全国739進学校進路指導教諭が大学をジャッジ!大学の通信簿

全国739進学校進路指導教諭が大学をジャッジ!大学の通信簿

年が明ければ、大学入学共通テストが待っている。そして私立大、国公立大の入試と続く。
卒業生を送り出したら、すぐに次の学年の大学選びだ。大学通信では全国の進学校約2000校の進路指導教諭に“オススメの大学”を聞いている。エキスパートの意見を参考に、志望校にイチオシの大学を探してみよう。

大学通信では、毎年全国の進学校2000校の進路指導教諭を対象に、〝オススメの大学〟についてのアンケートを行っている。5校連記で項目別に大学を記入してもらい、最初の大学を5ポイント、次の大学を4ポイント……として集計しランキングした。739校から回答を得た本年の結果を見ていこう。

受験料を一部無料に 千葉工業大のコロナ対応

表1 コロナ対応が上手だったと思われる大学

まずは表1の「コロナ対応が上手だったと思われる大学」だ。2020年は新型コロナウイルス感染が拡大し、急遽、授業を対面からオンラインに切り替える大学が多かった。どこの大学も同条件だったが、それでも差がついた。トップは千葉工業大だった。学生全員にiPadを所有させていることから、オンライン授業を問題なく実施。20年の6月には教職員総動員で検温、消毒を実施しながら、早くも対面授業を再開した。学生には無料で食券を配り、学生食堂を朝から晩まで開くなど、健康面への配慮も抜かりない。コロナ不況の到来を見越し、21年入試では共通テスト利用入試の受験料を無料にするなどの対応をとっている。

2位は立教大だ。元々早くからコロナ対策を実施しているが、21年から全学部で試験日自由選択制の入試を実施した。5位の横浜国立大、16位の宇都宮大は、いずれもコロナ禍で大学独自の二次試験を行わず、共通テストのみで判定する入試を実施した。

表2 面倒見が良い大学

次は表2の「面倒見が良い大学」だ。トップは17年連続で金沢工業大。進路指導教諭からの評価は「高校の学びの状況に応じて、学び直しの指導を行っている点」(岩手・県立高)、「入学時に比べて卒業時の能力を高めて社会に送り出しているから」(新潟・県立高)、「まじめな学生をしっかりサポートして、成長させている」(奈良・私立高)などだ。00年から他大学に先駆けて数理工教育研究センターを設置し、高校の数学・理科の復習から大学の専門領域で活用できる数理学習まで、個別学習指導が受けられる体制を整えている。学生を伸ばす授業として代表的なのは、4年間必修の「プロジェクトデザイン」というPBL(*)型科目だ。テーマにそってグループを組んで学習、議論を重ねて発表をするというもので、4年間で多様なチームを組みながら力をつけることができる。

*PBL……Project Based Learningの略。「問題解決型学習」などと訳される。学生が自ら問題を見つけ、さらにその問題を自ら解決する能力を身に付ける学習方法のこと。

2位は武蔵大、3位は東北大、4位は福岡工業大、5位は産業能率大だった。武蔵大は〝ゼミの武蔵〟といわれるほど、ゼミナール形式の授業が有名だ。このゼミは少人数教育で、今でいう双方向で授業を進めるアクティブラーニングだ。武蔵大は昔から実践しており4年間必修となっている。22年には新たに国際教養学部を開設することもトピックの一つだ。

表3 就職に力を入れている大学

次に表3の「就職に力を入れている大学」を見てみよう。トップは12年連続で明治大。学生の就活サポートに力を入れていることで知られ、有名企業に強い。今年の就職先企業を見ると、明治安田生命保険、楽天グループ各38人、SCSK32人、NEC31人、あいおいニッセイ同和損害保険、三井住友銀行各27人などだ。次いで金沢工業大、九州工業大、法政大、14位から5位に上がった福岡工業大、産業能率大の順だった。

ランキングには実就職率(就職者数÷〈卒業生数 — 大学院進学者数〉×100)が高い大学も多い。卒業生数1000人以上で実就職率トップの金沢工業大が2位、実就職率3位で国公立大13年連続トップの福井大が9位に入っている。

各地域からの評価を見ると、北海道・東北からは金沢工業大がトップで、関東・甲信越と中国・四国は明治大、北陸・東海は福井大、近畿は立命館大、九州・沖縄は九州工業大を抜いて福岡工業大が高評価だった。関東・甲信越で2位の産業能率大は、ポイントすべてがこの地区だ。

表4 教育力が高い大学

表4の「教育力が高い大学」のトップは15年連続で東大だ。2位は東北大、3位は京大で、旧七帝大がトップ3を独占した。4位は公立大トップの国際教養大、5位は大阪大、6位は私立大トップの東京理科大だった。

「改革力」は入試変更に積極的な早稲田がトップ

表5 改革力が高い大学

表5は「改革力が高い大学」だ。早稲田大がトップに立ち、それまで5年連続1位だった近畿大を抜いた。早稲田大は政治経済学部をはじめ、積極的な入試改革が高い評価を受けたようだ。入試改革を実施した大学では、昨年の10位から4位の立教大、14位から7位の青山学院大、27位から10位の千葉工業大、26位から15位の上智大などの躍進が目を引く。早稲田大、青山学院大、上智大など、国公立大と同じように、共通テストと独自試験の選抜に変えた大学の評価が高かった。

