新たな教科「情報」が加わり、数学や国語の難化が見込まれる大学入学共通テストだが、意外なことに志願者は増加傾向。その一因となっているのが私立大の共通テスト利用方式人気。共通テスト利用入試の動きについて見ていこう。
私立大入学者の6割以上を占める総合型選抜や学校推薦型選抜といった年内入試が収束に向かい、いよいよ残り4割を対象とした一般選抜が始まる。近年、私立大の一般選抜において志願者が増加傾向なのが、大学共通テスト利用方式。多くは大学個別の試験はないので出願するだけでよく、検定料も一般方式の半分程度と、様々な面で負担が少ないことが背景にある。共通テスト利用方式の志望者が増えている影響は、2025年度(25年4月入学)の共通テストの志願者数に表れている。代々木ゼミナール教育総合研究所主幹研究員の坂口幸世氏は言う。
「25年度の共通テストでは、減少してきた志願者が増加に転じそうです。18歳人口が増加する年ということに加え、私立大志望者が受験機会を拡大するために、積極的に活用しようと考えている影響もあるでしょう。総合型や学校推薦型で受かれば、共通テストを受けない受験生もいるので、受験率は上がらないかもしれませんが」
共通テストの志願者数は、25年度の受付最終日の10月7日(17時)時点で48万4568人。前年同時期を1万9099人上回っている。新学習指導要領下で行われる共通テストは、新たな教科「情報」が加わり、「国語」と「数学」で問題のボリュームが増し、試験時間が長くなる。このため、受験生の負担感が大きくなる共通テストを避ける動きも予想されたが、受験機会確保の思いが上回った形だ。少子化の影響で大学入試センター試験の時代から、6年連続で続いた志願者減は、25年度で一旦止まりそうだ。
共通テストの志願者が増えている背景には、根強い国公立大人気とともに、前述の通り私立大の大半が共通テスト利用方式を実施していることにある。学習院大と上智大が、21年度の共通テスト開始を機に利用を始めたことにより、難関総合大学で実施していないのは、慶應義塾大くらいだ。
では、共通テスト利用方式を実施または拡充する大学を見ていこう。聖心女子大・現代教養は、同大初となる共通テスト利用方式を導入。国際医療福祉大は、1回だった共通テスト利用方式を医学部以外で前期と後期の2回実施。東京工科大は、医療保健が前期、医療保健以外は前期と後期で実施していたものを、全学部で前期・中期・後期の3日程で実施する。
ところで、共通テスト利用方式は定員が少なく、共通テストの成績だけで合否判定をするため、同一大学の一般方式より、難易度が高く合否が読みにくいという一面がある。この点について、代ゼミの坂口氏に聞いてみた。
「確かに、難関大の共通テスト利用方式は難しく、一般方式で合格できるレベルより、難易度を下げた大学の受験が無難です。ただ準難関クラスの場合は、募集人員が少なくても合格者を多く出す傾向にあるので、出願大学は一般方式と同じレベルでいいでしょう」
難関大と準難関大で、共通テスト利用方式の活用の仕方が異なるということだ。難関大志望者が利用する際は、難易度を下げて本命大学の抑えとして。準難関大クラスより難易度が低い大学では、本命大学の受験機会拡大として活用できるということだ。
近年は、青山学院大や上智大、早稲田大など難関大を中心に、共通テストと大学独自の試験問題を組み合わせた、国立大型の入試を行う大学も増えている。
「早稲田大は、数学の知識が不可欠ということで、政治経済学部で共通テストの数Ⅰ・Aを必須としました。学部教育を重視した選抜方法と言えます。国立大志望者が受けやすい方式にすることで、難関国立大との併願も視野に入れているのでしょう」(予備校関係者)
早稲田大は国立型の試験方式を拡大しており、25年度は社会科学が加わる。明治大が国際日本で共通テスト併用型英語4技能試験活用方式を実施。英語外部試験のスコアと大学独自の国語、共通テストの地歴を合否判定に用いる。英語と地歴で大学独自試験の対策が不要な分、国公立大志望者が併願しやすくなる。
共通テストの科目数を多くして、国立大志望者を受け入れようとする大学も多い。25年度は、神戸女学院大が共通テスト方式において、基準得点率を満たす合格者に対し、授業料等を減額するスカラシップ5科目型を導入。基準点に達すれば合格となる方式は東京都市大がすでに実施しており、25年度からは6教科型を新設する。25年度から共通テストに「情報」が加わりこれまでの5教科から6教科に増えることから、情報が必須の方式を導入するということになる。近畿大・情報や関西学院大なども情報が必要な多科目型の方式を増設する。
私立大入試の後半戦となる一般選抜まであとわずか。共通テスト利用方式を、生徒の効果的な受験プランに役立てたい。