各校の大学合格実績は、実績が伸びる年もあれば、停滞したり、落ち込んだりを繰り返していく。それを10年前と比較してみると、意外にも大きく伸びている学校が少なくない。この10で実績を伸ばした学校はどのような取り組みをしているのだろうか。
【2006年と2016年入試の難関大合格者数を比較する】
10年ひと昔とよくいうが、毎年の小さな伸びでも積み重ねていくと、10年経てば大きく実績が伸びていることはよくある。そこで2006年と2016年の難関大の合格実績を比べ、この10年で伸びた学校をピックアップした。
まずは「東大現役合格者が伸びた学校ベスト10」から見ていこう。
06年と今年を比べ、現役合格者が増えている学校を増加順に並べた。トップは渋谷教育学園幕張の37人増。次いで早稲田、聖光学院、豊島岡女子学園で、ここまでが20人超えだ。トップの渋谷教育学園幕張は、06年に現浪あわせて26人だったが、今年は過去最高の76人、約3倍に増えた。現役合格者も同じく約3倍に伸びている。入試対策室室長の永井久昭教諭がこう話す。
「授業を大切にし、おいてきぼりを作らない方針で、授業を理解していないようなら放課後などに教えています。そういった生徒の様子をクラス担任や教科の担当者だけでなく、学年で把握して指導していこうという丁寧な教育を行っています。それと海外大学にも進学者が多いのですが、卒業生が進路ガイダンスを行ってくれ、東大など難関大の様子がよくわかり、身近に感じられるようになってきたことも実績に結びついています。」
次に「京大現役合格者が伸びた学校ベスト10」を見ていこう。
トップは北野の20人増。以下、西京15人、神戸13人、東海と天王寺の12人増だった。公立高が強い。
トップの北野は06年に43人合格で、今年は62人となり19人増だ。合格者に占める現役の合が4割から6割に上がっている。大阪では府立高改革が行われ、全府から応募できる文理学科を北野、天王寺、大手前など府立高10校に設置した。文理学科を設置した10校の京大合格者を10年前と比べると、186人から241人に伸びている。
また、6位には東京の女子学院が入っている。東大合格者数でも上位の学校だ。今年は京大に18人合格し東日本トップだった。中高受験に詳しい安田教育研究所の安田理代表が言う。
「女子学院を選ぶ保護者はリベラルな考え方の人が多く、それほど権威を追わないところがあって、子どもが東大ではなく京大を目指しても認めるのでしょう。女子学院の校風が自由なところが、京大の校風と似ていることもあるのかもしれません」
近年、首都圏で京大人気がアップしている。山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したことも人気の一因だ。
次に「東大+京大合格者が伸びた学校ベスト20」を見てほしい。
トップは渋谷教育学園幕張と日比谷の48人増、3位が開成の34人、4位が堀川の32人、5位が早稲田と聖光学院だ。
トップの日比谷は西などと共に進学指導重点校に指定され、大学進学に力を入れている。東大は06年の14→53人へ、京大が2→9人に伸びている。この伸びについて、中学受験に詳しい専門家は
「今年の卒業生は年に中学進学した人たちです。08年秋にリーマンショックが起き、経済的な問題から10年の私立中進学を諦めたご家庭も首都圏では多かったのです。そのため、公立中から公立高に進学を切り替え、優秀な生徒が公立高に進学した可能性もあります」という。
東大+京大の合格者数で見ると、東京の進学指導重点校は06年の75人から164人と倍以上の伸びだ。日比谷の他では、西が24→47人の23人増、国立が14→30人の16人増などとなっている。
14位の栄東は東大が5→27人に伸びた。埼玉県は長年、県立・浦和が東大合格者数県内トップだった。それが今年初めて私立の栄東がトップに立った。
次に「早大+慶大合格者が伸びた学校ベスト20」を見てみよう。
