専門を深く学び他分野と協働するための基礎をつくる「共通教養」―横浜市立大学

専門を深く学び他分野と協働するための基礎をつくる「共通教養」―横浜市立大学

専門性を高めていくことが主眼となる大学教育で、幅広く教養を学ぶことが見直されつつある。社会問題が複雑化し、一つの分野の知見だけでは課題解決が難しくなっているからだ。横浜市立大学は「共通教養」を通じて幅広い分野を学び、分野を横断して協働するための基盤となる「専門以外の分野への理解」を促している。実践的な技法や方法論についても重視する、現代の教養教育の様子をお伝えする。

学部横断で教養を学び、他分野への理解を深める

共通教養長 小野寺 淳 教授

横浜市立大学は学部横断で全学的に行われる、「共通教養」と呼ばれる教養教育で知られている。1学年の学生数は約1000人と規模の大きな大学ではないが、その学問分野は医学部をはじめ、国際教養、国際商、理、データサイエンスと幅広い。共通教養長の小野寺淳教授は次のように話す。

「専門性を持ち、その能力を高めていくのは重要なことです。ただ、私たちが現在直面している社会問題は、特定の専門分野だけでの解決が難しくなっています。個別の研究だけを行っていればいいわけではないのです。

現代の課題解決においてはさまざまな分野が協力し合い、相互に影響し合っています。学問分野ごとに価値観や研究手法の違いがある中で協力して問題に対処するためには、一人ひとりが異なる分野の営みを理解していることが大切です。他分野の人と意見を交わし、コミュニケーションを取りながら協働することが求められるからこそ、さまざまな人がいる総合大学で学部横断で教養を学び、他分野への理解を深めることに意義があるのです」

新型コロナウイルスへの対応はその一例だと小野寺教授は言う。どんな病気なのかを知るには医学を専門領域とする人の知見が必要であり、医療体制の維持を考えるには看護学の知見が重要になる。これらは直接的な関わりの深い学問分野だと言えよう。

一方で、コロナの問題は医療の分野に留まらない複雑な問題でもある。私たちの経済や社会など、日々の生活にも多大な影響が及んでいる。収入は、消費活動は、企業の経営はどうなるのか。こうしたことは国際商学部の研究領域だ。数理モデルを使って社会での感染拡大の様子を考えるにはデータサイエンス学部の知見が、薬を作る段階では理学部の貢献が必要になる。病気が人々の行動や考え方にどう影響し、国際社会に如何なる変化をもたらすのかを探求するには、国際教養学部の諸分野が大切だ。専門領域を超えて互いに連携しなければコロナを取り巻く問題は解決できず、スムーズな協働のためには他分野への理解が必要となる。

専門を学ぶ道具として実践的な教養を学ぶ

近年は専門の重要性が強調されがちだが、自分の専門と異なる分野を一般教養として学ぶことは、大学が長年重視してきた価値観でもある。横浜市立大学の共通教養も、初年次教育を中心に専門外のことを学ぶ点はいわゆる一般教養と同じ。共通教養の特長は、実践的な内容や方法論を意識的に盛り込んでいる点だ。

具体的に重視するのは、「英語」「初習外国語(英語以外の外国語)」、そして「情報」という3つの分野。英語と初習外国語は、他の社会や文化の人と意見交換をするための道具や手法として捉えられている。いわば「『英語を学ぶ』ためではなく『英語で学ぶ』ことを目指す」(小野寺教授)もので、専門を深く学ぶための実践的な語学力の習得を目指している。

情報に関しても同様だ。情報を扱う上での基本を身につける「情報コミュニケーション入門」に始まり、プログラミングを学ぶ科目、情報検索を学ぶ科目、統計的な分析手法を学ぶ科目など、専門の研究に生かせる実践的な内容が並ぶ。データサイエンス学部を有し、情報分野の人材が豊富な強みが発揮されている。

少人数の双方向授業で総合的な英語力を養成

プラクティカルイングリッシュセンター McGary Carl 教授

なかでも英語教育の充実は特筆すべき点。2年次もしくは3年次への進級要件として「TOEFL-ITPで500点相当以上」のスコアを課していることからも、力を入れている様子が見てとれる。これは学部に関係なく、すべての学生がクリアしなければならない基準だ。

高い英語力を育むために用意されるのが「プラクティカル・イングリッシュ(PE)」と呼ばれる英語プログラム。リスニング、グラマー(文法)、リーディングの週3回の授業はすべて英語で行われる。進級要件があるのでTOEFL-ITPテストに沿った3技能の授業形態となっているが、TOEFL対策を授業内で行うことはなく、主眼は総合的な英語力の養成だという。PEの英語プログラムを一から作り上げてきた、PEセンター長のカール・マクガリー教授が説明する。

「PEの目標は英語を実践的に使い、コミュニケーションが取れるようになることです。英語を使えるようになれば試験のスコアは当然上がっていく、という哲学のもとで教えています」

