特待生枠を拡大し試験日程も変更。公立一貫校志願者にも私学の良さを伝えたい-山手学院中学校・高等学校

特待生枠を拡大し試験日程も変更。公立一貫校志願者にも私学の良さを伝えたい-山手学院中学校・高等学校

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取材:井沢秀(大学通信取締役/情報調査部長)

大学受験において早慶MARCH合格者数ランキングなどで存在感を誇る山手学院。もちろん入学段階の中学入試でも神奈川県でも毎年トップ5圏内の受験者数を誇っている。そんな同校では3年前から特待生入試制度を拡充し、受験生への利便を図っている。すでに県内屈指の人気校でありながらこのような施策に取り組むのは、どのような狙いがあるのだろうか。入試対策部長の渡辺大輝先生にお話をうかがった。

特待生入試をさらに拡大!横浜市立南や横浜サイエンスフロンティアとの併願を促進。

ーー山手学院中高で新たに特待生入試がスタートして3年目を迎えました。特待生入試制度を導入した背景についてお話をうかがえますか?

渡辺先生 私立中学は公立中学と比較すると授業料が高いだけでなく、受験対策のために小学校から塾に通うケースも多く、費用面でかなりハードルが上がっていることが実情です。そのため金銭的な事情もありずっと公立で学ぶ、という選択をするご家庭もいらっしゃるのではないかと思います。山手学院では、以前からその「ハードル」をできるだけなくしていくための制度作りを進めてきました。在学生向けの奨学金給付制度も検討しましたが、それよりも入試段階で広く謳うことで幅広い受験生に認知してもらいたいと考えて、3年前に特待生入試制度を刷新したのです。

さらに中学受験市場は拡大しており、私立だけではなく横浜市立南高校附属中学や横浜サイエンスフロンティア高校附属中学など、公立の中高一貫校を受験する生徒も年々増加しています。こういった生徒たちの中には授業料の負担が変わらないのであれば、私学での学びに興味を持っている層がいらっしゃいますし事実本校との併願も一定数あります。そういう生徒さんたちに公立の中高一貫校あるいは地元の公立中学への進学という2つの道だけではなく「魅力的な教育を行う山手学院」という新しい選択肢を知ってほしいのです。

今回の奨学金制度改定は近隣の私立中学からは「大胆な取り組みだ。なかなかできない」と言っていただくことも多いので、それなりにインパクトはあったようです。中学受験市場では奨学金入試を志願者数増加のカンフル剤として用いる学校も散見されますが、元々山手学院は2021年度入試の総志願者数が神奈川県で1位、2022年度入試でも2、3番目と、常に県下トップの志願者を集めている学校です。この入試でぜひ山手で学びたいが費用等何らかの障壁がある受験生に少しでもチャンスを増やしてあげたいと思っています。

山手学院中学校高等学校 入試対策部長 渡辺大輝先生(数学科)

ーー特待生制度はどのように刷新されたのでしょうか?

渡辺先生 従来の制度では合格者のうち上位5%を特待生としていました。たとえば500名の合格者がいれば、25名がその対象者になります。ところが実際は上位5%で合格した生徒は入学しないケースが多く、入試の魅力的なコンテンツとして打ち出しにくかったのです。それをもっと利用しやすくするために、2020年からは対象者の人数をしっかり明示することにしました。2020年は40名、2021年は60名と枠を広げて、さらに2022年からは「再チャレンジ制度」をスタートしています。

これは一番早い2/1のA日程の一般試験で合格した人でも、「特待生合格枠を目指してその後で何回受験してもいい」という制度です。これまではどこかの日程で一度合格したら、それ以降の受験はお断りしていました。再チャレンジ制度では意欲があれば4回の日程すべてに挑戦することが可能です。受験生も回数を重ねると入試問題に慣れて高得点を取りやすくなりますし、複数回受験して特待生枠に入った方は実際に入学を希望することが多いのです。こうした制度変更も奏功して、2022年度は29人が特待生として入学しました。

特待生制度を利用して国際交流プログラムへ参加してほしい

ーーたとえば「常に成績上位をキープする」など、入学後の特待生に求められる条件はありますか?

