スポーツビジネスから地域創生まで 実社会と連携して実践力を磨く「プログラム科目」が充実―中央大学 商学部

スポーツビジネスから地域創生まで 実社会と連携して実践力を磨く「プログラム科目」が充実―中央大学 商学部

1885年創立の中央大学は、2019年に国際経営学部と国際情報学部が新設され、現在は8学部26学科。2023年には国内屈指の伝統と実績を誇る法学部が東京都文京区の新キャンパスに移転され、45年ぶりの都心回帰を果たす見込みだ。そんな中、将来に向けたキャリア形成に直結する実践的な「プログラム科目」が注目を集めている商学部。1909年開設から110年を超えた中央大学商学部の取り組みについて、渡辺岳夫学部長にお話を伺った。

学生が思い描く将来像に沿った学科構成とカリキュラム

―まずは商学部の概要と学生の特徴からお聞かせください。

中央大学商学部は経営学科、会計学科、商業・貿易学科、金融学科の4学科体制です。

経営学科は、入学時には将来像が明確ではない学生でも、幅広く経営を学ぶカリキュラムによって、自分が強い関心を持って“のめり込んで”いける分野が見つかる学科です。

一方で、会計学科や金融学科は、公認会計士や税理士のほか、ファイナンシャルプランナーや証券アナリストなど、確固たる信念や目的意識を持って入学する学生が多いことが特徴です。そのため、各自の目標達成を後押しする特化型のカリキュラムとなっています。

商業・貿易学科に多いのは、留学志望者やグローバル社会での活躍を目指す学生です。マーケットのグローバル化に伴い、本学では2019年4月に国際経営学部が新設されましたが、いい意味で競い、刺激し合い、切磋琢磨する総合大学ならではのシナジーも生まれています。

商業・貿易学科では、2021年度にマーケティングに特化したカリキュラムへの改編を予定しており、企業広報や販売促進、広告戦略などで即戦力人材と呼ぶに相応しい資質を磨く教育を進めていきます。言わば、本学が掲げる「実学教育」をより高次元で体現し、実践する学科への進化です。

なお、いずれの学科も、現在のカリキュラムは2019年度から2020年度にかけて、学びの多様性を実現させるべく改定されたもの。その中で多方面からご評価いただいているのが、4学科を横断して学生がチームを組み、企業などで実践的な課題解決に取り組む「プログラム科目」の大幅な刷新です。

企業と連携し、学生がサッカークラブでのリアルな経営にチャレンジ

スポーツ・ビジネス・プログラム。東京23FCの1試合の集客企画

―プログラム科目について詳しく教えてください。

プログラム科目は、全国の大学でアクティブラーニングやPBL(Project Based Learning)と呼ばれる問題解決型学習を重視する気運が高まる中、学生が主体的に興味を抱き、能動的に取り組める科目として整備してきたものです。現在は「スポーツ・ビジネス・プログラム」「グローバル・プロフェッショナル・プログラム」「ソーシャル・アントレプレナーシップ・プログラム」「アカウンタント・プログラム」「ファイナンシャル・スペシャリスト・プログラム」の5つのプログラムで構成されています。このうち「スポーツ・ビジネス・プログラム」は、2015年度に私が担当した「インターンシップ演習/実習」が原点にあります。

学生の多くは純粋にスポーツが好きですし、スポーツビジネスに関心を持つ学生も多かったため、2014年11月に構想を描き、2015年4月には講座をスタートさせました。「いい授業ができるなら、すぐにでも始めよう」という当時の商学部長の掛け声のもと、異例のスピードで始まり、学生の奮闘もあって初年度から成果が生まれました。

具体的には、関東サッカーリーグ1部に所属する「東京23FC」と連携し、同クラブの運営を行う正社員との共働のもと、2015年9月に江戸川区陸上競技場で行われたホームゲームをプロデュースしました。集客のための企画から広報活動、スポンサー営業、試合当日の運営まで、学生一人ひとりが自分の役割に責任を持ってサッカークラブの経営に参画し、同リーグ戦史上最多となる3300人の観客動員を実現させました。

2016年度からはインターンシップと別の枠組みとなる「ビジネス・チャレンジ演習/実習(サッカークラブ経営)」となり、2019年度からは現在の「スポーツ・ビジネス・チャレンジ演習/実習(明治安田生命寄付講座)」となったほか、講義科目の「Jリーグ・ビジネス論(明治安田生命寄付講座)」も開講しています。

スポーツ・ビジネス・プログラム。授業の様子
写真提供:「footies!」(株式会社ソル・メディア発行)

―参加する学生は、サッカー経験者が多いのでしょうか。

サッカークラブとの連携で一貫しているのは、性別やサッカー経験などは一切不問とし、学生がそれぞれの興味・関心や強みに応じてワンマッチをプロデュースするということです。

