【2023年度入試を振り返る】国公立大と私立大ともに志願者減も難関大人気は根強く

【2023年度入試を振り返る】国公立大と私立大ともに志願者減も難関大人気は根強く

18歳人口減少の影響は大きく、2023年度の一般選抜は、国公立大と私立大ともに志願者が減少した。それでも、不透明な社会状況を背景として難関大の人気は根強いものがある。23年度の私立大と国公立大の出願状況について、振り返ってみた。

文 井沢 秀(大学通信)

2023年度入試を振り返る

2023年度の大学入試も、コロナ禍での実施となったが、一般選抜が始まる年明けには収束の気配が感じられるなど、大きな混乱なく終わった。

多くの受験生にとって大切な試験である大学入学共通テスト(共通テスト)の志願者は51万2581人で、昨年より1万7786人(3.4%)減少した。大学入試センター試験(センター試験)の時代から数えて5年連続の減少だ。

現役生は43万6873人だった。現役生の志願率は過去最高を記録した昨年と同じ45.1%だが、18歳人口の減少に伴い2.8%の減少となった。浪人生は7万1642人で、現役生を上回る6.7%減。これにより現役生の割合は、前年を0.5ポイント上回る85.2%で史上最高となり、現役生中心の入試が進んでいることを強く印象付ける結果となった。

共通テストの出題傾向は、センター試験に比べて思考力重視になったことから、知識がそのまま問われることが多い、一般的な私立大の出題傾向とは異なる。私立大専願者にとっては、共通テスト用の対策が求められるため、23年度の共通テストの志願者は大きく減少すると見られていた。それでも志願者が増えたのは、コロナ禍が続いていることから、私立大の共通テスト利用入試の活用を考える私大専願者が多かったのだと考えられる。

21年度の導入以来、共通テストの平均点は安定しない。共通テストはセンター試験より難易度が上がると見られていたことから、初年度の平均点は、センター試験を下回ると見られていたが、21年度の5教科7(8)科目の平均点は、センター試験を上回った。それが一転22年度は、数学の難化などの影響から平均点が大幅に下がり、23年度は、数学の平均点が上がったことから、5教科7(8)科目の平均点は、再び前年を上回った。23年度は理科②の生物の平均点が低く得点調整も行われた。

このように導入以来、平均点の乱高下が続いている共通テストだが、さすがに、現行の教育課程最後となる24年度は、問題がこなれて平均点が落ち着くと見る受験関係者は多い。

共通テストの平均点が上がっても国公立大志願者は減少

国公立大の人気は根強く、共通テストの平均点が上がったことから、23年度の国公立大一般選抜の志願者は増加が見込まれていたが、ふたを開けて見ると、昨年を5476人下回る42万3180人だった。国立大の志願者は29万8305人で4648人減、公立大は12万4875人で828人減となっている。人気が高い上に共通テストの平均点が上がるという状況にもかかわらず志願者が減少したのは、ベースとなる18歳人口の減少によるものだ。

難関大の動向に注目すると、国公立大全体の志願者が減少する中、難関国立10大学(北海道大、東北大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大、東京工業大、一橋大、神戸大)全体の志願者は昨年並みだった。

少子高齢化問題やコロナ禍、ウクライナへのロシアの侵攻、円安などにより不安定な社会状況が続いている。そうした社会を生き抜くための力を身に付けようと、成績上位層による難関大人気が続いている。

準難関大の出願状況は、横浜国立大と大阪公立大が大幅増で、筑波大や千葉大、金沢大、広島大、熊本大などは昨年並み。岡山大は後期を廃止した影響で大幅減少となった。

準難関大の出願状況が比較的好調なのは、共通テストの平均点アップにより思うようにとれた得点を活かし、難関大より共通テストの配点比率が高い準難関大に出願するという、受験生の安全志向が一因と見られる。

国公立大志願者数ランキング1位は2年連続で大阪公立大

表❶ 国公立大 一般選抜志願者数

順位 設置 大学 2023年 2022年 昨年比
1 大阪公立大 14,152 13,188 964
2 千葉大 10,507 10,631 −124
3 神戸大 9,905 10,123 −218
4 北海道大 9,808 9,516 292
5 横浜国立大 9,471 7,300 2,171
6 東京大 9,306 9,507 −201
7 京都大 7,827 7,570 257
8 大阪大 7,398 7,501 −103
9 九州大 7,285 7,692 −407
10 静岡大 6,984 6,269 715
11 山口大 6,821 5,385 1,436
12 東京都立大 6,663 6,724 −61
13 広島大 6,609 6,890 −281
14 信州大 6,559 5,839 720
15 富山大 6,540 6,495 45
16 兵庫県立大 6,293 5,668 625
17 埼玉大 6,291 5,902 389
18 高崎経済大 5,961 5,090 871
19 鹿児島大 5,682 5,348 334
20 筑波大 5,558 5,545 13
21 宮崎大 5,502 4,330 1,172
22 茨城大 5,342 6,606 −1,264
23 東北大 5,246 5,724 −478
24 新潟大 5,224 5,939 −715
25 三重大 5,152 4,782 370
26 琉球大 5,078 5,163 −85
27 佐賀大 4,565 5,071 −506
28 愛媛大 4,563 4,586 −23
29 一橋大 4,380 3,832 548
30 岐阜大 4,348 5,809 −1,461

