大学の通信簿2022
進学校の進路指導教諭はどの大学を評価したのか

大学の通信簿2022<br>進学校の進路指導教諭はどの大学を評価したのか

生徒の志望校選びのために様々な情報を入手している進学校の進路指導教諭のアドバイスは、大学選びに大いに役立つ。
全国の進学校の進路指導教諭の知見が集まるなら、さらに心強い。では、実際にどのような大学が注目されているのか、面倒見、就職力、改革力など、様々な視点から進路指導教諭お勧めの大学を見ていこう。

大学通信は、毎年全国の進学校2000校の進路指導教諭を対象に、様々な視点から“オススメの大学”についてのアンケートを行っている。各項目別に5校連記で記入してもらい、最初の大学を5ポイント、次を4ポイント……として計算し集計した。624校から得られた回答から、2022年の結果を検証していこう。

回答数は624校 ※は国立、無印は公立、◎は私立を表す

コロナ禍で共通テスト方式を無償化した千葉工業大

まず、表1の「コロナ対応が上手だったと思われる大学」を見ると、トップは千葉工業大だった。同大は、コロナ禍で経済状況が困窮する家庭が増えることを見越して、21年度と22年度の共通テスト利用入試を無償化した。この点を評価する高校教諭は多く、「共通テスト利用入試の受験料無料化は革命的だった」(東京・私立校)などの声があった。

2位の早稲田大に対しては、「オンライン授業への切り替え、学生への情報提供」(北海道・私立校)、「情報発信が早い。ICT技術が高い」(埼玉・私立校)など、オンライン授業に対する評価が高い。3位の立教大や4位の東北大などは、コロナ禍での授業体制や学生支援対策を迅速に発信した点が評価されている。

表2の「面倒見が良い大学」のトップは、18年連続の金沢工業大。同大は、24時間、365日稼働している自習室や、自由なものつくりが行える夢考房などを整備。さらに、企業と連携した就労体験型学修のコーオプ(Cooperative Education)教育や、テーマに沿ってグループで学習や議論を重ねるプロジェクトデザイン教育などを展開。学生が育つ場とプログラムで成長する卒業生を見ている高校教諭が、面倒見が良い大学と評価しているようだ。

2位は東北大で3位武蔵大、4位明治大、5位タイに国際教養大と福岡工業大が並んでいる。武蔵大について高校教諭は、「徹底した少人数教育で、教員と学生同士の距離感が近い」(東京・公立校)、「ゼミ形式を中心とし、教授陣との接点が多い」(東京・私立校)などと評価している。

13年連続で「就職に力を入れている大学」トップの明治大

表3の「就職に力を入れている大学」は、明治大が13年連続でトップを続けている。高校教諭からは、「就職に対する様々な取り組みがあり、学生に対するサポートが厚い」(北海道・私立校)、「一流企業への就職に強い」(長野・公立校)などの評価が寄せられている。

ランキング上位には一流企業の就職に強い大学が多く、日経225採用銘柄企業や大学生の人気企業など、有名企業を対象として集計した実就職率(就職者数÷〈卒業生数−大学院進学者数〉×100)を見ると、明治大は22.7%で卒業生の5人に1人が有名企業に就職。ランキング3位の九州工業大(36.8%)や5位の早稲田大(31.5%)、8位の慶應義塾大(39.3%)なども実就職率が高い。

全企業を対象とした、卒業生1000人以上の大学の実就職率で見ると、6年連続での金沢工業大(97.7%)が「就職に力を入れている大学」で2位。12年連続で女子大の実就職率ランキングトップの昭和女子大(94.5%)は6位、国立大の実就職率ランクで14年連続でトップに立った福井大(96.7%)は9位だった。

表4の「教育力が高い大学」のトップは、16年連続で東大だ。専門教育に入る前の1、2年次のリベラルアーツ教育において、様々な分野の学問を深く学べるアカデミックな点が、多くの進路指導教諭から評価されているようだ。2位が東北大で3位は京大と、旧帝大がトップ3を独占。ベスト10には、大阪大(7位)、北海道大(9位)、九州大(10位)もランクイン。私立大は5位に東京理科大、6位に早稲田大、8位に国際基督教大が入った。

表5は「グローバル教育に力を入れている大学」。1位の国際教養大は、入学時からすべての授業が英語で、1年次は留学生とともに全員が寮生活。さらに長期海外留学が必須など、徹底したグローバル環境で鍛えられる。

国際教養大に加え、国際基督教大(2位)、立命館アジア太平洋大(3位)、上智大(4位)、早稲田大(5位)の上位5大学は、日本の高等教育のグローバル化を目指し「グローバル5大学連携協定」を締結。ベスト10の大学の内、前出の5大学に加え、東大(6位)、東京外国語大(7位)、立教大(8位)、東北大(9位)まで、日本のグローバル化を牽引する大学として文科省が指定するスーパーグローバル大学に指定されている。