その際、スポーツ振興だけに着目するのではなく、さまざまな屋台を誘致してスタジアム内で『アジアンフェスタ』と銘打ったグルメ企画を開催したり、昔ながらの日本の遊びを体験できる子ども向けブースを設けたりと、スポーツ業界に限定されない多様なフィールドで応用可能なイベントプロデュース能力を養うことができます。ですから、スポーツに詳しくなくても、将来イベント事業を手がけたいと考える学生にも人気です。

また、2019年度からは「明治安田生命寄付講座」となりましたが、背景には私自身が言わば“営業部長”となってJリーグのタイトルパートナーである同社にアプローチをかけ、ご賛同をいただいたという経緯があります。というのも、企業と連携するプログラム科目は、学生の移動交通費をはじめとして少なからず費用がかかるため、学生に豊かな学びの機会を提供するためにも、学部長として本気で営業活動に臨んだわけです。教員は履修者数や授業満足度などでKPI(重要業績評価指標)を設定しており、学生の成長を見える化した上で同社にアプローチしましたし、企業名の露出効果を含め、重視したのは大学と企業間のWIN-WINの関係構築です。

“大人”を動かす成功体験がさらに向学心を高める好循環を生んでいる

―学生にはどのような指導を行い、どのような成長が見られるでしょうか。

まずは、企業に対して学生が自分たちの意図や方針、企画を口頭で伝えるプレゼンテーション能力や、パワーポイントなどでスライド資料を作り込んでいく方法を入念に指導しています。企画を前に進めるべく相手を納得させる材料を探し、効果的に提案する手法を練り上げていくという社会人に近い経験を通して、ビジネスパーソンを“動かす”術を身につけていくのです。学生は失敗することも多いですが、試行錯誤を経て社会にインパクトを与える喜びを体感でき、その後の向学心にも少なからぬ好影響を与えています。

ある男子学生は、サッカーのホームゲームでの来場者特典としてオリジナル缶バッチの配布を企画すると、数10社もの製作会社にアプローチをかけ、見事に“無償”での製作を引き受けてくれる企業にめぐり合いました。そのことを私に報告しに来た際の彼の喜ぶ顔は今でも忘れられませんし、彼もその喜びを一生忘れないはずです。

彼はその後、缶バッジ企画での成功体験をきっかけに、外資系生命保険会社の“敏腕”営業担当者の経験談を聴ける「営業学入門(プルデンシャル生命保険株式会社寄付講座)」を受講しました。「営業はものを売りつける仕事ではなく、課題解決のお手伝いをする仕事。こんな面白い仕事はないと思います」と、営業活動の極意を学ぶ喜びを感じています。

これはほんの一例ですが、プログラム科目の魅力は、企業と連携するからこそ得られる実践経験を通じて、心の成長につながることです。大学を卒業して実社会に出ていくことへの不安が払拭され、「やっていける」という自己肯定感の向上にもつながります。学生を社会人生活へとスムーズに移行させ、順応しやすくさせることが大学の責務のひとつだと思いますし、それを果たせているという自負はあります。

世界の先進事例に学び未来の日本をけん引する人材を育成

スポーツ・ビジネス・プログラム。2020年度からドイツ・フォルトゥナ・デュッセルドルフと提携し、現地のクラブ経営を学ぶ

―講座運営の労力も大きいと思います。先生方を突き動かす原動力は何でしょうか。

スポーツ産業の裾野を広げ、スポーツ文化を日本国内に浸透させる担い手を育てたいという思いです。学生はスポーツ組織で働くという目標があっても、実際にどうスポーツ業界に関わっていけるのか、その可能性や選択肢を認識できていないケースが多いといえます。その点、選手としてだけでなく、さまざまな切り口でスポーツに関われるのだと気づけるのが「スポーツ・ビジネス・プログラム」です。しかも、スポーツを通した地域活性化をはじめ、スポーツは幅広い分野と親和性があることを認識することもできます。

例えば、日本のJリーグも地域密着を重視しており、学生が生まれ育った地域の日常にチームが溶け込んでいるケースもあります。ただし、世界的に見れば日本は規模が小さいため、裾野を広げ、規模拡大をけん引していく人材を育てたいのです。

だからこそ商学部では2020年にドイツのプロサッカーリーグ・ブンデスリーガに所属する「フォルトゥナ・デュッセルドルフ」とカレッジ・パートナーシップを締結。「グローバル・スポーツ・ビジネス・キャリア(明治安田生命協賛講座)」として、最先端のサッカークラブ経営を学ぶ機会を設けました。

同クラブは、地域の病院とも提携し、新生児用のベッドがチームカラーになっているほど地域に密着しています。記念写真を撮ればチームロゴが写りますので、自らのルーツのひとつとして応援する気持ちも自然と大きくなります。地域の生活の一部にクラブが根付いているため、スポンサー企業を意識するようにもなり、日々の買い物でも選択肢が絞られてくるでしょう。そうなれば、スポンサーもより資本投下を活発化させるという好循環が生まれます。学生には、こうした世界の実例から学んでほしいのです。

