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社会の課題解決に向けた工学部の大改革
芝浦工業大学は2024年度から工学部を大きく改組する。9学科から1つを選び4年間学ぶ「学科制」から、分野の枠にとらわれずに学ぶことができる5課程9コースの「課程制」へと移行するのだ。さらに卒業研究の開始を4年次から3年次に早め、2年間かけてじっくり研究する環境を整えるなど、カリキュラムも刷新する。
なぜ今、こうした大規模な改革を行うのか。改組によって学生の学び方はどう変化するのか。アドミッションセンター長の新井剛教授と課程長の伊代田岳史教授に背景と狙いを語ってもらった。また、宮田純子准教授も交え、芝浦工業大学の卒業生でもある先生方に今後への期待を聞いた。
取材・文 林 郁子
アドミッションセンター長/材料工学科(課程後は環境・物質工学コース)教授
新井 剛 教授
情報通信工学科(課程後は情報通信コース)准教授
宮田純子 准教授
課程長/土木工学科(課程後は都市・環境コース)教授
伊代田 岳史 教授
これからの工学系人材は分野融合の知識とスキルが必須
―まずは、今回の工学部の「課程制」移行について、これまでの「学科制」からどのように変わるのかを教えてください。
新井 簡単に言えば、分野ごとの縦割りの学問体系から、分野横断が可能な学問体系への移行です。今までは、機械工学科に入ったら、機械工学を徹底して学び、大学院でも機械工学を研究し、エンジニアやリサーチャーになるというコースが一般的でした。そうした学び方は、1つの分野を極めることができますが、それだけでは、現在のものづくりの現場にはマッチしなくなってきました。今の世の中をつくっている数々の工学技術は幅広い分野の知見が複合したものになっています。単なる「モノづくり」ではなく、ユーザビリティや環境への影響も含めてパッケージされた「コトづくり」ができる工学系人材が必要なのです。そのため、分野を区切っていた学科という枠組みをなくし、自由度の高い学びの選択ができるしくみを作りました。
伊代田 9学科から5課程9コースへの改組というと、一見学科からコースへ名前が変わっただけのようにも感じられますが、これまで学科に所属していた教員がすべて工学部所属となり、さまざまなコースの授業を担当するなど組織も大きく変わります。学生は卒業に必要な124単位のうち卒業研究を除く112単位をすべて自分が選択したコースの授業で取得しても、12単位分を別コースの授業で取得しても構いません。また、3年生から研究室に所属しますが、並行して別の研究室に所属する「学内研究留学」という制度も発足します。
学生が各々の希望に合わせたカリキュラムを組めるように、1年の前期に各コースの学びが、社会とどのように関わっているかを学ぶ講座を用意しました。また、所属研究室を決める前の2年後期には、他コースの研究室でどのような研究をしているのかを紹介する場も設けます。
―大掛かりな改組となりますが、いつごろから準備されていたのでしょうか。
新井 横断的な学びが必要だという話は、かなり昔から出ていました。ただ、新設学部ならいざしらず、すでに学科制で学んでいる学生がいる状態で、新入生向けに新たなシステムを立ち上げるのは非常に難しい。そこを工学部の苅谷学部長が「変えましょう」と決断し、2020年から本格的に動き始めました。本学は2027年に創立100周年を迎えるのですが、次の100年を迎えるために、今、変わらないといけないという決断です。
伊代田 今後、本学の他学部でも課程制への移行を予定しています。普通なら、課程制への移行のような大掛かりな改革は、学生の人数の少ない学部から始める方がスムーズなのかもしれません。けれど、学生数も教員数も最も多い工学部から改革のスタートを切ることこそが、本学が大きく変わるという決意の現れですね。
卒業生として、教員として
芝浦工大の新たな100年に期待
複数分野を学ぶことで将来の可能性を広げる
―新井先生、伊代田先生、宮田先生は、みなさん芝浦工大で学び、現在は教員として学生を指導されていらっしゃいます。学生も教員も経験されている立場から、今回の課程制への移行をどのように捉えられていますか。
宮田 課程制は、学生の視野を大きく広げることができる制度になると思っています。私は、現在は情報通信工学科で、主に情報セキュリティを含むインターネットの通信品質の研究をしています。学生時代は電子工学科で学んでいました。当時は研究室に所属できるのは4年生からでしたが、私は興味のある研究室に3年生のうちから出入りしていたこともあり、早くから卒業研究に取り掛かることができました。電子工学分野でもハードウェアだけでなく幅広く研究できたことから、少しずつ自分がやりたいのは情報通信分野ではないかと気づきました。もともと就職予定だったのですが、情報通信分野の研究をもっと続けたくなって、大学院に進み、本格的に情報通信分野へと切り替えて研究するようになりました。
