企業と連携した社会実装型プロジェクトによる人材育成 農学の立場から社会の多様な課題を解決へ導くー龍谷大学 農学部

企業と連携した社会実装型プロジェクトによる人材育成 農学の立場から社会の多様な課題を解決へ導くー龍谷大学 農学部

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食と農に関わる多様な領域を学べる龍谷大学農学部。社会課題の解決に貢献できる人材を育成するための社会実装型教育も充実しており、企業と連携した「製品開発プロジェクト」からは実際に製品化へとつながるアイデアも数多く生み出されてきた。2023年度の本プロジェクト活動について紹介するとともに、参加企業から最も高く評価された学生2人と企業側の担当者に約半年間の活動を振り返ってもらった。

取材・文 井沢 秀(大学通信)

企業と連携した社会実装型プロジェクトによる人材育成

地球規模の気候変動が食料生産へ大きな影響を及ぼすようになった一方、世界の人口は21世紀半ばにⅭ億人を超えると予想される。健康的で安全な食料を安定的に確保することは、これからの社会が抱える最大の課題の一つだと言えよう。

龍谷大学の農学部は「食の循環」から農をとらえ、「食」の生産から消費に至る複雑な過程について、生命科学、農学、食品栄養学、食料農業システム学の4学科それぞれのアプローチから深く学ぶことができる学部だ。食料生産や加工における新たな技術の開発と普及はもちろんのこと、サステナブルな食生活や、農を支える人・地域社会・環境など、さまざまな角度から食と農について学び、それらを統合して社会の多様な課題を解決できる人材を育成している。

カリキュラムでは各学科の専門性を大切にしつつ、1、2年生必修の「食の循環実習」といった学科横断で学ぶ科目を用意するなど、実験や実習についても重視。社会や企業が抱えるさまざまな課題に対し、「農」の知識や技術を活用しながら解決策を見出すための多様なプロジェクト活動も積極的に推進している。

企業との社会実装型教育 実社会の課題解決を経験

プロジェクト活動の一例が、2016年度から毎年実施されている、企業と連携した「製品開発プロジェクト」だ。これまでに、ハウス食品、ローソン、伊那食品工業、すき家、マルコメ、不二製油といった企業が参加。企業から出された課題に対し、有志の学生同士がチームで解決に取り組む正課外活動だ。特許や実用新案の申請や、商品化に向けて動き出したアイデアもあり、社会実装型教育としての成果が出てきている。

23年度は旭松食品株式会社(長野県飯田市)の協力のもと、「新しい『こうや豆腐』のカタチプロジェクト」を実施。11チームの約40人が、こうや豆腐の新しい魅力を引き出すアイデアを出し合い、スタートから約半年の時間をかけて製品開発に取り組んだ。

学生はまず、こうや豆腐の栄養成分の特長などについてレクチャーを受けた上で、自由にチームを組んで企画を考案。途中の中間発表を経た後の最終報告会では、ポスターセッション形式で試作品などとあわせて各アイデアが発表され、独創性、表現力、実用性、問題発見などの観点から評価が行われた。参加企業から最高の評価を得て旭松食品賞を受賞した、チーム「アニマル健康とうふ」の「こうや豆腐を用いた犬用ペットフード」のほか、縁日などにある型抜き遊びができるこうや豆腐、世界の料理にこうや豆腐を取り入れる、といった自由なアイデアが光る提案が並んだ。

こうしたプロジェクトは学生にとって、商品開発の現場の声を直に聞くことを通じ、大学での学びが社会とどのようにつながっているのかを考える機会となっている。ものづくりや試行錯誤の楽しさを実感することは、今後のキャリアや興味の幅を広げることにもつながる。幅広い学びの機会を用意する龍谷大学農学部は、多様な課題を解決に導き、農学の立場から持続可能な社会の実現に貢献しうる人材の育成を続けている。

学生インタビュー

(左から)石黒様、作本さん、西原さんの展示会参加の様子

01 プロジェクト活動で見を出す恥ずかしさや不安を克服

作本真里奈さん
チーム「アニマル健康とうふ」
食料農業システム学科2年次

―なぜ製品開発プロジェクトに参加したのか。

製品開発を行うプロジェクトには入学時から興味があって、普段から食べている食品を扱う企業と製品開発をしたいという気持ちもあって参加を決めました。もともとアイデアを考えることは好きだったのですが、それを形にして誰かに伝える機会はなかったので、最初は自分から何かを提案することに恥ずかしさや不安がありました。それでも西原さんと2人で取り組む中でアイデアや意見を出す怖さはなくなりましたし、諦めなければ結果が出るという成功体験につながったと思います。

―龍谷大学の農学部食料農業システム学科の志望理由は。

食べることが好きで、農業系のマーケティングや商品開発に興味があったからです。実習や課外活動が多く、座学に加えてフィールドワークなどを通して食と農、農業経済などを学べるのが決め手でした。

