大学生の就活における有名企業人気が相変わらず高い中、企業のトレンドには変化が見られる。メガバンクの採用減や、IT・AI技術の発展にともなう情報化社会の進展により、有名大学から就職者が多い企業銘柄が変化しているのだ。その傾向について、有名企業に強い大学の特徴と併せて探ってみた。
文 井沢 秀(大学通信)
「有名大学×人気企業」の就職者数ランキングから、大学生の就職先のトレンドが見えてくる。近年の大きな流れの一つは、外資系コンサルティングファーム人気。難関大の就職先を見ると、かつてはメガバンクなど、大量採用していた大手金融業が各大学の就職者数上位に来ることが多かった。近年は、メガバンクの採用減などにより、外資系コンサルの就職者が増えているのだ。この背景について、就職アナリストが説明する。
「デジタルテクノロジーを活用して、より良い働き方や、効率よいビジネス展開を目指すために、コンサルティングファームを利用する企業が増えている。こうしたニーズに応えるため採用の受け皿を大きくしていることからコンサル人気が上がり、採用も増えているのです」
外資系コンサルの中で、規模が大きなアクセンチュアの就職者数を見ると、東京大は53人で同大から最多の就職先となっている。京都大は26人で同大で2番目に多い企業。私立大では、慶應義塾大が同大最多の88人、早稲田大もNTTデータと並んで最多タイの87人が就職。立教大も同大最多の22人だ。
就職先を選ぶ条件として、自らが成長できることを大事にする難関大生は多く、外資系コンサルをステップに次のキャリアを考える傾向が強い。外資系コンサルは高水準な給与も人気が上がる要因となっているようだ。
アクセンチュア以外の外資系コンサルに就職者が多い大学を見ると、デロイト トーマツ コンサルティングは、慶應義塾大(25人)、東京大と早稲田大(各11人)、東京工業大(7人)など。PwCコンサルティングが慶應義塾大(83人)、早稲田大(59人)、東京大(21人)、東京工業大(19人)など。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパンは、東京大(40人)、慶應義塾大(5人)、京都大(3人)など。いずれの企業の採用者も難関大で占められている。
情報化社会の進展にともないIT関連企業の就職者が増える
情報化社会への社会構造の変化にともない、IT関連企業も増えている。各大学の就職者が多い企業に注目すると、上智大は1位が楽天グループ(41人)で2位が日本IBM(26人)。明治大は1位が楽天グループ(35人)、2位がNECソリューションイノベータとTIS(各30人)。法政大は1位がドコモグループ(34人)、2位が楽天グループとNEC(各24人)など。
IT関連に限らず、デジタル技術はあらゆる企業が必要とする。さらに、大企業を中心に新たな資質が求められていると話す就職アナリストもいる。
「企業の規模や業界、業種を問わず、日本の成長戦略の柱であり、企業にとっては新しい時代に適応して発展していくために不可欠な、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)人材が求められている。こうした人材は、特に大企業で争奪になっています」
日本が世界から大きく遅れているとされるAI、ITなどに関するデジタル技術に高いレベルで対応できる優秀な学生は、DX人材として通常の就活ルートとは関係なく優先的に採用されるという。また、50年までにカーボンニュートラルの目標を掲げる日本において、それを実現するためのGX人材が求められ、企業も注目している。
IT技術に精通している人材を不要とする企業はない。さらにDX、GX人材が求められる中、理系的な思考力をもった学生はどの企業も欲しい人材。もともと就職に強い理系学生の活躍の場がさらに広がりそうだ。
AIに代表されるIT化により事務職が減少する一方、そのIT、AI技術を担う理系人材がより求められている。こうした傾向はより強まると見られ、今後、特に有名企業への就職においては、文系学生に対する大学の就職支援力が問われることになりそうだ。
有名企業に就職するために求められる課題発見能力
大学生の就職先に変化が見られるが、全体としてみれば、安定感のある有名企業人気は高く、入社のハードルは高い。「有名企業に強い大学ランキング」を見ると、そのハードルをクリアする学生が多いのは、国公立と私立大の難関大だということが分かる。
2022年卒の大学生の平均実就職率は、コロナ禍にあっても前年を0.7ポイント上回る86.1%で、2023年卒の内定状況も堅調に推移している。しかし、一般的な企業と有名企業(大企業)では入社の倍率が異なる。リクルートワークス研究所によると、22年卒の大学生に対する全体の求人倍率1.5倍に対し、従業員5000人以上の大企業は0.41倍と大きく下がる。
この狭き門を突破するにはどのような資質が求められるのだろうか。有名企業に強い大学生像について、就職アナリストに聞いてみた。
「高度経済成長の時代は、答えが分かりやすく要望されたことを、高いレベルでこなせる学生が求められていました。現在の就活では、何が課題になっているのかを見つけ出し、チャレンジして正解を作り出すための主体性や対人対応力、コミュニケーション能力が重視されているのです」
こうした企業が求める高いハードルをクリアして、有名企業に多くの学生が就職している大学はどこなのだろうか。
ランキングトップは、2年連続の一橋大。有名企業に限定した実就職率は50.8%で、卒業生の2人に1人が有名企業に就職していることになる。就職先は、卒業生の三木谷浩史氏が創業した楽天が最多で30人。以下、PwCコンサルティングと三菱UFJ銀行(各15人)、野村證券(13人)などが並ぶ。
