ついに始まった2021年の大学入試。今年は新型コロナウイルスの感染拡大や大学入試共通テストの導入で、受験生は緊張の連続が続いていることでしょう。そして来年以降に受験を控えた高校生もまた、その様子に不安を膨らませているはずです。まだ見通しの立たないコロナ禍と大学選び、私たちはどのように考えていけばいいのでしょうか。
新型コロナウイルスの登場によってあらゆる常識や慣例が通用しなくなった1年、それが2020年ではないでしょうか。このコロナ禍で私たちの生活とそれを取り巻く産業や社会は、急激かつ短期間のうちに大きな変化を余儀なくされました。もちろんそれは教育現場においても例外ではありません。その後ウイルスの感染は第2波、第3波と拡大を重ねて、年明けには政府がついに首都圏の1都3県を対象に緊急事態宣を発令するなど、さらに先行きが見通せない社会情勢となってきました。
そんななか第1回の大学入試共通テストが開催を迎えるなど、2021年度大学入試は感染防止に配慮しながら粛々と進行しています。そして早くも多くの大学が来年度入試に向けて既に準備を始めているのです。もはや受験を控えた高校生のみなさんに求められているのは、コロナ込みでの大学選びや受験対策だと言えるでしょう。ウィズコロナ時代の大学選びはどうすればいいのでしょうか。そのポイントを一緒に考えてみたいと思います。
オンライン授業が続行中。本当に興味ある分野を選ぶ
大学の授業の多くがオンライン化されているいま、あらためて受験生に問われているのは「学び」に対する強いモチベーションではないでしょうか。最初の緊急事態宣言を受け、日本のほとんどの大学がオンライン授業へと移行しました。大学の授業は1コマに対して集まる学生数が多く、その学生の属性(学年・学部・学科)もバラバラです。大規模な大学では、1つの授業に数百人の学生が集まることも珍しくありません。ゼミ形式や少人数制の授業を対面式に戻した大学もあるようですが、これは地域や大学の規模によって判断が異なり、今後の感染状況によって変化する可能性があります。これから大学進学する人には、数年間は大学教育をオンラインと対面両方で受けるのだ、という覚悟が必要です。
そこで問われるのが「たとえオンラインでもその分野を学ぶモチベーションがあるか」ということ。自室にこもり一人で画面を見つめるオンライン授業では、対面での緊張感や真剣な雰囲気、周囲の学生の視線といった要素がありません。授業内容や専攻分野への興味・関心が薄いと、おのずとその集中力は低下してしまいます。
学部・学科の選択にはその分野を自分が本当に好きなのかを自問し、できれば関連する書籍を読んで、ワクワクした知的好奇心が刺激されるかどうか検証してみることをおすすめします。「就職に有利だから」「難易度と成績が見合っているから」「注目されている分野だから」といった理由で専攻を決めてしまうと、オンラインでの授業は退屈な時間になってしまいかねません。どうしても決めきれないという人は、レイト・スペシャリゼーション(幅広い分野を学んでから後で専攻を決めること)を採用している大学を検討するのも一つの手段です。とにかく大学に行ければいいという進学志向より、オンラインでもこの分野を学びたい、この資格を取って社会で活躍したいといった「学び」へのモチベーションが、これまで以上に問われる時代がきたのです。
情報収集もリアルとオンラインの両輪で回そう
コロナ禍でキャンパスに行けなくなったのは大学生だけでありません。これまでは多くの高校生が高2の夏休みまでに大学のオープンキャンパスに参加していましたが、今年は開催中止となる大学も多く実質的には高校生にも影響が及びました。そしてほとんどの大学で学園祭などの行事が休止となり、大学側も高校生にリアルでのPRを十分行うことができなかったのです。その代わり、さまざまな試みがオンラインで催されました。
そのひとつがオンラインオープンキャンパス。キャンパス内の案内や模擬授業、学生や教員へのインタビューだけでなく、ライブ配信で質疑応答を受け付けるなど、その取り組み方にも注目が集まりました。また、大学によってはYouTubeでチャンネルを開設して情報を積極的に配信。多くの大学関係者が「想像以上に広い地域の高校生に視聴してもらった」という印象を受けたそうです。時間・お金・移動という制約があった従来のオープンキャンパスと比べて、オンラインならどの地域の大学でも気軽に参加できる、そんな風潮がうかがえます。SNS、YouTube等を用いた情報収集に長けた現代の高校生の特性に、大学側の情報提供がやっと追いついてきたと言えるのかもしれません。昨年は大学側も試行錯誤したかもしれませんが、この流れに乗って今年はコンテンツがさらに充実してくるはずです。ぜひこれを機に、エリアに捉われず日本全国の大学に触れて自分に合った大学を探してみてほしいと思います。
でもいざその大学を目指すとなると、実際のキャンパスや学生の雰囲気、近隣の住宅事情や治安なども確認したくなるもの。少人数開催のオープンキャンパスを探したり、大学周辺を散策したりと、感染防止に配慮したやり方で実際の大学にも触れてみましょう。
またオープンキャンパスの開催がないために、在学生のリアルな声が聞けない点は少々気になります。高校や予備校・塾の卒業生、その友人知人などの人脈をたどって志望大学に進学した人がいれば、ぜひ大学についてどんどん質問してみましょう。大学が提供するオンラインコンテンツだけではなく、学生目線のリアルな情報が加わることで、よりその大学を多面的に捉えることができるようになるはずです。
揺れ動く社会 就職先や人気ランキングが変動?
