2020年3月卒の大学生の就活も売り手市場が続き、実就職率は高止まりしている。その実際の就職状況について、有名企業を中心に見ていこう。併せて、コロナ禍で行われた21年卒の就活状況についても検証した。
2020年卒の就職状況
2020年卒の大学生の平均実就職率の高さは、大学生の売り手市場が続いていたことを物語る。大学通信が医学部と歯学部の単科大学を除いた全大学を対象として実施している就職状況調査によると、平均実就職率は調査開始以来の最高値だった前年並みの88.7%(11月16日現在)。
個別の大学を見ても、実就職率が高止まりしている大学が多い。卒業生が1000人以上の大学の実就職率ランキングは、1位・金沢工業大、2位・大阪工業大、3位・福井大、4位・愛知工業大、5位・昭和女子大となり、いずれも実就職率が97%以上。このカテゴリーで実就職率が90%超の大学は、89校に上る。
こうした状況の中、旧七帝大に東京工業大、一橋大、神戸大を加えた難関10国立大や早慶上智、MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)、関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)といった難関国立・私立大で、平均値の88.7%を超える大学は少ない。起業など、卒業後の進路が多様なためだ。
有名企業の実就職率が際立つ難関国公・私立大
それでも、対象を有名企業に絞るとランキングはがらりと変わり、難関大の強さが際立つ。例えば、東大は全ての就職先を対象とした、卒業生1000人以上の実就職率ランキングでは、実就職率70.5%で169位だが、「有名企業400社実就職率ランキング」では、実就職率が25.0%で28位。就職者が多い企業には、アクセンチュアとソニー(38人)、野村総合研究所(37人)などがある。
同様に京大は、全体の実就職率ランキングは76.3%で165位だが、有名企業400社実就職率ランキングは31.0%で15位。就職者が多い企業には、パナソニック(36人)、三井住友銀行(33人)、アクセンチュア(30人)などがある。
有名企業400社実就職率ランキングを詳しく見ていこう。トップは東京工業大で2位が一橋大。文系と理系それぞれのトップ大学で、卒業生の半数以上が有名企業に就職する光景は、当たり前のものとなった。両校の就職者が多い企業は、理系大学の東京工業大がソニー(33人)、キヤノン(30人)、パナソニック(29人)などの製造業。文系大学の一橋大は、楽天(29人)、三菱UFJ銀行(22人)、三井住友銀行(17人)などのITや金融系となっている。
難関大が有名企業に強い理由は成功体験
ランキング上位には、3位・国際教養大、4位・電気通信大、5位・名古屋工業大、6位・東京理科大、7位・九州工業大、8位・豊田工業大、9位・早稲田大、10位・大阪大と数多くの難関大が入った。
この背景には、トライアンドエラーを繰り返して志望校合格という目標に向けた努力を続け、成果をあげるというプロセスを通して得られた経験がある。こうした経験は、大学入学後も役立つ。課外活動などで、プロセスを大事にして成功体験を積み重ねることで、企業が求める人材に育つ。そうした学生が多くいることが、難関大が有名企業に強い要因となっているようだ。
難関大の中でも際立って有名企業の就職者が多いのは早慶。早稲田大は3635人が有名企業に就職している。卒業生が1万2483人のマンモス大学ということが背景にあるが、34.7%と高い実就職率がなければ達成できない数値だ。
慶應義塾大は、就職者2人以下の企業が非公表で正確な就職者数を算出できない。そのためランキングに入っていないが、就職者3人以上の企業で集計すると2712人が有名企業に就職。早稲田大同様、7892人と多くの卒業生がいることが背景にあるが、その内の4割以上が有名企業に就職しており、有名企業400社実就職率ランキングで4位以上に相当する。
早慶の就職者が多い企業は異なり、早稲田大は、楽天(91人)、富士通(82人)、NTTデータ(76人)などITや製造業。一方、慶應義塾大は、東京海上日動火災保険(95人)が最多で、楽天(82人)、三井住友銀行(66人)と金融系が上位となった。
卒業生が多くなるほど実就職率が上がりにくい中、卒業生が5000人を超える大規模総合大学では、大阪大▽京大▽同志社大(17位)▽明治大(22位)▽九州大(23位)▽関西学院大(26位)▽東大▽立命館大(37位)▽中央大(38位)▽法政大(39位)▽関西大(44位)などの実績が高い。
ランキングには、難関工科系大学が多く入った。ベスト10に入った東京工業大、電気通信大、名古屋工業大、東京理科大、九州工業大、豊田工業大の6校以外に、芝浦工業大(11位)、豊橋技術科学大(19位)、長岡技術科学大(27位)などがある。
ソサエティ5.0を迎えた情報革命の時代に入り、テクノロジーが関係ない業界はない。理数能力がビジネスの様々な場面で当たり前になる中、理系学生の就職状況が良いのは当然と言えよう。
コロナ禍の影響で大学生の就活が不透明に
ところで、ここまで見てきた20年卒の就活は、大学生の売り手市場を背景に順調に推移した。気がかりなのは、コロナ禍で混乱した21年卒以降も同様の就活状況が続くのかということ。
21年卒の就活は、東京オリンピック・パラリンピックが予定されていたこともあり、企業の採用活動の早期化が進み、就活の前半は順調に内定を得た学生が多かったが、緊急事態宣言で就活は一気に止まった。面接を対面からオンラインに切り替えるなどの対応がなされたが、現時点の大学生の就職内定率は前年を下回っている。コロナ禍に見舞われた21年卒の大学生の就活状況について、就活コンサルタントは、こう話す。
「現状の就活について、第二就職氷河期と言う人がいます。もちろん、航空業や観光業など希望通りの職種に就職することが難しくなった学生はいますが、全体としてみればそこまで悲惨な状況ではないと考えています。緊急事態宣言以降、採用選考のプロセスが後ろ倒しになっており、内定率は17年卒並みになっていますが、採用継続企業も数多くあります」
オンライン化など就活スタイルの変化による苦労はあっても、21年卒の就職状況が就職氷河期に逆戻りすることはなさそうだ。ただ、コロナ禍が長引き、業績が悪化する企業が増えた時、大学生の就活環境はどう変わるのか。22年卒以降の先行きは不透明だ。
有名企業400社 実就職率ランキング
表の見方
◆表は各大学発表による2020年の就職状況。アンケートに回答のあった551大学のデータをもとにランキングを作成(10月29日現在)。
◆400社実就職率(%)は、400社就職者数÷〔卒業(修了)者数-大学院進学者数〕×100で算出。同率で順位が異なるのは、小数点2桁以下の差による。卒業者数100人未満の大学はランキングから除いた。
◆設置の※印は国立、◎印は私立、無印は公立。*印はデータに大学院修了者を含んでいることを表す。一部の学部・研究科を含まない大学がある。
◆有名企業400社とは、日経平均株価指数の採用銘柄に加え、会社規模や知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定した。
◆慶應義塾大学は就職者3名以上の企業のみ公表のため、ランキングから除いた。
有名企業400社 実就職率ランキング―女子大編
表の見方
◆表は各大学発表による2020年の就職状況(10月29日現在)。
◆400社実就職率(%)は、400社就職者数÷〔卒業(修了)者数-大学院進学者数〕×100で算出。同率で順位が異なるのは、小数点2桁以下の差による。卒業者数100人未満の大学はランキングから除いた。
◆設置の※印は国立、◎印は私立、無印は公立。*印はデータに大学院修了者を含んでいることを表す。一部の学部・研究科を含まない大学がある。
◆有名企業400社とは、日経平均株価指数の採用銘柄に加え、会社規模や知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定した。