<PR>
新型コロナウイルス感染症に関する動向を振り返る
大上浩 副学長
武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部機械工学科卒業後、同大学院博士後期課程修了(工学博士)。同大学教授を経て2021年から現職。専門は流体工学。
【令和2(2020)年1〜2月】
―新型コロナウイルスが出現し、私たちの生活が一変しました。
令和2(2020)年1月6日、厚生労働省は、中国における「原因不明の肺炎」についての注意喚起を発表しました。新年の始まりに現れたこの感染症は、後に「新型コロナウイルス感染症」と名付けられて全世界に拡大していくことになります。1月末には政府のチャーター機が武漢から日本人を緊急帰国させます。2月の初旬には横浜港に着岸したダイヤモンド・プリンセス号が連日の話題を席巻しました。2月17日に東京マラソンの一般参加枠中止が発表され、東京オリンピックの中止や延期が議論されてくるようになると、いよいよ国内の危機意識も実感をともなうものになってきました。2月27日には首相が全国の学校の休校を要請し、年度末は卒業式の中止や縮小が当たり前の状況になりました。
【令和2(2020)年3〜4月】
―学校教育への影響はいかがでしたか。
年度末という時期は入試シーズンに当たります。集団が一堂に会する大きなイベントが自粛されていく中、生涯にも影響する入学試験は「不要不急」のものとは言えず、また、4月からの年度を単位として進行していくため、中止や延期の判断はとても難しいものです。各高校や大学の入試は、厚生労働省や文部科学省からの方針や指導、最新情報に細心の注意を払いながらの実施となりました。東京都市大学においても、座席配置や換気をはじめとする入試実施オペレーションの見直しをはじめ、医用工学科のサーモグラフィを入構口に設置するなどして対応に当たりました。
新年度スタートの令和2(2020)年4月は、最も緊張感が高まった時期でした。4月7日にはじめて出された「緊急事態宣言」は、当初は7都道府県を対象としましたが、16日には全国に拡大されます。多くの学校は新年度を通常どおりに開始できない状況となり、5月11日時点の全国の学校(幼稚園から大学まですべての学校種を含む)の臨時休校は86%にもなりました。
【令和2(2020)年5〜6月】
―小・中・高校の学校再開と、大学でのオンライン授業対応についてお聞かせください。
一方で、この頃になると休校の継続にも限界が見えてきました。5月中旬から都道府県単位で段階的に緊急事態宣言が解除されていくと、小・中・高校の多くが、分散登校や時差通学・短縮授業といった工夫を加えながら学校を再開するようになります。また、この状況下での新しい学びのスタイルとして、オンライン学習が市民権を得てくると、特に大学では閉塞感を打ち破る必需アイテムとして導入が急拡大しました。このときの緊急事態宣言は5月25日に解除されましたが、通学者が広域に渡る大学は小中学校のような分散登校という手段は選びにくいところです。6月1日に至っても国公私立大学1012校(短大含む)のうち9割がオンライン授業(通学対面併用の場合を含む)を行う状況でした。
【令和2(2020)年7〜8月】
―コロナ禍の長期化と、大学入試への影響はどうでしょうか。
この頃は大学の「9月入学」論も持ち上がりました。年度開始が約2か月遅れたことがきっかけでしたが、感染者数のピークアウトとともに、その議論は幕切れとなります(いま振り返るとこれは「第1波」で、その後周期的にピークを繰り返します)。世の中に通常生活の兆しが見えてきたこともあり、文部科学省が6月19日に通知した「令和3年度大学入学者選抜実施要項」では、入試制度を大胆に(例えば1か月遅れなど)変えることに言及することはありませんでした。この通知は、大学入試をつかさどる、いわば入試実施のためのインストラクションです。大胆な変更には至りませんでしたが、高校の長期間の休校にともなう学習の遅れや自己PR用活動の実績不足への「配慮」として、出願期間の変更、大学入学共通テストの複数回設定、追試制度の設定といった対応や要請が示されました。
すべての大学は「当初に計画していた通りの入試」とはいかず、少なからず変更が必要となった訳ですが、東京都市大学では7月8日に変更と配慮内容を含めた入試再構築内容を公表しました。この発表は全国の約800大学の中で最も早いリリースとして注目されました。また、受験生へのきめ細かい配慮には多くの好意的な意見が寄せられました。東京都市大学の一般選抜は前年比108%の志願者数増となりましたが、コロナ禍での様々な対応が評価されたことも誘因のひとつだったと考えています。
コロナ禍における東京都市大学の取り組み
―「学びを止めない」ための多様な対応策を実施されていましたね。
令和2(2020)年度は、東京圏の多くの大学がオンライン授業を導入することとなりましたが、結果としてそのまま1年間キャンパスの門を閉ざしたままの大学も少なくありませんでした。
東京都市大学でも授業開始は5月18日からとしてオンライン授業でのスタートとなりましたが、新しい学修環境の整備を支援するために学生一人当たり5万円の奨学金を支給したほか、パソコンの用意が難しい学生には無償貸与などを進めました。また、教職員においては、IT技術やオンラインならではの授業特性を理解するための研修会を頻繁に開催。準備における苦労や工夫、疑問や質問、新しく発見したITテクニックなどは、WEB上のコミュニケーションツールTeamsへの投稿で共有するしくみも構築しました。「オンライン講義 駆け込み寺」と命名されたチャネルには続々と投稿が寄せられ、充実したFD(Faculty Development)活動にもなっていました。多くの大学では、オンライン授業の開始初日には大変な混乱があったと聞きますが、東京都市大学の新年度開始はとてもスムーズなものでした。