私が学生だった頃は、自分の学科以外の分野を知るためには、自分で他分野へアクセスする必要がありましたが、課程制がスタートすればカリキュラムに沿って自分の興味のある科目を履修することで、自然と他分野も学ぶことができる点が、とてもよいと思います。
伊代田 私は本学や大学院で土木工学を学んだあと、セメント会社の研究所に入りました。そこでは、材料工学や応用化学などの知識が必須で、最初は他の研究者の話がさっぱりわからず苦労しました。いろいろな分野を学んでおく大切さを、身をもって知りましたね。
現在は、エコマテリアルやコンクリートの耐久性などを主な研究テーマとしています。コンクリートに限らず、土木は総合工学なので、研究によっては機械工学や情報通信、物質科学など他分野の知識やスキルが必要になることもあります。課程制では、他コースの専門科目も履修できますし、しっかり研究したい場合は、学内留学として他の研究室にも所属できます。他分野の教員から直接指導を受けられるメリットは大きいですし、学生がさまざまな研究室に出入りすることで、もしかしたら、教員間での共同研究などが始まる可能性も期待できますね。
新井 私は金属工学科の学生でしたが、4年次に所属した研究室の先生の勧めで、急遽外部の研究室で原子力を研究することになりました。当初は原子力にあまり興味はなかったものの、実際に研究を始めてみるとこれが非常に興味深い。自分がそれまで学んできた金属工学という材料の知識を活用できる機会も多くありました。東大生がほとんどを占める研究所において、私が周囲に認められる成果を出せたのは、2つの分野の知識があったという大きな武器のおかげだと思います。今は材料工学科の新エネルギー材料科学研究室で、資源や環境、エネルギーを主なテーマとしています。
新しいカリキュラムでは、3年生から研究室に所属できることはとても羨ましいですね。私は4年次に外部の研究所で手を動かして実験をする楽しさを知って、もっと早くから実験をやりたかったなと思いましたから。最近は、高校で実験をやったことがない学生もいるそうです。「危ないから」と言われて、先生の実験を見るだけ。それは本当にサイエンスなのかと疑問です。そういった学生のためにも、本学でしっかりと実践経験が積めるようにします。
―課程制へ移行することで、学生の学びの可能性が大きく広がりそうですね。では、新たな制度を活用するために、学生が心がけるべきことはありますか?
宮田 将来を見据えて学んでほしいと思います。高校生のうちはなかなかイメージしづらいかもしれませんが、大学は自分で自分の学びやキャリアを決めていく場所です。自分なりにどんなふうに成長していきたいかを考え、チャンスが与えられたら、臆せずチャレンジしてほしいと思います。
新井 私は、学生には、とにかくワイドに学ぶことを勧めたいですね。課程制では各分野の専門科目を、「バイオロボティクス」や「分子エネルギー」、「情報知能システム」というようにテーマ別に分類し、異なる専門分野の学生にも内容がわかりやすく履修しやすくしています。広く学ぶことで知識とスキルの武器を得るとともに、自分がより深く研究したいことを発見できるかもしれません。
伊代田 大宮キャンパスで学ぶ1、2年生のうちに、サークル活動などで横のつながりをしっかりと築いておくといいと思います。3年生になると研究室が主な居場所となるので、研究室やコースと関わりのない学生同士のつながりがあると、他の研究室やコースの話なども気軽にできるので、分野横断で学べる課程制のメリットを活かしやすくなりそうです。
工学系のパワーで共に未来を創っていこう
―最後に高校生へのメッセージをお願いします。
新井 私たちが本学の改組に本気で取り組む背景には、今、日本の科学力や技術力がどんどん衰退しているという厳しい事実があります。資源の乏しい我が国が生き残っていくためには、科学力や技術力が欠かせません。これからの社会で生きていくみなさんのために、私たちにできることは実践的な知識とスキルを身につける環境を提供すること。そのための本気の改革です。ぜひオープンキャンパスや説明会などに参加して、その本気を感じてほしいですね。
宮田 芝浦工大は今、女子学生や女性教員が増えていて、大学院に進むなど研究者を目指す女子学生も増えています。私自身、子育てをしながら教員として働いていますし、ほかにも女性研究者としてのキャリアを積んでいる教員が身近にいることで、女子学生の学ぶ意欲を後押しできているのではないかと思っています。課程制という将来の選択肢が広がるしくみを整えた本学で、男女のへだたりなく、さまざまなキャリアに向けて挑戦してください。
伊代田 2024年度の入学生は、卒業年度が創立100周年にあたるメモリアルな学生になります。これからの日本の工学を共に創っていく仲間を待っています。