【農学部特集】大きく広がる農学系学部の可能性2017

【農学部特集】大きく広がる農学系学部の可能性2017

農学部という名称から思い浮かぶのは、文字通り農業や畜産といったイメージが強いかもしれない。実はこうした分野をベースとしながらも、最新の学びを展開し、就職状況も好調なのが農学系なのだ。


農学系は、理学や生命科学から経済学まで、幅広い学問分野をカバーしている学部だ。動植物の生産を教育・研究のベースとしながら、品種改良のためには最先端のバイオサイエンスの技
術、生産物の物流・販売といった局面では経済学や経営学の視点などが求められる。さらに活動フィールードも、地域農業から世界的な食糧問題の解決など地球全体が対象となる。

幅広い分野をカバーする農学系の学科はバラエティーに富んでいる。動植物の生産以外にどのようなものがあるのだろうか、特徴のある学科を紹介しよう。

【人文社会科学の知識を活用して農学の課題を解決】

人文社会科学の分野からアプローチするのは、京大・農学部の食料・環境経済学科だ。急速な発展のため効率性のみに重点をおいた経済政策を長年にわたり取り続けた結果、人類が直面している食糧問題や環境問題について、人文・社会科学的な研究手法による解決を目指す。

神戸大・農学部の食料環境システム学科には、人文社会科学的なアプローチから、農産物の生産、流通、消費、貿易などに関する社会経済問題を解明・解決目指す食料環境経済学コースがある。さらに同学部は、食料生産に欠かせない水資源や土地資源の利用と保全、作物の栽培、管理、流通に関する機械やシステムの開発といった理系的なアプローチをする、生産環境工学コースを持つ。

私立大では、明治大・農学部の食料環境政策学科が、世界的な飢餓、環境破壊などに関する諸問題について、政策科学、経済学、会計学、社会学、国際関係論といった社会科学の側面から総合的に教育・研究を行っている。龍谷大・農学部の食料農業システム学科は、農を人が社会生活を営む上で不可欠な経済活動ととらえ、食や農を支える生産や流通の社会的な仕組みを学び、そこから導かれる諸問題の解決に取り組む。

様々な手法で環境問題に取り組む大学もある。工学的なアプローチをするのは、宇都宮大・農学部の農業環境工学科だ。環境と調和した農業システムや豊かで美しい田園空間の創出を目指し、環境の創造や管理、評価、再生可能エネルギーやバイオマス資源に関するエンジニアリングなどについて学ぶ。

宮崎大・農学部の森林緑地環境科学科は、森林から農山村・都市域までを相互に作用し合う連続した空間ととらえる。森林や農山村における持続的な農林業の発展や、都市域を含めた緑地の機能の解明、それに基づく技術の確立について、教育・研究を行っているのだ。

酪農学園大・農食環境学群の環境共生学類は、野生動物学と生命環境学の二つのコースにおいて、環境問題を客観的に解析する知識や技術を修得することにより、課題解決のための総合的な判断力を身につける。

【地域に根ざした農学を志向する大学も】

地域の特性を取り入れながら、教育・研究を行う大学もある。琉球大・農学部は、亜熱帯に立地する特質を生かした、亜熱帯地域農、亜熱帯農林環境科、亜熱帯生物資源科の3つの学科がある。

東京農工大・農学部の地域生態システム学科は、自然と人間活動を継続的に維持するためのシステム作りや生物多様性や気候変動などが地球規模で解決が求められる中、地域に根ざして自然と人間社会が共存できる地域環境空間を構想し、設計できる人材育成を行う。

東海大・農学部は、熊本県阿蘇郡に農場・牧場や農産加工場が併設される阿蘇キャンパスがあり、地域と密着した教育・研究を行ってきた。震災被害により同キャンパスはしばらく使用できないが、同様の環境を熊本キャンパス近隣に構築している。

【就職先に多様なフィールドが広がる】

多彩な学びがある農学系は、就職先もバラエティーに富んでいる。例えば、2016年春の東京農業大の就職先を見ると、最も多かったのは19人の全国農業協同組合連合会だが、JR東日本7人、三井住友銀行5人、山崎製パン5人、積水ハウス3人など、幅広い業種に就職している。他大学も含め公務員となる学生も多い。

2016年春の学部系統別の平均実就職率を見ると、農学系の実就職率は89・4%で、就職に直結する資格が取得できる看護などを除くと理工系に次いで高い。

個別大学の学部別の実就職率に注目すると、最も高いのは福井県立大・生物資源学部の100%だった。同大は学部規模が小さいことも有利に働いているが、東京農業大・応用生物学部や明治大・農学部、近畿大・農学部のように、卒業生が500人以上の規模が大きな大学でも、就職率が90%を越える大学がある。農学系の就職率は、最も低い北海道大・農学部でも
81・3%と高い。

農学系の就職率が高い背景には、女子学生の多さもある。学問分野と親和性が高い食品や化粧品などの商品開発において女性ならではの視点や感性、発想が求められ、そのためにリケジョ
を採用したいと考える企業は多いのだ。

【農学系入試のハードルが下がっている】

そのリケジョだが、かつては大学が理系女子を増やすキャンペーンを行ってきたこともあり増えてきていたが、ここにきてその伸びが止まったようだ。14年に数学と理科が新課程に切り替わった際に専門理科の学ぶ範囲が広くなったこと、さらに文系学部からの就職状況の好転もあり、リケジョが減少しているのだ。

リケジョの減少の影響は農学系の志望状況に色濃く現れる。下の表の志願者数を見ると分かるように、農学系は女子の志願者が多いため、リケジョの減少は大学全体の志願者減につながるのだ。15年から16年にかけても農学系の志願者が減っており、表中で両年の比較が可能な大学を集計すると、志願者全体では1286人減、女子だけの比較でも微減となっている。

倍率が下がるのは、農学系志望者にとってチャンスということ。前述の通り、幅広い分野で活躍する人材を養成する農学系は文系科目で受験できる学部もある。生徒の可能性を広げるためにも、農学系学部で何が学べるのか再点検してはいかがだろうか。

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