渡辺先生 現行制度では特に条件は設けていません。特待生として入学しても、普段の学校生活で誰が特待生であるかはわからないようになっています。学業優先で部活を制限されることもありませんし、クラスが他の生徒と分かれたり、特別な補習を要求されることもないです。

過去の特待生制度では、毎年成績による見直しを行っていました。でも現在は学習面でプレッシャーをかけるというより、普段の学費を学校からサポートさせていただき、その代わりに本学の教育の柱である国際交流プログラムへ参加しやすくする等、制度の意味合いが進化しているのです。

本学では中学3年生で、修学旅行とは別でニュージーランドに3か月間留学する任意参加のプログラムを用意しています。しばらくコロナ禍で休止していましたが、今年は再開しようと参加者を募ったところ、学年200名中69名と実に3分の1の生徒が参加を希望しました。やはり本校の生徒は「いろんな機会で海外に行って自分のビジョンを広げたい」と考えて入学する生徒が多い、と改めて実感しています。特待生制度はこのようなプログラムに参加しやすいように、そのぶん学校で3年間の学費をサポートしましょう、という認識です。

ニュージーランドの研修

ーーちなみに高校進学時に特待生はどのような扱いになるのですか?

渡辺先生 内部進学する際は、中学3年時の成績で上位何名が特待生になるという基準で選び直します。中学時代に特待生ではなかった生徒にもチャンスが巡ってきますから、改めて高校進学時に決めるというのはフェアだと思いますし、そこで不満が出ることはないですね。学校として特待生に不必要なプレッシャーはかけませんが、ご家庭が期待していたり、特待生資格を維持することをモチベーションに勉強を頑張る生徒もいます。中学・高校で特待生であり続けるのは、本当にトップレベルの学力を維持しているということになります。

あらたに2/3入試日程を変更。第一志望で山手を選ぶ受験生に門戸を広げていく

ーー次年度では新たに2/3に入試を設けるなど、入試日程が変更になるとうかがいました。詳細について教えてください。

渡辺先生 もともと本校の入試は、第一志望の生徒には少し厳しい日程だと言われてきました。2/1の午後、2/2の午後、そして2/6と他の私立中学があまり入試を設定していない日に設定していたのです。午後入試はより上位の中学をめざす層が滑り止めで受験してくることが多いので、山手学院が第一志望の生徒でもその層と戦わなければなりませんし、2/6はそもそも倍率が5倍、10倍と跳ね上がってしまいます。そのため2/1午前をA日程(80名)、2/1午後を特待選抜(60名)、2/3をB日程(40名)、2/6を後期日程(20名)と入試日程を変更したのです。

ーー2/2から2/3に移動したのはどんな狙いがあるのでしょうか?

渡辺先生 それには、毎年公立の中高一貫校の合格者から入学辞退の連絡をいただいていたことが関係しています。本校の合格者のなかに横浜市立南高校附属中や県立平塚中等に合格する生徒さんがいるというのは、受験生のレベルが高い根拠でもあるので、そのこと自体は悲観していません。ただ潜在的に国際教育など山手学院の教育の特長に魅力を感じていながら、費用面で公立に行ってしまう生徒がいるならば本校としてはとても残念です。そのため公立一貫校や他の私立中学の試験日でもある2/3に入試を実施することで、特待生制度などと併せて自ら山手学院を選んで受験してくれる生徒を増やしていきたいと考えています。

生徒の自主性を尊重する自由な校風と、高入生も打ち解けやすい寛容な生徒たち

ーー山手学院を志望する小学生や保護者の方に向けて、学校の特長や生徒さんの傾向などがあれば教えてください。

渡辺先生 1学年で200名と規模も大きく、共学校で男女分け隔てなく学べる環境なので、本当にいろんな個性の生徒がいます。また学校のポリシーとして自由を尊重していますから、生徒に対して「こういう人物になろう」と押しつけたり、理想の生徒像のようなものを掲げることもしません。教育のなかでさまざまな刺激を受ける機会はたくさん用意していますが、その先に自分が何を見出すかはひとりひとりの自主性に委ねています。そんな自由を謳歌できるのが山手学院最大の特長であり魅力ということになると思います。

もうひとつ、男女共学であることも自由でフラットな校風に寄与しているかもしれません。報道や学校現場でもLGBTQなどが話題になることもありますが、異性といるほうが居心地よかったり、男女両方いる環境のほうが人間関係を築きやすい生徒もいます。両方の性別が存在することでそういう悩みやストレスは抱えにくくなるのではないでしょうか。

