リベラルアーツ的発想による人生を変える大学選びとは―国際基督教大学(ICU)

リベラルアーツ的発想による人生を変える大学選びとは―国際基督教大学(ICU)

2021年現在も、収束の兆しが見えない新型コロナウイルスの感染拡大。その影響で、多くの高校生が受験や将来に今も不安を感じている。コロナ禍における進路決定で揺れる高校生に向けて、国際基督教大学で教養学部長を務める石生義人教授に大学選びをテーマにお話をうかがった。

教養学部長/教授
石生義人 (Yoshito Ishio)
1991年ベイラー大学大学院にて社会学修士号(M.A.)取得、
1995年ミネソタ大学大学院にて社会学博士号(Ph.D.)取得。
政治社会学を専門とし、アメリカ人の愛国心・政治意識を研究。

コロナ禍はあらゆる学問分野に問題解決を問うている

まず高校生のみなさんに知っていただきたいのは、いま起きている世界的なパンデミックは歴史的に見ても100年、200年に一度しか起こらないような事象だということ。いまみなさんはそれほど稀有な時代を生きているのです。できることなら、みなさんが今見ていることや経験していることを、日記につけてほしいと思います。きっと「あれは特別な時期だった!」と後の人生で振り返るうえで、役立つと思います。現在コロナウイルスについては医学・生物学分野で研究が進んでいますが、いま私たちが経験していることについても、のちに多くの社会学者が研究することになるでしょう。それほどにこのコロナ禍は歴史的に貴重な体験であり、みなさんにはこれをきっかけに、是非多くのことを学んでほしいと思います。

では、このコロナ禍の中で私たちは何を学べばいいのでしょうか。コロナの問題は医学や生物学に関わることはもちろん、失業率の悪化などを考えると経済学にも大きく関わっています。オンライン授業やリモートワークでデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んだ点では情報科学も絡んでいます。どんな政策をとるか、それをいかに国民に伝えて指導力を発揮するのかという点では公共政策や政治学も関係するでしょうし、国民がどう受け止めてどんな行動をとるかは社会学や心理学にも関わるでしょう。

このようにコロナ禍の包括的理解にはいろいろな学問分野が必要になるため、問題解決のためにはそれらを幅広く活用していくことが肝要だ、ということがわかります。これからの時代に求められるのは、物事にはこういうたくさんの側面があることをきちんと理解できる人材であると私は考えています。

リベラルアーツで柔軟でクリティカルな思考力を

人間がこうした問題を理解し解決するうえで必要となるのが、リベラルアーツ教育なのだとICUは考えます。リベラルアーツ教育を高校生のみなさんにもわかるように説明すると、学修者(学生)を主体としたレイタースペシャリゼーションの教育です。学生にはまず様々な学問を幅広く学んでもらったうえで、1つあるいは2つのメジャー(専修分野)を選択しそれを修めていくものです。

あらゆる分野の知に触れるリベラルアーツ教育の重要性はいつの時代でも変わりません。しかし社会変革が激しいときほど従来のやり方や考え方が通用しなくなり、新しい知識や考え方が必要になってきます。柔軟な思考を持ち、新しい知識を取り入れたり物事をクリティカルかつ多角的に見たりすることに慣れている人の方が、変革にうまく対応できるのではないでしょうか。リベラルアーツ教育は、まさにそういう素養を育む教育なのです。

これは余談になりますが、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所が大企業の部長職以上を対象に行ったアンケートで、過半数の人がリベラルアーツは大切だと回答したそうです。専攻の勉強だけでなく歴史、経済、心理学などもっと幅広く学んでおくべきだったと、自分たちも会社に入ってから気づいたそうです。やはり狭い視野だけでは大きな組織をマネジメントすることはできませんし、企業を成功させていくにはいろいろなことをクリティカルに見ていかないと時代に遅れてしまうのだと思います。

いまは世界中の医療・政治・経済などあらゆる局面で不安定要素が噴出している、まさにカオスな状態です。そんな時代で私たちが問われているのは、何が大切かを見極める信念・価値観の確立、そして判断力です。リベラルアーツ教育で広く知に触れて、クリティカルなものの見方や考え方を養っていれば、時代が変わってもそれぞれが大切なものを見極め、正しい道やより良い方向に向かって歩むことができるのではないかと思います。

近年の入試で問われるのは「考える力」

また、近年は大学入試のあり方も変わってきました。入試形態が多様化しただけでなく、勉強で得た知識だけでなく思考力・表現力などを重視する方向にシフトしてきています。いまはインターネットの時代ですから情報だけなら無限にあふれています。むしろ問われているのは蓄えた知識をどう組み立てて新しい知識や必要な知識に変えていけるか、つまり知識の使い方なのです。でも知識を使いこなすには、訓練と経験が必要です。

それに高校生のみなさんには「知識を何のために使うのか」という目的がわからないという人が多いのではないでしょうか。受験のためだけの知識を得ても受験が終わればすぐに忘れてしまいます。まずはたくさんの事を経験して「人間社会は実際には多くの複雑な問題を抱えているのだ」ということに気づいてほしいのです。そんな社会で自分にはどんな役割があり、どんな問題を解決していきたいのか。その問題意識が「知識とは何のために使うものか」という答えにたどり着くきっかけとなると思います。

思考力を鍛えるには、日ごろから読書などでいろいろな人の考えに触れておくことも大切です。できれば海外の情報など、自分とは異なる視点から書かれたものなどを読んでみてほしいですね。たとえばジャパンタイムズなど英字新聞を読んでみると「日本は世界からこう見られていたのか」「日本では報道されていないけど世界にはこんな問題があったのか」など多くの発見があると思います。他にも日本のメディアでは言及しづらい記事が、英語では忖度なくかなりストレートな表現で書かれています。こうした視点や表現の違いを知る意味でも、海外の情報に触れることは非常に有用です。

