コロナ禍の先を見つめる国際教育 ボーダーラインを越える挑戦を多方面からサポート~関西学院大学

コロナ禍の先を見つめる国際教育 ボーダーラインを越える挑戦を多方面からサポート~関西学院大学

コロナ禍は大学教育に多大な影響を与えている。そのなかでも最も大きな影響を受けた分野の1つと言えるのが、留学をはじめとした国際教育だろう。質の高い国際教育に定評がある関西学院大学も例外ではない。しかし同学では、コロナ禍以前から「次の時代の国際教育」に着目。ICTを活用した国際教育の導入などに着手してきた。その改革は、はからずもコロナ禍によって大幅に加速した。同学が取り組む新たな国際教育の姿について、国際学部教授であり国際連携機構長も務める、丸楠恭一副学長に話をうかがった。

丸楠恭一副学長・国際連携機構長

―コロナ禍以前、2018年度には海外協定大学への留学者数で日本一となりました。これだけの成果をあげるに至った要因をお教えください。

教育の国際化を進めようというのは、国が掲げた方針です。世界市民の育成を使命とする本学にとって、この方針はまさに理念と合致するものです。率先して取り組んでいこうという気概を早くから全学で共有できたことが、大きな要因としてあげられます。

世界市民とは、「いつでも、どこでも、誰とでもいい仕事をすることができる人」と解釈することができます。また、私達のスクールモットーである「Mastery for Service(奉仕のための練達)」を噛み砕いて言うと、「誰かのためにいい仕事をできる人になろう」となります。この精神が学生に根付いており、「そのためには在学中にいろいろな経験をしておくことが大切だ」という考え方が定着していることも、留学者の増加に結びついている要因の一つです。

具体的な取り組みとしては、海外での協定校の開拓があります。その数は現在、約280に及びます。協定校は一朝一夕に拡大できるものではありませんので、長い時間をかけた段階的・計画的取り組みが実を結んだと言えます。

――大学の国際化を以前から推進していたことは、コロナ禍においてどのようなプラスの作用を生んでいるでしょうか。

コロナ禍以前から、世界ではICTを用いた国際教育の開発が進められていました。それは、単に国内からオンラインで国外の授業を履修するというだけでなく、COILやVE(※)といった、カリキュラムを海外の大学と共同開発して複数の国の学生が協働して学ぶという、新たな学びの姿へと進化していました。

これらの学びのスタイルについて、日本は世界から何周も遅れていました。それがコロナ禍により、ようやく1周〜半周遅れぐらいまで追いつきました。本学はコロナ禍以前からVEに取り組んでいたため、現在の日本において先頭集団で走ることができているように思います。そこが、以前からの取り組みのプラス面と言えるかもしれません。

※関西学院大学におけるVE(Virtual Exchange)とは、従来はリアルな留学でしか行えなかった学生間交流や共修までオンラインで行えるようにしたプログラムのこと。そのなかでもシラバスを共同開発して海外の大学とともに運営する授業をCOIL(Collaborative Online International Learning)と呼びます。関西学院大学では、海外でのマーケティング戦略立案を現地の大学生とともに行う学びなど、さまざまなVE/COILを展開しています。

―コロナ禍は国際教育にどのような影響を与えたでしょうか。

COILやVEというオンラインでの学びが国際教育において大きな役割を果たすようになりました。ここで課題になるのが海外の大学との関係性です。

COILやVEでは、海外の大学と一緒になってカリキュラムを開発します。そのためには、互いの大学が目指しているものや教育の特色、学生のニーズなど、さまざまな状況への理解が不可欠です。カリキュラムを作り上げるための教職員の熱意も欠かせません。すなわち、双方の強い結びつきがないと良質なCOILやVEは実現できないのです。これを問われたのがコロナ禍だと言えるでしょう。幸いにも本学は、長年にわたって深い関係性を築いてきた海外の大学が複数ありました。そういった大学の存在が、いち早く充実したCOILやVEを導入できた要因になったと思います。

