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「テクノロジー×インサイト」が生む無限大の可能性
「18歳人口」の漸減傾向が続いている。全体的に見れば大学への門は広くなり、大学入試も「ふるい落とし」から「マッチング」へと役割を変えつつある。それと共に偏差値(入試難易度)は受験生が使う物差しとして頼りなくなってきた。今の若者が大学に求めるもの、それを彼ら自身の中から引き出し、社会的資源につなげていく場を作り出していけるかどうかが、大学にとっても〝生き残り〟の鍵になるだろう。いわゆる「Z世代」を含む若者研究の第一人者であり、2022年4月に芝浦工業大学・教育イノベーション推進センターの教授に就任した原田さんに、大学で学ぶ意味と「芝浦工大」への期待を聞いた。
取材・文 堀 和世
原田曜平さん
1977年、東京都生まれ。慶應義塾大商学部卒業後、株式会社博報堂に入社。博報堂生活総合研究所などを経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。退社後、2018年12月よりマーケティングアナリストとして活動。22年4月、芝浦工業大学・教育イノベーション推進センター教授に就任。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。ユーキャン新語・流行語大賞に「さとり世代」(13年)、「マイルドヤンキー」(14年)、「Z世代」(21年)がノミネート。さまざまな流行語を作り出している。主な著書に『寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生』(角川新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)など。最新刊は『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』(ぱる出版)
原田曜平さんといえば、大手広告代理店・博報堂の「若者研究所」リーダーを務め、若年層に表れる社会の変化や潮流を綿密な調査でいち早く捉え、ユニークな表現を駆使して発信してきた。「さとり世代」をはじめ「マイルドヤンキー」「伊達マスク」「ママっ子男子」といった流行語の生みの親として知られる。今回のキーワード「Z世代」も原田さんが世に広めた言葉である。
―この4月から教壇に立たれています。どのようなことを教えているのですか。
今のところ三つの授業を持っています。「マーケティング概論」「デジタルプレゼンテーション」「消費者行動論」です。一般的には文系の経営学部とか商学部で学ぶような、理工系の大学には珍しい科目を担当しています。とりわけ「デジタルプレゼンテーション」は新しい、先端的な分野です。デジタル世代が増える中で、YouTubeも含め、SNSなどを通じた発信や理解は、生活する上での前提になってきてしまっているので、それに関わる知識を深めるのが目的です。
また「消費者行動論」はどちらかというとマーケティングリサーチに近い分野です。芝浦工大でも学生の多くは就職し、ビジネスパーソンになると思います。ビジネスにはターゲットがある。その深層心理や生活、消費行動をどうしたら理解できるかを知ることが大切です。基本的にはZ世代(1990年代後半から2000年代前半生まれの年齢層)を中心に置いて話をしますが、若者にとらわれず、さまざまなターゲットの消費者行動について教えています。
―大学としても新しい学問分野なのですね。
現在はいろいろな面で領域がなくなっている時代です。それこそ理系・文系とか、学問の境界がなくなりつつある。どの学生にとっても「消費者インサイト」が分からないと、ものづくりはできないと思います。「インサイト」とは何か。「ニーズ」という言葉は一般の人にも分かると思います。ニーズとは顕在化しているもので、例えば「今の若い人にはインスタ映えニーズがある」という表現は誰にでも通じるでしょう。それに対して、インサイトとは〝潜在化しているニーズ〟のことを指します。
つまり、その商品が市場に出て初めて、消費者が「わ、こんな商品があるんだ」とか「あ、私、こんな欲望があったんだ」と気づく。これがマーケティングの一番の醍醐味だと思います。消費者ニーズや消費者インサイトと、ものづくりが非常に結びつきやすい時代になっています。
さまざまな世代の「インサイト」を
理解することは生きるための基礎力
例えば「デジタル高齢者」という、スマホやタブレット、パソコンのいずれかを使いこなす高齢者が増えています。デジタル広告を流すと推定で60歳以上の2222万人、つまりその年齢層(4000万人強)の半分くらいに届くようになりました。孫とLINEをしている間にタイムラインで流れてきた広告を見たり、YouTubeを見れば必ず広告が目に入ります。団塊世代という、一番人口の多い層が高齢者になっていますので、マーケットは平成の時以上に大きい。団塊世代はビートルズを聴いて、マクドナルドを食べ始めた世代。巣鴨の地蔵通りに行かない人たちです。そういう高齢者のニーズやインサイトをつかむ新しい企業が出てきたら、市場のプレーヤーがガラッと変わってしまう。令和の高齢者市場は非常に面白いのです。