※は国立、無印は公立を表す。

次に、国公立大一般選抜の志願者数ランキングを見ると、国公立大全体の志願者数が微減だったこともあり、ランキングの上位20大学の内、13大学が前年を上回っている。

1位は2年連続の大阪公立大。22年度に大阪市立大と大阪府立大の統合により誕生した大学だ。初年度は前身の2大学合計の志願者数を下回ったが、2年目となり大学の全容が見えてきたことによる安心感から、志願者は1000人近い増加となった。

2位は、かつて国公立大志願者数ランキングの1位が定位置だった千葉大。国公立大で3番目の定員規模となる大阪公立大が誕生することにより順位を下げたが、国立大の中では1位の座はキープしている。

3位は神戸大で、4位には、前後期合計の志願者が2年連続で増加している北海道大が入った。全国から志願者が集まる北海道大の志願者増は、コロナ禍の影響が薄まり、受験生の移動が活発化していることを物語る。

5位の横浜国立大は、コロナ禍の21年度入試において、密になるリスク軽減のため大半の学部で2次試験を取り止めたことで大幅な志願者減となった。その反動で22年度入試は大幅な志願者増となり、23年度もその影響はなく2年連続で前年を上回っている。その背景には、新線の乗り入れにより東京から通いやすくなるという、交通の利便性の高まりがある。

地域別に前期の出願状況を昨年と比較すると、四国(78%)、北陸(94%)、東北(95%)、九州(96%)、北海道(97%)が減少する一方、関東(103%)、東海(102%)、近畿(100%)が増加。国公立大入試全体として、コロナ禍の影響が薄まり、地方から都市部の大学を目指す動きが活発化した状況が窺える。

私立大の志願者は4年連続の減少に

23年度の私立大一般選抜の志願者は、4年連続の減少となった。

私立大の出願状況を振り返ってみよう。まず21年度入試では、史上最大となる14%の志願者減となった。21年度に、共通テストの導入などの入試改革が行われることから、20年度中に大学に入学しようと考える受験生が多く、21年度入試に臨む浪人生が大幅に減少したためだ。

この志願者減により、一般選抜の倍率(志願者数÷合格者数)は大きく下がった。例えば青山学院大の場合、20年度の7.0倍から21年度は4.1倍に下がっている。同様に慶應義塾大は4.5倍から3.9倍、早稲田大が7.2倍から6.3倍、同志社大が3.2倍から2.8倍、関西大が5.4倍から4.2倍など、倍率が大きく下がる大学が多かった。

22年度の志願者も21年度の大幅減の反動が見られず微減。そしてさらに23年度も志願者が減少している。私立大の志願者は21年度に底を打ったままで、有名私立大の倍率も下がったまま。倍率面から入り易い状況が続いており、この傾向は今後も続くと見られている。

近畿大が10年連続で志願者数ランキングトップ

表❷ 私立大 一般選抜志願者数

順位 大学 2023年 2022年 昨年比
1 近畿大 152,493 157,470 −4,977
2 千葉工業大 145,128 139,074 6,054
3 明治大 108,042 102,426 5,616
4 法政大 99,035 108,280 −9,245
5 日本大 98,506 93,770 4,736
6 立命館大 91,382 88,335 3,047
7 早稲田大 90,879 93,843 −2,964
8 東洋大 87,096 98,261 −11,165
9 関西大 77,754 79,396 −1,642
10 中央大 67,786 64,795 2,991
11 龍谷大 61,083 55,880 5,203
12 立教大 58,208 62,646 −4,438
13 東京理科大 50,698 53,751 −3,053
14 同志社大 49,972 45,854 4,118
15 専修大 44,918 46,547 −1,629
16 青山学院大 43,948 47,839 −3,891
17 関西学院大 43,737 38,737 5,000
18 福岡大 41,785 44,719 −2,934
19 東海大 39,358 45,814 −6,456
20 名城大 38,719 39,496 −777
21 京都産業大 38,275 37,735 540
22 慶應義塾大 37,411 37,894 −483
23 芝浦工業大 36,687 37,866 −1,179
24 東京電機大 33,124 28,395 4,729
25 駒澤大 30,703 29,228 1,475
26 武蔵野大 30,314 29,459 855
27 上智大 26,552 22,503 4,049
28 中京大 26,479 29,758 −3,279
29 東京都市大 24,644 23,276 1,368
30 神奈川大 23,372 22,695 677

主要な私立大学約100校を調査。
共通テスト利用入試、2部・夜間主コース等含む。
3月31日現在。

私立大一般選抜の志願者数上位20大学を見ると、多くの大学で志願者が増えた国公立大とは対照的に、前年を上回ったのは、千葉工業大や明治大、日本大など8大学だけだった。