今後はサッカー以外のスポーツにも講座を広げる計画がありますので、より多くの学生の期待や興味・関心に沿うことができると考えています。

地域振興や専門職養成など多彩な目的意識に応えるプログラム科目

ソーシャル・アントレプレナーシップ・プログラム。山梨県小菅村との商品開発

―その他のプログラム科目の特徴もお聞かせください。

「ソーシャル・アントレプレナーシップ・プログラム」は、2010年代初頭に、山梨県小菅村に親類が住む学生を中心とするゼミの有志で始めた活動が原点にあります。これが2019年にプログラム科目となり、小菅村のほか、東京都の檜原村と山梨県の丹波山村を加えた奥多摩三村と交流・連携に関する協定も締結しました。3つの村には、それぞれサテライトオフィスを設け、現地の方に本学スタッフとして業務委託することで雇用も創出しています。また、2019年度中に本学の八王子キャンパスとサテライトオフィスとの遠隔会議システムを導入したことが、コロナ禍で活かされています。

特筆すべきは、当プログラムに挑戦する学生は地方出身者が多く、卒業後は「地元に恩返しがしたい」という意欲に満ち溢れていること。だからこそ「お土産物のバリエーションを増やしたい」といった村の課題に気概を持って取り組み、檜原村では現地の名産である“ゆず”を使った「ゆずワイン入りチョコレート」を商品化したり、小菅村の木材を利用した骨壺を商品化したりと、いくつもの成果物を世に出してきました。

なお、このようなプログラムでは多くの場合、学生のアイデアをもとに地域資源を使った商品開発を進めても、リスクを負うのは提携先の自治体や現地の企業。サッカーでの缶バッジ同様に、ご賛同いただける企業を探すこと自体がハードルになってしまいます。その点、当プログラムでは試作品の企画・開発費は大学予算でまかなうことができます。試作品でマーケットの反応を知ることができ、量産化の段階で協力企業を見つけやすくなるのです。

丹波山村、フィールドワークの様子

―海外志向の学生や、専門職を目指す学生向けのプログラムについてはいかがでしょうか。

まず「グローバル・プロフェッショナル・プログラム」では、学生はモンゴル、ベトナム、インド、タイ、中国で海外インターンシップに参加します。モンゴルでは、教育機関で現地スタッフと協働し実際に教育プログラムの運用を体験するなど、約1週間の就業体験を行います。

タイでは、コンビニエンスストア事業などを手掛けるCP-ALLという現地の大手流通企業で就業体験を行い、関連施設の見学などをとおして現地スタッフと交流します。

また、公認会計士や証券アナリストなどを対象とするのが、「アカウンタント・プログラム」と「ファイナンシャル・スペシャリスト・プログラム」です。公認会計士試験では、会計学科での通常授業をベースに、学内Wスクールというべき「経営研究所」専用施設(通称:炎の塔)での学びとも相まって、現役合格率が全国平均を大きく上回っており、大学別合格者数では全国トップ3の常連となっています。

グローバル・プロフェッショナル・プログラム。タイ現地学生と

幅広い教養と実践経験が理論研究の精度を向上させる

―最後に受験生へのメッセージをお願いします。

プログラム科目では個別具体的な企業の課題解決に挑戦し、トライ&エラーを繰り返しながら実践経験を重ねます。そして、その成果を広く社会に還元するために理論化する場として重要なのがゼミ。先行研究を調べた上で仮説を立て、収集したデータの統計的な分析を経て、実務に還元できるレベルまで理論の精度を高めていきます。

ただし、そもそもプログラム科目の段階でも、そう簡単に優れたアイデアが出るものではありません。“若者の自由な発想”とはいっても、そんなに甘いものではないのが現実。自分が考えた企画が通らず、予算がおりないことだってあります。ただ、それが社会というもの。失敗は“つきもの”です。

多くの学生は「失敗しないように」と教育されてきていますが、ぜひ本学には失敗しに来てほしいと思います。もちろん解決の糸口となるヒントは与えますが、学生が自分の頭で考え、壁を乗り越えなければ、結局は教員の指示に従っただけのこと。失敗し、壁に直面したときには、時代を遡って調べてみたり、異なる業界業種での取り組みに目を向けてみたりすることが大切です。予算が不足しているのならば、クラウドファンディングの活用を検討するなど、課題解決のための次の一手を紡ぎ出す思考回路を柔軟に働かせられるようになってほしいと思います。

その土台となるのは、歴史や文化、美術・芸術なども含めた豊かな教養。一見ビジネスとは無関係なジャンルの知識や見識がアイデアの源になるものです。「すべてのことについて何かを知っていて、あることについてすべてを知っている」が理想であり、幅広い教養を身につけた上で、何かひとつ深い知識を持つ分野を確立していってほしいと思います。

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