編集部では、大学選びにさまざまなランキングやデータを活用してほしいとこれまでお伝えしてきました。その方針に変わりはありませんが、コロナ禍の影響で就職先や人気ランキングには大きな変動が予想されています。というのも、これまで就職先として学生から人気だった運輸・航空などの業界はコロナ自粛によるダメージが大きく、採用を中止した企業も少なくないからです。さらには旅行代理店やホテルなどのサービス業、観光業、飲食業も大きく収入を減らし、中小規模では廃業に至った企業もありました。今夏のオリンピック開催も不安視されているいま、これらの業種が復調する見通しはまだ立っていません。当然その業種に強かった大学の就職先上位は大きく変わってくるでしょう。
また、ここ数年で全国的に増えつつあった観光系の学部・学科についても今年は苦戦が予想されています。とはいえ今後コロナ禍が鎮静した暁には、世界的に旅行・観光ニーズが反動的に復調する可能性が高く、文化交流・地域振興・観光ビジネスに明るい人材へ大きなニーズが生まれそうです。
共通して言えるのは、関連業界への就職を目指す人はここ1年だけの状況や最新年度のデータ単体で見るのではなく、今後数年の「推移」「動向」を注視する必要があることです。また就職実績が下がっていても、業界全体が採用人数を絞って競争率が上がっている可能性もあります。全体の採用人数の増減や他大学の採用実績との比較など、複数のデータを使って立体的に読み解いて評価することが大切です。
学生をどうサポートしたか、大学の姿勢を評価する
授業のあり方や就職で揺れている分野は他にもあります。近年人気の高い海外留学必須のグローバル系の学部においては、大半の大学で留学が実施できないだけでなく留学中の学生の緊急帰国も相次ぎました。留学先の大学の授業をオンラインで受講することで単位化したりと、当面はオンラインに頼った学びが続きそうです。またヨーロッパの国々ではまだ厳しいロックダウンが続いており、留学生の受け入れ再開についてはまだ見通しが立っていません。とはいえ、国際協調のもとで感染抑制対策やワクチン供給をする必要性が指摘されたりと、国際市民としてのグローバリズムの必要性は高まっているように見受けられます。むしろコロナによって、地球規模で課題解決できるグローバル人材へのニーズが浮き彫りになったと言えるかもしれません。この分野への進学を目指す人は、留学は代替のオンライン授業で再開を待ちつつ、国内でできる学びを高いレベルで積み上げられるかどうかがポイントになりそうです。コロナ禍で留学と遜色のないグローバルな学びを国内でどのように実現しようとしているか、大学ごとにカリキュラム体系や方針を比較・検討する必要があります。
また、医療・看護系学部においても今年は試行錯誤の1年でした。臨床実習についても当初はオンラインが中心でしたが、臨床経験のないまま卒業後に医療従事することは現場の混乱につながることから、厳密な感染防御のもとに行う方向に徐々にシフトしています。どちらも国家試験は例年通り2月に実施される見込みなので、全国の学生が今年は同じ条件だと言えるでしょう。志望大学の国家試験合格率の結果だけでなく、大学側がどのようにオンライン実習を行ったか、またどのような判断基準で臨床実習再開に踏み切ったかなど、大学の「ポリシー」や「説明責任」も目を向けたいポイントです。
コロナ禍で多くの高校生が大学進学に不安を抱えていることと思いますが、実はこれまで述べてきたことの多くが「平時でも変わらないこと」だとお気づきでしょうか。学びのモチベーションはコロナウイルスの登場前から変わらず大切なことでしたし、不況や震災などの影響で大学の人気データや就職実績が大きく変動することもありました。インターネットやAIの登場で淘汰されてきた職業もたくさんありますが、オンライン授業やリモートワークの普及で大きく成長した分野もあったりと、社会情勢も常に変動しています。あくまで大学進学の目的は高等教育で専門性を身につけ、同時に社会に出る前に必要な思考力や論理構成力、コミュニケーション能力などを養うことです。できれば平時と変わらぬ冷静さで物事を判断し、かつ平時よりもより真剣に自分の目的意識や興味・関心と向き合うことで、後悔のない大学選びをしてほしいと思います。