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「ゼミの武蔵」と呼ばれるほど少人数・双方向性の授業で有名な武蔵大学。その伝統を生かした先進的なグローバル教育のプログラム・コースを、経済学部、人文学部、社会学部それぞれに設けている。そのねらいと今後の展望を山㟢哲哉学長に伺った。
また、教育内容をより詳細に知るために、6期目を迎えた経済学部「パラレル・ディグリー・プログラム(PDP)」の概要について、経済学部PDP教育センター長の鈴木唯教授にお話を伺っている。
伝統の「ゼミの武蔵」
今では多くの大学が導入しているアクティブ・ラーニング。武蔵大学は、その先駆けだ。学生主体で行われ、討論などを通して専門的な知識を深める少人数のゼミナールを開学以来実践しており、「ゼミの武蔵」と呼ばれるほど有名だ。その伝統は今も生きる。多くの大学でゼミは3年次から開講されるが、武蔵大学では全学生が4年間必修だ。これほどまでにゼミを重視する理由について、山㟢哲哉学長は、こう話す。
「本学の目標は3つあります。自ら調べ自ら考える『自立』。心を開いて対話する『対話』。世界に思いをめぐらし、身近な場所で実践する『実践』。この目標を達成する場として何より有効なのが、旧制武蔵高等学校より続いている、本学伝統の『ゼミ』だと考えています」
3学部8学科の比較的小規模な大学ながら、400種類以上の非常に豊富なゼミが開講されている。さまざまな専門領域をもつ教員が集い、学生一人ひとりの興味・関心に応える。さらに、各学科のゼミとは別に、総合科目〈実践セクション〉、EAS(東アジア研究)科目、三学部横断型ゼミナール・プロジェクトと、ゼミ形式で学べるものが23科目ある。学部や分野を越えた学びの場を設けることで、多角的な視点や幅広い知識を身につけるねらいがある。
3学部それぞれに独自のグローバル教育
こうした「ゼミの武蔵」の強みを生かしながら、グローバル化・ボーダーレス化する社会を見据え、3学部それぞれに独自のグローバル教育を実施している。まず、2015年に経済学部で「ロンドン大学と武蔵大学とのパラレル・ディグリー・プログラム(PDP)」を開始。武蔵大学のキャンパスにいながらロンドン大学のカリキュラム履修と学位取得を可能にしている(PDPの取り組みについては、こちらで詳しく紹介)。続いて、17年には人文学部に「グローバル・スタディーズコース(GSC)」、社会学部に「グローバル・データサイエンスコース(GDS)」を開設した。
人文学部のGSCは、特訓型の語学プログラムで、人文学部のどの学科でも所属できる「英語プログラム」が特徴的だ。国際関係、グローバル文学、グローバル日本学などの専門領域を英語で学び、英語で発信できる人材を育成するこのプログラムは、講義やゼミのすべてが英語で行われ、1年次には必修となる短期留学も実施される。「英語を学ぶ」のではなく、「英語で学ぶ」プログラムといえる。
「1年間でTOEICスコアが100点以上アップする学生もいます。一期生の半数近くは700点超えを果たしているほか、800点を超える学生も少なくありません」と山㟢学長。
GSCには英語プログラムのほかに、ドイツ語、フランス語、中国語/韓国・朝鮮語の特別プログラムがある。いずれのプログラムでも高度な語学力と幅広い視野、発信力を身につけ、グローバルな活躍ができる人材の育成をめざしている。
独特なグローバル教育を全学的に展開へ
社会学部のGDSは、新時代の共通語とも呼べる「データ」と「英語」の両方を身につけるコースだ。さまざまな企業や行政との提携により、具体性を持った学びが可能となっている。例えば、株式会社ADKマーケティング・ソリューションズとの提携授業では「生活者総合調査」のデータを分析。これは約1万5000人を対象に、価値観や消費・生活行動、メディア接触など1000以上の項目を調査したもの。インターンではこのデータを基に消費者を4分類し、特徴に応じてどのようなアプローチをすればマーケティングとして効果的であるかを企業に提案し、学会でポスター発表を行った。このほか、日本ユニシス株式会社によるプログラムは、授業内容から教材まですべてがGDSのために開発されたもので、同社の講師による講義・事例紹介を通じてデータマーケティングの最先端を体感することができる。
これら3つのグローバル教育の今後について、山㟢学長はこう話す。
「先に開設されたPDPの1期生はわれわれの期待を大きく超えて学びを深め、無事に本校とロンドン大学の学位を修めてくれました。先輩たちの実績は、現在、そしてこれから学ぶ後輩たちへの良い刺激になります。PDP、GSC、GDSの学生は4年間ハードに勉強することになりますが、今後こうしたプログラムを全学的なものへと展開させていきたいです」
プログラムの全学的な展開に向け、22年に国際教養学部(仮称・囲み記事を参照)の設置や、学びの場をさらに充実させるラーニングコモンズを有する新校舎の建設などが計画されている。グローバル化に向けた武蔵大学独自の取り組みは、ますます深化していくようだ。
最後に、山㟢学長にメッセージを頂いた。