学生にはあまりにも遠い世代の話ではありますが、会社に入って若者だからといって、若者向け商品の担当になるとは限らない。またマーケティングにとどまらず、違う世代を知ることは人生にも役立つでしょう。お金、健康、友人、デジタルに触れること―それらがないと人間、幸せにはなれないんだなと。今の高齢者と、自分が高齢者になった時のことを併せて考えてみる。すると「人間づきあいが苦手だけど、今のうちに友達をたくさん作っておこう」と、自分の人生をプラスに動かすかもしれません。いろんな世代のインサイトを理解するのは、生きていく上で基礎的な力として必要です。
―学生の反応はいかがですか。
他と比べてあまりにも異色なので、戸惑っているのではないでしょうか(笑)。それでも授業後はプチ行列ができることもしばしばあり、いろいろと質問をしてくれます。授業に関する質問だけでなく、「インサイトって恋愛にも役立ちますか」とか、「就職、どこも受からないです」といった人生相談を含め、さまざまに話しかけてくれます。
実はマーケティングは、すべての人が行っているものです。広報業務で学生を呼び込むことも、恋愛もマーケティングの一種で、普遍的な学問といえます。「マーケティング」という言葉の響きは堅いかもしれませんが、例えば恋愛のシーンで、女の子が好きなものを調べて、「こんなジュエリーがはやってるのか、でもこっちのデザインもいけるんじゃないか」と考えてプレゼントを選ぶ、それはマーケティングです。
「広報」の視点から比較研究すると
この大学が持つ良さが見えてきた
原田さんは21年7月、芝浦工大の「広報アドバイザー」に就任。理工系分野のイメージアップや女子学生比率向上への提言など、外側からの視点で大学のあり方を見つめてきたが、さらに関わりを深め、教授として学生に向き合うことになった。
―芝浦工大で教えることになった経緯は?
博報堂に就職した時、父が〝大学教授になる本〟といったものを買ってきて、「一生懸命働いて、いつか学んだことを世間に還元する道に進め」と言われました。その時は深く考えませんでしたが、30代後半から意識し始めるようになり、いろいろな大学で非常勤講師や特任教授をやらせてもらうようになりました。そのような中、芝浦工大の理事長にお会いして、雑談で「いつか大学の先生になりたい」という話をしていたら、広報のお手伝いのお誘いをいただきました。
広報をするには、この大学のことを日々考え、他大学との比較研究も大切です。会社で接してきた他大学の学生の様子も見ているうちに、芝浦工大の良いところや特徴などが見えてきました。一見地味な大学のようで、意外と面白いことをやり始めている。世界、日本の工科系大学でのランキングがすごく上がっています。職員の方たちも、大学を本当に良くしようとフットワーク軽く動いているのを見て、気持ちよく過ごせそうな土壌があると思いました。
ただ同時期に別の大学からも教授職への誘いを受けていたのです。そちらは文系の経営学部。理工系で学んだり、教えた経験もないので、すごく悩みました。でも実は、博報堂時代に日産自動車に出向し、技術職の人と組んで車作りをしたことがありましたから、学校の風土などを考え、最後は自分の心に素直に聞いてこちらに決めました。
―ものづくりの経験が、工科系大学で教えることに生かされそうですね。
広告会社は普通、車ができてから「どう売っていくか」というところで依頼を受けます。なかなか川上まで入って技術系の人たちと一緒に仕事をする経験を持つ人は少ない。私は若者研究をしていたので、若い人たちのインサイトを最初から取り入れた車を作ろう、というところから入りました。このコラボレーションが本当に気持ちよくて、「これからこういう時代になるかもしれないし、こういう良さを伝えていきたい」と思いました。自動車だけでなく、建築にしてもデザインにしても、消費者インサイトは非常に大切な領域です。自分としても大学教授というお誘いはびっくりでしたが、お役に立てる可能性を感じました。
Z世代にも偏差値意識は根強い
自分自身に「仮説」を立ててみる
「Z世代」は2023年度入試(同年4月入学)に臨む高校3年生(2004年度生まれ)を含んで、おおよそ今の大学生、大学院生をすっぽりと包み込む。生まれた時からデジタル環境があり、携帯電話はガラケーではなく1台目からスマホを持ち、SNSを自在に使いこなす。原田さんの著書『Z世代』によると、一つ上の「ゆとり世代」は景気低迷を背景にした「消費離れ」や「同調圧力」の強さが特徴。Z世代は周りの顔色を気にする度合いよりもむしろ「発信欲求」が勝り、自分を認めてもらいたいという意識(自己承認欲求)の高さがうかがえるという。
―大学に求めるものについて、Z世代には上の世代と比べて変化はあるのでしょうか。
その点は昔とあまり変わっていないと思います。就職に有利な大学を偏差値で選ぶという傾向が強い。ただ昔と違って「良い大学、良い会社」に入れば一生大丈夫と信じ込めなくなった分、取っている行動自体はそんなに変わりませんが、本当に自分が楽しめること、やりたいことがあれば選択肢に入れるという風土ができてきたようには感じます。それでも「親が喜ぶ大学に行く」というところは、日本人はなかなか変わらないのではないでしょうか。