2位は東京工業大だ。就職者が多い企業は製造業が中心で、日立製作所(34人)、ソニーと野村総合研究所(各22人)、パナソニックと日産自動車(各20人)などがある。同大は2年連続でランキング2位をキープしているが、実就職率は前年から12.2ポイント下がっており、3位の豊田工業大が1.4ポイント差まで迫っている。
その豊田工業大は、トヨタ自動車が社会貢献事業の一環として設立した大学。就職者が多い企業は、イビデン(6人)、トヨタ自動車(5人)、アイシン、デンソー(各3人)など。
4位の慶應義塾大は、約8000人と多くの卒業生がありながら、39.3%と4割近い実就職率となっている。慶應義塾大を上回る、卒業生が約1万2000人の早稲田大は、31.5%で12位。この2校の就職者が多い企業は、慶應義塾大がアクセンチュア(88人)、PwCコンサルティング(83人)、楽天(76人)など。早稲田大はNTTデータとアクセンチュア(各87人)、東京海上日動火災保険(64人)などとなっている。
集中力を持って新しいことを効率的に学べる学生は強い
慶應義塾大以下は、東京理科大(5位)、九州工業大(6位)、電気通信大(7位)、名古屋工業大(8位)、大阪大(9位)、国際教養大(10位)などの難関大が続く。難関大の学生が有名企業に強い理由について、就職アナリストが解説する。
「変化の激しい時代に仕事経験のない学生をポテンシャル採用する際、集中力を持って新しいことを効率的に学ぶ習慣が身についている学生の評価は高い。新たな情報を得るとき、手際よくインストールできる素養を持った学生は、相対的に難関大に多いことから、ハードルが高い有名企業の就職に強いということになるのでしょう」
難関大突破に向けた厳しい受験勉強から続いている、学びが習慣化している学生の人数が、有名企業の実就職率と密接なつながりがあるようだ。
有名企業に強い大学ランキング
表の見方
◆就職状況の調査に回答のあった558大学のうち、有名企業400社の実就職率が高い30大学を掲載。
◆慶應義塾大の2020年は3人以上の就職者のみ公表のため算出していない。東京農工大の2020年は未回答。
◆東京大は「東京大学新聞」第2979号、京都大は「京都大学新聞」第2681号から判明分を集計した。
◆大学や年により、一部の学部・研究科を含まない場合がある。
◆※印は国立、◎印は私立、無印は公立。
◆実就職率(%)は、就職者数÷〔卒業生(修了者)数-大学院進学者数〕×100で算出。
◆有名企業400社は、日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定した。
順位 | 大学名 | 所在地 | 2022年 | 2021年 | 2020年 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ※ | 一橋大 | 東京 | 50.8 | 56.7 | 52.4 |
2 | ※ | 東京工業大 | 東京 | 41.8 | 54.0 | 54.4 |
3 | ◎ | 豊田工業大 | 愛知 | 40.4 | 38.7 | 37.3 |
4 | ◎ | 慶應義塾大 | 東京 | 39.3 | 40.9 | - |
5 | ◎ | 東京理科大 | 東京 | 37.1 | 36.3 | 38.0 |
6 | ※ | 九州工業大 | 福岡 | 36.8 | 32.6 | 37.4 |
7 | ※ | 電気通信大 | 東京 | 35.1 | 33.9 | 39.5 |
8 | ※ | 名古屋工業大 | 愛知 | 34.8 | 34.9 | 38.7 |
9 | ※ | 大阪大 | 大阪 | 33.3 | 33.6 | 34.3 |
10 | 国際教養大 | 秋田 | 32.7 | 35.2 | 42.9 | |
11 | ※ | 名古屋大 | 愛知 | 32.2 | 31.9 | 32.8 |
12 | ◎ | 早稲田大 | 東京 | 31.5 | 33.0 | 34.7 |
13 | ※ | 京都大 | 京都 | 28.7 | 29.8 | 31.0 |
14 | ※ | 横浜国立大 | 神奈川 | 28.6 | 30.4 | 32.2 |
15 | ◎ | 上智大 | 東京 | 27.8 | 29.2 | 31.0 |
16 | ※ | 神戸大 | 兵庫 | 27.5 | 27.3 | 31.9 |
17 | ※ | 京都工芸繊維大 | 京都 | 27.3 | 27.7 | 24.1 |
18 | ※ | 東京大 | 東京 | 26.9 | 25.8 | 25.0 |
19 | ◎ | 同志社大 | 京都 | 26.2 | 26.6 | 30.7 |
20 | ※ | 東北大 | 宮城 | 25.9 | 27.7 | 30.4 |
21 | ※ | 東京外国語大 | 東京 | 25.6 | 23.3 | 28.4 |
22 | ◎ | 国際基督教大 | 東京 | 25.5 | 23.1 | 24.5 |
23 | ◎ | 芝浦工業大 | 東京 | 25.3 | 27.5 | 33.0 |
24 | ※ | 豊橋技術科学大 | 愛知 | 24.7 | 28.0 | 29.6 |
25 | ※ | 九州大 | 福岡 | 24.2 | 26.3 | 28.1 |
26 | ※ | 東京農工大 | 東京 | 23.5 | 21.4 | - |
27 | ◎ | 明治大 | 東京 | 22.7 | 24.2 | 28.4 |
28 | ※ | 北海道大 | 北海道 | 22.5 | 24.2 | 24.3 |
29 | 大阪府立大 | 大阪 | 22.3 | 25.1 | 27.1 | |
30 | ※ | 長岡技術科学大 | 新潟 | 21.6 | 22.4 | 25.6 |