【変わる高等教育】社会とのニーズの乖離を埋める世界的動き

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アクティブ・ラーニングなどの実学教育が注目を集めているのは海外でも同じだ。国際的な技術者教育の枠組みであるCDIO イニシアチブについて、国内で唯一の加盟大学であり、実践的な技術者教育が企業から高い評価を受ける金沢工業大学の取り組みを事例として紹介する。


大学はアカデミックな機関であり、就職のための機関ではないとする考えはもう古い。
1960年に16万人にすぎなかった大学入学者数は現在60万人を超え、半数以上の18歳が大学に進学するようになった。大学はエリート養成の場ではなくなり、実社会で役立つ教育が求められるようになっている。
海外の大学では、特に理工系の分野において、新しい教育の動きが目立つ。かつては海外でも、研究者の養成を大学教育の主眼に置いていたのだが、卒業後に研究者になるのはごく少数で、実際には多くが企業の開発職に従事していた。社会で求められるものと大学教育が乖離し始めていることに、多くの大学が危機感を覚えていたのだろう。
そうした中で2000年に発足したCDIOイニシアチブは、スタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学など、世界で100を超える工学系大学が加盟する、工学教育の改革を進めるための国際的組織。プロジェクトスタート以来、従来型の技術者教育と、実社会がエンジニアに求めるニーズとのギャップを埋めるために、新たな視点での技術者教育の考案と開発を進めている。

【実社会で求められているチームでの問題解決力をCDIOの手法が高める】

CDIOは、Conceive(考える)、Design(設計する)、Implement(実行する)、Operate(運用する)の頭文字。これらを一連のサイクルとしてとらえ、専門知識とともに「CDIOシラバス」で示される、知識や個人スキル、チームワークなどの能力を身につけていく。「工学の基盤となるサイエンス」と「実践・スキル」のバランスを重視した、質の高い教育の実現を目標としているのだ。
国内の大学で唯一、CDIOイニシアチブに加盟するのが金沢工業大学(KIT)だ。1995年からプロジェクトデザイン教育(当時は工学設計教育)をカリキュラムの支柱に据え、獲得した知識を応用し、チームでの問題発見と解決につなげる教育を行ってきた。先駆的な教育ができたのは、専門教員の5割を企業出身者が占め、実社会で求められる能力を熟知していたことが大きい。CDIOの考え方が近かったこともあり、KITは2011年からメンバーとして活動し、世界の技術者教育をリードする大学との情報交換を行い、絶えず改革を進めている。
2012年度からはプロジェクトデザイン教育を中心にCDIOを導入。新たに設けた「プロジェクトデザイン実践」という科目では、創出したアイデアをプロトタイプとして具体化し、想定した機能を発揮できるかを実験・検証・評価し、結果を発表することを全学生必修で課している。以前本誌で特集したラーニングエクスプレスや学生ロボコンも、CDIOの手法を海外留学や課外活動で実践するための取り組みだ。
CDIOでは、学生同士で製品開発スキルを実践的に学びあうワークスペース環境も重視される。KITには実験設備や工作機械などを備えアイデアを具体化できる「夢考房」や、365日24時間オーンの自習室、グループで自由に議論しあえるイノベーション& デザインスタジオなど、学生が自発的に学ぶための環境が整う。大学院生が電波を電気に変換する新たな方式を考案し試作した回路が世界最高効率を記録し、IEEE(米国電気電子学会)でBestStudent Paper Awardを受賞するなど、卒業研究や大学院の研究が「Conceive→Design→Implement→Operate」の実践により画期的な研究成果に結びつくことも珍しくない。


【新たな共創教育を推進多様な世代の交わりがイノベーションを創出】

KITの教育に対する企業の反応について、広報課の志鷹英男さんは、
「解が多様にある実社会の問題に取り組める人材の育成が高い評価を得ている」
と話す。2016年3月卒の実就職率〈就職者数÷(卒業者数―大学院進学者数)× 100で算出〉は、96・5%と非常に高く、就職先は首都圏を含めた全国に広がっている。就職者全体の62・9%が上場企業・大手企業・公務員へ就職していることからも、その評価の高さがうかがえる。
以上のような積み上げをもとに、KITでは2016年4月に就任した大澤敏学長が「世代・分野・文化を超えた共創教育」という新たなビジョンを教育の方針として掲げ、さらなるイノベーション創出に取り組んでいる。その特徴は、学生とともに多様な世代が授業に参画する「世代を超えた共創教育」、正課と100を超える課外活動との関連を一目で確認できる「eシラバス」の本格運用、学生同士が得意分野を教えあう独自のアクティブ・ラーニングの実施、社会の多様な課題に取り組むクラスター研究室やチャレンジラボの創設、2020年までに全授業の約50%で理工学英語を取り入れた授業運営など、多岐にわたる。社会人や専門分野の違う学生、異なるバックグラウンドを持つ海外の人々など、多様な人の意見や発想を合わせることで、新たなイノベーションを生み出すのだ。CDIOの考え方を基盤にしたKITの共創教育は、技術者教育の最先端として、これからも社会で活躍する人材を生み出していくことだろう。

大学院のプロジェクト型授業で学生が設計・製作した先尾翼型模型ジェット機。 企業における開発プロセスに沿った教育が行われているのが金沢工業大学の強み。 ターボジェットエンジンを搭載した迫力のある飛行は同大学のWebサイトで動画配信されている。
http://kitnet.jp/video/play/20161019_aeronautics-jet-plane.html