2位の近畿大は今年で8年連続志願者数日本一を達成。来年、情報学部を新設する。まだまだ改革の手を緩めてはいない。昨年より順位を上げた17位の慶應義塾大も同様で、東京歯科大との統合により歯学部設置が動き出したことが評価されたと見られる。

表6 小規模だが評価できる大学

表6は「小規模だが評価できる大学」だ。トップは国際教養大、次いで武蔵大、国際基督教大、産業能率大、会津大、津田塾大の順となった。上位4校はいずれも文系の小規模大学だ。学生と教員の距離が近く、特色ある教育で高い評価を得ている。

さらに、今年の特徴は女子大の躍進だ。昨年の10位から6位にアップした津田塾大、37位から11位の神戸女学院大、265位から14位の恵泉女学園大など、表中の女子大はすべて順位を上げている。コロナ禍での不況到来が懸念される中、就職に強い女子大に注目が集まっている。

昨年から順位をジャンプアップさせた恵泉女学園大は、東京都多摩市にある人文と人間社会の2学部の大学だ。園芸教育に力を入れていることで知られ、学生は毎年、野菜や花を育てている。小規模な大学で教職員と学生の距離が近いことが特徴だ。今年急に順位が上がったのは、ここ数年高大連携を重視し、教育内容を高校現場に広く伝える活動に注力していたことが、コロナ禍で大学情報が不足する中、評価されたからではないだろうか。

表7 入学後、生徒を伸ばしてくれる大学

表7は「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」だ。トップは東北大、2位は東京理科大、3位は金沢工業大、4位は東大、5位は大阪大の順となった。東北大は「面倒見が良い大学」「改革力が高い大学」がいずれも3位と、評価が高く人気もある。

表8 生徒に人気がある大学

表8は「生徒に人気がある大学」だ。トップは2年連続で明治大、次いで早稲田大、立教大、青山学院大、慶應義塾大の順で、ここまでは昨年と全く同じ顔ぶれだ。6位に国立大トップの東北大、7位に昨年の19位からアップした上智大となった。首都圏の私立総合大が上位を占める。やはり入試で5教科7科目の国立大は敷居が高く、3教科の私立大なら手が届きそうな感じがあるからだろう。また、どのランキングにも必ず出てくる理工系大学だが、この項目だけは入っていない。生徒の人気は総合大学ということのようだ。

表9-1 偏差値や地理的条件、親の資力などの制約がない場合、生徒に勧めたい大学(国公立)
表9-2 偏差値や地理的条件、親の資力などの制約がない場合、生徒に勧めたい大学(私立)

表9は「偏差値や地理的条件、親の資力などの制約がない場合、生徒に勧めたい大学」だ。国公立大トップは7年連続で東大、次いで京大で、3位が東北大だった。トップ10には旧七帝大全校と東京工業大、一橋大、公立の国際教養大が入っている。難易度の高い大学が上位に来ていることが分かる。地域別に見ると、関東・甲信越ではトップは東大、近畿では京大が首位だった。

一方、私立大はトップが早稲田大、2位が慶應義塾大で、この2校が3位以下に大差をつけた。以下、国際基督教大、東京理科大、明治大、上智大の順だ。やはり難易度が高い大学が上位に来ている。地域別では、関東・甲信越は早稲田大、近畿では同志社大がトップだった。

コロナ禍で地元志向と就職への関心が強まる

グラフ1 生徒に人気のある大学はどのような大学でしょうか?
(複数回答可)

次にグラフを見ていこう。グラフ1「生徒に人気のある大学」では、「自分のしたい勉強ができる大学」が76.9%で11年連続トップだ。次いで「知名度が高い大学」58.9%、「社会的評価・イメージが良い大学」57.3%、「家から通える大学」57.1%、「資格が取得できる大学」55.2%、「就職に有利な大学」53.3%の順。ここまでが5割を超えている。特に「家から通える大学」のポイントが昨年より上がっており、コロナ禍で地元志向が高まった様子がうかがえる。「資格取得」「就職に有利」のポイントも上がっている。すでに大学生の新卒を採用しない企業も出ており、就職に関心が高い生徒も増えているようだ。逆に大きく下がったのが「留学制度の充実・国際交流の活発な大学」だ。昨年より10ポイントも下がっており、コロナ禍の影響で留学できないことから関心が薄れていると見られる。

グラフ2 大学は改革を実施し、受験生に魅力をアピールしようとしていますが、どういった改革が受験生に受け入れられているのでしょうか?
(複数回答可)

最後にグラフ2「受験生に受け入れられる改革」について見ていこう。トップは「キャリア教育など就職支援」で46.1%、2位は「学校推薦選抜型選抜・総合型選抜の充実」で44.8%、「今、人気の学部・学科の新設」で36.9%、「資格取得支援」で34.6%だった。就職支援など、就活のサポートへの期待は高いが、一般選抜以外の入試方式の改革も求められている。

コロナ禍が続く限り、今後も安全志向の入試になることは確実で、地元志向も高まりそうだ。しかし、コロナ禍はやがて収まる。こういった時こそ、強気な受験を心がけたい。エキスパートである全国の進路指導教諭の意見を参考にしながら、「入れる大学選び」ではなく、「入りたい大学選び」を大切にしてほしい。

特集カテゴリの最新記事

ユニヴプレス