世界に後れを取っているといわれる日本の人工知能技術。新たなイノベーションを起こすのに不可欠な技術で後塵を拝することは、日本の経済の閉塞感にもつながっている。そうした状況を打破するために不可欠な人材について、大学は本腰を入れて養成を始めている。大学におけるデータサイエンス教育の現状を探った。
AIに代表される情報技術に関して、諸外国に後れをとる日本。政府が統合イノベーション戦略推進会議において2019年6月にまとめた「AI戦略2019」によると、人工知能技術は、近年、加速度的に発展し世界の至る所で応用が進むことにより、広範な産業領域や社会インフラなどに大きな影響を与えている。一方、日本は、人工知能技術に関しては、必ずしも十分な競争力を有する状況にあると言い難い、とした。
この事実を踏まえ、同戦略においては、①デジタル社会の基礎知識、いわゆる現代版の“読み書きそろばん”的な素養である、「数理・データサイエンス・AI」に関する知識・技能。②新たな社会の在り方や製品・サービスをデザインするために必要な基礎力など、持続可能な社会の創り手として必要な力。この二点について全ての国民が育み、社会のあらゆる分野で人材が活躍することを大目標として掲げている。
目標を実現するため、高等学校に対しては、全ての高等学校卒業生が数理・データサイエンス・AIに関する基礎的なリテラシーの習得及び、新たな社会の在り方や製品・サービスのデザイン等に向けた問題発見・解決学習の体験等を通じた創造性の涵養を求めている。
一方、大学においては、「リテラシー教育」として文系と理系を問わず全ての大学生が、課程において初級レベルの数理・データサイエンス・AIの能力の習得を求めている。さらに「応用基礎教育」において、文理を問わず、一定規模の大学生(高専生を合わせて約25万人卒/年)が、自らの専門分野への数理・データサイエンス・AIの応用基礎力の習得を目指すとしている。
優れた「数理・データサイエンス・AI」教育を展開する大学を文科省が選定
「AI戦略2019」では、大学の卒業単位として認められる数理・データサイエンス・AI教育のうち、優れた教育プログラムを認定する制度を設けた。正規の課程において学生の数理・データサイエンス・AIへの関心を高め、かつ、適切に理解し、それを活用する基礎的な能力育成のための知識及び技術を体系的に身に付ける教育について、文部科学省は「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」として認定した。
国公立大は、名古屋大を除く旧帝大や千葉大、新潟大、神戸大、岡山大、広島大、長崎大、公立千歳科学技術大など33大学。私立大は、東日本国際大、亜細亜大、上智大、成城大、早稲田大、阪南大、関西学院大、広島工業大、崇城大など33大学が選定されている。これらの大学の中で、先導的で独自の工夫・特色を有するものを、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)プラス」として、北海道大、滋賀大、山口東京理科大、北海道医療大、金沢工業大、久留米工業大など10大学が選定されている(一覧表参照)。リテラシーとしてデータサイエンスを学びたい生徒にとって、プログラムの採択は大学選択の一つの指標となろう。
一方、高いレベルでデータサイエンスについて専門的に学びたい生徒にとっては、設置が続いているデータサイエンス学部がある。その嚆矢は、17年に日本初のデータサイエンス学部を設置した滋賀大。数理統計学や情報科学・情報工学を基礎としたデータ分析力に加え、社会や企業が直面する課題を発見し、データを通じて解決へ導く能力の養成を目標としている。その後、データサイエンス学部の設置は進み、横浜市立大や武蔵野大、立正大で開設。名古屋市立大は、23年の開設を目指して設置構想中だ。
学科では、日本工業大・先進工学部のデータサイエンス学科、南山大・理工学部のデータサイエンス学科、大阪工業大・情報科学部のデータサイエンス学科、中央大・理工学部ビジネスデータサイエンス学科、人間環境大・環境科学部の環境データサイエンス学科などがある。
日本の大学で情報系の学部を持つ大学は約100大学。その内、データサイエンス学部は、ビックデータなどの情報をもとに、社会や自然に関するあらゆる課題を分析する総合情報学に分類される。総合情報学以外にも、情報にアプローチする学部・学科の種類は複数あり、ハードウエアやソフトウエアの開発など、社会や生活を支えるコンピュータ技術を学ぶ情報工学。コンピュータによる情報処理やデータ解析を学ぶ情報科学がある。
これからの時代を生きる全ての生徒にとって、情報の学びは不可欠。そうした中、リテラシー教育に力を入れる大学を選ぶのか、総合情報学、情報工学、情報科学の各分野で専門知識の獲得を目指すのか。生徒は、自らの将来設計に沿って選択することになるのではないか。