―オンラインで国際教育を行うことは、どのようなメリットをもたらしたでしょうか。

まずはっきりしたことは、オンラインによる国際教育はいわゆる留学の単純な代替物ではなく、メリットもデメリットもある新たな学び方だということです。

メリットとしては、ローコストであることがあげられます。気軽に参加できるため、国際教育の入り口として有力な一つの選択肢という面もあります。また、ジェンダーマイノリティの学生など、リアルでの留学にためらいを感じていた学生も安心して参加できるというメリットもあります。語学学習という点では、学習効果はリアルの留学と同等か、それ以上ではないでしょうか。一方で、学生間の深い交流については、いまのところリアル留学に一日の長があります。教室で外の交流やお互いの文化を体感的に理解するという経験をどのようにしてオンラインでカバーするか、教職員が知恵を絞っているところです。

いずれにしても、今後はオンラインとリアルの両方を組み合わせて国際教育が行われることになるでしょう。「ハイブリッド」「ブレンディッド」などと呼ばれるこの学び方は、すでに欧米では広まっています。国内にいながらにして海外の学びに参加することになるので、こうなるともはや、何をもって国際教育と呼べばいいのか悩ましくなるでしょう。私たちは改めて、「国際教育とは?」という問いと向き合わなければいけないのです。それはすなわち、大学教育全体の変革を誘発する問いでもあり、大学の底力が試されているようにも思います。この潮流のなかで勇気をもって教育を改革し、チャレンジした大学だけが次の時代で存在感を放っていくのではないでしょうか。私たちは、コロナ禍を契機に国際教育のありようを進化させたいと考えています。

―COILやVEなど、オンラインでもPBLや学び合いといったアクティブラーニングの要素が重視されています。学び方が変化することで、コミュニケーション力の涵養など、基盤教育においてはどのような取り組みが必要になるでしょうか。

学び合いの重要性が非常に高まっています。それに伴って、学生を評価する基準も変わるでしょう。例えば従来は、知識の習得度合いを評価の基準としていました。極端な例で言うなら、授業中は何も発言しなくても、テストでしっかり点を取れば評価されるのです。しかし学び合いを重視すると、授業中に活発に発言してクラス全体の学びを促進してくれる人が高い評価を得るのです。

国際教育に限らずオンライン授業が広がり、教材が事前配布されたりオンデマンドでいつでも利用できるようになったことで、反転教育が活発に行えるようになりました。議論や話し合いを重視するこの学びのスタイルにおいては、ファシリテーターとしての教員の役割が重要になると言えるでしょう。

―ポストコロナの時代における国際教育の在り方について、先生の見解を教えてください。

先ほどお話ししたとおり、私たちはいま、改めて「国際教育とは何か」という問いを突きつけられています。私は国際教育の核は、ボーダーラインを越えていく精神だと考えています。

ボーダーラインを越えるには勇気がいります。その原動力は好奇心であることが多いです。越えることで、共感力が養われます。こういった勇気、好奇心、共感力を養っていくのが、いつの時代も変わらない国際教育の核です。これらを養うためのプログラムをどのように大学時代の学びに組み込むかは、時代に合わせた大学の工夫次第です。工夫のひとつとして、コロナ禍ではオンラインというツールが活用されました。ともに学んだ仲間とSNSでつながり続け、その後も学び合ったり刺激し合ったりというケースも近年では当たり前になりました。これも、新しいツールを使った時代に応じた工夫だと言えます。

勇気をもってボーダーラインを越えていくことを国際教育とするなら、たとえ日本人同士であっても、他人の学びのために貢献していこうという精神も国際教育だと言えます。日常のなかにはさまざまなボーダーがあります。それらを越えるためにチャレンジし、失敗も含めて仲間たちとともに成長していくことも国際教育なのです。むしろ、非常に現代社会らしい国際教育と言えるでしょう。

そしてもう1つ大切なのが、ボーダーを越えて通用する「知」を身につけることです。すなわち、論理的思考とサイエンスの知識です。これらの重要性は、今後ますます高まるでしょう。

本学は卒業生が世界中で活躍しています。彼ら・彼女らが組織する同窓会の海外支部は、海外にチャレンジする在学生を積極的にサポートしています。また、卒業生の存在が、在学生にとって海外をより身近なものにしています。長い時間をかけて培ってきたこの財産が、本学における国際教育の在り方をよりよいものにしている思います。

