大学の通信簿2023 進学校の進路指導教諭はどの大学を評価したのか

大学の通信簿2023 進学校の進路指導教諭はどの大学を評価したのか

進学校の進路指導教諭はどの大学を評価したのか

生徒の志望校選びのために様々な情報を入手している進学校の進路指導教諭のアドバイスは、大学選びに大いに役立つ。
全国の進学校の進路指導教諭の知見が集まるなら、さらに心強い。では、実際にどのような大学が注目されているのか。面倒見、就職力、改革力など、様々な視点からエキスパートが評価する大学をみていこう。

大学通信は、毎年全国の進学校2000校の進路指導教諭を対象に、様々な視点から“オススメの大学”についてのアンケートを行っている。各項目別に5校連記で記入してもらい、最初の大学を5ポイント、次を4ポイント……として計算し集計した。645校から得られた回答から、2023年の結果を検証していこう。

「面倒見が良い」トップは19年連続

まずは表1の「面倒見が良い大学」から見ていこう。1位は金沢工業大で、19年連続のトップだ。長年に渡り、学生を最大限成長させる取り組みを組織的に行っている。近年は特に、これまで蓄積した学生の動向に関するビックデータをAIで分析し個々の学生に適した学習プログラムを提供するなど、学生支援をさらに進化させているという。

2位は東北大だ。進路指導教諭からは、「新入生のサポート、学問への導きが個別化されていて手厚い」(青森・公立校)、「教員と学生の距離が近く、丁寧な指導が行われている」(大阪・私立校)といったコメントが寄せられた。

3位の武蔵大については、「1年次からゼミがはじまるきめ細やかな指導体制」(東京・公立校)、「教授陣が教育に関して当事者意識が高い感覚がある」(東京・私立校)などの評価だ。

1位の金沢工業大を含め、5位の東京理科大、6位の福岡工業大、11位の千葉工業大、13位の九州工業大、19位の高知工科大と工科系大学が数多くランクインしている。工科系大学は研究などで教職員と学生の距離が近い分、卒業生を通して面倒見の良さを実感する教員が多いようだ。

表2は「就職に力を入れている大学」。トップは、ポイント数で2位以下を大きく引き離す明治大だ。進路指導教諭が評価するポイントは、「キャリア形成に対する支援や就職サポートの充実」(埼玉・公立校)、「卒業生とのつながりが強く就職に有利にはたらいている」(神奈川・公立校)など。2位は金沢工業大で、上位2校は昨年と同じ順位だ。3位には、昨年の5位から上がった早稲田大が入った。

「教育力」は難関大「グローバル」はSGUがそれぞれ評価される

表3の「教育力が高い大学」の東京大、東北大、京都大は昨年と同じ順位で、3校のポイントが抜けている。私大最上位の東京理科大は昨年の5位から4位に順位を上げた。東京理科大の教育力の評価として、「一定の単位を取得できなければ進級できない関門制度を設けるなど、きちんと学生を育てている」(千葉・私立校)という意見が寄せられた。以下、5位は国際教養大、6位は大阪大、7位は早稲田大と続く。

旧七帝大や早慶をはじめとする有名難関大学や大規模総合大学などが上位に並ぶ中、地方の文系大学ながらランクインしたのは23位の名古屋商科大だ。これは日本の大学で数少ない、国際認証を受けたビジネススクールを持つことなどが評価の要因ではないだろうか。

表4は「グローバル教育に力を入れている大学」だ。1位の国際教養大以下、国際基督教大、立命館アジア太平洋大、上智大、東京外国語大、早稲田大、東京大、立教大など、日本のグローバル化を牽引するスーパーグローバル大学(SGU)が並ぶ。

ランキング上位には、国際教養大や立命館アジア太平洋大など、SGUの中でも比較的規模が小さな大学が入っている。国際教養大は日本人学生全員が留学をする点、立命館アジア太平洋大は全学生の半数が海外から受け入れた留学生という点が、それぞれ高評価につながっているのではないだろうか。11位の千葉大も20年度から全員留学を打ち出しているが、初年度からコロナ禍で留学に出ることができなかった。もしコロナ禍がなければ、もっと上位に入っていた可能性がある。

また、意外なことに、SGUの中で最難関大学の一つである慶應義塾大はランキングに入っていない。経済学部などで英語のみで学位取得が可能なプログラムを持つなど、SGUらしいプログラムを展開する大学だが、高校教諭には届いていないようだ。国際系学部や外国語学部などを持っていないことも、グローバル教育のイメージにつながらなかった原因かもしれない。

