【科研費に注目】伝統に裏打ちされた国立大の研究力

【科研費に注目】伝統に裏打ちされた国立大の研究力

国立大は国策として様々な役割を持って誕生した経緯がある。その伝統は現在に受け継がれ、研究力が高い大学が数多くある。歴史背景を中心に研究力が高い大学の要因を探ってみた。


国立大人気は根強い。多くの受験生に支持される背景には、学費の安さや地元志向などがあるが、大前提として国立大のポテンシャルの高さに期待している面も大きいのではないか。特に研究面で優れた大学が多い。研究力のベースともいえる、大学院への進学率を見てみよう。大学通信が調べた今春の主要70国立大の大学院進学率(大学院進学者数÷卒業者数)は、25・9%で卒業生の4人に1人が進学している。公立大は13・6%、私立大は5・6%だ。
こうした大学院進学率の高さもあり、科学研究費獲得額ランキングの上位はに、京都大、大阪大、東北大、名古屋大、九州大、北海道大と旧帝国大学が母体の大学が並ぶ。

【工業専門学校が母体の学部は研究力が高い】

旧七帝大の研究力の高さは当然として、旧制専門学校などが母体となって設置された地方国立大も、研究面で優れた成果を残している大学が数多くある。特に理工系学部は地方にあっても研究力が高く、結果として多くの科研費を獲得している。その背景にあるのは、各地域の産業振興のために作られた工業専門学校が母体となっているケースが多いことだ。19位の新潟大の工学部は、1923(大正12)年にできた長岡高等工業学校を母体としている。同学部の福祉人間工学科は工学と福祉の融合による高齢者や障害者のための技術開発を目指すなど、現代のニーズにあった新しい取り組みをしている。21位の徳島大は、青色発光ダイオードを開発し、14年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏の出身校。同大の工学部は、1922(大正11年)設立の徳島高等工業学校から続く歴史を持つ。1993年に設置された光応用工学科は、光を名称に付けた国立大初の学科だ1910(明治43)年に上田蚕糸専門学校として設立された、26位の信州大の繊維学部は日本で唯一の学部であり、地元高校の期待度も高い。長野の県立進学校の進路指導教諭は言う。

「ファイバー工学などに関する最先端の研究は生徒にとって魅力的です。信州大が中高生を対象に行っているサイエンスパートナーシッププログラムを通じてそうした技術に触れることにより、進学のモチベーションが上がっています」

同学部は歴史に裏打ちされた技術の他に機械・ロボット系が設置されるなど、繊維にとらわれない幅広い研究ができる学部でもある。伝統のある学部が最先端の研究をしている例は他にもある。上田蚕糸専門学校と同年にできた米沢高等工業学校
から始まる38位の山形大の工学部は、工学部創立100年を機に有機材料の世界的な研究拠点である「有機エレクトロニクス研究センター」を立ち上げた。

64位の九州工業大は、1909(明治42)年に私立の明治専門学校として始まり、後に官立に移管した大学。66位の秋田大の国際資源学部は、1910(明治43)年に設立された秋田鉱山専門学校が母体となった日本で唯一の山学部を改組してできた学部だ。秋田大の合格実績が高い公立校の教諭は、国際資源学部の先進性に注目して、こう話す。

「学部の歴史的な背景から地質関連分野に強く、レアメタルや地元で調査が進んでいるシェールガス採掘など、開発が待たれる最先端分野の研究力に注目しています」

【意外に低い地方国立大の入試のハードル】

ところで、このように伝統に裏付けられた研究力を持つ地方国立大の理工系学部だが、入試のハードルはそれほど高くないようだ。予備校関係者は言う。

「地方国立大は師範学校や旧制専門学校などが集まってできている大学が多く、学部ごとにキャンパスが離れているケースが多い。今の高校生は総合大学志向が強いことに加え、理工系は定員規模が大きいので、人気が高くても志願者が大きく増えないのです」

確かに、ここまで見てきた大学の内、新潟大の工学部や山形大の工学部、九州工業大の工学部の倍率は2倍台(志願者数÷合格者数)だ。これらの大学以外にも、3倍を切る理工系学部は少なくない。同様の計算式で私立工科系大学の倍率を出すと、芝浦工業大の工学部が3・9倍、東京電機大の工学部が4・3倍、大阪工業大の工学部が4・0倍などとなるのでハードルの低さが分かる。難易度もそれほど高くない大学が大半だ。
理工系の学費は私立大が国立大を上回るため、都市部の受験生が地方の国立大に進学しても学費面の問題はない。北陸地区の国立大関係者は、こう話す。

「理工系の場合、東京や大阪の学生が自宅から私大に通う場合と、地方に下宿して国立大に通う場合の4年間の学費は、一般的に後者の方が80万円近く安くなります」

地方国立大は就職・研究力の高さに加え学費が安く、さらに入試のハードルも低い。大学の立地条件を度外視して、地方国立大の理工系学部を見直してみてはいかがだろうか

特集カテゴリの最新記事

ユニヴプレス