そして世界中の情報源にアクセスするためには、英語で理解することが不可欠です。みなさんの視野を広げるという意味でも絶対に必要な言語です。

行くべき大学には、人生を変えるパワーがある

それでは、本題の大学の選び方についてお話ししましょう。これからの人生の方向性を決める4年間で、何を学びどう成長できるのか。そのための大学選びというのは、人生で少なくとも5本の指に入るくらい重要な選択だと思います。

私は大学というところはトランスフォーマティブ、つまり人生を変えるパワーを持っている場所だと信じています。多様な友人に会って、多様な先生に会って、多様な未知なる学びに触れる。そんな場所で4年間真剣に学問を学んだら、人は成長するし、物の見方や価値観が変化するはずです。これまでの自分はこんなこと知らなかった、知ったことで人生観が変わってしまった―学問によってそんな驚きや感動を与えられないような大学なら、選択されないと思うのです。

こういう人生観が変わるようなインパクトは、1年程度の留学を経験した人達によく報告されています。しかし、留学しなくても4年間の大学の学びを通してそのようなインパクトのある成長を期待したい。これは少し手前味噌な話になりますが、卒業時アンケート調査結果から、ICUの学生にはそのような変化が起きていることがわかりました。この結果を大変嬉しく思うとともに、大学とはやはりそういう場所であるべきだとあらためて実感しています。学問は決して堅苦しくて退屈な講義を意味しているのではなく、エキサイティングで楽しくて、人を変化させるものなのです。

もちろん大学の選び方はいろいろありますし、◯◯大卒というブランドがほしいという人もいるかもしれません。しかしブランドを得て就職が決まれば短期的にはいいかもしれませんが、その後の人生はどうでしょうか。どういう職業を目指すか、どんな人と付き合うか、どんな価値観を持って生きていくのか、大学で学ぶ4年間というのはみなさんが想像するより、はるかに長く、残りの人生に影響していくのです。入学後に自分の大学の教育に失望し、バイトとサークルに明け暮れるような過ごし方をしてしまっては、時間と授業料の無駄でしかありません。

学問を通じて見つける、新たなアイデンティティ

そんな「人生を変える大学」はどのように探せばいいのでしょうか。もちろんキャンパスを外から見るだけではわかりませんし、大学案内やウェブサイトではどこの大学も「うちはいい大学です」と言っています。まずはオープンキャンパスに参加し先輩や在学生の話を聞いて、どんな授業が面白くて、どんな学問に夢中になっているのか話を聞いてみてください。そして学びたいことを学ばせてくれる仕組みや環境があり、学生主体の学びの道が開けている大学かどうか調べてみることが肝心です。

ここでICUでの学びの仕組みを例に挙げてみましょう。ICUでは入学後最初の2年間は幅広い分野の学問に触れて、その後で31のメジャー(専修分野)から自由に専門を選べるようになっています。学生は自分の興味関心や「あの授業が面白いらしい」という他の学生の話も参考に、あれもこれもとりたいとやる気に満ちています。またいろいろな授業で幅広く学べるからこそ、結果として自分に合わないものを知ったり、本当に勉強したかった分野に気がつけることもあるのです。そして1つのメジャーに絞れないときには、ダブルメジャーとして2つの分野を修める他、分野の比率を変えて修めるメジャー、マイナーも可能なのです。

自分が本当に興味のある分野を見つけるという意味では、大学は自分の新しいアイデンティティを作る場所であるとも言えるでしょう。学びたいことを学べる仕組みのある大学に進んで、学問で自分が大きく変わっていくということを一人でも多くの学生に体験してほしいと願っています。

コロナ禍で行われた学長と学生の対話とは

最後に、ICUの教育についてもう少しお話ししましょう。ICUはリベラルアーツ教育で知られていますが、それをバイリンガルで行っているところが一番の特徴です。ICUでは学生の言語・国籍・宗教などが多様ですが、すべての学生に日本語と英語の運用能力をもってもらうことを目指しています。つまり、2つの言語の文化的視点から、物事を比較したりクリティカルに見ることを始めるのです。

また教員と学生、あるいは学生間での対話をとても大切にしているため少人数制の授業が多く、対面でもオンラインでもディスカッションや質疑応答が多く取り入れられているのも特徴です。余談ですが、学生にクリティカルシンキングを教えて対話を進めていくと何が起こると思いますか? 学生が教員を批判的に見るようになるのです(笑)。なぜ先生はこう考えるのですか、なぜこれを行うのですか、などいろんな質問を学生は投げかけてきます。こういう対話は教室の中だけでなく大学の方針についても起こりますし、ICUは対話を重んじている大学なのでそれを無視することはできないです。

なかでも象徴的だったのが、昨年の4月に起こった学費(施設費)減額を要求する署名運動ではないでしょうか。これは当時インターネットでニュースになったので、ご存知の方もいるかもしれませんが、授業がオンライン化されたことに対して、一部の学生が施設費などの減額を求めました。それに対して、学長が全学生にメールを送り、正直に対話で答えたというものです。結果としては減額になりませんでしたが、施設費の根拠について学長が丁寧に説明したことを学生が非常に評価し、その対応を喜んだというものです。

ICUは学生を大切にする大学なので、学生の要求やクリティカルな対話には常に真剣に対応しています。この姿勢は日本社会の中ではちょっと変わった大学として受け止められているかもしれません。それでも私たちは自分たちが一番いいと思う教育を実践し、とことんユニークで先駆的な大学であり続けたい。そんなICUの教育方針や独自性に興味を持っていただけるのであれば、ぜひみなさんにも入学して私たちと共に対話を中心とする学びを経験してほしいと思います。

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