入試改革を積極的に展開する大学が高評価に

表6の「改革力が高い大学」で1位の早稲田大と2位の東北大は入試改革を積極的に行っているという共通点がある。早稲田大は21年度の一般選抜から、政治経済で共通テストの数Ⅰを必須とし、共通テストと学部独自試験を組み合わせた入試を導入するなど、同年から始まった大学入試改革の理念である、思考力・判断力を問う方向に舵を切った。東北大は、国立大全体が総合型選抜と学校推薦型選抜による入学者3割を目指す中、すでに総合型選抜で募集定員の3割を選抜している。こうした取り組みが、進路指導教諭に評価されたようだ。

3位以下は、近畿大、東大、立命館大、東洋大の順。近畿大や立命館大、東洋大は、学部新設やキャンパスの再開発及び移転など、毎年のように何かしらの改革を行っており、教員もそのイメージを強く持っているようだ。15位の奈良女子大は、22年度に工学部を新設したインパクトが強い。

表7の「小規模だが評価できる大学」は、トップの国際教養大以下、2位の武蔵大と3位の国際基督教大まで昨年と同じ順位。4位は情報化社会の進展に伴い注目が集まるコンピュータ理工学部を有する会津大。5位には産業能率大が入った。同大は、コロナ禍真っただ中の20年秋からゼミを対面で再開。これができたのは、自宅に戻らなくても、ゼミの前後の授業をオンライン履修できる教室を用意できたから。学生一人ひとりの履修状況を確認し、十分な距離が取れる人数を把握して教室を手配したという。他大学がキャンパスを閉めている中で、学生と向き合う支援ができるのは小規模大学の大きなメリットだ。

表8の「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」の1位は東北大。同大は、面倒見や教育力、改革力も2位と高い。伸び悩んでいる学生はもちろん、できる学生がさらに伸びるシステムや総合型選抜への力の入れ具合など、高大接続を通じて、地域の学校がしっかりと見ていることが高評価に結びついているようだ。ランキングは、2位が東大で、以下、金沢工業大、東京理科大、京大の順で続く。

表9は「生徒に人気がある大学」。1位は前年の2位から上がった早稲田大。以下、明治大、立教大、青山学院大、慶應義塾大の順で首都圏の私立総合大学が並ぶ。多様な学部があることから、多くの生徒に注目されやすい。さらに、通いやすい都心に立地していることも生徒から支持される大きな要因になっている。

6位以下は、順番に東大、東北大、京大、大阪大と難関国立総合大学がランクイン。ランキング上位大学の中で私立と国立の難関大がくっきりと別れた。主に3教科で受験可能な私立大に対し、共通テストで5教科7科目必要な上、2次試験のハードルも高いことが、私立と国立を分かつ壁となっているようだ。

制約がなければ生徒に勧めたいのは8年連続で東大

表10の「偏差値や地理的条件、親の資力などの制約がない場合、生徒に勧めたい大学」は、国公立大と私立大に分けて比較した。

国公立大トップは8年連続の東大で、2位の京大を大きく引き離す。東大と京大以外にも、東北大(3位)、大阪大(4位)、北海道大(5位)と、旧7帝大が上位を占める中、名古屋大(8位)と九州大(11位)の順位がやや低いのは、他の旧帝大に比べるとローカル色が強いことから、地元以外の票が入りにくいことにありそうだ。

私立大も早稲田大が2位の慶應義塾大を離してトップ。それでもこの2大学は、3位以下を大きく引き離している。3位に東京理科大、4位は上智大、5位は国際基督教大が入った。

受験生意識に関する調査結果

ここからはランキングを離れて、受験生意識に関する調査結果を示すグラフを見ていこう。「生徒に人気のある大学」では、「自分のしたい勉強ができる大学」が77.6%で12年連続トップ。次いで「知名度が高い大学」57.7%、「社会的評価・イメージが良い大学」56.3%の順。昨年、コロナ禍の影響から前年を上回る57.1%で4番目に高かった「家から通える大学」は、46.8%に下がり、コロナ禍の影響の薄まりを感じさせる結果となった。

次の「受験生に受け入れられる改革」のトップは、前年のトップ項目である「キャリア教育など就職支援」を抜いた「学校推薦型選抜・総合型選抜の充実」で43.1%。コロナ禍で年内に合格を決めたい、さらに、探究学習に力を入れる新学習指導要領による学びが22年の高校入学者から始まっていることも背景にありそうだ。2番目は「キャリア教育など就職支援」で41.7%。3番目は「今、人気の学部・学科の新設」で41.2%、4番目は「資格取得支援」で32.9%だった。

受験環境に大きな変化が見られない23年度入試は、余計な雑音が少なく行きたい大学選びをしやすい状況にある。受験のエキスパートの進路指導教諭の評価を参考に、入学後に後悔のない大学に導きたい。

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