トップは本郷の176人増。次いで開智、日比谷、洗足学園、早稲田、広尾学園の順となった。
トップの本郷は早稲田大が51→176人、慶應義塾大が24→75人でどちらも約3倍の伸びだ。進路指導部長の山梨英克教諭がこう話す。
「日常生活を大事にすること、諦めないことは生徒によく言っています。自主性を重んじ特別なことはしていませんが、上位大学を目指し、仲間と一緒に入試を突破しようとの機運が学内で高まっています。高校3年の3学期は、それほど学校に来なくていいのですが、生徒は学校に来てチャイムと同時に自習を始め、チャイムが鳴ると休み時間にし、それまでの高校生活と同じように学校に通う生徒が増え、こういった姿勢が実績に結びついたのかもしれません」
国立大は旧7帝大に東京工業大、一橋大のあわせて9大学について、合格者が増えている学校をランキングした。トップは渋谷教育学園幕張で、2位が日比谷、3位が刈谷、4位が早稲田と西京だ。地元や近くに9大学のいずれかがある学校が上位だ。トップの渋谷教育学園幕張は「東大+東京工業大+一橋大」が119人、日比谷もこの3大学で78人、刈谷は名古屋大に106人などだ。
私立大は早慶上理、MARCH、南山大、関西大、同志社大、立命館大、近畿大、西南学院大の15校の合格者数で地域別に伸びた学校をピックアップした。関西学院大は今年から実合格者の公表で、延べ合格者数だった06年と比較できないため除いた。
関東・甲信越トップは大宮開成の531人増。以下、広尾学園、開智、山手学院と続いたトップの大宮開成は05年に中学を開校し中高一貫校となった。
06年はまだ一貫生は卒業していない。中高一貫生が卒業し始めてから合格者が増えている。早慶の合格者も大きく伸びた広尾学園は、06年の合格者は早稲田大に3人だけだった。もとは順心女子学園で、共学にして校名を変更して別の学校に変わった。グローバル教育やコンピュータを使った最先端のICT教育に力を入れ躍進している。前出の安田さんは「新しい学校に生まれ変わって、保護者の期待も大きく、偏差値がうなぎ上りで優秀な生徒が入ってきていることが、実績アップにつながったのでしょう」という。
4位の山学院の合格者数は全国トップ。唯一4桁の1050人だ。年前にも既に598人だったが、それをさらに上回った。7位の昭和学院秀英は千葉トップだ。早稲田大が47→115人、慶應義塾大が12→48人、明治大が48→148人に伸びている。躍進の理由を山崎一男校長に聞いた。
「授業が勝負との考えのもと授業のレベルアップを図ってきました。放課後の補習も会議などに優先して行い、朝の補習は自主参加で参加率が高まりました。教員が進化しないと生徒が難関大に合格しないので、教員の講習会、研修会を行い教員もしっかり勉強しています」
北陸・近畿に目を移そう。トップは大手前で365人増、以下、三島、須磨学園、泉陽、豊中と続く。大阪の府立校が強い。昨年トップだった西宮・市立は関西学院大がカウントされてないためか6位に後退した。京都トップは京都産業大付だ。京都産業大の付属校だが、10年前に15人しか合格者がいなかったが、今年は254人に激増している。
北海道・東北のトップは札幌西で、2位は札幌南、3位は札幌光星、昨年トップだった聖ウルスラ英智は4位となった。
東海のトップは向陽で昨年の18位からの躍進だ。次いで刈谷名古屋、愛知の順。いずれも南山大に強いが、9位の旭丘は地元の南山大合格者が少なく、早慶などが多い。最近の受験生は地元の大学進学志向が強いが、他地区の大学志向が強い学校もあることが分かる。
中国・四国のトップは舟入で、次いでAICJ、ノートルダム清心、基町の順。ここまでが100人以上増えている。舟入は4位からの躍進で、昨年トップの広島国泰寺は13位に後退した。
九州・沖縄トップは昨年に続き筑陽学園、次いで筑前、福翔、修猷館の順で公立高が強かった。
大学合格実績は志望校選びに欠かせないデータだ。各校が何をしているのか、どのような指導が有効なのかを、これからの進路指導に活用してほしい。