大学が有利になる。さらに就活環境の変動も難関大優位に拍車をかけそうだ。リクルートワークス研究所の調べでは、18年卒の学生全体の求人倍率は1.74倍から1.78倍と前年を上回る一方、大手企業の求 人倍率は0.39倍に下がる。好調な就職状況は続くが、スポット的な就職難はさらに強まる。そうなると、大手企業の就職は選抜ルートやリファラル採用にのりやすい、難関大がさらに有利になると考えられる。

とはいえ、その対象となるのは、有 名企業400社の実就職率ランキングの上位大学だけではない。前出の50校の企業別の占有率を見ると、3大メガ バンクでは、みずほFGが59.1 %、J R東海 49.3%、三菱自動車工業 35.9%などとなり、50校以外の伸びしろもあるのだ。

大手でも採用大学の裾野が広い企業があり、さらに個別のコミュニケーションが採用活動のトレンドになるなら、 大学の支援と学生の頑張り次第で、これまで固定的だった有名企業400社 実就職率ランキングが変化する余地はある。

文責 井沢 秀(大学通信)

 

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