なお、授業はオンラインでの開始となりましたが、学部4年生や大学院生の研究活動については、独自に設定した安全配慮ルールのもとでの登学を認めています。東京都市大学のコロナ禍対応は、安心と安全の確保とともに、「学びを止めないために何ができるか」ということも最大の要諦としており、特に個人や小グループが中心となる研究活動については、可能な限りキャンパス内で活動できるようにしてきました。
授業についても、当初はすべてをオンラインで開始したものの、9月からは対面型授業も再開してキャンパスに学生の姿が戻ってきました。下の表は東京都市大学独自の「感染対策ステージ」設定です。国内の感染状況や行政の方針なども踏まえながら、その時点における最善を選択してコロナ禍対応を進めてきました。令和3(2021)年度については、年度開始時はステージ2を適用。キャンパスは新入生の活気であふれました。しかしながらその後、過去最大級の第5波を迎えるに至り、期の途中からはステージ4に切り替えています。
なお、東京都市大学の「ハイブリッド型授業」とは、教室での対面型授業を基本とし、その授業をオンラインでも同時配信するものであり、ハイフレックス型とも呼ばれます。また、学生自らが、対面かオンラインかを選択できることも特徴的な取り組みです。一人ひとりの異なるセンシビリティや登学のための地理的環境などに配慮したものでもあり、登学しての対面型授業を選択する学生は半数程度となっています。むしろオンライン授業の利便性に気づいた学生も多かったようで、コロナ収束後も、大学の教育スタイルの多様化は進んでいくものと思われます。
―大学としての総力対応はさすがですね。東京都市大学についてもお教えください。
東京都市大学は、平成21(2009)年4月に前身の武蔵工業大学から名称変更した大学です。同一学校法人内の東横学園女子短期大学を統合したことが主な理由ですが、現在でも理工系大学として認知される機会が多く、実際のところも、全7学部中の6学部が理工系または理工系を含めた融合分野の特徴を持っています。
理工学部には、スペシャリティの高い「医用工学科」があり、同学科ではコロナ禍以前より、研究機器としてサーモグラフィやPCR検査装置を備えていました。今でこそ一般に知られたPCR検査ですが、東京都市大学では早い時期から日常的にこれを活用し、例えば「濃厚接触者」とまでは認定されずに公的な検査を受けられない場合などに、学生・教職員の不安を拭い去るための一助として利用してきました。一般選抜では、試験場の3密回避を目的として学外試験場を多数増設しましたが、これを担当する教職員は出張直前にPCR検査を行って陰性証明書を持参。首都圏居住者の移動に潜在的な不安を持っている地方会場の方々に安心材料を示すことができました。
また、令和3(2021)年度になってワクチン接種会場として大学が手を挙げるようになると、東京都市大学ではサテライトキャンパスのある二子玉川に、世田谷区と楽天グループの協力を得て、これを実施します。学生の接種状況はシステムへの報告で状況管理をしていますが、10月上旬時点では8割以上が2回の接種完了または予約済みや1回目の手配を終えていました。
―ワクチン接種と独自検査も活用した感染予防策を推進されたのですね。
東京都市大学の授業は、多くの大学で標準的な年間2期のセメスター制ではなく、4期に分けたクォーター制としています。効果的な教育方法として採用している施策ですが、この細かい期間区切りは、前述のステージ対応においても判断を区切りやすく、機動力を発揮しやすい体制であったと思われます。このクォーター制をはじめ、東京都市大学の教学施策やカリキュラムは特徴的で工夫に満ちており、最先端を走る様々な改革は、文部科学省の「私立大学等改革総合支援事業」で5年連続してほぼ全タイプに採択されてきたことにも表れています。全7学部のカリキュラムの特徴には「卒業研究」を頂点とした専門的かつ実践的な科目体系があり、多彩な演習系科目やPBL(Problem-based Learning)科目がその骨格を支えています。講義科目と違って、「研究」や「演習・PBL」には、キャンパスでの学び・教室での学び・対面グループでの学びがとても重要です。このコロナ禍は、東京都市大学にとっての学びの特質が、キャンパスという場にあることを再認識させられることにもなりました。
4回目の緊急事態宣言が解除され、第5波の収束傾向があらわれた令和3(2021)年10月からは、さっそくステージ2へ移行し、キャンパスはふたたび学生と教職員が集う場所としての姿を取り戻しています。そして、大学再開とも言えるこのタイミングからは、入構に関しても新しい取り組みをはじめました。
第5波の収束は、ワクチン接種の普及も大きな理由だったと言われます。10月以降、国内の大型イベント等ではワクチン接種完了者の入場制限緩和なども導入されてきました。一方で、新型コロナウイルス感染症の対策方法や、ワクチン接種への考え方は人によって多様化してきている面もあります。大学においてワクチン接種を義務化したり入構条件にするのは適切とは言えません。東京都市大学の新しい取り組みのひとつは、様々な理由でワクチン接種を完了していない学生が、学内に常設する会場で必要な時に検査(PCRまたは抗原)を受けられる体制の構築です。キャンパスの門をくぐった先には、授業やクラブ活動等で学生らしい交流が少なからず発生します。このタイミングだからこそ検査体制を充実させる取り組みは、学生一人ひとりが集団内の他者のために何ができるかに応えるための環境整備とも言えます。キャンパスのリスタートに際しての一連の対応策については別表をご覧ください。本年度中にはステージ1または0で対応するキャンパスにし、東京都市大学におけるキャンパスライフのあるべき姿を取り戻したいと考えているところです。