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現在の急激な社会変化の中心で、デジタル技術で生活を変える「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」という考え方が大きな存在感を放っている。金沢工業大学はこうした流れを受け、2022年度からデータサイエンス教育を全学生に必修化する。デジタル技術を活用して新たな教育の形を探る「教育DX」の取り組みとあわせ、最新の取り組みをリポートする。
データサイエンス教育を全学生に必修化
進化したデジタル技術を浸透させることを通して、人々の生活をより良いものへ変革する「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」という考え方がある。現在のDXは、AI技術とビッグデータの収集・活用の進展に支えられるところが大きい。社会課題を解決できる新しい製品やサービスを生み出すためには、AI技術はもちろん、環境から情報を収集する「センサ技術」や、ビッグデータを有効活用できる「データサイエンスの能力」といった素養が求められるようになった。
新たなデジタル技術が実装される社会で「リーダーとして活躍できる」人材を育てるために、どんな教育を提供していくべきか。「学生が主役」の教育を展開してきた金沢工業大学(KIT)がその答えとして打ち出すのが、デジタル技術によって教育を変えていく「教育DX」の試みだ。KITの大澤敏学長は次のように話す。
「これまで本学はエンジニアリング系の技術などをもとに社会実装をしてきましたが、今後はエンジニアの立場から文系の人々とも連携できる人材を育成することが不可欠です。それを実現するために、文理連携型の『KIT数理データサイエンス教育プログラム』を全学展開します。本学で4年間の学びを終えて社会に出れば、社会の最前線ですぐに活躍できる人材へと育っているはずです」
同プログラムの特徴は、デジタル社会における“読み・書き・そろばん”となるデータサイエンスの基礎を、22年度から全学生に必修とする体制を整えたことにある。
データサイエンスという学問分野は、社会のさまざまなデータを数学、統計学、コンピュータサイエンスの手法を用いて解析し、読み解くことで、データを社会の発展に役立てることを目指している。KITではすべての学生が、所属学科の専門に加えてデータサイエンスの能力を獲得し、それぞれの研究に活用できるようになる。データサイエンスの必修化は、新たな技術革新を生み出し「社会を変える」人材の育成を目指した動きだと言えよう。
具体的な授業内容を見てみよう。1年次前学期に開講される「データサイエンス入門」では、データを扱うための入門ツールであるエクセルの基本操作や、データの収集、分析といったデータを扱う上での基本的なスキルを学ぶ。1年次後学期には、層別集計、クロス集計、グラフ描画、回帰分析といった実践的な分析手順について、演習を交えながら学ぶ「データサイエンス基礎Ⅰ」を履修する。各データの関係性を数学的な手法で明らかにして、多くのデータを簡潔に説明できる力の修得を目指す内容だ。
2年次に開講される「データサイエンス基礎Ⅱ」では、「クラスター分析」や「決定木分析」といった機械学習の代表的な手法や、AIの急速な発展を支える「ディープラーニング(深層学習)」の基礎となる「ニューラルネットワーク」について学習。コンピュータによる計算手法を用いてデータを分類し、系統的に説明するための手法を身につけていく。
KIT数理データサイエンス教育プログラムでは、データやAIを活用する上での全般的な内容を学ぶ「AI基礎」「修学基礎A」、基礎的なデータリテラシーを学ぶ「プロジェクトデザイン入門(実験)」「プロジェクトデザインⅠ」、データやAIの利活用における個人情報の扱いやデータ倫理などを学ぶ「ICT基礎」も必修となっている。
さらなる学びを求める学生は、「AI応用Ⅰ」「IoT基礎」「ロボティクス基礎」「ネットワークセキュリティ」など13科目を選択科目として追加で履修可能。データサイエンスを研究に活用していくための基礎知識や、データを操作する実践的スキルを磨くことができる。
KITのデータサイエンス教育は、文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」として認定を受けている。文理を問わず全ての学生にリテラシーレベルの数理、データサイエンス、AI能力の習得を目指す教育プログラムを審査するもので、21年8月現在で78件が認定されている。
その中でも先導的、かつ独自の特色を有する11大学のプログラムは「リテラシーレベルプラス」として認定されており、KITはこれに認定された3つの私立大学のうちの一校だ。「数理解析に特化した企業と共同で教材を開発することで産業界の視点を取り入れていること」「1年次に全員が当該プログラムを履修すること」の2点で高い評価を得た。
新たな教育の形を生んだ先駆的な教育DXの取組
KITの教育DXの取り組みは、同じく文科省が公募する「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」にも採択されている。同プランには「取組①・学修者本位の教育の実現」と「取組②・学びの質の向上」の2つの部門があり、KITは両部門に採択された。私立大ではKITを含め2校だけだ。
取組①で採択されたのは、「DXによる学生一人ひとりの学びに応じた教育実践」の取り組み。学生の入学から卒業までのデータを集積・解析することで、「どのように学びを深めたか」「どのようにつまずいたのか」などのポイントを抽出。AIと教員が一緒になって学生の個別支援を行っていることが評価された。
取組②では「DXによる時間と場所の制約を超えた学びの創出」が採択された。ポイントとなったのは「スムーススペース」が整備されること。KITの位置する石川県と、東京や海外など遠くの接続地点を臨場感あるリモート接続でつなげるようになり、時間と場所を越えて学修者が連携できる環境が実現する。
「複数枚の巨大パネルを使って臨場感ある対話を可能とする『スムーススペース』を活用して他大学や企業とつながることで、フィールドワークや異分野連携の共同授業が容易にできるようになります。たとえば、単科大学がそれぞれ得意分野を提供し合えば、総合大学の機能を持てるようになります。遠隔でのものづくりも可能になるでしょう」(大澤学長)
KITはこれまで、企業人や地域行政に関わる人など社会のさまざまな人が授業や研究に参画し、学生とともに学び合う「世代・分野・文化を超えた共創教育」を進めてきた。デジタル技術を活用した新たな教育活動の形が実現したことで、こうした教育への追い風となるのは間違いないだろう。学科ごとの専門分野にデータ分析を活用できるようになることで、企業や自治体と連携した共同研究など、KITが進める「社会実装型の教育研究」の高度化につながることも期待されている。
企業でデータ分析の実務経験を積める「KITコーオプ教育プログラム」
KITでは2020年から、新たなプログラムとして「KITコーオプ教育プログラム」を実施している。
コーオプ教育(Cooperative Education、COOP教育)とは、「大学のカリキュラム」と「企業での就業体験」を融合させた米国発祥の産学協同教育のこと。大学の正課教育として実施される、大学が主体となって作成されたプログラムのもとで企業での業務に従事する、企業から実務に従事している間の給与が支払われる、といった点が特徴で、同じく企業実務に従事するインターンシップとの違いでもある。
KITはNTT西日本グループとの間で「データサイエンティスト養成」を目的とする産学協同協定を結んでおり、同プログラムはこの枠組のもと、大学とNTT西日本グループが協力して実施する。プログラムでは事前講座として、企業の第一線で活躍する技術者が実務者教員として担当する特別講義「ICT×データサイエンス」を開講。実際のビジネスに役立つ「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」について学習する。
その後、受講生の中から選抜された学生が、NTT西日本の“社員”として4ヶ月間の企業業務に従事。実社会でデータサイエンスに関する業務を経験できる。
参加した学生からは「大学の授業で扱う“きれいに整理されたデータ”とは異なる生のデータを扱えたのは貴重な経験だった」「データサイエンティストには社会人として必要なビジネス力が重要なことを実感した」といった声が寄せられた。大学で学んだことを卒業前に社会で生かせる、発展的なプログラムとなっている。