甲南大学が主催する探究活動 高校生、大学生、大学院生が 年齢や専門の垣根を越えたとき、未来の社会はきっと明るくなる

甲南大学が主催する探究活動 高校生、大学生、大学院生が 年齢や専門の垣根を越えたとき、未来の社会はきっと明るくなる

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甲南大学が2017年度から独自に開催する「リサーチフェスタ」は、ユニークな試みとして注目されている。これは同大学の学生および近隣府県の高校生が一堂に会し、それぞれが取り組んでいる調査や研究の模様を発表し、互いに聴講したり議論したりできる学びの場だ。「探究活動」が重視される今、リサーチフェスタが果たす役割について取材した。


フロンティアサイエンス学部
生命化学科教授
甲元一也

リサーチフェスタが探究活動の糸口になる

高校生と大学生および大学院生が、一つの研究発表について真剣に議論を戦わせる。これは珍しい光景だ。甲南大学主催の「リサーチフェスタ」では、同大学の大学生・大学院生と、近隣府県の高校生が参加し、それぞれが持ち時間内で研究発表をする。特徴は、自由討論に重きをおいていることだ。参加者は会場を回遊しながら興味のある発表を聴講し、積極的に質問する。発表者も簡潔な説明を心がけ、できるだけ多くの聴衆と議論し、有益なアドバイスをもらうことに時間を割く。初歩的な質問も歓迎されるので、まさに自由闊達な雰囲気だ。

甲南大学の甲元一也教授によると、今、高校では危機感を持って探究活動の重要性が認識されているという。来年度からの新学習指導要領導入に先駆け、兵庫県では昨年から探究活動を必須にした高校が多かった。高校教育改革による探究活動の導入により、現場の意識が急速に変わっている。これまで、探究活動の中心は圧倒的に理系だった。

「理系は探究活動の結果が可視化できるので、指導がしやすいのです。また、スーパーサイエンスハイスクールを筆頭に、高大接続が上手くいっていたことも理系の強みでした。しかし、ここ最近高校を訪ねると、理科の先生のほかに社会の先生が探究活動の担当として出てこられます。社会の先生が選ばれるのは、探究の仕方が理系と対極だからでしょう。異なるタイプのアプローチがあること自体はいいのですが、理系と異なり文系は結果を可視化しにくく、最初の仮説が非常に大切になります。そして何より“いいテーマ”を探すのが難しい。今、高校の先生向けに指導のポイントをまとめた講演会の依頼が増えているのは、大学との連携が少ない文系の先生方のニーズが高いからだと思います」

リサーチフェスタは、高校生ばかりでなく、高校の先生にとっても大学や他の高校と情報交換をする貴重な機会となっている。

自由討論が特徴的なリサーチフェスタだが、学生たちが発表する研究は完成していなくても全く構わない。なぜ、完成を求めないのだろうか。

「そもそも、探究活動には答えがないからです。明確なゴールはなく、試行錯誤しながら“より良い”ものを目指すことに探究の意義があります。例えば、高校生に『東京五輪を開催するべきか』という問いをぶつけたとしましょう。『外国人労働者を受け入れるべきか』でもいいです。どちらにも正解といえる答えはありませんが、それでも何かしらの結論は出さなければなりません。高校生には何のしがらみもないので、最初は正論を探そうとします。しかし、五輪の開催スタッフや外国人労働者の雇用主など、当事者の立場を想像してもらうと、新しい視点を得たことで半数以上が最初とは別の結論にたどりつくのです。探究活動には多様な視点が不可欠で、それを養うには、思考の過程で人と話すことが役立ちます。完成されていない状態でいろいろな意見を聞いて、探究を深めていく。リサーチフェスタはそういう場所なのです」

大学生と高校生が一緒になって議論する体験も、多様な視点に気づくきっかけになる。それは、普段の生活にはない時間だ。日本の教育システムは、高校で文系と理系に分かれ、大学ではさらに専門化が進む。皆が一緒に学んだ小学校から、高等教育になるにつれ、道は細分化されていくのだ。しかし、実社会に出ると、道は再び一つになる。社会で専門外の人々と協働することは、ごく当たり前のことだ。甲元教授は、社会に出る前に、細分化の壁を壊す交流の機会が必要だと考えていた。甲南大学は総合大学だが、中規模であるがゆえにアットホームで文理の垣根がない。文理が学内で共に過ごす1泊2日のプロジェクトに「高校生も呼ぼう」という声が上がったのが、リサーチフェスタの原型となった。