「今は、新型コロナウイルスの対応で大変なことと思います。武蔵大学では、オンライン授業の通信環境を整えるために全学生に5万円を給付するほか、従来の給付型奨学金の枠を大きく拡大して対応しています。高等学校の進路指導の先生方から頂いております、『小規模だが評価できる大学』『面倒見の良い大学』という評価が落ちないよう、学習面だけでなく生活面も含めて学生一人ひとりの状況を把握し、適切な対応を心がけて参ります」
日本初! ロンドン大学の学位を取得できるパラレル・ディグリー・プログラム
武蔵大学のキャンパスにいながらロンドン大学のカリキュラムを履修できる「パラレル・ディグリー・プログラム(PDP)」が、6年目を迎えた。1期生は2人が見事ロンドン大学の学位を取得し、2期生は4人が最終試験に挑戦中だ。このプログラムの詳細について、武蔵大学PDP教育センター長の鈴木唯教授に伺った。
鈴木唯教授
武蔵大学 PDP教育センター長
博士(経済学)。2007年、ミシガン大学経済学部博士課程修了(Ph.D. in Economics)。米国Seton Hall UniversityのAssistant Professorを経て、2014年9月に武蔵大学に着任。専門は国際経済学と開発経済学、マクロ経済学。
論文: “Financial Integration and Consumption Risk sharing,” International Review of Economics and Finance, Volume 29, January 2014など。
―まずは、PDPの概要について教えてください。
武蔵大学のキャンパス内で、ロンドン大学のカリキュラムを履修できるプログラムです。1年次にIFP(基礎教育プログラム)4科目、2年次以降の3年間はBSc(専門教育プログラム)12科目を学び、全ての試験に合格すればロンドン大学の経済経営学士号を取得することができます。
他大学のダブル・ディグリーなどでは留学が必須になるので、国内の大学と海外の大学で学びが分断されてしまうという問題がありました。PDPはロンドン大学の科目であると同時に武蔵大学の科目としても扱われるので、留学が必須ではなく、4年間を通し一貫した学びが可能になるという特徴があります。
―卒業後の進路はどのようなものが想定されますか。
この3月に卒業した1期生(*)は、2人とも大手の外資系企業に就職しました。PDPは全て英語で行われますので語学力が身についていることはもちろん、勉強量の多いプログラムを4年間やり遂げた姿勢が評価されたものと思っています。
*ロンドン大学の学事暦は9月始まりのため、15年4月に武蔵大学に入学した1期生は19年8月に学位取得が決定し、20年3月に学位が授与された(新型コロナウイルスの流行を受け、卒業式は中止)。
ロンドン大学は18のカレッジと9つの研究機関から構成される総合大学ですが、そのうちロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)は、経済学系の大学としては世界トップ10にランクインする名門校です。PDPでは、このLSEが学術監修しているロンドン大学の科目を我々が自らの方法で教えています。ここで優秀な成績を収めることができれば、1期生のようにグローバル企業へ進むほかにも、世界中の名門大学院への進学が視野に入ります。
―2015年に開設されたPDPは、6年目を迎えました。
日本初のプログラムですので、開始以来、常日頃から改善を模索してきました。一番大きな変更点は、3期生からプログラム履修者の選抜方針を変更したことです。世界トップレベルの高度な経済経営学を英語で学ぶのですから語学力に加え、最低限、高校の教科書レベルの数学力を身につけていることを履修要件に加えました。PDPは確かに厳しいプログラムですが、3期生、4期生…と進むにつれて学位を取得できる人数が増えるよう、我々も工夫を凝らしています。
一方で、必ずしもPDPを最後までやることだけが正解とは考えていません。PDPをきっかけに、別の道を見つけることもあるべき姿の1つと捉えています。PDPで身に着けた力は、途中で他の道に進んだとしても十分生かされるものになっています。例えば、1年次にはセブ島で英語研修を実施しIELTS™5.5以上を取得しますが、それだけの語学力があれば、協定留学も含めてどのような道に進むにしても大きなアドバンテージになります。
―今後の展望を教えてください。
PDPは現在は経済学部内のプログラムですが、22年に、経済経営学専攻とグローバルスタディーズ専攻の2専攻から成る国際教養学部国際教養学科(仮称)として発展させる予定です。PDPの後継となる経済経営学専攻の学生は一学年55人程度を見込んでいまして、武蔵大学伝統の少人数教育を行います。
グローバルスタディーズ専攻の学生とともに学ぶことで、経済・経営の専門性に加えて、幅広い教養も身につけ、よりグローバルに活躍できる人材に育ってほしいという思いがあります。
――最後に、高等学校の進路指導の先生へメッセージをお願いします。
確かに勉強量の多いプログラムで、4年間予習と復習が欠かせません。その分、語学力がしっかり身につき、高度な経済経営学を学べ、2つの大学の学位の取得を目指せます。努力した以上の成果が返ってくるプログラムです。「大学で勉強を頑張りたい」と考える受験生をぜひ送り出してください。我々教員陣も全力でサポートします。