また本校は中高一貫校ですが、高校からの入学者を受け入れています。高校入学生は内部進学生に対して少し緊張しながら入学しますが、内部進学生は逆に出会いを楽しみにしていたり、部活に新しい仲間を入れて盛り上げたいと考えているようで、毎年早くから打ち解けている印象がありますね。本校の生徒は排他的なところもなく他者に対して寛容なので、高校から新しい仲間が途中で入ってくるということもうまく作用していると思います。

海外研修プログラムや土曜の特別講義 豊富な体験型の学びで主体性を育む

ーー近年、山手学院の大学進学実績が飛躍的に向上して注目を集めています。どんな進路指導を行っているのでしょうか。

渡辺先生 大学進学の進路指導においても本人の意思を尊重して、希望を後押しするというのが本校のスタンスです。学校によっては医学部合格者をたくさん出したいとか、海外に学生をたくさん送り出すなど一定の方針の下に指導を行うところもありますが、山手学院の自主性を重んじる校風には馴染まないと感じています。

むしろ本校では自分らしい進路とは何かを考え、自分で出した答えを大事にしている生徒が多いです。たとえば以前も慶應義塾大学と武蔵大学に合格し、武蔵大学を選択した生徒がいました。一般的には慶應大と武蔵大を比較すれば、多少学びたいことが違っても慶應を選択する人が圧倒的に多いと思います。しかしその生徒は、パラレルディグリー制度で海外大学の学位取得ができるという大局的な視点で選択し、武蔵大学に進学したのです。そういう大胆な選択ができたり、周囲の価値観に左右されない芯の強さが本校の生徒には共通しています。

ーー生徒が自分らしさを確立したり多様な価値観を育むために、山手学院ではどんな教育や取り組みを行っているのでしょうか?

渡辺先生 海外研修プログラムがコロナ禍で休止してから、学内での探究プログラムを充実させています。本校は私立ではめずらしく週5日制を取っていますが、土曜日午前に大学の一般教養のような形式で特別講座を設けて自由に受講してもらっています。その中ではSDGsやプログラミング、アントレプレナーシップ(起業家精神)について学べる講座など、幅広い学びの選択肢を設けています。学業以外の分野に触れることで、これまで気づかなかった自分自身たちの可能性や能力に目覚めたり、興味が発展して職業につながることがあるかもしれません。たくさんの種をまいてきっかけ作りをすれば、生徒たちも中学の早いうちからそれらに馴染むことができますし、高校に上がれば進路づくりやそのために必要な対策が自然と見えてくると思います。

圧倒的な体験ベースで培われた課題解決力をもって今後の国公立大学の総合型入試にも対応

ーー確かにいまは大学側も学力だけでなく本人の意欲や主体性に注目し、社会課題に関心を寄せたり課題解決思考を持つ生徒を求める傾向が高まっているようです。

渡辺先生 おっしゃる通りで、東京大学など難関国公立大学でも総合型選抜を導入するところが増えてきました。本校でも今年の春に総合型選抜で一橋大学に進学した生徒がいるのですが、彼はあらゆる海外研修プログラムに積極的に参加し、そこでの体験が進路選択のきっかけになったと言っていました。彼は中学生の時にはニュージーランドのターム留学(3カ月間)に参加し、高校の夏休みはボストン研修(2週間)に参加してアントレプレナーシップやプログラミングを学びました。日本の他の高校生や現地の高校生とも触れあい、自分のビジョンが大きく変わったそうです。山手学院ではこうした「自分の肌で感じる機会」をすごく大切にしています。

ニュージーランドのターム留学は中3の1月~3月にかけて実施しているのですが、これは高校入試に向けて受験勉強をしている公立中学生と対比しています。公立に通う中学生が高校受験で勉強に追われている時期に、山手学院の中3生は単身ホームステイという別の種類の学びで大きく視野を広げ、将来に向けてたくさんの刺激を受けて帰ってきます。これはまさに中高一貫校だからこそ実現できる体験です。このような体験を本校の生徒は6年間通しで積み重ねていくので、公立の中高や他の私立中と比較すると変わりゆく総合型の大学受験においても大きな差別化につながると考えています。ぜひ山手学院の特長をもっと深く知っていただき、私立中学志望者層にも、公立一貫校志望者にもぜひ本校を候補の1つに入れていただきたいと願っています。

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