「細分化だけではありません。日本の教育は受動的ですが、社会においては能動的な活動がメインです。年齢に関係なく、良い意見は誰が出したっていいのです。そういう将来必要になる力の核を、文理や年齢の垣根を越えた場で掴んでほしいと願っています」

オンライン化により人数・場所の制限が解消

コロナ禍により、リサーチフェスタもオンライン開催へと切り替えられた。従来は参加者全員が会場に集まり、発表者はポスター1枚を使ってプレゼンテーションを行っていた。聴衆は回遊しつつ自由に立ち止まり、そこで質疑応答が生まれる。この雰囲気を壊さぬよう、オンラインではウェブページ上に各発表時間帯で66ほどの発表会場が用意された。約250件の発表は、ポスターの代わりにパワーポイントのスライド複数枚を使って行われ、聴衆はクリックで各会場に出入りして聴講する。

「発表は、前発表と本発表の2回行われ、これは以前と変わりません。前発表は、自らが発表したり他者の発表を聴講する中で、気づきを得ることにポイントがおかれています。発表をして、また、他者の発表を聞いて気づいたことを『気づきノート』にまとめてもらいます。午後は発表資料の作り方や話し方、受け答えのコツ、工夫などの前発表での気づきを反映させ、賞の審査対象になる本発表に臨みます」

このワークの存在が、リサーチフェスタに厚みをもたせる。甲元教授は、客観的な自己視、傾聴、気づきの文章化が成長につながると考えているが、気づきノートを大学生と高校生が見せ合ったり、継続して参加している学校では上級生が下級生をリードしたり、期待した効果が出ているようだ。オンライン化に合わせ、今年度はワーク動画を作成して事前教育に役立てることも計画されている。

昨年度はオンラインへの切り替えの初年度とあって、いくつかの課題が見つかった。最大のものが通信環境だ。特に公立高校は遅れており、これまでの情報インフラ整備がビジネス偏重で、教育が後回しだった感は否めない。各校で急ぎ、整備を進めているところだ。また、高校生を囲んで聴衆が盛り上がるような臨場感、自由な回遊の雰囲気は多少、失われたという。画面上の発表会場に一度入ると、退席しづらいようなのだ。しかし、昨年の経験を踏まえ、今年度は聴衆が滞留せず回遊できる工夫を凝らし、改善していくそうだ。一方、オンライン化のメリットは想像以上だった。もともと、リサーチフェスタの認知度が上がるにつれ、参加者が増えて会場に収まりきらず、やむを得ず人数制限に至っていたのだが、オンライン化はキャパシティの問題を一気に解消した。

「もっと嬉しかったのは、参加校の拡大です。移動の必要がないため、遠方からも参加しやすくなりました。オンライン化は地域の教育格差を小さくします。今までできなかったことができるようになりますね」

リサーチフェスタの性質も変化している。初年度の参加者はほぼ理系が占めていたが、今では半数以上が文系だ。スーパーサイエンスハイスクールをはじめとする各校が、探究活動を文理問わず全校に広げるべく努力した結果、理系のノウハウが文系にも拡散されたのだ。また、当初は「わからないことを調べてみた」いわゆる調べ学習が多かったが、回を重ねるごとに統計データを駆使しての考察など、発表内容が格段に洗練されてきている。全体的なクオリティが着実に上がっているのだ。高校で課題解決力の素地が作られることは、大学での学びに適応しやすく、その先の人生でも大きな財産になる。接続教育の在り方として理想的と言えるだろう。

「発表会の意見交換は高校教育の底上げにも貢献しています。今後は指導できる大学の先生をもっと増やし、オンラインを活用して全国規模での交流を図りたいですね。他府県との交流が少ない高校生にとっては、進路を決めるきっかけにもなるかも知れません」