1位の近畿大は、前年に大きく志願者が増え、同大史上最多の志願者数となった反動で減少。それでも10年連続で志願者数ランキングのトップをキープしている。2位も昨年と同順位の千葉工業大。コロナ禍で困窮する家計を見越した共通テスト利用方式の検定料の無料化など、受験しやすい環境を提供していることから、前年の反動なく志願者が増えている。

3位の明治大も、前年の反動なく23年度も志願者が増加。4位の法政大は、前年の1万7000人以上の志願者増の反動で減少したが、9245人と前年増加分の半分の減少で留まっている。多様な入試方式と学部構成で受験しやすい法政大ならではと言えよう。

5位の日本大は前年の志願者減の反動で増加。6位の立命館大は、24年度から映像学部と情報理工学部が、都心の大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)に移転する効果もあり、2年連続で志願者が増えている。

7位は早稲田大。政治経済や国際教養、スポーツ科、教育の4学部で、共通テストと大学独自の個別試験を課す、国立型の入試を導入していることから私立大専願者が出願しにくいこともあり、志願者は減少傾向。10万人台の志願者が当たり前だった早稲田大だが、21年度以降、9万人台が続いている。

8位の東洋大は、前年の志願者増の反動から1万人以上の志願者減。9位の関西大は昨年に続き志願者が減少している。関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)の他の大学は、前出の立命館大以外に同志社大(14位)と関西学院大(17位)も志願者増。国公立大志向が強い近畿にあって、関関同立を併願する国公立大志望者が多いことが要因だ。

10位は中央大。22年度入試で検定料の特例制度の見直しにより、志願者が大幅減となった反動に加え、23年度から法学部が東京郊外の多摩キャンパス(八王子市)から都心の茗荷谷キャンパス(文京区)に移転する効果により志願者が増加に転じた。

国公立大と同様に私立大も難関大の人気が高いので、ベスト10圏外の難関大の状況も見ておくことにしよう。

早慶上理(早稲田大、慶應義塾大、上智大、東京理科大)では、慶應義塾大はほぼ前年並みの志願者数を維持し22位。難関大の中で志願者の増加幅が大きかったのは27位の上智大だ。共通テスト利用入試で、これまでの4教科型に加え私立大志望者も受けやすい3教科型を加えたことが要因だ。東京理科大(13位)は前年の反動に加え、理工学部から名称変更した創域理工学部の認知が進まなかったこともあり、前年の志願者を下回っている。

MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)を見ると、青山学院大(16位)は前年の志願者増の反動から減少。立教大(12位)は2年連続で志願者が減っている。

コロナ禍の影響が色濃く表れた学部志望動向

私立大の出願状況から、学部志望動向の特徴について見ていこう。

23年度の一般選抜で志願者が最も増えた系統は、体育・スポーツ系だった。東洋大の健康スポーツ科学部や立教大のスポーツウエルネス学部など、学部新設の影響もあるが、同志社大や立命館大など既存の学部も志願者が増えており、受験生の興味・関心の高まりが感じられる。

生命や芸術、獣医、心理、医などの志願者の増え幅も大きい。生命や心身の健康に関する系統で志願者が増えているのは、入学時から3年間の高校生活をコロナ禍で送ってきたことと無関係ではないだろう。芸術はコロナ禍とは無関係に見えるが、一気に進んだ情報化社会の影響で、ウェブデザイナーなどを目指す受験生が増えた影響が考えられる。

コロナ禍の影響から医学部以外のメディカル系の人気は高い。昨年人気が上がった薬学部の志願者は減少したが、歯や看護が増加している。他の理系学部では、理工系は昨年並みで農水産系は志願者が増えている。

文系学部は、昨年人気が高かった法学部の志願者が減少した。法学部の志願者が増えた背景には、コロナ禍で不透明な社会を生き抜くため、公務員などの資格取得を目指す受験生が増えたことがある。その法学部の志願者減は、コロナ禍の影響が薄まり、就職に不安を感じる受験生が減ったことを示している。

対照的に、昨年志願者が減っていた経済・経営・商学系の人気が上がっている。経済状況が良くなっているわけではないが、労働人口の減少により就職活動における大学生の売り手市場が続いていることから、法学部に比べるとハードルが低い、経済・経営・商学系の人気が上がっているようだ。

就労環境の厳しさから人気が下がっている教育系や社会福祉系は23年度も志願者が減少。留学に出られなくなるなどの影響からコロナ禍で人気が下がっていた外国語系や国際系も人気がない。それでも、コロナ禍以前の留学状況を取り戻しつつあり、ここ数年の志願者減から倍率が下がる大学が多くなっていることから、今後人気が戻る可能性がある。

学校が閉鎖されリモート授業を経験するなど、情報化社会の大きな発展を経験した受験生は、AI(人工知能)技術やIoT(モノのインターネット)技術、データサイエンスなどへの関心が高く、情報・メディア系の人気が高まっている。23年度の志願者が大きく増えているわけではないが、相変わらず高い人気を維持している。

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