東京医科歯科大との統合を予定する東京工業大の改革が高評価

表5の「改革力が高い大学」は、1位早稲田大、2位東北大、3位近畿大、4位東京大、5位立命館大まで昨年と同じ順位。6位には昨年の28位から大きく順位を上げた東京工業大が入った。24年秋に東京医科歯科大と統合し東京科学大となる計画が進んでいることから、改革力が高い大学として教員の認知が進んだようだ。

表6の「小規模だが評価できる大学」は、国際教養大、武蔵大、国際基督教大の順。4位以下は比較的ポイントが近く、会津大、一橋大、金沢工業大、都留文科大、産業能率大の順で並ぶ。例えば産業能率大では、自己のキャリア構想を基に課題解決のプレゼンテーションを行うなど、厳しい課題を課す総合型選抜を導入している。そのような選抜をクリアした学生は自己肯定感が上がり、積極的に勉学に取り組む傾向があるが、そうした意識の高い学生に触発されて、一般選抜で入学した学生も学ぶ意欲が高まるという、小規模大学ならではの好循環が生まれるケースがある。

表7は「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」。1位は東北大だ。総合型選抜で3割の学生が入学する大学であり、高校との関係性が強いことから、生徒の成長が見えやすいことも高評価の要因だろう。2位以下は、東京大から6位の国際教養大まで昨年と同じ順位だ。

表8の「入学後、生徒の満足度が高い大学」は、東京大、東北大、京都大の順で並ぶ。もっとも厳しいレベルの受験勉強を経てこそ入学できる難関大学は第一志望である可能性が高く、入学後の満足度も高いようだ。私大では4位に最難関の早稲田大が入る。比肩する慶應義塾大は9位だ。早慶の間に割って入るのが、5位の明治大。近年、人文学系よりも社会科学系を志す女子受験生が増えていることもあり、明治大を第一志望と考える受験生の数が増えたことが、入学後に生徒の満足度が高い大学として進路指導教諭が認知する要因ではないだろうか。同じことは19位の法政大などにも言えそうだ。

表9の「生徒に人気がある大学」では、最難関の東京大が6位で京都大が7位と順位が上がらない。目指したくても、高得点が求められる共通テストと、難関な2次試験の壁は大きく、人気が上がらないのだろう。トップ3は明治大、早稲田大、立教大と私立総合大学が並んでいる。学部構成がバラエティに富んでいて、多様な生徒が志望しやすいことも要因だ。

表10‐1と表10‐2は、「偏差値や地理的条件、親の資力などの制約がない場合、生徒に勧めたい大学」で、このランキングのみ国公立大学と私立大学に分けて掲載している。国公立大学を見ると、東京大、京都大、東北大、大阪大…と、上位はほぼ昨年と同じで、おおよそ科研費の獲得額順に並んでいる。そうした中で、公立の国際教養大が7位に入っているのも昨年と同じ。秋田県にある公立大学ながら、全国の進路指導教諭が勧めたいと考えていることが分かる。

私立大学に目を移そう。早稲田大、慶應義塾大、東京理科大と、やはり最難関大が上位にきている。注目したいのは6位の国際基督教大だ。小規模大学ながら、全国の進路指導教諭から認知されている。

ここまで見てきた各ランキングの上位大学は、長年にわたって順位が固定化されているものが多い。公立校では特に教員の異動が頻繁に行われるので、評価者が毎年変わるわけだが、そうした中で常に高いポイントを獲得し続けている大学は、その評価に普遍性があるといえそうだ。

さて、ここからはランキングを離れて、受験生意識に関する調査結果を示すグラフを見ていこう。まずグラフ1は、「生徒に人気のある大学」について聞いた結果を示すものだ。他の項目を圧倒したのは「自分のしたい勉強ができる大学」で77.7%。次いで59.7%の「知名度が高い大学」、58.9%の「社会的評価・イメージが良い大学」と前年と同じ結果となった。上位3項目の結果を読み解くと、現在の難関大人気が見えてくる。就活における大学生の売り手市場が続く中でも「就職に有利な大学」が51.0%で、「資格が取得できる大学」が46.7%と受験生が重視する項目になっている。

続いてグラフ2は、「受験生に受け入れられる改革」を聞いたもの。入試に関するものが上位で、「学校推薦型選抜・総合型選抜の充実」が46.8%で、「1回の受験料で複数回受験が可能」が40.3%。後者に関しては、24.0%の「地方試験の実施」などとともに、受験に関する費用が家計の負担になっていることを示す結果となった。

年が明けると共通テストが始まり、私立大、国公立大の入試と続く。現3年生を送り出したら、すぐに次の学年の受験校選びだ。受験のエキスパートである進路指導教諭の見立てを参考にしながら、入学後に後悔のない大学に導いていきたい。

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