ただ、今の学生は世の中の不安定さや格差の問題などがあり、〝考える〟という土壌はむしろバブル期入社の世代よりもあると思います。しかし、きっかけに触れられずにボヤっとしている人が多くなっているのも事実かもしれません。Z世代は親と仲が良いので、親の古い価値観に影響されている面があります。親の就活理論などもう化石になってしまっているわけですが、割と従順に親の意見を聞いてしまう。
自分にどんな力があるのか、それを学生時代に知ることは難しいかもしれませんが、少なくとも〝芽〟のようなもの、私ってひょっとしたらこういう領域で活躍できるのではないか、といった仮説ぐらいは立てられるといいですよね。その力が本当に証明されるのは社会に出て10年、20年とたってからだと思いますが。
この変化の厳しい時代に、ただ単位を取るというだけではほとんど力になりません。自分が学問をやる意味に向き合い、直接それを覚えるというより、その学問を通して考える方法を学ぶなど、実践的な力をどれほど身につけられるかが大切です。
本当に良い情報はネットにはない
若い世代が身につけたい「問う力」
―原田さんの考える大学に行く目的、大学で学ぶべきものとは何ですか。
「問い」を見つける力、でしょうか。目的もなく、ただ大学に入ってしまった人には問いがありません。一つ一つの授業から「先生はこう言っていたけど、どうしてこっちは成り立たないんだろう」と考えたり、日々のニュースを見て、「何でこんなに貧困の母子家庭が増えているのか、どういう構造があるのか、どうしたら解決できるのか」と自分で問いを立て、仮説を考える力こそが大学で学び、身につけるべき究極の力だと思います。
―今の若者たちの「問う力」に物足りなさがあるということですか。
弱くなっているかもしれません。検索すればすぐに答えが出てきちゃいますし。でも本当に良い情報って、残念ながらインターネットにもSNSにも載っていません。海外のZ世代の調査もするのですが、現地で一人一人の学生の家を訪問して聞かないと出てこない話もたくさんあります。それはネットでは拾えない。疑問を持って足を運ぶことは、技術が進化した世界でも大切です。そういうことを教えていきたいな、と思っています。
―理工系は「好きなこと、やりたいこと」が定まっている人が多い印象があります。そういう要素は必要でしょうか。
それが一生好きかどうかは分かりません。周りの人々や自分のインサイトを考えながら、修正したっていい。むしろ「この大学に入ったからこの勉強をして、この道を行こう」と一直線になるほうが危うい。そういう学生には「このままでいいのか」と苦しむほど揺さぶりたいですね。苦しませたい。それが「考える力」をつけるのにつながっていくと思います。
「真面目な学生」というベースから
さらにスーパーに進化する可能性
Z世代といえば、SNSを駆使して多様な人とつながり、ボランティアなど社会活動にも熱心―といったイメージがある。しかし、原田さんらの定量調査によると、例えば「SDGs」に関する意識などは決して高くないという。彼らに〝揺さぶり〟が必要な理由であり、そのために大学が持っている場の力が生きてくる。原田さんの目には「芝浦工大」はどう映っているのか。
―学生たちをどうご覧になりますか。
学生の皆さんは本当に真面目です。黒板に書かず、しゃべっているだけの内容も熱心にメモをするし、授業中に寝ている人はすごく少ない。良い機会を与えればすごく伸びる学生たちだと感じます。
一方、これは良さの裏返しでもあるのですが、大学内で閉じている傾向があります。学生のサークル加入率が高く、大学を愛し、熱心に活動しているのは素晴らしいことです。ただ、せっかく東京のど真ん中にある大学なのですから、もっと外のいろんな人から刺激を受けてもいい。それが都市型の大学の醍醐味です。
ものづくりをする上でのマーケティングの基礎でもありますが、タウンウォッチングに出かけて、こんな建築物が街に増えているとか、スーパーである商品だけ売り切れているとか、そういうベーシックな観察がいろいろな発想をしていくために重要です。大学に籠もってコツコツやっていればいいという時代ではありません。コミュニケーション力、トレンド感度が高く、なおかつ技術に詳しい。そういう新しいタイプの人材を生み出していきたいですね。
―最後に芝浦工大の学生像をキーワードで表すと?
学生たちが真面目だと言いましたが、もっと良く言うと「上昇気流に乗った真面目な学生たち」。芝浦工大が大学として伸びていく中で、その気流に乗って淡々と真面目に生きている。また、それが現状だとするなら、未来はもう一段上を目指してほしい。すなわちテクノロジーとインサイトを掛け算できる「スーパーヒューマン」になってほしいですね。
この記事は2023年度芝浦工業大学ガイドブック『SOCIETY』からの引用です。
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