中心となる甲南大学のプレゼンスも高まっていくだろう。

自分の頭で考え、発言する探究活動が養う次世代の人材

探究力をつけるには、高校の低学年から始めた方が効果が高いと甲元教授は言う。

「高学年になるにつれ、失敗を恐れて前例に倣った研究テーマにまとまってしまう傾向があります。荒削りでも、はっとするような着眼点は低学年の発表に多い。そういう子が将来の日本を支えていくと思うのです。参加してくれる高校生は皆、面白がっているのが伝わってきます。自分が好きで調べる、この時間が大事。ですから探究活動に関しては、先生は『指導者』ではなく『ファシリテーター』に徹していただきたい。大人の『こう思うよ』という言葉は高校生の自発的な成長を阻害します。『これ、合っていますか?』と聞かれたら『君はどう思うの?』と質問を質問で返してください。日頃の授業とは反対ですが、段階的にアドバイスを与えていくと、彼らは自発的に動くようになります」

リサーチフェスタで、甲元教授は未来への希望を見出している。高校生は純粋だ。弱者の救済や政治の力など、大人が諦めたり、見て見ぬ振りをしている事象を、まっすぐに見つめている。探究活動は、彼らのような存在が臆せず声を上げる土台を作る。

「自分の頭で考えて行動する力を持った世代が社会に出たそのときこそ、見過ごされてきたさまざまな課題に光が当たるのではないかと期待しているのです」

甲南大学では1年生から学部横断型のゼミ活動がある。リサーチフェスタ然り、早い時期から文理の壁を越えて学ぶことの意義は、おそらく大人になったときに実感できる。

リサーチフェスタ2021
主催:甲南大学
後援:兵庫県教育委員会、神戸市教育委員会、
西宮市教育委員会
開催日時:2021年12月19日(日) 10:00〜16:20
実施形態:オンライン形式
※詳細は甲南大学情報サイト
 「甲南Ch.」をご確認ください。
※掲載写真は対面形式で
 実施したときのものです。

Column 探究活動、テーマの見つけ方ヒント

「いいテーマの見つけ方」はどの高校でも悩みの種のようで私もよく聞かれますが、誰にでも当てはまる「いいテーマ」はありません。それは高校の特色により、変わってくるものです。自治体との連携やSDGs、地域の資源など、自分たちが力を入れていることや強みを明確にしてください。その基盤の上に立ち、テーマを探すことになります。

まずはプロジェクトの人数です。個人だと生徒の力の差が出すぎてしまいますし、グループだと声の小さい生徒が埋もれてしまいます。どちらも一長一短ですが、無難なところで3〜4人のグループで活動する高校が多いようです。グループに分けたら、大きなカテゴリーをいくつか決めておきます。経済系や生物系、化学系などですね。そこからテーマを絞ります。お薦めは、思いついたキーワードをどんどん書き出していくマンダラート。キーワードをマップ化する過程を通して思考を深め、整理していく手法で、企業やワークショップなどでよく活用されています。あるいは、ニュースなどの時事ネタを深堀りしていってテーマを見つける方法もあります。いずれにせよ、その高校ならではの特色と結びついていることが大切です。(甲元教授)

学生一人ひとりに寄り添い、迅速に対応
甲南大学の新型コロナウイルス感染症対策


総務部兼経営企画室 次長 
谷向 豊さん

学内が一丸となってオンライン化を完遂

甲南大学のコロナ対応は早かった。昨年2月半ばには対策本部を立ち上げ、大学・中高を合わせた学園としての感染症対策と授業対策について、ワンストップで意思決定する組織として機能している。以来、大学HPに設けた特設ページや学生向けポータルサイトを通じ、継続して学内外への情報発信を行ってきた。卒業式や入学式が縮小・中止を余儀なくされる中、総務部兼経営企画室の谷向豊次長は、予定されていた留学の中止決断が特に辛かったという。
「学生時代における留学は一大イベントなので、学生本人だけでなく、ご父母・保護者の落胆も大きく、私たちとしても無念でした」

昨年4月の新学期開始を延期して進めたオンライン授業の準備は、各学部、共通教育センター、教育学習支援センターなどが一丸となって取り組んだ結果、新学期初日にはスムーズに全学一斉オンライン形態への移行を完遂。現在までサーバダウンなど大きなトラブルはないという。学生には学修のための緊急支援として一律5万円を支給したほか、家計急変対応のための特別給付奨学金制度(後期は授業料減免制度)を導入した。