―印象に残っている実習は。

食料農業システム実習では、近隣の農協や地域の農業関係者のもとへ実際に足を運び、さまざまなお話を聞いたり、手伝いをしたりしました。食の循環実習で行った田植えや、香港に行って現地の市場や日系企業を視察する実習も良い経験となりました。世界も地域も、幅広く学べる実習が揃っています。

―これからの展望と、高校生へのメッセージを。

プロジェクトは終わりましたが、旭松食品の石黒さんと一緒にペットフードの商品化の道を探っています。まずはアイデアを形にして消費者に届けたいと思っています。将来は、食とスポーツという観点から、陸上で学んだことを活かした仕事に就きたいです。また、海外の人と関われる貿易関連の仕事にも興味があります。食料農業システム学科は正課外活動やフィールドワークが多く、チャレンジしやすい環境です。同じ志を持つ学生も多く成長できる環境だと思うので、ぜひ入学してほしいです。

02 社会・経済への関心を持ちながら食と農を幅広く学ぶ

西原愛珠さん
チーム「アニマル健康とうふ」
食料農業システム学科2年次

―製品開発プロジェクトについて。

初めは「人間が食べるこうや豆腐をペットフードにすることには賛否両論あるだろう」という不安もあって、中間発表ではあまり手応えがありませんでした。ただ旭松食品の方の反応は良かったので、その後は市場分析や販売計画を含めた提案書を作るなどギアを上げて取り組み、最終的に満足いく発表ができました。活動を通じて、人に伝えることの難しさや、考え続けることの大切さを学びました。

―なぜ農学部食料農業システム学科に入学したのか。

父が調理師で料理や食への興味はあったのですが、高校時代は文系で、経済学や社会学にも関心があったので、当初の選択肢に農学部はありませんでした。ただ、本学科は文系受験も可能で、食の生産や流通に関わる社会的、経済的な仕組みを含め、幅広い領域を学べることから入学を決めました。

―これまでの学びや活動について。

食の循環実習では、生産から加工、流通について学びました。農場での実習では他学科の学生を含めたグループで、何を育てるのかを話し合うことから始めるので、普段交流がない学生とも友達になれます。企業インターンシップへの参加や、「大学コンソーシアム京都」の単位互換制度を使って他大学の授業を履修するなど、さまざまなことにチャレンジしています。

―将来の目標や、高校生に向けたメッセージを。

自分のアイデアやビジョンを実現して、周囲にポジティブな影響を与えられる人になりたいです。大学・学部選びのきっかけは「おもしろそう」「楽しそう」という単純なものでもいいので、自分自身がどうしたいのかを信じることが大切だと思います。龍谷大学は落ち着いた雰囲気で、チャレンジするきっかけも多いおすすめの大学です。

参加企業コメント
若い人の目線で新たなアイデアをもらえる魅力的なプロジェクト

石黒貴寛さん
旭松食品株式会社 研究開発本部
研究所 主任研究員

旭松食品株式会社
1950年創業。こうや豆腐や即席みそ汁、スープ類、介護食などの製造販売を通じて、より快適で、健康な食生活を追求する。世界の人の健康長寿に寄与するため、こうや豆腐をグローバルに広げていくための取り組みもスタートしている。

現在のこうや豆腐の消費は年齢が高い人が中心であり、日頃からこうや豆腐を扱う私たちには、どうしても固定観念があります。それに対し、若い人の目線から、こうや豆腐の新しいアプローチや使い方、売り方のアイデアを提案してもらえる点が本プロジェクトの大きな魅力でした。

私たちから事前にお伝えしたのは、伝統的なこうや豆腐の食べ方や、現在の製品開発、商品のラインナップを紹介する程度。あとは「何をしてもいい」という形で、新たなレシピや商品の売り方を考えてもらいました。

旭松食品賞を授与したチーム「アニマル健康とうふ」は、こうや豆腐を加工して実際にドッグフードを作り、サンプルとしてすぐに使える形まで仕上げてくれました。ビジネスの場で実際に提案できるアイデアが出てきたのは素晴らしいことです。学生の課題への取り組み方に対して、企業の視点からニーズやアドバイスなどを伝える中間発表という機会があるのも良い仕組みだと思います。

「アニマル健康とうふ」の2人は学ぶ意欲に貪欲な、エネルギッシュな学生という印象です。一緒にペットの展示会に参加して、アイデアに興味があるペットフードメーカーへのアプローチを続けるなど、プロジェクトが終わった後も商品化に向けて意欲的に取り組んでくれています。将来的には「人間も健康に・ペットも健康に」といった形で、意識の高い飼い主さんに刺さる商品として展開していきたいですね。

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