―ワクチン接種の拡大により、リアル留学の再開へ期待が高まっています。関西学院大学での準備状況について教えてください。

学生の思い、国の方針、留学先の状況などが複雑に交錯し、本当に難しい問題です。そのなかで本学は、2021年度秋学期から、条件に合うところから再開していこうという方針を掲げました。条件とは、留学先の国全体、大学のある自治体、そして大学自体が行っている感染症への対応状況が、安全を担保するに足るかというものです。また、万一の際の医療施設での受け入れや帰国がスムーズにできるかも調査しました。本学学生の留学先である国、自治体、大学すべてに対してこれらの調査を行ったうえで、リアル留学を希望する学生1人ひとりの状況を検討し、再開または引き続き保留の判断をしています。

リアル留学では、自分の五感すべてを使って何かを感じ取るという体験ができます。これはたとえCOILやVEが発達したとしても、失われることのない価値です。特に若い世代の人には、はかり知れないほど大きな影響を与えます。リアルとオンラインの国際教育は、今後、車の両輪のようにどちらかが欠けても成り立たないものとして共存していくでしょう。

―最後に、高校の先生方と高校生のみなさんにメッセージをお願いします。

私は、本学が持つ空気感に何とも言えない心地よさを感じています。その理由を考えたとき、思い当たるものの1つが、本学の学生が無意識のうちに備えている「人は学び合って成長する」「他者との関係性の中にこそ自分がいる」という精神です。これらの精神は今後の社会で強く求められるものです。ではなぜそのような精神を1人ひとりが備えているのかというと、やはり、「他者のために自分を磨く」という精神が根底にあるからでしょう。スクールモットー「Mastery for Service」にもつながります。このような精神的バックボーンは、みなさんがグローバルな学びに取り組む際、大きなアドバンテージになるでしょう。

少し手前味噌なお話になりますが、本学の国際教育の窓口となっている国際教育・教育センターは、とてつもない情熱を持った職員で構成されています。どんなに難しい状況でも常に「どうすれば学生の学びが豊かになるか」を考え、学生のサポートや海外の大学との調整に取り組んでいます。今後もぶれることのない思いで国際教育の充実に取り組んでいきますので、ぜひご期待ください。

インドネシア人学生の積極性に触発され、「知りたいこと」へ自らアプローチするように

李 莉世さん
国際学部国際学科1年生

オンラインで行われた「インドネシア交流セミナー」※に今夏参加しました。プログラムのなかでは、コロナ禍における幸せや平和をテーマに、インドネシアの学生とともに講義を受けたり、ディスカッションを行ったりしました。また、互いの国の文化を紹介する時間などを通じて、学生同士の交流を深めました。

私は在学中に留学にチャレンジしたいと考えています。でも実は英語が苦手です。そこで最初のステップとして、英語力を問わず参加できるこのプログラムを選びました。そんな私にとって良かったのは、プログラムの最終プレゼンに向けてチームで話し合いを行う際、テーマやそこで投げかけられる質問を、事前にLINEやメールでメンバーに共有したことです。このおかげで自分の意見や質問への回答を事前に考えておくことができました。これはオンラインならではの良さだったと思います。

印象的だったのは、インドネシア人学生の学びへの積極性です。彼らは質問をどんどんしますし、提案も次々にします。プログラムの最初の頃、私はどちらかと言えば学びを「人任せ」にしているところがありました。ところが彼ら・彼女らの姿勢に触れるうちに、「できなくてもやってみよう」「チャレンジして失敗しても、それは成長の原動力になる」「知りたいことは、自ら行動して知ることが大切」と思い、行動できるようになりました。このような心の変化が、プログラムでのいちばんの収穫だと思います。英語への苦手意識についても、「避けずに勉強していればいつかは克服できるはず」と前向きに考えられるようになりました。

私は在日コリアンとして、マイノリティの歴史に興味を持っています。世界のさまざまなマイノリティ、そして在日コリアンのことについて、学びを深めたいと思っています。そこでまず、文化の根幹をなすとされる言語をしっかりと学び、言語を通して社会を理解していきたいです。そして、マイノリティや異文化に関する情報発信を行い、多くの人とともに課題解決に取り組めるようになりたいです。

※インドネシアの学生と国際社会の諸問題について学び、相互理解を深める40年以上続く国際合同セミナー。通常は隔年で互いの大学を訪問し開催しているが、2021年度はオンラインで実施。6月から7回にわたり事前研修(一部合同)を重ね、8月の3日間で講義、共同グループ発表、文化交流などを実施した。

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