英語4技能(聞く、話す、読む、書く)を総合的に学習するために、たとえばリーディングの授業では、本を読んでブックレポートを書くだけでなく、内容に関するディスカッション、ロールプレイ、スピーチ、プレゼンテーションなどを行う。グラマーの授業では事前に学習ビデオと練習課題に取り組んでおき、授業当日はその復習と課題に関係するスピーキングを行うなど、4技能を学ぶために反転授業も活用している。20人前後の少人数クラスで行われるこうした双方向の学びが、学生の成長につながっている。

PEは英語教育を専門とする15人の専任教員からなり、英語教授法の専門的な知識と経験を活かして学生の多様な要求に応えている。教員の国籍はさまざまだが、英語力は全員ネイティブスピーカー並み。授業外でも学生と話す際は全て英語で行うことを徹底している。

試験のスコアが進級要件となった約15年前は、およそ半数の学生が必要なスコアに届かない状況だった。それがPEの導入以降、進級率は大きく上昇。PEの高い教育効果により、直近の留年者は約5%にまで抑えられている。

英語力を高めることで将来の夢の実現を後押し

授業のサポートを担う「PEセンター」では、授業でも活用している英語学習者向けの多読本「Graded Readers」を自由に貸し出している。年間の貸出冊数は約6000冊に上る。楽しみながら多くの本を読む学生の英語力は飛躍的に上がっていくという。学生と教員が会話の練習をする「コミュニケーションアワー」を毎日開催するほか、大学生活や研究での英語に関する相談も受け付けている。

高度な英語を必要とする学生は、発展科目である「アドバンスト・プラクティカル・イングリッシュ(APE)」を履修できる。APEは1から7まで分かれており、卒業論文をすべて英語で書く、留学先で専門的な勉強をする、といった目的にも対応する。

横浜市立大学はPEを中心に、4年間の学生生活を英語面からサポートする万全の体制が整う。PEの授業を受けてグローバルな活動を始める学生や、PEがあるからこそ横浜市立大学を志望する生徒も増えているという。

プラクティカルイングリッシュセンター 長島ゆず子 講師

PEで実際に英語を教えているPEセンター講師の長島ゆず子さんは、英語を学ぶことのメリットについて次のように話す。

「母国語以外の言語を学ぶことは、コミュニケーションのツールが増えること以上の価値があると思います。学習を通して批判的思考力や創造力が伸び、なりたい自分に近づけます。一人の人間として総合的に成長できる側面が語学学習にはあるのです」

前出のマクガリー教授は、英語力が伸びたことで可能性を広げていく学生を数多く見てきたという。

「近年は夢のために頑張って勉強してくれる学生が増えました。なかには英語力が成長したことでパイロットになる夢を現実的に考えられるようになった学生もいます。彼はPEセンターのスタッフに模擬面接の練習をお願いするなど積極的に動いていました。入学時にやりたいことや夢を持っていない学生でも、英語ができるようになれば将来が広がっていきます。具体的な夢が出てくることも多いです。“Bring us your dream”. そこから一緒に始めましょう」

専門が異なる人と交わり他分野への理解を深める

「実践的な力」を伸ばすPEは、共通教養の根幹を成す科目だ。一方で共通教養では、「さまざまな分野の融合や交流」についても重視している。それを体現するのが「教養ゼミ」だ。

全1年生の必修科目である教養ゼミは、医学科を含めたすべての学生が機械的にクラス分けされ、異なる価値観を持つ学生が専門に関係なく一緒に学んでいく。授業運営を2人の教員が担うのもポイントで、文系と理系、男性と女性、ベテランと若手など、異なるタイプの教員を組みあわせている。

各ゼミでは担当教員を中心に分野横断的なテーマを設定し、意見交換や発表が行われる。同時に、1年次に学んでおくべき「文献の探し方」や「引用の方法」などの論文を書く基本的な作法についても学んでいく。

PEや教養ゼミをはじめ、横浜市立大学には教員と双方向で行われる少人数授業が多い。専門課程でもゼミが重視されており、教員と学生が近い距離感で切磋琢磨できる環境は大きな魅力だ。

共通教養の講義は3つの科目群に分かれており、PEや教養ゼミは「技法の修得科目群」に含まれる。共通教養の特徴である実践的な科目が多く含まれる科目群だ。

ほかには「問題提起科目群」と「専門との連携科目群」がある。「問題提起科目群」は、大学で取り組むべき課題や研究テーマを見つけるための科目群。「総合講義」と呼ばれるオムニバス型の授業がその代表で、実務家や他大学の第一人者などゲスト講師を多数招き、各分野の最新の知見に触れる機会が提供される。

「専門との連携科目群」は専門課程との橋渡しをする科目群で、それぞれの学問分野の入門レベルの内容を学んでいく。理系学部では実験に取り組む授業もある。

前出の小野寺教授は、専門を深く学ぶ前の段階で大切なのは「視野を広げるために世の中の動きやさまざまな分野の議論に常にアンテナを張っておくこと」だと話す。3つの科目群を学ぶ中で学生は、自分の専門以外の分野を幅広く学び、自らの視野を広げていく。専門を生かして他者と協働できる人材となるための環境が横浜市立大学には整っている。

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