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日本国内の大学の工学部は、技術者育成機関として設置された、明治時代の工部大学校(※)からはじまったという歴史的経緯もあり、建築学は工学部内の1学科として置かれていることが多い。しかし、「建築」とは単なる建造物を指す言葉ではなく、そこに住む人間の暮らしや都市の在り方など、より幅広い概念が含まれている。
そこで神奈川大学では、2022年4月より、工学部建築学科が工学部の枠組みを超え、建築学部として独立する。文系の視点も取り入れた建築学部の新しい学びについて、建築学部長に就任予定の内田青蔵教授にお話し頂いた。
理系の建築学科から文理融合の建築学部へ
―まず、工学部建築学科を建築学部として独立させる狙いを教えてください。
そもそも、海外では建築学が工学部内に置かれることはありません。建築には大きくデザインと工学の2つの要素があり、それぞれ美術系、工学系と別々の学部で学ぶのが海外の建築学の一般的な考え方です。一方、日本の建築学は明治時代に工部大学校に置かれた造家学科を端緒とし、工学的教育、つまりモノづくりの側面を重視して発展してきました。
ただ、現在の日本は少子高齢化やそれに伴う空き家問題など、かつてとは異なる問題を多く抱えています。いま建築学に求められているのは新築の物件をつくることよりも、余剰となった既存の建築物に意味を見出し、再利用することです。そのためには、社会の変化や地域の人々の感情などを察する、豊かな感性が必要になります。このような事情を踏まえ、文理様々なタイプの学生が集まり、お互いに刺激し合いながら学ぶことがこれからの建築学に必要という考えから、工学部の枠組みを超えた建築学部という文理融合型学部の開設に至りました。
既存空間の再活用を提案する2つの新コース
―学部化に伴い、拡充した点を教えてください。
従来の建築学科では、音響や光のコントロールなど生活空間の質の向上を学ぶ「環境コース」、災害等に強い安全安心な建築を学ぶ「構造コース」、都市計画やデザイン理論などを学ぶ「デザインコース」の3コース制となっていました。新しい建築学部では従来の3コースに加えて、住まいの歴史、住宅設計、生活環境のデザインなどを幅広く学ぶ「住生活創造コース」、人とまちの関係性を見つめ、新たな“まち〟のあり方を考える「まち再生コース」を新設した5コース制となります。新しい2つのコースは既存の空間や場を価値あるものとして活用するための提案をしていくような、文系要素の強いものです。
また、コースに入る前に各分野を横断的に学ぶ期間があるのですが、これを従来の1年から1年半に伸ばしています。文理融合型の学部という強みを生かし、幅広い分野を学びながら、将来進む専門の異なる多様な学生と交流をしてほしいという狙いがあります。
―建築学部ではどのような人材を育成しますか?
かつて本学の建築学科が養成していたのは、建築技術者です。ただ、これから養成していきたいのは技術者だけではなく、“建築専門家〟。建築物が余る時代で、新築よりも、古い建築物の魅力を維持しつつ改修しながら再利用することが求められています。建築物は人間が使うためにあるものですから、住み手が何を求めているかを理解して、寄り添いながら生活空間に対するアドバイスを提案できる、町医者的な人材を本学から輩出していきたいです。
そのためには音楽や美術、小説など一見建築と関係なさそうな様々な素養が重要になると考えています。本学部では人文科学や社会科学、自然科学など幅広い学びを用意しています。
理系科目が苦手でも建築士になれる
―入試制度についても教えてください。
入試の時点で建築学系か都市生活学系のどちらかを選択し、1年半基礎を学んだ後に上記の5コースに進みます。デザインコースは両学系から進めます。どちらの学系もさまざまなタイプの学生を受け入れたいという思いから、学校推薦型選抜、総合型選抜、一般選抜と多様な入試方式を設けています。受験勉強はもちろんですが、部活動などの課外活動を頑張っている受験生も歓迎しています。
都市生活学系については、一般選抜で英語・国語・地歴、公民といった文系科目での受験が可能という特徴があります。数学、物理、化学などの理系科目は必須ではありません。
―理系科目が苦手でも建築を学ぶことができるのですか?
全く問題ないと思います。建築学では、純粋数学や純粋物理学を用いるわけでありません。例えば面積を計算するときの掛け算や足し算など、建築学で用いる計算は決して難しいものではありません。建築を学びたいという意欲のある学生であれば十分乗り越えられるものです。文系の学生であれば2級、理系の学生であれば1級建築士の資格取得をめざせるよう、大学が学習をサポートします。
また、建築は分業の世界です。いざ建築士として社会に出た場合、計算が苦手であれば他の専門家に任せることもできます。純粋な理系の素養よりも、大切なのはむしろ人と協働する力です。
―最後に、高等学校の進路指導の先生へメッセージをお願いします。
ここまで話してきたように、本学で学ぶ建築学は人間を相手とするものです。相手に近づき、寄り添いながら求めていることを聞き出せるような能力が必要になります。
人の意見をしっかりと聞いて、自分の価値観を変えることができるような、ある意味未完成で素直な子こそ本学で伸びるように思います。そんな教え甲斐のある学生をぜひ、送り出していただければ幸いです。