「とにかくコロナ禍で退学することがあってはならないという、強い想いがありました。学費納付期限延長も試み、コロナ禍で経済的な影響を受けたことによる退学者はほとんど発生しなかったと考えています」

対面重視の人物教育 学部を越えた絆が魅力

今日までに3度の緊急事態宣言があったが、甲南大学ではアルコール消毒など感染対策を徹底し、キャンパス内での受講人数の上限を設け、一部オンラインも活用しながら、可能な限り対面授業の実施を目指してきた。2020年度後期の対面実施割合は約75%だ。

「本学は人物教育に注力しています。対面授業を重視するのは、人が人を作るという信念が根底にあるからです。例えば学生も、一度でも会ってつながる機会があれば、以降がオンラインでも授業に一体感が生まれます」

学生部医務室が、学生の健康相談や、万が一陽性者や濃厚接触者になった場合の対応窓口として機能しているのも心強い。

受験生にとっては入試対策が気になるところだが、2021年度は、感染拡大で入試が実施できなかった場合に備えて振替日を全日程分確保するほか、発熱などで受験ができなかった学生の追試験日を設定。混乱もなく、無事に終了した。来年度に関しては、受験生向け情報サイト「甲南Ch.」等で情報発信するほか、「Web OPEN CAMPUS」で甲南大学の魅力を紹介している。

さまざまな機会を奪ったコロナ禍だが、良い変化もあった。国際交流に関しては、物理的な移動が制限される一方で、世界中とオンラインでつながれるようになり、逆に海外との距離が近づいたという。

「アフターコロナを見据え、オンライン留学を正規の留学として制度化しました。就職活動や課外活動、通常の授業と並行して留学ができるとあって、特に実験などで多忙な理系学生には新たな選択肢になるかと思います」

次々と新しい挑戦が求められる日々で、教員と職員の協働意識は一層高まっている。授業にとどまらず、事務を含めた学園全体のDX化も進んだ。そして、同窓会や父母の会、さまざまな関係者からの速やかな支援は、甲南大学への強い愛情を感じさせる。

「甲南大学は、学生数約9000人と、ちょうどいいサイズの総合大学です。2018年にはNature Indexによる『高品質な科学論文を出版した割合の高い大学』で日本3位になるなど、研究レベルも高く、就職率は関西8私大のトップクラスを常に維持しています。自由な雰囲気のキャンパスでは、学部を越えた幅広い人間関係が育まれ、興味関心をもったことにはどんどんチャレンジできる環境です。これからも、学生の皆さんのキャンパスライフが充実するようなサービスを考え、実行していきます」

学生にきめ細かく寄り添ったコロナ対応からは、面倒見の良い大学であることが十分にうかがえる。

コロナ禍における甲南大学の教育実践

文学部 学芸員課程の「美術領域コース」ではアーティストと共に、自分たちで仮想展覧会を企画。社会の変化に伴い、皆でアイデアを出し合って対応していく実感が得られた。オンラインならではの学び・社会経験と言えるだろう。

理工学部物理学科 学生のPCに仮想OSをインストールし、共通の状態を構築してからオンラインでプログラミング実習を行った。MacやLinuxなど多様なコンピュータ環境がある中で困難を乗り越え、学生にとっても教員にとっても学ぶことが多かった。

経済学部 オンライン授業でもアクティブ・ラーニングは十分に実現可能であることが確かめられた。グループ討議などにタイムラグが生じる難点はあるが、学生にとっては技能向上のトレーニング機会になっている。

マネジメント創造学部 英語の授業では、動画と資料で事前学習をしてから、オンラインで英語による議論を行っている。ビジネスコミュニケーションの授業ではグループ毎に海外の企業を調査したが、発表の模様を録画できるので、細やかなフィードバックができた。基礎リテラシーの授業では、毎週「個人ワーク+オンライン上のグループディスカッション」をセットにして全員が積極的に参加できるよう工夫した結果、どのチームの最終発表も対面授業と同等のレベルだった。

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