国公立大学の医学部に何人合格させたか―。医学部合格者数は進学校の実力を測る指標となる。では、国公立大医学部に強い高校はどこか。 2016年入試の延べ合格者と、現役合格者の占有率から検証する。
私立大医学部に比べ学費が格段に安い国公立大の医学部(医学科)は、東大や京大の理系学部と難易度で遜色ない大学が少なくなく難関として広く知られている。
将来性やステータス、就職に有利な資格志向ブームなどを背景に、多くの受験生を集めてきた医学部入試だが、ここにきて沈静化の動きもみられる。
2016年の一般入試の志願者数は、前年比95%で5ポイント減少した。国公立医学部人気が衰えたとまではいえないが、推薦やAO入試の定員が増えたこともあり、志願者が減少傾向なのは事実だ。
大学入試を熟知する駿台予備学校進学情報センター長、石原賢一氏はこう分析する。
「後期入試を廃止した大学もあり、その影響も受けましたが、大学生の就職状況が売り手市場に好転し、医学部志向がやや薄らいだこともあるでしょう。また推薦やAO入試で医学部に合格した受験生は、出願していても一般入試を受けないこともあり、実際の数値以上に志願者が減り、倍率が低下した大学もあるようです」
とはいえ、たとえ倍率が下がっても、国公立大学の医学部が易化したわけではない。
昨年の志願者増の反動から、今年、信州大や徳島大、長崎大が志願者を減らしたが、減少した分は合否のボーダーライン上にいる受験生で、入試の難易度そのものに変化はなさそうだ。
富山大、金沢大、三重大ほか、前年の志願者減の反動で、むしろ倍率が上がった大学もある。
志願者は減少しても、難易度を左右するほどではない。今後も難関であることに変わりはない。
以上、国公立大医学部の入試状況について述べてきた。ここからは本題である、「医学部入試に強い学校はどこか」の分析に入っていこう。
下の表〈国公立大医学部医学科合格者数ランキング〉は、現浪合わせた延べ合格者数に焦点をあてて順位づけしている。さらに、それぞれの進学校の特徴を明確にするために、国公立大医学部と難易度が近い、東大と京大の医学部(東大は理Ⅲ)以外の合格者数も合わせて掲載した。
ランキングに登場する学校は、いずれ劣らぬ進学校で、錚々たる顔ぶれが並ぶ。
とはいえ、医学部と東大・京大の合格者数から傾向を読むと、3つのパターンに分類することができるだろう。
医学部が多い東海、ラ・サール、青雲などに対して、東大や京大の合格者が多い開成や東大寺学園、甲陽学院、西大和学園ほか。そして医学部と東大・京大合格者が拮抗する灘、洛南、海城らの3グループである。
3つのグループの中で、合格者が最も多かったのが東海で、9年連続でトップを獲得し続けている。
東海の合格校は名古屋大や名古屋市立大、岐阜大など中部圏の大学が中心だが、一方で東大や京大、東北大といった旧七帝大のすべてに合格者を出している。
また、医学部進学コースを設ける学校は多いが、同校では特化したクラス編成はなされていない。東大志望者も医学部志望者も同じ教室で学ぶ。
安田教育研究所代表の安田理氏は、こんな分析をする。
「医学部の合格実績が高い学校は、特別にクラスを用意しなくても、教員が医学部志望の生徒のニーズに対応できる力量があるのです。医師は適性が重要な職業であり、総合学習の時間などを使い、医師としての覚悟を醸成する機会を設けている学校も少なくありません」
そもそも医学部の合格実績が高い学校は、基本的に医学部への志望者も多い。前出の石原氏はこう語る。
「医学部に強い学校は中高一貫校が多数派を占めます。合格実績を頼りに、優秀な医学部志望の生徒が数多く入学してくることで、合格者が多くなるのです。医学部志向は地方でより強く、大きな産業が比較的少ない近畿圏でも顕著です」
教員と生徒のレベルが高いのは、ランキング登場の公立校にもいえることだ。公立で合格者が最も多かった熊本は、熊本大、九州大、鹿児島大など、九州の大学に多数の合格者を送る。
札幌南は北海道大や旭川医科大、札幌医科大。仙台第二は東北大、山形大など。地方の公立高校受験生は、地元大学の医学部に進む傾向が強い。
前出の公立校は、熊本10位、札幌南12位、仙台第二13位と、現浪合わせた合格者数のランキングでは上位に入るが、こと現役合格者数に絞ると校数が減る。〈国公立大医学部医学科 現役合格者占有率ランキング〉では、27位に弘前、29位に仙台第二がランクインするのみだ。
延べ合格者総数に対し、現役合格者数では中高一貫校の比率がいっそう高まった。これは医学部入試の特性によるものだ。石原氏に説明してもらう。
「2次試験の比率が高い東大や京大は、個別試験での逆転が可能ですが、医学部はセンター試験と個別試験の両方で高得点が求められます。現役で合格するには、中高6年間を有効に使える一貫校でないと厳しいのです」
現役が優勢となっている今の入試にあって、医学部は浪人比率が極めて高いという特徴をもつ。見方によっては、東大や京大よりも難しい入試ともいえそうだ。
そのような状況で、卒業生の約2割が現役合格するのが灘である。現役合格者占有率ランキングでは堂々の第1位となり、現浪合わせた合格者数でも第2位を占めている。
灘では中学全体の数学を、中1の段階で終了する。数学に強い生徒たちが集まり、その優位性が、現役合格率の高さを支えているようだ。
現役合格者占有率ランキングでは、灘に北嶺、筑波大付駒場、青雲、東大寺学園が続く。合格者数のランキングでトップになった東海は、今春の卒業生が426人と規模が比較的大きな学校ながら、54人の現役合格者を出し、第8位につけている。
医学部を志望する生徒は、子どもの頃から医師を志す傾向が強い。そのため医学部の合格実績を重視して、学校選びをする傾向が強いようだ。
今回の2つのランキングに登場した学校は、医学部進学に強い伝統を有する学校が大半。医学部志向の生徒が集まることで、医学部進学者を輩出するサイクルが回っているのだ。
その意味で、医学部合格者ランキングに登場する進学校の顔ぶれは、今後も大きな変化はないといえるだろう。
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